| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

自分の力で

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六章

「僕がいて悪いのか」
「いや、悪くはないです」
「ただ、またかと思うだけで」
「それだけです」
「少し騒がしいなと」
「そうか、では静かにしよう」
 この場は、というのだ。
「しかしだ」
「はい、しかしですよね」
「ミス=ソフィアの歌はですね」
「最高だったというのですね」
「貴方達も聞いた筈だ」
 しかとした声でだ、ジョアンは言うのだった。
「今日の椿姫、最高の舞台だった」
「はい、ミス=ソフィアもよかったです」
「いいヴィオレッタでした」
「舞台は成功でした」
「確かに」
 その通りだとだ、他の観客達も認める。
「歌だけでなく演技も」
「素晴らしいヴィオレッタでしたよ」
「また成長しましたね」
「その通りだ、本当にいい舞台だった」
 ジョアンは彼等の言葉にうんうんと満足している顔で頷く、そのうえでこうも言うのだった。
「ソフィアと共に素晴らしい舞台を提供してくれた共演者、指揮者とオーケストラの諸君、演出家と舞台設定の方々全てに感謝を」
「決して悪人じゃないんだよな、この人は」
「騒がしくて一途なだけで」
「それが過ぎるだけで」
「別に」
 周りはその彼を見てこうした言葉は小声で囁いた。
「曲がったことはしないし」
「いい人なんだよ」
「ただ、なあ」
「もう少しなあ」
 ここから先はあえて言わなかったが誰もが思っていることだった、とにかく何かと難しいのがジョアンだった。
 しかしジョアンは止まらない、コヴェントガーデンの上演は成功だったがネットでこうした書き込みがあってだ、彼は激怒したのだった。
「何ィ!?僕が家の力を使ったというのか!」
「はい、ネットでそうした書き込みがありましたが」
 執事が彼に言うのだった。
「そのうえでソフィア様を」
「コヴェントガーデンでヴィオレッタを歌わせたというのか」
「その様に書いています」
「そんなことがあるか!」
 彼は自宅で激怒して叫んだ。
「僕はそんなことはしない!」
「はい、旦那様は」
「卑怯なjことはしない!我が家の、そして僕の名にかけて!」
 それは絶対と言うのだ。
「その様なことはしないしだ」
「ソフィア様もですね」
「ソフィアの実力だ」
 全てはそれによってというのだ。
「コヴェントガーデンでヴィオレッタを歌ったことも成功させたことも」
「全て、ですね」
「そうだ、ソフィアの実力だ」
 それによるものというのだ。
「それ以外の何でもない」
「その通りです」
「ソフィアの実力は本物だ」
 断言するジョアンだった。
「ただ僕はそのソフィアを評価しているだけだ」
「歌手として、ですね」
「そして人間としてのソフィアを愛している」
 こうも言うのだった、ここで。
「それだけのことだ」
「しかしそうした書き込みが」
「それを見せてもらう」
 是非にと言うのだった、執事に。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧