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劇場版・少年少女の戦極時代

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鎧武外伝 斬月編
  妹目線の危険信号

 ――その人が訪ねてきた日は、奇しくも碧沙がユグドラシルの闇を覗き込んだ日――スカラー兵器使用の計画を知った日だった。

 外からでは、いつ貴虎がスカラー兵器の使用を中止するかなど分からなかったので、咲と手を繋いだまま、日が落ちるまで例の歩道橋の上で粘った。そして、光実から「もう大丈夫」というメールを貰って、ようやく帰ってきたというわけである。


 自宅の玄関前で碧沙は高鳴る動悸を鎮めようと懸命だった。

(門限やぶったのはじめて。それに、貴兄さん。きっと今日のこと、怒られるわよね。何であんな場所にいたんだ! とか。うう。家に帰るのがこわいと思ったなんてはじめてよ)

 それでも入らなければ、家に帰れない。
 碧沙は最終的に諦めの境地でドアを開いた。

 エントランスに入ってすぐ、碧沙は不思議な光景を目にした。

 光実がいる。それは普通だ。その光実が、彼より年上らしき女性と話していた。その女性は――

「――光兄さん」
「碧沙……おかえり」

 思えば光実の前でもスカラー兵器のシェルターにはいない宣言を咲とした。光実も碧沙に怒っているかもしれない――が。

「ただいま。そちらの方は? お客さま?」
「うん。覚えてるかな。朱月藤果さん。6年前まで、この家でメイドとして働いてくれてた人」

 客人の手前、今日の事情は口に出来ないらしい。

「お久しぶりです。碧沙お嬢様」
「……こんばんは」

 碧沙はとたとたと駆けて行って光実のスラックスを指で摘まみ、光実を見上げた。

「ごめんなさい、光兄さん。ちょっと気分がよくないの。部屋にいていい?」
「ああ。そういうことなら。お客様のお相手は僕がするから」
「ごめんなさい。――朱月さん、ゆっくりなさってください。失礼します」

 碧沙は礼をしてから階段を登っていった。





 碧沙は自室に入るなり、一目散に窓まで歩いて行き、窓を開けて何度も深呼吸をした。肺に入った空気を少しでも入れ替えたかった。

(あのひと、何なの。あの甘ったるい香りが……ヘルヘイムの匂いがした)

 スマートホンを取り上げ、咲の番号を画面上に呼び出す。通話ボタンを押そうとして――思い留まった。

(咲は、スカラーシステムの一件があってから、きっと頭がいっぱいいっぱい。これ以上の不安材料を咲に教えちゃいけない。また今度にしよう)

 碧沙はスマートホンの画面を落として勉強机に置き、デスクチェアの上で膝を抱えた。





 藤果は碧沙たち三兄妹の父、呉島天樹の死を伝えるため、そして仕える主人を亡くしたことで再び呉島邸で働くために帰ってきたのだと告げた。

 父の死。
 胸が抉れるほど悲しい報せのはずなのに、碧沙は困惑に囚われるばかりだった。

 厳格だった。父・天樹についての認識はその程度だった。
 物心つく前に天樹は海外に(藤果と共に)渡った。以来、手紙や電話の類いはなかった。
 物心ついていなかった碧沙にとっての「家族」は貴虎と光実だけ。
 それでも足りない隙間は咲たちダンススクールの仲間が埋めてくれた。

(父親が死んだって聞いてこんなにヘイキでいられるわたし、きっと悪い子)

 使用人に夕食の時間だと呼びに来られたため、碧沙は思案を断ち切って食堂へ向かった。


 その日の夕食は藤果が作った。

 食事の世話をするために食堂にいる藤果からは、相変わらずあの甘ったるい香りがしたが、碧沙も度重なるヘルヘイム関係の騒動で耐性がついてきていた。態度には出さずにすんだ、と思いたい。

「ずいぶんと腕を上げたな」
「さすがにあの頃とは違いますので」

(貴兄さんのこんなにリラックスしたとこ、はじめて見たかも)

 光実を見やると、光実も同じことを思っているのだと、目の色で分かった。

「確かに。あの時のアップルパイは本当に酷かった。だが、あの頃の私にとって、何よりのご馳走だった」

 貴虎が、笑った。
 呆然とした、と言っていい。

(わたしや光兄さんの前じゃなくても、貴兄さん、こんな顔するんだ。貴兄さん、きっと、このひとを)

 なんだか泣きたい気持ちになって、それ以上は食が進まなかった。 
 

 
後書き
 久々に書くとヘキサのブラコン度の調整が難しい。
 妹の立場としては絶対! 藤佳の存在は「面白くない」と思うのですよ。
 それをヘキサらしく表現しようとしたらこうなりました。
 だいぶ勘が鈍っていると痛感しました。

 最後に会ったのは6年前=光実11歳、碧沙6歳ということで、覚えていても不思議ではないと思うのですが、碧沙はあまり覚えていないふうにしてみました。 
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