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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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おまけのおまけ『エピローグ』

 海。
 寄せては返す波が島の岸壁を打ち、まるで命の鼓動を刻むかのような躍動的な音を響かせる。
 時折聞こえる鳥の鳴き声が、海の音を鮮やかに飾り付けていく。

 加えて、海の青。

 吸い込まれるほどに青いそこに、揺れる波がしぶきとなって白のコントラスを生んでいる。
 見上げれば存在する青い空と白い雲も魅力的だが、どこか淡い空のそれとは対照的なほどに濃い海のそれは、より深い命を感じさせる。

 海に慣れのない人間がそこにいれば、それだけおのずと足を止めてしまうであろう艶やかな光景だが、残念ながらというべきか、当然ともいうべきか。海に囲まれた小さな田舎島に暮らす、その島の住人たちからすればそれは日常的に存在するそれで、面白味のあるものではない。

 それよりも日々の糧を得るために、せっせと日常を過ごす。
 そんな、世界中どこにでも存在している田舎島の一つ。

 ここはコノミ諸島ココヤシ村。小さな島にいくつかの小さな村が点在している普通の田舎島だが、そこでは今日も今日とて海の音など全く耳に入らないほどの喧噪が広がっていた。

 とある民家の前にたたずむ、おそらくはまだ5歳程度であろう少女と大人の男。必死な目をしている少女とは裏腹に男は穏やかな目をしている。

「うー、ぎょじんからてりくしき!」

 唐突に。
 甲高い声が、どこかしたったらずのままでヤケクソ気味に響く。

「お?」
「10まいがわらせいけん!」

 そんな甲高い声に呼応して、落ち着いた声がどこか楽しげに弾み、かと思えば甲高い声とともに繰り出されたその少女の拳は、そのまま大人の男へと到達し、そして――

「……」
「……」 

 ――何かが起こるということもなく、二人は目を見合わせた。

「うわーん、またしっぱいしたーーー!」

 少女は泣きそうな顔で、大人の男からそっぽを向いて地面に両手をついた。今にも泣き出さんばかりのその様子に、男が困ったように頬をかき「んー、だからツグミにはまだ無理っていっただろ? 師匠……っていうか、おじいちゃんにしっかりと魚人空手を教わらないとその技は使えないっていつも言ってるじゃないか」と呟く。

「だってわたしももお父さんとおんなじわざを使えるようになりたいんだもん」 

 少女――ツグミ――の無邪気な、そしてその父親にとって実に頬が緩んでしまうような台詞に、ツグミの父はだらしない笑みを浮かべて口を開こうとするのだが、それよりも先に民家の扉が開け放たれた。
 ツグミとツグミの父の視線が一斉にそちらへと向くと同時、家から二人の人物が姿を見せた。一人はツグミ同様、5歳程度の少年。そしてもう一人は長い髪をもった大人の女だ。
 そんな、いきなり現れた二人だが、真っ先に口を開いたのは少年のほう。

「ツグミ……だから父さんを困らせるなって言っただろ? ……そもそもお前のひんじゃくな体じゃ、そういう応用をこなす前にきそてきなトレーニングをつんだほうがこうりつてきだってさっき言ったば――」

 いきなり小難しいことをつらつらと述べ始めた少年に、ツグミは「――うるさいカイト! あんただっておかあさんにうみのちずのかきかたとか教えてもらってるくせになんにもむずかしいことはできないじゃない!」
「うん、だからまだ僕らには基本的なことを学ぶ時間が必要ってことをさっきから言ってるんだろう?」
「う゛」

 嫌味で返したはずの言葉に、少年――カイト――の冷静な言葉がツグミの胸に突き刺さってそこで口論は終了。それでもめげずに何かを言おうとしたツグミだったが、その前に「あはははは!」という大人の女の笑い声が響いて、それも失敗に終わった。

「もう、おかあさんったらそんなにわらわなくってもいいのに!」

 せめてもと、カイトとともに現れた大人の女、要するに母親へとツグミは頬を膨らませる。

「ごめんごめん、私たちの子供があんまりにも仲良さそうにしてるからつい嬉しくて」
「……ふんだ!」

 やはりそっぽを向くツグミに、母親はやはり楽しそうに「みかんのタルト一緒に作ろうって思ったけど……やめとく?」
 その言葉を聞くや否や、ツグミの不機嫌な顔はどこへやら。

「え!?」

 という声とともに実に嬉しそうに「作る! 私も作る!」とぴょんぴょんと飛び跳ねて母親の足元へとすり寄っていく。

「そういうわけで、あんたは夕食のためにカイトとともに狩り、よろしくね」
「りょうかーい」

 母親の言葉に、父親は気の抜けた笑顔で頷き、いつの間にか足元へとたどり着いていたカイトと視線を合わせて「よし、行くか」と父親らしい頼れる表情でカイトの頭に手を置いた。

「今日こそ、ウサギを狩ってやる」

 カイトはカイトでやる気満々である。
 ツグミと母親が家でみかんタルトを作り始め、カイトと父親が狩りのために外へと出かける。
 なんともほほえましく、幸せな家庭。
 それでも、いや、だからこそ。
 そんな穏やかで幸せな時間は短い。

「海賊だー! 海賊が来たぞー!」

 島民の、おそらくは別の村の人間の声だろう。
 あまり危機感は感じられない声色だが、やはりどこか緊張感のあるような張りつめた声を落としながらもココヤシ村へと情報を流し、別の村の人間へとその情報を流しに走り去っていく。

「……行っちゃうん、だよね?」

 カイトが肩を落とし、父親へと確認するかのように言う。父親は申し訳なさそうに、寂しそうに、だが笑顔で「ああ」と答え、カイトを抱えあげる。
「うわ、ちょ……何をっ」
「息子成分を充填中だ……ずっとツグミに構っててあんまりお前にかまってやれなかったから」
「ぼ、ぼくがそんなことでよろこぶっておもってる?」

 ここにきて初めて子供っぽい口調になって息子。それこそが本音なのだろうと悟った父親は嬉しそうに、そしてどこか意地悪に「いや、俺がそうしたいんだ」と先ほどまでよりも少し強めに抱きしめる。

 そんな時間がどれほどたっただろうか。
 数秒か、数分か、それとももっと長かったのか、短かったのか。

 とにかく、父親がカイトから離れた瞬間にまた家の扉が開いて、かと思えばツグミと母親が姿を現した。
 父親と母親は頷きあい、大した荷物もなしに歩き出す。
 もちろん二人の側にはツグミとカイトがいる。
 同じ村の人々に「気を付けてな!」
「またしっかり帰ってくるんだよ!」

 などの声をかけられつつも、四人はゆっくりと歩を進める。
 やがて、村の駐在や煙草をふかした女性、腕に入れ墨がある女性が現れてそれぞれと言葉を交わし、カイトとツグミを彼らに引き渡す。

「また帰ってくるからな、いい子にしてろよ?」
「別にいい子にしてなくてもいいけど、ベルメールさんたちのいうことはしっかりと聞きなさい? 二人をよろしくね?」

 さらに2,3の言葉を交わした彼らは遂に息子と娘から離れていく。
 徐々に遠くなっていく父親と母親の背中を、ツグミとカイトは何も言わずに、二人へとひたすらに手を振ることで力いっぱいに見送る。父親と母親も姿が見えなくなるまで手を振って別れを惜しむ。

「……」
「……」

 今度こそ二人きりになった父親と母親が空を見上げながらも、沈黙のままに足を進めていく。
 やがて、海岸に出た二人の目の前には、海からやってきた海賊船が堂々とそこにその姿を泊めていた。

「おーい、やっと来たかーハント! ナミ! もう待ちくたびれたぞー! そんで腹減った!」
「ってさっき飯くったばっかじゃねぇか!」
「んナーミさーーーーん! 俺がいなくて寂しかったー!?」
「子供がいる女にも目がねぇとは……てめぇのぐるぐる眉毛に酔って死にやがれ」
「んだとクソマリモっ!」

 相も変わらず騒がしい船上の面々に、二人は顔を見合わせて楽しそうに笑う。

「いこっか、ハント」
「ああ、ナミ!」

 


 船の上で、コノミ諸島を目に焼き付けながら、船尾で寄り添っているハントとナミ。

「ベルメールさん、ノジコ、ゲンさん、村のみんな……それに、ツグミ、カイト。俺は……いや、俺たちはまた帰ってくる」
「うん」
「だって俺は、俺たちは家族なんだから」
「そうね……ねぇ、ハント?」
「……ん?」
「昔の約束……覚えてる?」

 いきなりの言葉に、ハントは驚いたように動きを止めて、それから自信に溢れた表情で、そして満面の笑みでうなづいた。
 それを満足げに見つめながら、ナミもまた笑顔に。

「……?」
「……!」

 二人の弾んだ声が波の音へと消えていく。

「ハントー腹減ったー! なんかでけぇ魚頼むー!」
「ああ! 今行く!」
「あとナミがいねぇとグランドラインに入れねぇんだから頼むぞ、ナミ!」
「わかってるわよ、今行くから!」

 優しくも温かい家族生活から、騒がしくも楽しい海賊生活へ。 
 ベルメールという母を愛し、ノジコという姉を愛し、ゲンゾウという父を愛し、ココヤシ村という故郷を愛し、ジンベエという師匠を愛し、ツグミという娘を愛し、カイトという息子を愛し。

 それでも二人は海に出る。
 なぜなら二人の心はいつも彼らと側にあるのだから――

「ハント、もう島も見えなくなったし、行こっか」
「ああ、そうだな」

 ――いや、少し違う。

 二人が海に出る理由はもっと単純で、明快なそれ。
 たった一つの、実にわかりやすいそれ。




 何よりも二人は幸せなのだ――


 島にいても。

 海にいても。
 
 親になろうが。
 
 海賊だろうが。


 お互いの――


 ――ただ側にいるだけで。




               完
 

 
 

 
後書き
 
お疲れ様でした!
『ワンピース~ただ側で~』
これにて正真正銘、本当に完結です。

おきにいり登録してくださった方、感想を下さった方、評価を下さった方、もちろん気まぐれにでもこの作品を読んでくださった方、誠にありがとうございました。

そして、魚真のあたりの発想のヒントになるメッセージをくださった、とある読者様。
最後まで読んでくださっているかはわかりませんが、それでもこの場をお借りしてお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。

私の作品がまた皆様の目に触れられることを願って、このあたりで。
本当にご拝読ありがとうございました。
またどこかで!!
 
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