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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第七話「さぁ、定説と理を覆せ。主役たち」

1,







「あっ、ありがとうございます!」
『ありがとねーおにーさん』

 小柄な体を90度以上曲げて礼をする四糸乃と、その片手で四糸乃ほどではないがちゃんと礼をするよしのん。礼の相手はもちろん、よしのんを取り返すために飛び出した上条だった。

「どういたしまして」

 あの時、上条は人混みの中で偶然白井黒子と出会っていた。士道が四糸乃がよしのんを落としたことに気づくほんの少し前だった。
 風紀委員の彼女は空間移動(テレポート)という能力を持ち、立て籠もっている犯人たちに気付かれずに近づくには一瞬で済む。しかしそれは、犯人が人質を取っていなければの話だ。犯人のうちの1人くらいは空間移動(テレポート)の直後に倒すことはできても、人質3人を同時に救出するにはある一点に犯人たちの気を逸らさなければ無理だ。

『どうにかして犯人たちの気を一点に引き付けられれば……』

 白井がいることに気づいた上条は、その呟きを聞くとすぐに行動に移した。後の説明はいらないだろう。よしのんを取るために飛び出ることで、ただでさえ周囲の行動に敏感になっている犯人たちの視線を引き付ければ、後は白井が空間移動(テレポート)で人質を安心なところに飛ばせばいい。

「まったく……頭を使ったのはいいですけれども、あまりいい手とは言えませんのよ」
「ああ。そこはすまん」
「猿人類とはいえど一般人。このようなことに手を出すのはよした方がいいですわ」

 それができればどれだけいいか。と上条当麻は頭を掻きながら、心の中でそんなことを思う。

「……まぁ今回はあなたのおかげでスムーズに事件が解決できましたし、癪ですけど、一応お礼は言っときますわ。ご協力、感謝します」

 しかし上条の行動が今回の事件の早期解決に繋がったことは事実だ。風紀委員として、そこは協力を感謝しなければならない。
 まさかお礼を述べられると思ってなかった上条は面食らうが、すぐに「どういたしまして」と口にした。

「白井さん!警備員への犯人グループの引き渡し、完了しました!」

 近付いてきたのは白井と同じ「風紀委員」の初春飾利、先ほどまで白井・初春と共に行動していた佐天涙子、そして犯人の1人を取り押さえたことで事情聴取中だった浜面。
 そしてもう1人。

「あれ?黄泉川先生?」
「お、そういうお前は月詠先生のところの上条当麻じゃん」

 上条の通うとある高校の体育教師にして警備員第七三活動支部所属の巨乳の美人、黄泉川愛穂であった。同僚の「シリアスをコミカルに解決する」という評価からも分かるように、その乳も含めていろいろとんでもない人だが、人柄は良いし、学校先生として厳しいが、真摯に接しているからか生徒たちから慕われている。ちなみにあらゆる料理を炊飯ジャーで作るという習癖があるが、それは上条は知らないことだ。
 それにしても、なんだか妙に楽しそうに上条たちには見えるが…。

「もしかして人形を取るために前へ飛び出した少年って……いやーこりゃ知らないところに知らない縁もあったもんじゃん!」

 そう言うと隣に浜面の背中をバシバシと叩く黄泉川。何に対してかは分からないが全体的にテンションが高い彼女に対して、浜面はうんざりとした顔をしていた。

「まっさか隣のクラスの問題児とこの悪ガキが知り合いとは!知り合いが知り合い同士ってなんだか感慨深いじゃん!」
「だぁぁーなんだよ!もう!さっきからニヤニヤニヤしやがって!俺の何が可笑しいんだよ!?」

 「別に何でもないじゃん」と言う黄泉川に問題児認定された(まぁ彼の日頃の行動から言えば妥当としか言いようがないが)上条と悪ガキ(こちらも妥当だろう)浜面は首を傾げるばかりだった。

「本当なら危ない行動取ったし、こってりと支部の方で搾り取りたい気分だけど今回は見逃すじゃん」

 結局、終始テンション高めだった黄泉川はそう言うと気分がよさそうに去っていったのであった。







2,







「──なんか気分良さそうですけど、どうしたんですか?」

 犯人グループを護送する車の中、黄泉川の警備員同僚である鉄装綴里はそんな疑問を投げかけた。

「んー。……卒業した生徒が立派なスーツ着て仕事に向かっている立派な姿見た感じの気持ちを味わったじゃん」
「?」
「着ているのは相変わらずのジャージだし、立派とは程遠い姿だったじゃんけど」
「??」







3,







「あ。インデックス、オティヌス。待たせた……ってぎゃー!?なんで噛み付く!?心配かけたからか!?それについては謝る!謝るから噛みつかないでー!」
「──せっかくの料理が台無しになっちゃったんだけど!」
「何故それをわたくし上条当麻に当たるですかインデックスさんー!?」
「諦めろ。ごちそうが台無しにされて気が立っていて、私にもどうにもできん」

 いきなり噛みつかれ痛みに悶絶する上条、その頭頂部に噛みつき右往左往する上条から振り落とされないようにしっかりしがみつくインデックス、それを避難していたイブの頭頂部で呆れながら見るオティヌスを見ながら、琴里は考えていた、

「──上条当麻……」

 頭をシスター服の少女に噛みつかれ必死に離そうとする目の前の少年。琴里はこの少年をどこかで聞いたことがあるのだ。
 記憶を探るが、肝心の「どこ」が思い浮かばない。確実にどこかで聞いた名前なのだが──。

「む?琴里、どうした?」
「え?」

 いつのまにか難しい顔になっていたらしく、気づいたら十香が琴里の顔を覗き込んできた。
 記憶があやふやということは特にラタトスクやフラクシナスに纏わる機密事項ということでないことは間違いない。十香たちに伝えてはならないようなこと──例えば、考えたくもないが「士道の最悪の状態」──については忘れるわけがない。琴里は元々記憶力はある方だし、それでも曖昧だということは覚えておかなくても特に問題が起こらないということだろう。
 しかし、万が一、そのことが自分が忘れている重大なことだとしたら──と考えると、琴里はこのことを十香に言えなかった。
 だからこの時出された助け舟は都合が良かったし──なにより、少し驚く内容だった。

「琴里さんもあの人の顔を見つめてますけどー、同じことを思ったんですかー?」
「同じこと?」
「あの人、なんかだーりんに似てませんー?」

 「え?」というのは十香と琴里の声。十香は近くでこのメンバーを代表して令音と共に事情聴取を受けている士道の顔を凝視すると、今度はようやくインデックスから解放され地べたに座り込んだ上条の顔を凝視し、それを交互に行う。

「……似てないぞ?」
「顔じゃないですよー」

 「魅力ならだーりんの方が何倍もありますからねー」という美九の話を聞いていたのは十香と琴里だけではなく、四糸乃、よしのん、耶倶矢、夕弦、七罪たちも会話に参加してくる。

「むぅ……彼の者のどこが士道に似ておりのだ?」
「同上。夕弦もどこが似ているのか分かりません」
「うーん……士道君と似てる、ね…」
「それ、分かる気がします…」

 十香や琴里のように疑問を投げかけた耶倶矢や夕弦、七罪に対して、美九と同じ反応を示したのは四糸乃だった。

『むぅー?四糸乃、美九ちゃんー。どの辺が士道君と似てるの?』
「なんだろう……感じっていうかのかやな……雰囲気っていうかな……」
「私も四糸乃さんと同じ感想ですぅ。なんか似てるんですよね、だーりんと」

 言われてみれば、とうなづく。確かに見た目のタイプは真逆なのに、何故か似ている。指摘されるとそれが分かってきた。明確には分からないが、それでも、何か似ている気がする。

「確かに、士道みたいに安心できる……そんな感じがしなくもないぞ」
「確かに……無茶して飛び出す姿も似てたわね」

 それは、あるいは迫害され、あるいは絶望し、あるいは助けを求めていた彼女たちだから感じたことだったのかもしれない。士道が、親に捨てられ絶望を味わいそれ以来、絶望に敏感になったのと同じように。彼女たちも、味わったものに敏感になっていたのかもしれない。

 ──彼すら忘れてしまった。「救えなかった」という絶望を。



「──大丈夫か?」

 事情聴取から解放された士道と令音だったが、目に入った少年の凄惨たる姿を見て、思わず呟いていた。

「全然大丈夫じゃないでせう」
「凄い噛まれ方だったな……歯型できてないのは幸いだな」

 おじいちゃんのように力なく震える(痙攣している)上条に苦笑しているのは浜面だ。女性からの理不尽的な攻撃が偶に下るのは身を持って分かるし、なによりこの彼は浜面視点からでも男女含めて恨みを買うようなことが多すぎる。前のハーレム状態を思い出しながら「ざまぁみろ」とは思わなくも、少しいい気味と思ったのは浜面の心の内だけに留めておけばいい真実だ。
 ──ちなみに浜面の方も人から見れば、上条とは50歩100歩なのだが…本人はそれに気づいてはいない。

「──俺からも礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
「いいでせういいでせう。俺が好きでやったことだから」

 手を上下に振りながら、本当に何でもなさそうに振る舞う上条を見て、士道は何となく察することができた。
 この少年も、恐らく士道と同じで「この子の笑顔が見たい」という理由で飛び出しているのだろう。士道が持つ欲と同じ欲を持って行動して、それが得られるから頑張ることができる。だから「自分の好きでやっている」などと言えるのだ。
 この少年は士道以上に様々な物を積み重ねてきたに違いない。失ったり、崩れたりしても、それでも前に突き進んできた──そんな感じが士道はした。本当に、何となくだが。

「俺は五河士道。お前は?」
「ん?俺?上条当麻っていうけど」
「じゃあ──よろしく、上条」

 地べたに大の字に転がっている上条に伸ばされた士道の左手。それを一瞬惚けた顔で見た上条は、笑いながらその手を左手を握り返した。手を引っ張られ、立ち上がる。

「こっちもよろしくな」
「ああ。あんたは?」
「俺は浜面仕上ってんだ。よろしくな…五河だっけ」
「ああ──ってあの時の!」

 浜面も自己紹介し、その顔を見て士道は思い出す。この少年、ゲコ太との記念撮影を代わりに撮ってくれたあの時の人物で間違いない。
 浜面の方もそれに気づいたらしいく、唯一現場を知らない上条が、気安く接する2人を見て首を傾げるのだった。

「さっきは本当にありがとうな。助かったよ」
「いやーなんのなんの。あれくらいお安い御用よ」

 こうして同年代の少年3人はお互いに顔を見合わせた。
 ──かたや第三次世界大戦を終結させ、かたや超能力者の第四位を無能力でくだし、かたや人知を超えた存在である精霊を救っているという、「普通」とは言いづらい少年たちだが、ここではそんなことは関係ない。ここでは、それぞれの日常を生きる「普通」の少年として、お互い接していた。
 だからか。馴染みのが早く済んだ士道に対して、浜面は真面目な顔でこんな事を聞いていた。

「なぁ、五河?」
「な、なんだ?」

 同い年ですぐに打ち解けたとはいえ、まだ知り合って間もない少年がいきなり険しい顔になったのを見ては驚く。何があったのか気になるのは当たり前であろう。何か相手側に不可解な気持ちをさせるようなことをしてしまったか?などとついつい嫌な想像をしてしまう。
 だが浜面から投げられた質問は、士道の予想を大きく外れるものだった。

「──どうやったらあんなハーレムエンドみたいな状態が作れるわけ?」
「……はぁ?」

 真面目な顔とくだらない質問のギャップに、素っ頓狂な声を上げる士道。ハーレム?なんでそんなことを聞いてくるのか?
 しかし、この場でそれをくだらない質問と思ったのは士道だけだったらしい。

「そうそれ!しかもあーんな可愛い子たちと一緒にって……上条さん羨ましいすぎて嫉妬するレベルですよ…」
「俺的にはあの中だったらあの双子の胸が大きい子かなー。大人しそうだし、中々好みをついているしなー」
「上条さん的にはあのオネーサン2人!上条さんの好み、寮の管理人のお姉さんにはまりそうだし、巨乳だしなー!クマなんてそんなのステータスの一つですらあるし!」
「…………」

 シスター少女と妖精のようなちびっ子少女、橙茶色の麦わら帽子少女を引き連れている少年と可愛い彼女持ちのリア充に言われたくないな……、と士道は自分のことを棚に上げてそう思った。
 確かに十香達のレベルが高いのは十分に理解できる。しかし彼らの周りにいる彼女たちのレベルも精霊の彼女たちに負けず劣らずだ。シスター少女は小動物を思わせるような子だし、逆に妖精のような少女は小さいにも限らず、なにか威厳のようなものを感じる。麦わら帽子少女のアメシストのような瞳はまるで宝石のようだ。浜面の彼女もジャージ姿でも見栄えするような、間違いない美少女である。

「上条さんもモテたいですなぁ……ああ、出会いが欲しい」

 どの口が言う、どの口が。と、これには士道も呆れ果てた。
 しかし呆れたのはほんの一瞬。何故なら、背中からものすごい剣幕の何かが近づいてくるのを士道は感じたからだ。正確には近づいてくる者の標的は士道では無く、上条と浜面のようだが。

「だからさー。そのスキルを是非伝授させていただきたいですよ!わかるでしょ!」

 士道にすらわかるのに、この2人の少年は近づく鬼に気づきもしないらしい。気づいていないとはいえ、この場面でこんな火に爆薬を突っ込むような真似をするのか。なんなのか。馬鹿なのか?

「頼むよ!師匠って呼ぶからさ!な!な!」

 更に強くなった殺気に背中を嫌な汗が伝う。それでも気づく素振りがない馬鹿2人を「おい!」と窘めようとした士道だったが、今度は右から爆薬が投げ込められる。浜面にとっては、背中から同時に刺されそうな危なっかしい上条産ハーレムより、うまくバランスを取ってやっている(ように見える)士道産ハーレムの方が魅力的らしい。勿論、そんなこと士道は分かりはしないし、分かったところで後ろに臨戦態勢で控える少女たちをどうにかすることはできない。

「だから……あ」
「ハッ!?」

 気づいた時には時すでに遅し。肩を万力のような力で捕まれ、その後、「ウェスト・ランド」に2人の少年の叫び声が響き渡ったのは言うまでもない。







4,







「すまんな。こんな馬鹿の為に付き合ってもらう羽目になるとは……」
「い、いや……」

 「ウェスト・ランド」から少し離れた繁華街。遊園地で白井たちと別れた五河士道、夜刀神十香、四糸乃、よしのん、五河琴里、八舞耶倶矢、八舞夕弦、誘宵美九、七罪、村雨令音たちはインデックス、オティヌス(onインデックスの頭)、イブ、滝壺理后と共に歩いていた。何故共にこんなところを歩いているかというと、士道と十香、令音と滝壺のそれぞれの肩を借りながら、歩いているというよりかは引きづられている満身創痍の2人は、言わずもがな上条と浜面である。
 毎回、精霊攻略時に死にかけているとはいえ、士道にカマエルの自動回復能力があるからできる芸当である。浜面は滝壺一人の攻撃だったから満身創痍で済んだものの、上条の場合は明らかにオーバーキルだったはず。それなのにもうフラフラとだが歩くことができる打たれ強さに、士道は舌を巻いていた。もしかしたらこの少年、自動回復能力を持つ自分と同じくらいの打たれ強さを持っているのではないか?と考えた士道だったが、流石にそれはないだろうと首を横に降るのだった。だいたい聞いた話ではこの少年は無能力者。能力無しで回復能力持ちの士道と同じ耐久なんてそれこそ化け物だ。

「よしのんさんを助けてくれましたしぃ。それの恩返しだと思えばいいですよー」

 そんなことに思考を巡らせている士道の横でオティヌスのため息に答えたのは美九だ。
 そう言われて多少は気が楽になったからか、「そうだな」とオティヌスは答えていた。

「……それにしても可愛いですね…インデックスちゃんも、オティヌスちゃんも」
「へ、へ?」

 しかし突然目付きが豹変した美九を見て、オティヌスの額を小さな汗が流れる。インデックスも背筋に冷たいものを感じたらしく、ビクッと震えた。

「インデックスちゃんは銀色の髪はまるでシルクのよう……瞳はサファイアみたいな綺麗な緑ですし、かすかに甘い、いい匂いが……」
「お、おい?」
「大和撫子も好きですけど、西洋系はやっぱりいいですね……オティヌスちゃんの衣装なんか……ハァハァ……もう、誘ってるとしか……ハァハァ」
「み、みく!?なんか身の危険を感じるだけど!?」

 瞳に危ない光を灯し、暴走を始めた美九の目の前で思っ切り後ずさるインデックスとオティヌス。暴走はなんとか士道が「どうどう」と宥めることで落ち着いたが、それでも、インデックスとオティヌスの美九との距離は先ほどより若干開いたままだった。
 その逆側、士道とは上条を挟んで隣にいた十香が残念そうに呟いた。

「……しかし、せっかくのパレードが無くなってしまうとは…楽しみだったのに」
「はまづらとロマンチックに過ごすつもりだったのに……残念」

 十香の隣で、令音とともに浜面を運んでいる滝壺も同調した。どうやら2人の会話の内容は中止となってしまったパレードに関することらしい。美九を落ち着かせながらも、士道の耳にもこの会話は届いた。

 開催が予定されていた夜のパレードだが、レストランでの事件が影響してか、急遽中止ということになってしまったのだ。まぁあれだけ騒ぎになっていたし、これを整理してパレードをやるのは時間が足りなかったらしい。上条と浜面がちょうどフルボッコにあってる最中、早い段階でパレード中止の放送が流れていたのだ。
 パレードを楽しみに待ち望んでいた十香や四糸乃、八舞姉妹たちもそうだが、浜面とパレード後の花火を見ながらロマンチックに過ごすことを計画していた滝壺も、目に見える落胆を見せていた。パレード後の花火も同様に中止となっている。
 ちなみに放送が流れる前の段階で浜面は瀕死寸前だったので、どちらにせよロマンチックな空気なんて作れないのじゃないか。と士道を思うが、口には出さないに越したことはない。

「明日も来るんだし、またその時見ましょう。諦めなさい」
「滝壺、また明日もいくか……?」

 十香を慰めた琴里の声に反応したのか、令音と七罪に肩を借りていた浜面が意識を取り戻す。自分たちの方を見ると上条もいつの間にか意識を取り戻していたらしい。足取りはまだおぼつかないが「もう大丈夫」と言って、自分の足で歩き出した。

「……うん。また明日行こう。はまづら」

 あまり感情の起伏に富んでいない笑顔だったが、それでも笑顔に違いはない。浜面にとっては「滝壺の笑顔」というだけで、明日も頑張る原料となるのだ。
 上目遣いで肯定を示してきた滝壺に、浜面も笑顔で「おう」と返してきた。
 「いいカップルだな」はこの場の誰もが思ったに違い無い。





「──じゃあ、私はここで」
「うん、またね」

 駅に向かう一行と、歩いていける距離に家があるというイブはここで別れることになる。インデックスは名残惜さそうだが、別に遊びに行けない距離では無いのだ。また一緒に遊びに行けばいい。

「今度は私の家に来てよ。おっきいお風呂もあるし、インデックスが目を輝かせそうな、美味しい料理をいっぱい作ってくれる人もいるよ」
「美味しい料理!?行く行く!」

 「美味しい料理」というキーワードに反応したインデックスを見て、苦笑する上条も呆れるオティヌス。目の前に並べられた豪勢な料理を想像して目を輝かせるインデックスの姿は微笑ましかったし、なにより「十香、よだれ」と言われてハッとなる十香に、一堂から小さな笑い声が湧いた。

「良かったら十香ちゃんも来る?」
「い、いいのか!?」
「うん。次遊べるのはいつになるかわからないけど……その時にはあいつも帰ってくると思うし」

 インデックスと同じように目を輝かせる十香を微笑ましそうに見たイブは、最後に上条、そして士道に目を向けた。

「最後に、上条くん。五河くん。あと浜面さんも」
「ん?」
「へ?」
「?」

 いきなり呼びかけられ首を傾げる男子組3人。その反応を面白がってか、イブは笑いながらこう続けた。

「くれぐれも1人で無茶はしないでね。あなたたちには横や後ろを任せられるような人がいるんだから」

「「「?」」」

「ふふっ。それじゃあ……またね」

 そう言うと、麦わら帽子からはみ出た橙茶色の髪を風に揺らしながら、少女は去っていった。






 この日、神崎アリアを除く、遠山キンジ、星枷白雪、峰理子、レキ、ジャンヌダルク30世、エル・ワトソン、武藤剛気、不知火亮、平賀文、中空知美咲のメンバーは、学園都市での食料調達の為、街中を歩いていた。ちなみに、いつもの武偵高制服ではなく、学園都市内で調達した私服に着替えている。

「神崎さんは何でこなかったの?」
「さぁ?重要な連絡があるとか言ってたけど」
「重要な連絡?なんなんだろうね」

 学園都市ショッピングを満喫した結城明日奈/アスナ、篠崎里香/リズベット、綾野珪子/シリカ、桐ヶ谷直葉/リーファ、ユイと、それに振り回されて少し疲労の色を見せている桐ヶ谷和人/キリト、壷井遼太郎/クラインは夕食を終え、駅へと向かっている最中だった。

『お買い物、いっぱい買えましたね!ママ!』
「そうねーユイちゃん。そう言えば明日は遊園地に行くの?」
「とりあえずホテルに帰ってから決めないか……荷物が重いんだよ」

 「ウェスト・ランド」を不燃焼とはいえとりあえず満喫した五河士道、夜刀神十香、四糸乃、よしのん、五河琴里、八舞耶倶矢、八舞夕弦、誘宵美九、七罪、村雨令音は上条たちのグループと共に、駅までの道を共にしていた。

 そして、上条当麻、インデックス、オティヌス(on上条の頭頂部)、浜面仕上、滝壺理后は士道たちと共に夜の学園都市を歩いていた。

「シドーのオムライスが一番だ!あんなふわふわで中がトロットロのオムライスはシドーしか作れん!」
「いーやとうまのとんかつが一番なんだよ!やわかいお肉と衣の黄金比が最高って決まってるんだよ!」
「十香、あなた達ね……」
「確かにこいつのとんかつは美味しいがな……だからって」
「あのさ……十香、嬉しいんだけど」
「喧嘩はやめよう……な」

 どちらの料理が美味しいかを喧嘩している2人を、嬉しさの混じった微妙な気持ちで宥める上条と士道。そんなこんなしてる内に十字路に差し掛かる。

 この時──キンジたち武偵高の一同が右方から、キリトたちALOのメンバーが左方から歩いてきていた。

 前提条件として、士道たちとキリトたちは同じバスで学園都市に訪れているため知り合いである。そのため、ちょうど十字路の中央に差し掛かった時、お互いの存在を認知した。

「あれ?あれって……」
「あ!あれ五河くんたちじゃない?」

 それに釣られてキリトたちの方を見たのが士道たちと行動を共にしていた上条たちだ。いきなり何かに反応した士道たちも見て、言い合いの最中だったインデックスと十香も「え?誰?」と「おお!シドー!キリトたちがいるぞ!」と両者それぞれの反応を示した。

 ここで上条の不幸が発動する。

 十香のすぐ近くにいた上条は、キリトたちの元へ走り出そうとした十香に、偶然に突き飛ばされる形になってしまう。今は力を抑え込められているとは精霊の力だし、何より突然の事だったので、上条はバランスを崩して後ろに仰け反る。哀れ上条の頭上にいたために巻き込まれるオティヌス。

「おっとっと!?」
「ど、どうした!?」

 もしこの場に上条だけがいたならば上条が後ろに倒れて終わりだったかもしれない。しかしその場に、鈍臭さでは有名な中空知が通りがかったのが、更に上条の不幸を加速させた。

「え…ええええー!?」
「ぬおっ!?」
「ギャッ!」

 なんか踏ん張った上条だったが、突然倒れ込んできた人物に中空知が対応できるわけもなく。しかも何故か上条に、変に避けようとしてバランスを崩した中空知が倒れ込んでくるという結果を生み出した。ちなみに頭上から投げ飛ばされるオティヌスを無事にキャッチしたのは令音だった。

「っておい上条!?」
「中空知!?大丈夫か!?」

 そしてそこはみなさんご存知、上条当麻。ただ倒れるだけではその手には中空知の基準より若干大きめの胸が、しっかり収まっていた。

「ん……なんだこれ……マシュ」
「きききききき、きゃーっ!!」
「ぶべらっ!?」

 そしてビンタされる。理不尽だがいつも通りである。ついでに中空知がどいた上条の頭上に仁王立ちしているインデックスもいつも通りである。

「い、インデックスさん?……これは不可抗力……」
「とーうーまー?」

 そして立ち上がった中空知が思っきり抱きついてきて、胸の感触が押し付けられたのも、ある意味キンジらしいことだった。

「なっ、中空知!?」
「キャッ……!?」

 幸いなことに倒れて荷物を落とした中空知の物にも、抱きつかれて体を強張らせるキンジの物にも、割れるような食材が入ってなかった。
 ヒスるのを必死に抑えるキンジと今にも飛びかかりそうなインデックスと距離をとる上条と、場がかなり混沌としてきている。

 騒ぎに気づいて、正反対の位置にいたキリトたちも「なんだなんだ」と近づいてきていた。

 ──その、瞬間だった。





『我が礎の杖を使い、ここに命じる──』




「!?」
「?インデックス?どうした?」
「…………見たこともない召喚式……!?とうま!!」

 10万3000冊の魔導書を記録する、魔導書図書館たる彼女は瞬時に、異変を察知し、叫び声を上げた。





『地獄の三つ首の番犬よ──
黄泉の冷気を纏て──
天元せよ──
冷気纏し巨狼(ケルベロス)




「魔術師だよ!」
「何…!?」

 突然の来訪者を告げるインデックスの叫び声と同時に、十字路には、巨大な氷の魔狼が出現していた。






 さぁ、始めよう。

 決して交わるはずがない者同士が集うこの世界にて、何かを成してきた主役たちが交わる。

 理も法則も定説も無視したこの世界にて起こる、一度限りの物語。



 全ては、ここから始まる。





第七話「さぁ、定説と理を覆せ。主役たち」 完
 
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