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美しき異形達

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第四十六話 横須賀その十

 そうした話をしながらだった、一行は薊の案内に従いそうしてある場所に来た。その場所は何処かというと。
 白い二階建ての、何処か幼稚園に似た感じの建物だった。コンクリートとフェンスに囲まれていてだった。
 校庭を思わせるブランコや滑り台がある庭で子供達が遊んでいた、その遊ぶ子供達も建物も見てだった。
 薊は目を細めさせてそのうえで皆にこう言った。
「ここがさ」
「薊ちゃんが育った場所なのね」
「そうだよ」
 裕香にも答えた、笑顔のまま。
「何も変わってないなって当たり前か」
「神戸に来たのがまた早いのよね」
「そうなんだよ、だからな」
 変わっていないこともというのだ。
「当たり前だな」
「そうよね」
「じゃあ中に入ろうな」
 薊はここで皆をさらに案内した、そして。
 そのうえでだ、その孤児院の中に入るとだ。それまで自分達で遊んでいた子供達が薊に気付いて声をかけてきた。
「あっ、薊お姉ちゃん」
「神戸から帰って来たの?」
「久し振りだね」
「元気みたいだね」
「ああ、皆も元気みたいだな」
 薊も子供達に笑顔で挨拶する、そして。
 その中のまだ小さな女の子にだ、こうしたことを言った。
「美里大きくなったな」
「あれっ、そう?」
「ああ、ここ出る時に会った時よりもさ」
「背変わってないよ」
 その女の子、黒髪を少し伸ばして半ズボンをはいた娘は薊に笑って返した。
「全然ね」
「あれっ、そうか?」
「うん、変わってないよ」
 こう薊に答えるのだった。
「昨日身長測ったけれど」
「変わりなしか」
「うん、そういう薊お姉ちゃんこそ」
 女の子の方から薊に言って来た。
「ちょっと胸大きくなった?」
「おいおい、変わってねえよ」
 薊は女の子に明るく笑って返した。
「全然さ」
「そうなの」
「ああ、変わってねえよ」
「大きくなったと思ったけれど」
「ちょっと会ってないからだろ」
 それでだ、い大きくなった様に見えたというのだ。
「胸なんてちょっと観ないとわからないよ」
「そうなのね」
「まあとにかくな」
 あらためて言う薊だった。
「院長さんいるかい?」
「院長先生ならお部屋にいるわよ」
 女の子は薊に明るい笑顔で答えた。
「他の先生達とお茶飲んでるわ」
「そうか、それじゃあな」
 薊は女の子のその言葉を聞いて今度は頷いた。
 そしてだ、裕香達に顔を向けてこう言った。
「じゃあそっちにも案内するよ」
「それじゃあ」
 裕香がその薊に応えた。
「これからね」
「行こうな」
 こう話してだ、今度はその孤児院の中に入るのだった、その孤児院の玄関でそれぞれ靴を脱いでスリッパを履いてだった。 
 薊はさらに中に進んでいく、そこでまた言うのだった。
「ここでさ」
「薊ちゃんが育ったのね」
「赤ん坊の時に玄関の前にいて」
 それで、とだ。また裕香に話した。
「それでなんだよ」
「ずっと暮らしてたのね」
「神戸に来るまでな、ここがあたしの家なんだよ」
 横須賀においての、というのだ。 
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