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口が悪いだけで

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第二章

「胸を張って言いおる」
「佐吉は昔からそうだね」
「うむ、きついことを命を張って言って来る」
「御前さんにも誰にもね」
「時と場所も選ばずな」
「それが本当に佐吉らしいね」
「やれやれじゃ」 
 憮然として言う秀吉だった。
「困った奴じゃ」
「けれどだね」
 ここでねねは秀吉に笑って言った。
「そんな佐吉だからね」
「まあのう」
 秀吉の口調が変わった、ここで。
「そうした奴だからこそな」
「御前さんもだね」
「傍に置いているのじゃ」
 それも常にというのだ。
「そうしておる」
「そうだね」
「あ奴のことはわかっておる」
 それ故にというのだ。
「わしもじゃ」
「昔からだね」
「あ奴を寺から引き受けた時からな」
 三成が幼い時のことだ、秀吉が近江のある寺に寄った時に彼とはじめて会ったのだ。
 そこで彼が淹れた三杯の茶を飲んでだったのだ。
「最初はぬるく多い茶」
「次に少し熱く普通の量のお茶だったね」
「そして最後は熱く少しの茶じゃった」
「佐吉らしいやり方だね」
「その順番が一番飲みやすくしかも美味い」
 三成はそうしたことをわかっていて秀吉に三杯の茶を出したのだ。
「その賢さを買ってじゃったわ」
「あの子を召し抱えてね」
「その時からじゃからな」
 それで、というのだ。
「わしもわかっておる」
「あの子のことは」
「あ奴は腹が奇麗じゃ」
「謀を使ってもね」
「己から、己の為に謀を使わぬ」
 それも三成だというのだ。
「あくまでわしの為にじゃ」
「謀も使うね」
「そして功を誇ることもない」
「腹の中は奇麗なんだよ」
「全てわかっておるわ」
 秀吉はこのこともしっかりとわかっているのだ。
「わしもな」
「じゃあいいね」
「うむ」
 秀吉はいささか機嫌をなおした面持ちでねねに答えた。
「いつものことじゃしな」
「そういうことだね」
「あ奴のことはわかっておる故にな」 
 まさにそれが為にだ、だが。
 ここでだ、秀吉はねねにこうも言った。
「わしはわかっておるがじゃ」
「他の人が問題だね」
「先程も虎之助達が怒っておった」
 清正に正則がというのだ。
「口が過ぎるとな」
「いつものことだね」
「あの二人は口より手を出す」
 武の者達だ、だから余計にそうなるのだ。
「だからな」
「それでだね」
「佐吉にも怒るのじゃ」
「そのことも昔からだね」
「全くじゃ、しかしじゃ」
 それでもと言う秀吉だった。
「このことは虎之助達に言っておくか」
「桂松はわかっているけれどね」
 大谷吉継だ、この者もまた秀吉子飼いの者だ。 
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