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赤い服のアルバイト

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2部分:第二章


第二章

「それにしても冬のマリン球場っていうのは」
「ですから風がいいので」
「寒いですよ」
 思わず電話の向こうの相手に言った。
「本当に。そこなんですか」
「日本ではそこです」
 電話の向こうの相手は不意に変なことを口にしてきた。日本では、というのだ。さっきからどうにも訳のわからないことを聞いてばかりの遼太郎だがこれも同じだった。
「そこが一番いいですから」
「とにかくそこにクリスマスの正午ですか」
「はい。宜しいですね?」
 電話の向こうから彼に確かめてきた。
「それで」
「まあ一日で百万貰えるんなら」
 甚だ胡散臭いがそれでも臓器売買やそういった胡散臭いどころではない話のようなのでまずはよしとした。そのうえで答える。
「それで御願いします」
「わかりました。それではこちらも」
「それでですね」
 遼太郎はここでさらに問うた。
「何を持って行けばいいですか」
「別に何もいらないです」
 この問いへの返事はすぐに返って来た。
「手ぶらでもいいですから」
「手ぶらでもですか」
「そうです。それではまたクリスマスに」
「はい」
「ご機嫌よう」
 ここまで話して電話は切れた。最初から最後まで殆ど訳がわからなかったので首を傾げるばかりの遼太郎だった。だがとにかくバイトの話はこれで決まったのだった。
「千葉マリンスタジアムか」
 集合場所の名称を呟く。
「行くか。暇だしな」
 こう呟いてからとりあえずアパートに帰った。この時はこれで終わった。そしてクリスマスの正午。彼が千葉マリンスタジアムに行くと入り口が開いていた。それであの話が本当だとわかった。
「マジかよ」
「ここだよな」
「ここか」
 見れば彼の他にも様々な若い男がやって来ている。彼だけではなかった。
 しかもその言葉は関東のものだけではなかった。関西もあれば名古屋もあり広島や九州のものもある。東北の言葉すら聞こえてくる。
「ここかいな」
「またえらく寒いところだぎゃ」
「遠くからはるばるじゃけえ。稼がせてもらうんじゃ」
「いい球場でごわすな」
「まだ青森よりかぬくいだべさ」
「何で全国から集まってるんだ?」
 遼太郎は今度はこのことが不思議だった。マリンスタジアムの前で首を捻る。そこにも浜風が来て寒さをより厳しいものにさせていた。
 だがそれでもまず球場に入った。皆そのままグラウンドに入る。何千人か何万人か知らないが確かにかなりの数が集まっている。その彼等が皆入ったところで不意にスコアボードのモニターのスイッチが入るのだった。
「やあ皆さん」
「んっ!?」
「あんたは」
 そのモニターに出て来たのは何と。
「ようこそ集まって頂きました」
「サンタクロース!?」
「そうだよな」
 モニターに出て来たのは紛れもなくサンタだった。赤い服と帽子に白い髭のにこにことした老人だ。モニターに出て来たのは彼であった。
「今宵は皆さんにお仕事をしてもらいたいのです」
「仕事!?」
「はい、そうです」
 モニターのサンタは彼等に話す。話すその側から空から何かがやって来た。
「何だありゃ」
「鳥か?飛行機か?」
 中には随分と古いネタを飛ばす者もいたがどちらでもなかった。やって来たのはトナカイと橇だった。どれも空から降りて来たのである。
「トナカイが飛んで来たぞ」
「ああ、どう見てもトナカイだよな」
「間違いないな」
 皆突然トナカイが橇を牽いて空からやって来たので眉を顰めさせている。そのうえでトナカイを見ているのであった。
「生きているぞ」
「ちゃんとな。動いてるしな」
「ロボットじゃないのか」
「ははは、ちゃんとしたトナカイですよ」
 モニターのサンタが笑って皆に話す。
 
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