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短編集

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艦隊これくしょん
  艦これ短編 Scene1「叢雲」

 
前書き
スランプ中です。
その中で頑張って書き上げました。

この話は以前投稿した艦これっぽいなにかの前日談に当たるものです。
短編形式なので、ちょくちょく間に別な物語を入れたりします。 

 
Scene1「叢雲」


Chapter1-1「着任」


 世界の海が深海棲艦と言う化け物に支配され、艦娘と言う存在が人類とともに戦い始めてから、10年が経とうとしていた。
 艦娘と戦い始めてから、人類は徐々に制海権を取り戻していった。
 そんな中、俺こと本郷耕也がラバウル基地に着任したのは、8月の事だった。
 俺が着任した時、日本海軍では大規模攻勢をかけており、古参の提督が何人も戦死したことで、大本営にて雑用係をしていた俺に声がかかったのだった。


 二式飛行艇に揺られること十数時間、俺はラバウル基地第四鎮守府の建物内へ足を運んでいた。
 ちょうど鎮守府の三階に“執務室”と書かれたプレートが掛かっているドアを見つけた。

 「ここが俺の仕事場か」

 そう呟いて、扉を開く。
 するとそこには銀髪の少女が立っていた。
 彼女の頭には耳を連想させるようなものが浮いており、その手には槍を彷彿させるようなものを持っていた。
 少女は扉が開いた音を聞いて、こちらを向く。
 釣り目気味の目が一瞬、大きく開かれると、次の瞬間には眉が釣り上がった。

 「全く、この“叢雲(むらくも)”を待たせるとは良い度胸ね!」

 “叢雲”と名乗った少女はそう怒鳴り声を上げ、俺を指さしてきた。
 どうするか一瞬考え、素直に頭を下げた。

 「すまない、移動に時間がかかってしまった」
 「っ!?あ、あんた!仮にも司令官でしょう!簡単に頭なんか下げてるんじゃないわよ!!」

 ちゃんと謝ったら、怒られた。

 「まあ、いいわ。あんたが司令官ね。ま、精々頑張りなさい」
 「ああ、よろしく頼む」

 そう言い、右手を差し出すと、叢雲は少し目を見開いたがすぐに俺の右手を握りしめた。
 この日から、俺と艦娘たちの日々が始まる。




Chapter1-2「初戦闘まで(Side提督)」



 俺がラバウル基地第四鎮守府に着任して、数日が経った。
 初めのうちは、業務の確認などを叢雲と共に行っていたので、未だ戦闘はしていなかった。

 「そろそろ、叢雲にはこの鎮守府前海域のパトロールに行ってもらいたいと思う」
 「はぁ、やっと海に出られるのね」
 「すまないな」
 「だから、簡単に謝るんじゃないわよ」
 「性分なもんでな」
 「まあいいわ。すぐに準備するから」

 そう言うと、叢雲は心なしか嬉しそうに執務室のドアを潜っていった。
 艦娘の本分は海に出て、深海棲艦と戦うこと。
 それに自分が(ふね)だった時の記憶もあるから、海の上にいる方がしっくり来るのだろう。

 『司令官、準備出来たわ』

 そう考え事をしていると、俺の机に設置された無線から叢雲の声が聞こえてきた。

 「動作不良はないな?」
 『ええ、大丈夫よ』
 「今日はこの鎮守府から10km地点までをパトロール。問題がなければ、すぐに帰還。お前が帰ってきたら、戦力増強のために建造を行う」
 『了解よ。出撃するわ!』

 執務室の窓から、外を見ると叢雲がゆっくりと外海へ向け、航行していくのが見えた。




Chapter1-3「初戦闘まで(Side叢雲)」



 私が司令官と出会って数日が経った。
 司令官は出会ってすぐ出撃させるのではなく、まず設備の確認から始めた。
 確認事項が多い為、私と司令官の二人では時間がかかってしまった。
 早く酒保にいる『明石』の艤装が開発されるといいのだけれど。

 「そろそろ、叢雲にはこの鎮守府前海域のパトロールに行ってもらいたいと思う」

 待ちに待った時が来た。
 司令官と一緒に確認事項や書類の整理などをやってはいたが、私の本分は海に出て深海棲艦と戦うこと。
 それに私の中に眠る駆逐艦“叢雲”としての記憶が海を渇望する。

 「はぁ、やっと海に出られるのね」
 「すまないな」

 また、司令官は頭を下げる。
 ここ数日で分かったことだが、この司令官は直ぐに頭を下げる。
 相手の気分を害したらすぐに謝るのは人間としてみれば最良なのだが、軍人として見ると不合格としか言いようがない。

 「だから、簡単に謝るんじゃないわよ」
 「性分なもんでな」

 このやりとりにも慣れたものだ。

 「まあいいわ。すぐに準備するから」

 私は司令官にそう言うと、ドアを潜り工廠へ向かった。
 工廠には出撃のためのゲートが設置されている。
 そのゲートを通ると、海へ出ることができるようになるのだ。

 「出撃するわ。艤装をお願い」

 工廠にいる妖精にそう言うと、妖精はビシッと敬礼をして、どこかへ走っていった。
 そして、私は工廠から降りて、ゲートの前に立った。

 『艤装装着』

 機械音声が聞こえてきた瞬間、私の体には駆逐艦“叢雲”の艤装が装着された。
 艤装が装着されると私は単装砲や高角砲、機銃を動かし、動作不良がないか調べる。
 調べ終えると同時に私の立っている場所へ水が入ってくる。
 すると私の体は水位の上昇と共に浮き上がっていった。

 「訓練では何度もやっているけれど、これは何度経験しても心が踊るわね」

 水位が一定の所に達すると、ゲートが開いた。
 そして、無線の周波数を執務室にある無線の周波数に合わせ、司令官に連絡をする。

 「司令官、準備出来たわ」
 『動作不良はないな?』
 「ええ、大丈夫よ」
 『今日はこの鎮守府から10km地点までをパトロール。問題がなければ、すぐに帰還。お前が帰ってきたら、戦力増強のために建造を行う』

 司令官から、作戦を伝えられる。
 確かに私一人では軽巡洋艦クラスまでが限界だ。
 どうしても、火力が足りない。
 魚雷が当たれば、戦艦だろうが空母だろうが一発で撃沈させる自信はある。
 だが、如何せん火力以上に装甲が薄い。
 副砲を一発食らっただけで、轟沈してしまいかねない。
 だから、司令官の判断は無難なものだろう。
 ………私個人の気持ちは別にしても。
だが、こんな気持ちは戦場において足を引っ張る。

 「了解よ。出撃するわ!」

 そうして、私はゲートを抜けて、外海へと飛び出した。




Chapter1-4「初戦闘」



 基本的に鎮守府前海域と言うのは数ある海域の中でも特に安全である。
 はぐれ駆逐艦やら、潜水艦やらが監視網をくぐり抜けて入り込むことはあるが、艦娘たちに撃破される事になる。
 なので、提督たちの間で鎮守府前海域は新人たちの練習の場として使われている。

 『叢雲、どうだ?異常はないか?』
 「ええ、これと言った異常は見当たらないわ」
 『そうか。だが、気をつけろよ』
 「了解よ」

 司令官からの通信を切ると、私はあたりを見回した。
 すると、ほんの少し先に駆逐イ級の姿があった。
 しかも私のことを認識しているのか、こちらに向かってきていた。

 「……いたわ。艦種は駆逐イ級」
 『距離は?』
 「現在5km先よ。撃ってきてるわ!」

 こちらがイ級を認識したと同時にイ級は砲撃を開始してきていた。
 こちらの動きを制限するように砲撃してきているということは接近して、魚雷で止めを刺す気だろう。

 『直ちに迎撃!敵の狙いは雷撃だ!敵の前方に砲撃を集中!』
 「了解よ!」

 司令官の言うとおり、イ級の前方に12.7cm連装砲を撃つ。
 12.7cm連装砲の砲弾が海面に着弾し、爆発する。
 すると、イ級の小さい体は爆発の衝撃で揺らされ、イ級の進む速度が遅くなった。

 『よし!そのまま接近して、雷撃だ』
 「分かったわ!」

 進みの遅くなった敵艦に向け、私は突撃をする。
 イ級も私に向け、突撃をしてくるが、私が撃つ連装砲と機銃によって、動きが制限される。
 先ほどの戦法を自分に返された形になる。

 「これでも喰らいなさい!」

 通り過ぎざまに、魚雷を発射。
 至近距離で魚雷を喰らったイ級は内側から大爆発を起こし、木端微塵になった。

 「戦闘終了よ」
 『よくやった。初出撃にしては上手く行ったほうじゃないか?』
 「ええそうね。損傷は受けてないから」
 『なら、今日はこのまま戻ってこい。続きは明日だ』
 「了解。帰投するわ」

 もう一度周囲に敵影が無いことを確認すると、私は鎮守府へ向けて進路をとった。




Chapter1-5「建造、そして出会い」




 私が鎮守府へ帰ってくると、そこには司令官の姿があった。
 恐らく、建造を行うためだろう。

 「今戻ったわ」
 「おかえり。早速だが、艤装を外したら、すぐにドックへ来てくれ」
 「了解よ」

 私がそう答えると、司令官は満足そうに頷いた。
 そして、私の頭に手を乗せて、こう言った。

 「無事で何よりだ」



 艤装を外してから、数分後、私は建造用のドックへ来ていた。

 「必要資材は………こんなもんでいいか」

 司令官は手元の建造用の書類に資材を書き込むと、妖精に渡す。
 そして、書類を受け取った妖精は書き込まれた資材をドックに運び込んだ。

 「あとは妖精たちに任せよう」
 「そうね」

 私と司令官はそのまま工廠を離れた。



 1時間後、執務室の扉が控えめに叩かれた。

 「どうぞ」

 その音に反応して司令官は入室の許可を出す。

 「失礼致します」

 凛とした声が執務室に響く。
 隣で司令官が息を呑む気配がする。

 「川内型軽巡洋艦2番艦“神通”と申します。よろしくお願いします」
 「っ、ああよろしく頼む」

 司令官は私の時と同じように、神通の元へ向かうと、右手を差し出した。
 神通も少々面食らった様子だったが、すぐに提督の手を握り返した。








 今思えば、これが悲劇と言うゴールへとスタートを切った瞬間だったのではないだろうか。

 続く
 
 

 
後書き
目標の5,000字に行かなかった…orz


感想待ってます。 
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