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豹頭王異伝

作者:fw187
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曙光
  嵐を呼ぶ男

「チッ。
 生意気にも、えらく落ち着いておるではないか。
 フン、忌々しい。
 ひとつ、脅かしてやるか?」
「やめんか、大人気ない!
 貴様の横言に付き合っていては話が進まぬ、静かにせんか!!」
 豹頭の戦士は軽く右手を挙げ、黒魔道師の独り言を遮った。

 邪険に扱われたのが不服と見え、駄々っ子の様に不貞腐れて黙り込む闇の司祭。
 何時の間にか足の爪先まで骸骨の身体を現し、全身で不機嫌を強調《アピール》。
 望星教団の教主ヤン・ゲラール、アルゴン化を遂げた右半身の如く。
 透き通る水晶と化した全身を、赤や青の光が駆け巡る。
 夜空に煌く瞬星灯《イルミネーション》の如く、多種多様な光を明滅させる巨大な髑髏。
 輝ける骸骨が大袈裟に肩を聳やかし、雄弁に不満を表現。

 対照的に、パロの魔道師は全く表情を変えぬ。
 顔面の筋肉を一筋も動かす事無く、律儀に王の言葉を待つ。
 グラチウスは梟の様に惚け、グインは溜息を付いた。
 じろりと骸骨に一睨みを呉れ、軽く咳払い。
 豹頭の戦士は困惑を払い、パロの魔道師に語り掛けた。

「早速だが、状況を確認したい。
 アムネリス王妃に夢の回廊、アモンの術は及んでおらぬだろうか?」
 上級魔道師エルムは落着き払い、神妙な面持ちで答礼。
 グインの心中を察し、何も聞こえなかったかの様に言葉を連ねる。

「世界三大魔道師に名を連ねる闇の祭司様、御高名は世界に鳴り響いております。
 遙か彼方パロの地におられる豹頭王様より、御下問をお受けするは光栄至極なれど。
 私如きの魔力にては到底不可能、グラチウス様の御助力たる秘術の賜物。
 また御下問にお答えするも叶わぬ事、重々承知しております。
 中原の守護者、ケイロニアの誇る豹頭王様に御報告させていただきます前に。
 先ずは闇の祭司グラチウス様に感謝を捧げ、御礼を申し上げます」

 齢八百を超える老魔道師が、顔を輝かせた。
 機嫌が直ったと見え、水晶の髑髏が虹色に光り輝く。

「ほう。
 木っ端魔道師にしては珍しくも、真っ当な口の利き方を心得ておるようだ。
 ヴァレリウスの阿呆めとは全く以って大違い、白魔道師にしておくのは惜しい。
 見所のある奴じゃ、精進せいよ」
 黄金に黒玉の戦士は再び、深い溜息を付いた。
 気の利いた上級魔道師は素知らぬ振りを押し通し、つるつると滑らかに報告を再開。
 自称816歳の少年は知らぬ振りを決め込み、微塵も動きを見せぬ。
 些か精神的疲労を覚えつつ、グインはエルムへ感謝の視線を投げた。

「此れ程までに使える奴を部下に持っておるとは、ヴァレリウスの阿呆めが意外じゃな。
 世界三大魔道師の筆頭、地上最強の黒魔道師グラチウス様に弟子入りせんかね?

 魔道師ギルド、白魔道師共の魔力が役に立ったか?
 修行を積み試験に合格したところで魔王子、竜の門に手も足も出んじゃないか!
 大導師カロンとやら、姑息な術策を弄する輩に騙されるな。
 組織に留まれば、折角の才能を腐らせるだけじゃ。
 若者の芽を摘み、因習で縛る事に汲々としておるに過ぎぬ。

 限界を超え偉大な魔道師の域に達する為には、集団の力に頼っていては駄目さ。
 心理誘導の巧妙な罠に嵌まり、他者に依存するがオチよ。
 魔道師の塔は聖王、レムスが竜王の奴隷と化した事を認めなかった。
 アルド・ナリスが追い詰められ、手遅れになるまで事実上放置している。
 魔の胞子や異次元の蜘蛛に手も足も出ず、魔道に全く無知の豹頭王に頼るとはな!
 イェライシャが味方に付いた途端、依存心の虜と化しておる。
 先が無い、とは思わんか?

 ヴァレリウスめは小賢しくも現実を認め、自分なりに限界を超えようとしておるがね。
 ギルドの掟を破り魔力を上げる為、足掻いておる様だが間に合わん。
 大導師と名乗る大馬鹿者カロン以下、本当に必要な時には全く使い物にならん奴等。
 木っ端魔道師なんぞ、何の役にも立たぬではないか?
 人の足を引っ張る事しか考えぬ茶坊主共、嫉妬深い奴等の妨害を退けよ。
 本当の実力を身に付ける為には地道な自己研鑽を重ね、限界を突破せにゃならんのだよ。

 数百年に渡る厳しい修練を己に課し、他者の追随を許さぬ偉大なる魔道師。
 比類無き強大な魔力を得た闇の司祭、グラチウス様を見習うが良いぞ。
 北の見者ロカンドラスの入寂は差迫る大戦乱時代を怖れ、敵前逃亡を図ったに過ぎぬ。
 現実界へ介入する気概を喪い、己の結界に引き籠る大導師アグリッパも同じ穴の狢なり。
 世界三大魔道師、が聞いて呆れる。
 風立たぬ虎、雲捲き起こらぬ竜にも等しい惨めな存在よ。
 だが人間の叡智の象徴、闇の司祭様は違う。
 人類の名誉を懸け異界からの侵略、異種の挑戦を受けて立つ。

 吹けよ風、呼べよ嵐。
 我は征くぞ、青白き頬の儘でな。
 ヤンダルだろーが、アモンだろーが、纏めて相手をしてやる。
 人類史上最強の黒魔道師、グラチウス此処《ここ》に在《あ》り!
 豹頭王と儂が組めば無敵よ、敗北の二文字は無い!!


 遠く輝く夜空の星に、我等の願いが届く時!
 銀河連邦、遙かに越えて、光と共にやって来る!!
 怪獣退治の使命を帯びて、燃える街に、あと僅か!
 轟く絶叫《さけび》を耳にして、帰って来たぞ、帰って来たぞ、豹頭王!!
 凶悪怪獣、倒す為、進め、銀河の涯《はて》までも!

 空を見ろ、星を見ろ、宇宙を見ろ!
 謎を秘め、襲い来る、侵略者!!
 力《ちから》が欲しい、と願う時!
 王の腕《かいな》が、輝いて!!
 魔剣が、噴き出す!
 グインが、戦う!!
 グイン、グイン、グイン!
 豹頭王、グイン!!

 王を呼ぶ声、響けば、王は必ず、応える!
 赤い炎を突き抜け、其処《そこ》に現れる!!
 平和を壊す敵は、此《こ》の手で叩き潰す!
 それが、王の使命!!
 それが、王の願い!
 無敵の武器を掲げ、鍛えた剣技《わざ》を揮い、倒せ、火を吐く大怪獣!!
 世界の平和を護る為、暗黒魔人をやっつけろ!

 白い砂漠の真ん中に、今日も嵐が吹き荒れる!
 掟《ルール》無用の悪党に、正義の拳《パンチ》をブチかませ!!
 草も樹《き》も無い、死の谷《グル・ヌー》に、恐怖の罠が待っている!
 白い天馬に跨《またが》って、王者の剣を振り翳《かざ》せ!!
 妖気渦巻く戦場《ジャングル》に、吼える野獣の無法者!
 縞の長衣《ガウン》を翻し、奴等の牙を折ってやれ!!
 月に代わって、お仕置きじゃあああっ!
 フハハハハ、(半音上がる)ハハハハハハハハ!!」

 髑髏の顔を持つ筋骨逞しい金色の超人、銀色の杖を揮う英雄の哄笑が響き渡る。
 黄金に黒玉を鏤めた巨大な蝙蝠《バット》が現れ、ニヤリと笑う。
 鉄壁の自制心を開錠する魔法の呪文、鍵《パスワード》が含まれていたのやもしれぬ。
 グラチウスの催眠術、宇宙空間の幻影を震撼させた裏技。
 頭の中の次元が砕ける程の爆笑、凄絶な轟音が弾けた。

 豹頭王を身体の奥底から湧き起こる衝動が掌握、笑死寸前に至り息も詰まる。
 数タルザン後に漸く哄笑の渦が鎮まり、髭を震わせながら声を絞り出す。
「新手の超心理攻撃だな、グラチウス!
 呼吸が続かぬ、俺を殺す気か!!」

「この程度で、己の息が止まる訳は無かろ?
 王は外見からは全く理解出来ぬ程に途方も無い、ひねくれた面白がり屋だ。
 ぬしの腹心、ハゾス・アンタイオスも云っておったぞ。
 ヤーンの如き凄まじい感覚《センス》、ユーモアの持ち主と」

「貴様の話に耳を傾けておれば、あっという間に数千年が経過してしまうな。
 上級魔道師エルム殿、大いに安心した。
 魔王子アモンの気配に留意し、怪しい兆候を感知したら通報してくれ。
 イシュタールに手を出す余裕は無い、と踏んでいるが逆に裏を取るかもしれぬ。

 キタイの竜王も後催眠の術を用い、イシュトヴァーンを操る気配を見せた。
 夢の回廊を完璧に遮断する術は無く、再度の精神攻撃も起こり得る。
 アムネリス王妃、誕生直後の王子が黒魔道師に狙われるやもしれぬ。
 王族の誘拐を企み、キタイに拉致した輩も眼の前に居るからな」

 猫族の瞳を細め、雄弁に横目で一瞥。
 黄金色に輝く髑髏は長い舌を突出し、笑いを誘う仕草で応えるが。
 無表情《ポーカー・フェイス》を貫く豹頭王の仕打ちに、ガックリと首を下げた。
 上級魔道師エルムは宇宙人を見る眼付きを巧みに隠し、淡々と報告を補足する。

「ゴーラ王妃と御子息は私、1級魔道師レインが交代で警護を仕ります。
 部下3名も伴い、カメロン様の御用を務めさせる様に手配致しました。
 下級魔道師カルチウス、サディスは陛下も御存知の或る家族を護送中。
 魔道師1名のみ、宰相の傍に待機しております」

「なるほど、適任だな。
 初めて子供を得た王妃も、彼等が傍らに居てくれれば安心だろう。
 カメロン殿の眼に狂いは無い、最高の人選だと思うぞ」
 豹の眼が光り、深々と頷いた。
 上級魔道師エルムは澱み無く、流暢に言葉を継ぐ。

「イシュタールに到着の直後、宰相の許に参上致しました。
 其の際、カメロン様も同様の事を仰られています。
 元ユディトー伯爵ユディウス・シンは、旧ユラニア領に精通する有能な実務家。
 グイン様の推薦で貴重な人材、最高の能吏を得られたと激賞されています」

「そんな細かい所まで、手を打っておったのか?
 全く隅に置けん、抜け目の無い豹じゃな!」
 眼球を真ん丸に見開き、驚く髑髏首。
 豹の牙が覗き、物騒な唸り声が洩れた。 
 

 
後書き
 『闇の司祭』終盤グインの哄笑で頭が割れてしまう、の苦情(クレーム)で『黄金バット』の笑い声を連想(笑) 
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