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真の贅沢

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第二章

「それならね」
「他のことならですね」
「いいよ、それじゃあね」
「はい、会われますね」
「祝田先生にそうお話してくれるかな」
「わかりました」
 編集者は薬師寺ににこりと笑って答えた。
「それじゃあ」
「それならですね」
「会う場所や日はね」
「こっちで調整させてもらいますので」
「頼むよ」
 薬師寺は出版社の応接間で編集者とこうした話をした、そして後は彼に全てを任せることにした。そしてだった。 
 暫く経って自宅で執筆中にだ、こう言われた。
「祝田先生と連絡を取りまして」
「何時になったのかな」
「今月の二十六日になりました」
「二十六日だね」
「はい、そうなりました」
「わかったよ」
 薬師寺は笑って編集者に応えた。
「今日は十日だから」
「半月ちょっと後ですね」
「その日は開けておくよ」
「それでお願いします」
「会う場所は」
「お寺です」
「お寺?」
 寺と聞いてだ、薬師寺は目を瞬かせた。
「お寺で」
「そうです、先生は浄土宗でして」
「浄土宗ねえ」
「そこのお寺でお話がしたいとか」
「仏教のことかな」
 祝田が自分に話したいことはと思った薬師寺だった。
「先生が僕にお話したいことは」
「そうではないでしょうか」
「ううん、仏教だね」
「先生は仏教にも興味がありますね」
「作品のテーマにもしているよ」
 これまでだ、そうした作品も書いている。それで編集者にこう答えたのだ。
「宗教もね」
「その中の仏教も」
「浄土宗ねえ」
「法然上人が開いた」
「あの宗派のお話を聞かせてくれるのかな」
「祝田先生は宗教についても様々な論文を書かれていますよ」
 編集者は薬師寺にこのことも伝えた。
「哲学者として」
「哲学は元々宗教からはじまっているからね」
「同じと言っていいものですから」
「だから先生もあのことに詳しいんですね」
「そうですね、では」
「うん、是非ね」
「お会いしましょう」
 こう編集者と話してだ、薬師寺は祝田と会うことにした。そのうえでその浄土宗のある寺に来てだった。住職を介して祝田と会った。
 祝田は八十を越えた老人だった、質素な和服を着ておりすっかり白く薄くなった髪を持っている痩せた老人だった。顔は皺だらけでだ。
 穏やかな表情をしている、背は一七〇程度だ。その彼が薬師寺に一礼し薬師寺も応えてから言うのだった。
「ようこそ来られました」
「いえ、お招き頂き有り難うございます」
「先生のことは聞いています」
 祝田は薬師寺に穏やかな声で答えた。
「美食家とのことですな」
「食べることは好きです」
 薬師寺は祝田に微笑んで答えた。 
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