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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第10話

帰って来た袁紹に、当主就任を前にして悪い知らせが入った。 楽しみにしていた妹との初顔合わせが見送られたのだ、原因は妹の母親とその周りの者達にあった―――

 袁術の母親は袁逢の正妻であり、妾の子である袁紹を毛嫌いしていた。又、袁術が生まれるや否や袁家当主は正妻である自分の子こそが相応しいと主張しだしたのだ。
 そしてそれに袁家内の反袁紹派の(後ろ暗い事に手を染めていた)者達も賛同し、少数ではあったが日に日に声が大きくなっていき、当主就任のこの時期に起きたこの騒ぎに頭を悩ませた袁逢は、娘の周りの者達を納得させるために荊州の太守とし、母親を始め袁術派の者達をまとめて送り出した。
 また、齢三歳にも満たない袁術に太守としての仕事は出来ないため、当時袁家で優秀と評判だった文官の張勲を補佐として(実質太守代理)つける事で騒ぎを収めた。

 政務のみならず幼い袁術の教育と周りの反袁紹派の懐柔、粛清も張勲に任せてあるため、袁家当主として落ち着いたらその時兄妹で力を合わせよとのことだ。

………
……


そして遂に当主に就任した袁紹には様々な問題が舞い降りた。 その中でも顕著なのが私塾に向かう前に彼が提案した政策の数々だ、

まず、関税緩和による流通活性化を目的とした『楽市楽座』は、行商人や旅人の訪問が多くなり目論見通りの結果となったが、訪問者が増えすぎたことにより治安が大幅に悪化した。
 これには当然、袁逢や袁隗を始めとし重鎮達が事の収束に当たろうと巡回する警邏隊の増員を手配したものの、
それでも尚広大な南皮には焼け石に水のような治安効果しか出せず、頭を抱えていた。
 この問題に対し袁紹は、ただちに南皮の各所に警邏所(所謂交番)を配置、一定の人数を交代制で決められた区間を巡回警備させることで南皮の細部まで警邏の目を行き届かせ治安を回復させた。

次に刈敷や草木灰を使った肥料だが、使い始めの頃は量の調節を間違え作物を駄目にする事があったらしい、その後はきちんと量を測り使っているので作物の生産性と質は向上した。

そして千歯扱き、意外なことにこれが一番難しい問題をのこした。稲や麦の脱穀は以前まで棒で叩いて行っていたため、かなりの重労働で時間もかかっていた。その為、作業率の向上を目的として作り上げたが……、結果仕事がなくなる人々が多数でることとなってしまった。
 これに対し袁紹は職業斡旋所と私服警邏隊を設立、彼等の仕事は日常に溶け込み、その中で見つけた犯罪を警邏隊に報告するというもの、その情報により犯罪が取り締められた場合、規模に応じて賞金が支払われる。
 職の見つから無い者達はこの私服警邏隊に組み込んだ、また、犯罪を見つけられなくても一定の給金が支払われた。
これにより巡回警邏隊の目を盗んで行われる犯罪のほとんどが検挙され、治安がさらに良くなった。
 余談ではあるが私服警邏隊設立当初、見張られる不快感があるとして一定の反感を呼んだものの、目に見えて向上していく治安に反感の声は鳴りを潜めていった。

―――さて、このように複数の問題に袁紹は奔走していたが、その中には良い知らせもあった。
 魚醤である。袁紹の提案により袁家で独占販売されたこの調味料は、楽市楽座の流通活性化により瞬く間に各地に広がり反響を呼んだ、生産に塩を大量に使うため発売当初かなりの高値で庶民には手が出なかったが揚浜式塩田と入浜式塩田による塩の製法を国に提出し、塩の生産性が劇的に向上したため、その報奨としてひと月ごとに大量の塩を無料で融通してもらえるようになり、魚醤の生産費を大幅に抑えることが出来るようになった結果、良心的な価格で販売され庶民の中にも広まっていった。
 すでに魚醤を使った料理なども出回っていると言う。

当初赤字だった袁紹の政策は試行錯誤を繰り返しながらも、今では何とか黒字を出し続けている。


………
……



日々色んな政務で頭を悩ませてきた袁紹に、またもや問題が猫耳をつけてやって来た。

「お初にお目にかかります袁紹様。荀彧と申します――」

一見、丁寧な挨拶をしているように見える、事実頭を下げるまでの一連の美しい動作に魅入られた者達もいるようだ。
 まるでお手本のようなその動きに、猪々子が口笛を吹き斗詩がそれを諌める。
いつもの袁家の暖かい空間のはずが、袁紹はやや厳しい顔をしていた。

(―――男嫌い、か)

謁見の間には荀家から派遣された彼女を一目見ようと重鎮達が来ている。 彼等はの中には男も居た、扉が開かれ彼女が姿を現すと当然皆の視線が向く、その時彼女は一瞬表情を歪ませた。
 そして扉の前まで案内して来た侍女に笑顔で解釈し、玉座の前まで案内する男の武官にはまた一瞬顔を引きつらせ
袁紹の前まで来た彼女は顔に笑顔を張り付かせていたものの、袁紹を見る目に浮かぶ嫌悪感までは隠せていなかった。
 たったそれだけではあったが袁紹は見事彼女の本質を見抜いた――

「母達ての希望により参りましたが、私は非才なる身、余りご期待に応えられるとは思えません」

―――おおっ、なんと謙虚な

―――荀家一の才女なのに驕った様子が無いとは

―――最近の若者にしては立派ですな!

―――左様、謙虚さこそが若者の美徳である

荀彧の言葉と態度に次々と褒め始めていく重鎮達―――、中には謙虚という言葉を発しながら袁紹をチラチラと見る者までいた。
 しかし、袁紹には荀彧の言葉の真意がわかった

(遠まわしではあるが『此処に来たのは母親のせいで私の意志じゃない、お前に自分を売り込むつもりは無い』といった所か……フッ、随分嫌われたものだ)

袁紹は苦笑しながら、頭をたれる彼女を観察する。そしてその時荀彧は

(さっきから私をいやらしい目で観察してくるのよね、どうせ言葉の意味にも気付けなかっただろうし、ここの政策に適当に難癖つけて、覇王の器でありながら傾国の美女とされる憧れの曹操様の許に行かなくちゃ!)

とても口に出来ないほど失礼な事を考えていた。

「面を上げよ」

「はっ」

ゆっくりと顔を上げる荀彧、しかし袁紹と目を合わせる様子は無く、その目から嫌悪感は消えていなかった。

「よく来てくれた我はお前を歓迎する――、と言いたい所ではあるが一つ聞きたいことがある」

「何なりと」

(私の才を量る問答かしら?何にしても所詮男の――)

「お主が男を嫌う理由は何だ?」

「っ!?」

ざわっ、と謁見の間は騒然としだした。そして当の荀彧はさすがに予想外の質問だったらしく目を白黒させている。

(い、いきなりなんて事を聞くのよこれだから男は!?この状況でその質問に答えられるわけないじゃない!!)

「い、いえ私は別に――「申せ」っ!」

何とか場を取り持とうとした荀彧だが袁紹は彼女の言葉を遮り答えを促す。

「お主ほどの才女が無意味に男を嫌うとは思えぬ、我はその理由が知りたい。
 もう一度聞く、―――男が嫌いか?」

「……いえ」

袁紹の質問に対し遅れながらも出た否定の言葉、これには重鎮達も安堵したが――

「大っっっ嫌いよ!!」

『 !? 』

荀彧の突然の変貌に彼女と袁紹を除く皆の目が見開かれた。
 そして取り繕う仮面を脱ぎ去った荀彧は叫ぶように語りだす。

「男なんて、臭いし汚いし馬鹿だしすぐ欲情するし無能なくせに人の上に立ちたがる……まるで猿、そう猿よ!!
 私が『今まで』見てきた男は女の尻を追い掛け回すしか能の無い猿しか居なかったわ!!」

『……』

荀彧の男全体を罵倒した言葉に皆が沈黙し

「フッ、フハハハハハ!!」

袁紹は高笑いした。

「な、何よアンタ!?罵倒されて笑うなんてまるで変態じゃない?これだから男は――「オイ」ヒッ!?」

そんな彼になおも罵倒の言葉をぶつけようとしたが、殺気を出しながら一歩前に出た猪々子に遮られた。

「良い猪々子、下がれ」

「……」

その言葉に従い大人しく下がる、良く見ると斗詩を始めとした重鎮達も殺気立っている。

「な、何よ今度は脅そうって言うの!?」

気丈に振舞う荀彧であったが、肩は小刻みに震え瞳は恐怖に揺れていた。

「フハハすまぬな荀彧、我が家臣達を馬鹿にされるのを許さんように、彼等も我に対する暴言は許せぬらしい。
 此処に居る間生きていたかったら言葉は選ぶようにするがよい」

「……此処にいる間?」

「そうだ、お前にはしばらく我の側で働いてもらう」

『 !? 』

再び皆の目が見開かれた。今度は荀彧も混じっている

「お前が『今まで』見てきた男達とこの袁本初が違うことを証明してみせよう、それには我の側で政務に携わるのが一番手っ取り早い、―――お主に、今まで見たことの無い景色を見せてやろうぞ!!」

罵倒したにも関わらず自分の事を高く買ってくれているらしい、これには荀彧も少し気を良くしたものの

(フンッ、そこまで言うなら見せてもらおうじゃない!期待はしないけどね!!)

彼女に根付いた男嫌いの価値観がそれを鈍らせる。

「……では、『短い間』でしょうがお世話になります」

「お前いいかげんに――!?」

口の減らない荀彧に憤怒した猪々子が今にも飛び掛ろうとしたが、袁紹はそれを手で制し

「フハハ構わぬ、『男嫌い』な荀彧を世話するのは確かに『短い間』故な」

まるでその短期間で彼女の男嫌いを払拭させるとでも言う様な発言をした―――

こうして荀彧は一時的に袁家の客将として働くことになったが、その出会いは最悪に近いものであった


………
……



「何なのよこの政策は!?」

「フハハハハハ、革新的であろう?」

次の日から袁紹の政務を手伝うことになっていた荀彧は、この地で行われた革新的な政策の数々に目を見開いた。

「革新的すぎるわよ! そのせいで色んな問題が起きてるじゃない!!それに対する対応も遅いし、もっと早く解決していれば結構うまく機能したかもしれないのに……あっ!?」

袁紹が手がけた数々の革新的な政策を、自分が合理的に再構成しうまく機能している場面を想像した所で彼女の意識は現実に帰って来た。

「どうだ荀彧、お主から見た我の政策は」

「……確かに革新的だと思うわ、でも穴だらけだし合理的な考え方の私とは相性が合わないわ」

「嘘を申せ荀彧、お主は先ほどまでその政策の穴を自分が効率的に埋める場面を想像したのだろう?」

「……」

「我が革新的な政策を考え、その穴を荀彧の合理的な理論で埋めていく―――どうだ荀彧、その先に広がる景色はお主にも想像が出来ぬであろう?」

「っ!?」

その言葉に思わず肩を震わせる荀彧、袁紹の予想通り彼女は一人の文官としてこの政策に携わりたい、自分の理論でどこまで改善出来るか試したい、という欲求にかられていた。

「……うぅ」

いつもなら出てくるであろう罵倒の言葉も鳴りを潜め、彼女の頭はすでに政策の改善案を作り上げ始めていた。
 そんな彼女の様子と、自分の読み通りの展開に袁紹は満足そうに笑った。



 
 

 
後書き
猫耳軍師 荀彧

好感度 0%

猫度 シャー!

状態 警戒

備考 近づくことを許さず常に距離をとる 
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