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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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番外28話『運命の分かれ道』


 デービーバックファイトがやっと終わった。
 ルフィが予想以上に苦戦してたのは少し心配になったけど、まぁやっぱりというか当然というか。結局はルフィが勝って無事に終わった。食糧、酒、お宝と……空島で大宴会を開いたツケで随分と苦しい台所事情になってたメリー号も、これでとりあえずは次の目的地までは十分に賄えるだろう。

「……」

 今、俺は一人でメリー号に留守番をしている。
 他の皆はトンジットさんのところだ。
 俺一人をおいていくなんて、まったく、ひどい話だ……っていいたいところだけど、俺は船番という名のドクターストップ。

 デービーバックファイト一回戦、ドーナツレースでちょっと頑張っただけで別に大して無茶をした覚えはない……というのにチョッパーから今日はもう寝ること以外は基本禁止と言われてしまった。食事もダメだそうだ。

 もちろん、もともとチョッパーに止められていたのに無理にレースに出た俺が悪い、なんてことは棚上げさせてもらう。

「ま、確かにちょっと動いただけなのにもう眠たいかな」

 甲板に寝転がりながら、欠伸を噛み殺す。
 今回のデービーバックファイトは勝ったし、失ったものは何もないし、という結果だった。もともとはあいつらが許せなくて始まったこのゲームも、こういう結果で終わればいいことづくめで、気分も良い。

「……」

 とはいえ、やっぱりルフィと割れ頭の戦闘で思うこともあったわけで。

 ――やっぱり、覇気をみんなに教えた方がいいんだろうか。

 そういう思考が実はさっきから脳裏に張り付いていて離れない。
 ルフィが割れ頭に苦戦したのはもちろん、フォクシーがノロノロビームという厄介な悪魔の実の能力をもっていたことと、色々と小細工できるバトルフィールド、要するにあいつらの船が戦場になったことが原因だけど、本来の実力差からいうと苦戦なんかするわけがないほどに差があった。

 もちろん、それはそれだけフォクシーがそのカラクリをうまく駆使して立ち回ったから、というあんまり認めたくない原因があるわけなんだけど、もしも今回ルフィが見聞色を使えたら秒殺だったんじゃないだろうか。

「でもなぁ」

 少なくとも今のようにログがたまってすぐに次の島へと出発……というような環境では覇気を教えることは出来ない。、
 少なくても半年から一年。下手をすれば数年……いや、ルフィたちなら一年はかからなさそうだけど。それでもそれぐらいの期間、しっかりと地に足をつけて教える必要がある。つまり、その間はその都市に滞在しなければならないことになる。

「……1回、3人にもこの話したほうがいいかな?」

 次の島ではメリー号の大幅修繕と船大工探しの目的もある。もしかしたらそういった長い間一つの島で滞在するという提案も受け入れてもらえるかもしれない。

「……って、それはそれで他のみんなが暇すぎるか」

 多分、現状で覇気を覚えられるのはルフィ、ゾロ、サンジの3人しかいない。他のみんなにまで覇気を覚えさせるのならそもそもの土台作りが必要になってくるわけで、そうなると一年ではまず無理。となると、他のみんなは放置になる。それだとほかのみんなが暇を持て余すような日々を送らないといけない……うーん、なんか嫌だ。きっとそれはルフィたちもそう思うだろうし。
 一人で盛り上がりそうになって、でも結局は没。

「ま、今はいっか」

 諦めるとまた一気に眠くなってきた。
 このまま気持ちのいい潮風に当たって眠ろ……うん?
 遠くから「ギュアアア」というよくわからない声が聞こえてきた。

「悲鳴……じゃないよな」

 またルフィたちが暴れてるんだろうか。にしても人間の叫び声には聞こえなかったけど……ちょっとだけ違和感を覚えて。でもまぁいいやと思ってまた目を閉じ……ん?
 今度は悲鳴ではなく、風。

「……なにこの冷たい風……え? 急に冬になったとか?」

 わけがわからない。
 周囲を見回してももちろんそんな気配はない。グランドラインだから、って言われればもちろんそれで納得できるけど、けどそれならそれで誰か一人ぐらいはこっちに帰ってきてなにかを教えてくれそうなものだけど。いや、わざわざ気候の変化でこっちに戻ってくるなんてことするわけがないか。

「……」

 けど、なんだろう。
 なぜだろう。
 何かが気になる。
 なんとなく、見聞色の覇気を発動してみた。

「……?」

 おかしい、二人ほど海の上を進んでる生物がいる。いや。海の上を進むこと自体はおかしくない。けど、船にのっているというには遅すぎる。まるで海の上を歩ているかのような速度。しかも、またおかしいことにルフィたちの数があわない。

 俺を除いた麦わら一味の数は7人。それに加えてトンジットのおっちゃんとシェリーで合計9つ。なのに、島に固まっているのは8つだ。ルフィたち仲間のはさすがに判別できるとして、じゃあ残り一つは?

 トンジットのおっちゃんとシェリーがそれなら二つ必要なはずだけど。そこにあるのはたったの一つ。
 一体どうなってるんだろうか。
 気になって眠れないじゃないか。
 行くべきか……行かざるべきか……そこまで考えてため息を一つ落とした。

「考えすぎだな」

 ルフィたちの動きは特にない。つまり、別に緊急事態じゃないってことだろう。
 というか緊急事態だろうが緊急事態じゃなかろうが、あいつらが揃っていて誰かに負けるなんてことがあるはずがないし、そもそも今の俺がそういう状況で助けに行ったとして足手まといにしかならない。

 気にするだけ無駄という奴だ。
 何に焦っていたのか、いや全く。
 わけのわからない焦りを覚えていた自分に苦笑してまた目を閉じる。
 今となってはこの冷たい風も、なんだか心地よく感じた。


 

 ハントが苦笑していた頃、事態は彼の胸騒ぎのとおりに進み始めていた。
 ハントが見聞色の網で首を傾げた謎の8つめの人物。
 トンジットとシェリーを海上でも歩けるように、海面をごっそりと凍らせたしたその人物。

 海軍でも最高戦力の一人として謳われる男。
 大将青キジ。
 それが言う。

「俺がここへ来たのはモンキー・D・ルフィ、お前とニコ・ロビン、それにハントの野郎を一目見るためなんだが」
「……ハント?」
「あぁ……まぁ、いいんだ。ハントに関しちゃ単なるもののついでだ。それより今はお前らだ。やっぱ――」

 ハントにも用があるという言葉に一同が驚いた顔をするものの、それらの一切の言葉を呑みこませるほどの言葉を、青キジは言い放つ。

「――今死んどくか」
「!?」

 つい数秒前まで見せていた彼のどこか腑抜けた態度からのあまりの急変ぶりに、全員が動きを止めた。

「政府はまだまだお前たちを軽視しているが細かく素性を辿れば骨のある一味だ。少数とはいえこれだけ曲者が顔をそろえてくると後々面倒な事になるだろう。初頭の手配に至る経緯、これまでにお前たちのやってきた所業の数々、その成長速度……長らく無法者どもを相手にしてきたが末恐ろしく思う。特に危険視される原因はお前だよ、ニコ・ロビン」

 ロビンを睨む青キジに、ルフィが「お前ぇ、ロビンを狙ってるんじゃねぇか! ブッ飛ばすぞ!」と啖呵を切るが、それを向けられた青キジはそれらを無視。ロビンへと言葉をつづける。

「懸賞金はなにもそいつの強さを現すだけのものじゃない。政府に及ぼす危険度を示す数値でもある。だからこそお前は8歳という若さで賞金首になった。子供ながらうまく生きてきたもんだ、裏切っては逃げのびて取り入っては利用して……そのシリの軽さで裏社会を生き延びてきたお前が次に選んだ隠れ家がこの一味というわけか」
「おいてめぇ、聞いてりゃカンにさわる言い方するじゃねぇか……ロビンちゃんに何の用があるってんだ!」
「やめろ、サンジ!」

 ヒートアップするサンジを止めるウソップ。
 ルフィだけでなくサンジも剣呑な雰囲気を醸しだすのだが、やはり青キジはそれらを気にせず、質問にだけ答えて言葉を続けていく。

「別に恨みはねぇよ……因縁があるとすりゃあ一度取り逃がしちまったことくらいか、昔の話だ。お前たちもその内わかる、厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くはねぇさ。それが証拠に今日までニコ・ロビンにかかわった組織はすべて壊滅している。その女一人を除いて、だ。何故かねぇ、ニコロビン」
「何が言いたいのっ! 私を捕まえたいならそうすればいい! 三十輪咲き!」

 何がそうさせたのか。

 遺跡に関すること以外では怒った様子すら見せなかったロビンが、単なる口だけの挑発だけで、まるで理性を失ってしまったかのように青キジの体に腕を生やした。青キジは30本の腕であらゆる体の関節を極められた状態。その態勢でいるだけでも辛いはずなのだが、青キジは全くもって答えた様子もなく「あらら……少ししゃべり過ぎたかな。残念、もう少し利口な女かと思ってた」
「クラッチ!」

 話すことすら許さないと言わんばかりに、腰を真っ二つに折った。そのまま体が崩れていく青キジにチョッパーが「うわーーー死んだーーーー!」と目を丸くさせ、ウソップが「いや……無理だ! おいみんな逃げよう! 逃げるぞ!」と叫ぶ。

 はたして、ウソップの言った通り。
 青キジはその程度では死なない。
 自然系、ヒエヒエの実の氷結人間。悪魔の実の能力者だ。
 単純な肉体への物理攻撃は無意味。

「んあ~、ひどいことするじゃないの」 

 言いながら立ち上がり、それと共に足元の草を幾本もぶっこ抜いて、それをもとに氷の剣をいきなり作り出した。

「アイスサーベル……命とる気はなかったが」

 言いながらも氷の剣をロビンへと振り下ろすが、ロビンの前にゾロが割って入った。剣と刀がぶつかり合う。本物の金属がぶつかったような音からそのアイスサーベルの切れ味と強度が伺える。

 青キジとゾロの視線がぶつかったその瞬間に、今度はゾロの背後から「切肉シュート!」と、サンジが青キジのアイスサーベルを蹴り飛ばした。続いて「ゴムゴムのぉ――」とルフィの声。凄まじい勢いで青キジへと走り寄る、その一瞬の隙に青キジはゾロの肩とサンジの足を掴んだ。
 と、同時。

「――銃弾!」

 ルフィのゴムゴムの銃弾が青キジの腹へと見事に入った。
 いや、違う。

「冷た!」

 その腹部を殴ったルフィの手が凍る。
 続いで、サンジの足。ゾロの肩。

「ぎゃああああ凍らされた~~!」
「あの3人がいっぺんに!?」
「大変だ! すぐ手当てしないと……! 凍傷になったら……! 手足が腐っちゃうぞ!」

 チョッパーたちが騒ぎ立てている間にも、青キジがロビンへと抱き付く。それはもちろん愛の抱擁でもなければセクハラ行為でもない。

「ロビン、あぶねぇぞ! 逃げろ!」

 ルフィの言葉も、もう遅い。

「私は……」

 ロビンの全身が氷漬けになった。

「お前ぇーーーー!
「わめくな、ちゃんとまだ生きてる。ただし体は割れやすくなってるんで気を付けろ。割れりゃ死ぬ。例えばこういう風に砕いちまうと」

 そう言ってロビンへと、青キジの拳が……いや、間一髪。
 ルフィが滑り込みで氷漬けのロビンの体を抱きかかえて、その拳を避けて見せた。

「はぁ、あぶねぇ!」

 だが、そこはまだ青キジの足元で、青キジが足をふりおろし――

「ギャーギャー!」

 ――今度はウソップがロビンの体を抱きかかえて逃走。青キジの足元にいたルフィだけがその足に踏まれることとなったが、ロビンの体はまたセーフ。

「なんだってんだ、オイ」

 青キジがまたもや妨害されたことに意識がウソップの方へと向き、そしてそのタイミングで踏まれていたルフィはその足から脱出して慌てて指示を出した。

「ウソップ、チョッパー! そのまま船に走れ! 手当てしてロビンを助けろ! ハントにはこのこと言うなよ! 今あいつに来られてもきっと意味がねぇ!」
「わ! わかった!」

 ウソップとチョッパーが頷き、そして同時にロビンを抱えて走り出した。

「急げ、そーっとだぞ!」
「冷てぇ!」
「バカ、ロビンはもっと冷てぇんだ」

 その背中を追われないよう、ルフィたちが青キジを囲むのだった。 




「……んぁ」

 数分ほど……いや、もう少し長い時間か。まぁ、どっちでもいいけど。とにかくちょっとだけ眠っていたらしい。
 冷たい風が気持ちいい。

「……ふわぁぁぁ」

 欠伸でこの気持ちいい風を胸いっぱいに吸い込むのがまた何ともたまらなく心地良い。ちょっと眠っただけなのに、体が軽い。まどろみの中にいて動きたいとは思わないけど、心地良いし、気持ち良いし、体調もいいし……あいつらもまだまだ帰ってこないだろうし、この際だからこのままガッツリと寝てしまおう……ん?

「あ。やべ」

 冷風で気づいた。
 みかん畑、さすがにこのままじゃまずいか。
 一応寒気対策とかしておかないとこのままじゃあんまり美味しくないのとかできるかもしれない。
 いやー、危ない危ない。気づいてよかった。
 とりあえず立ち上がって、船の倉庫から道具を持ってこないと―― 

「――ん?」

 今、誰かに呼ばれた? 

「ハントーーーーー!」 
「ウソップの声?」

 船から身を乗り出すと、ウソップだけじゃなくて一緒にチョッパーもいる姿が遠目に見えた。

「……なんだ? 何か抱えてるのか?」

 よく見えない。仕方がないから耳だけは澄ましてみる。

「水を張ってくれ、ハント! シャワー室ですごいぬるま湯をはっててくれ!」

 ……?
 聞き間違いだろうか。
 水を張る? シャワー室で? 

 なんで? って聞こうと思ったけどとりあえず顔は必死だ。もしかしたらさっき感じてた胸騒ぎのとおりなにかあったのかもしれない……いや、けどとりあえずは言われたとおりに動く。シャワー室に駆け込んでそのまま水を張る。
 すごいぬるま湯っていうぐらいだからほとんど水の温度で、だけど水よりはちょっとだけ温かいぐらいの温度だろうか。

「けど、なんでこんなこと?」

 水の温度を調節しながらもシャワー室で水を張っているとすぐに二人が駆け込んできた。

「お、お帰り」
「そんなこと言ってる場合じぇねぇ! ……チョッパー温度はどうだ!」
「……うん、これぐらいなら割れないと思う。ここから少しずつ溶かしてそれに合わせてちょっとだけずつでも温度をあげていけば……きっと!」
「きっとってなんだ! ロビンの命がかかってんだぞ!」
「だけど俺! こんな全身凍っちゃってる人間みたことねぇもん! あおき――」
「――チョッパー!」
「あ、そ、そっか! ハントもとりあえずこのぬるま湯をロビンにかけるの手伝ってくれ!」

 ……いや、ぬるま湯をかけろって言ったって。いったいこいつらは何を言ってるんだろうか。

「えっと……はい?」

 わけがわからない。
 とりあえず二人が大事そうに抱えているのはロビンの氷像だということだけはわかった。けどなんでそれをそんなに必死にとかそうとしているのか。

「えっと……なにやってるんだ?」
「だから! ロビンを溶かしてるんだ!」

 チョッパーが珍しくむきになって答えるけど、なんだっていうんだ?

「えっと……ロビン? いや、それはどう見てもロビンじゃなくてロビンの氷像だろ?」
「だったらなんで俺たちがこんなに必死になって溶かそうとすんだ! これは氷像じゃなくてロビンが凍ってるんだ! いいからお前もお湯をかけろ! ロビンがこのままだと死んじまうかもしれねぇんだぞ!」
「え……え? え? マジで?」
「ハントも早く手伝ってくれよ!」

 チョッパーが涙目になってる。
 もしかしたら本当のことなのかもしれない……マジか。

「わ、わかった!」

 さっきから感じてた冷風が何か関係あるのかもしれない。そんなことを考えながらも二人のやっているようにロビンの頭からぬるま湯をかけていく。少しずつ……本当に少しずつ溶けていく頭。

「……う、お」

 声を失ってしまった。
 溶けた部分から見えるのは確かに黒い髪だったから。
 ロビンが全身氷漬け?
 手を動かしながらも二人に聞く。

「何があったんだ?」
「……」

 チョッパーとウソップがなぜか目を見合わせて、一瞬だけ動きを止めた。かと思えばまたお湯をロビンにかけながら、ウソップが俺と睨み付ける。

「ふざけんな! 今はそんなことよりもロビンのこと心配しろよ!」
「……」
「お、おう……そうだな」

 ウソップには怒鳴られて、チョッパーには無視された。どうやら、二人は答えてくれないようだ。けどその通りだ。確かに今はなにがあったか、よりもロビンの命を心配した方がよさそうだ。もしかしたら今帰ってきてないルフィたちはそのロビンが氷漬けになった原因をなんとかしようしているのかもしれない。

 お湯をかける。
 かける。
 かける。
 かける。

 必死になってお湯をかける。ただ無言で、ただひたすらに。ロビンの命が無事によみがえることを願いながら。

「チョッパー!」

 ゾロの声が急に聞こえた。あいつの声も切羽詰ってる。
 状況がわからない。
 俺がうたたねしてる間になにかあったことだけは確実だ。なんというかいきなりすぎるみんなの態度の変化、ロビンの命の危機に俺の感情が追い付いていない。心配だし、混乱してるし……本当に何があったんだろうか?

「二人とも頼む!」
「……っおう」

 お湯をかけながらも、チョッパーの声で意識が現実に戻された。そうだ、今はロビンだ。
 お湯をかける。
 ウソップと一緒になってロビンにお湯をかける。  
 少しずつ、ほんの少しずつだけどロビンが溶け始めている。けどまたほとんど全身凍っているような状態だ。

 くそ……本当になんだこれは? どうなってるんだ?

「ロビンは大丈夫!?」

 チョッパーと一緒にナミも入ってきた。
 みんなでロビンにお湯をかけようにも桶が一つ足りない。

 ウソップが「みんな帰ってきたのか!? すぐに逃げる準備したほうがいいんじゃないか!」と桶をナミに渡しながら、まるで半泣きのような声色だ。
「ううん……ルフィがまだ」
「なに!? じゃあなんであいつら帰ってきたんだ!」

 言いづらそうなナミを押しのけて、甲板へとウソップが駆けていく。ナミならばいったい何があったか教えてくれるんじゃないだろうか。お湯をかけながらもナミに尋ねようとして――

「――なんでお前らここに!? ルフィは!? 青キジは!?」 

 ウソップが叫んでる声が聞こえた。

「青……キジ?」

 知ってる。俺はその名前を。

 師匠と一緒に賞金首の海賊を引き渡しに行くとき、一度だけ会ったことがある。
 3大将のうちの一人で、師匠曰く、師匠でも勝てないだろう男。あれは白ヒゲさんに会う前の出来事だったから、俺が人生で初めて会った師匠よりも強い男だ。だからこそ会話をしたことなんかないけど、頭の悪い俺でも覚えている。

 ナミとチョッパーを見つめると、やっぱりなんでか俺から目をそらす。つまりは、本当に青キジが出てきたってことなんだろう。
 急に吹いてきた冷たい風や氷漬けのロビン。
 それらの疑問が文字通り氷解した……あれ、なんかうまいこと言っちゃった? なんて冗談を考えている時間すら惜しかった。

「っ!」
「だめ、ハント!」

 いくらナミでも、もう遅い。
 わかったからには、ここでロビンにぬるま湯をかけている場合じゃない。ロビンを助けるのはナミとチョッパーに任せるとして、ルフィを助けに行かないといけない。きっと俺を制止しようとしてるんだろうナミの声を無視して、俺は船を飛び出した。

「ばっ……ハント!」
「戻れ! 一騎討ちだぞ――」

 聞こえてきた一騎討ちという言葉。一瞬だけ止まりそうになった足に、それでも俺は止まらなかった。

 ……いや、止めることが出来なかった。
 視界がかすかにボケた。それが何でかは、わかりそうになかった。

「……くそっ」

 走る。
 サンジとゾロが後方にいる。チョッパーに手当てをうけているのかもしれない。まだ、船から動いてはいない。

 ルフィが青キジと一騎討ちをしていると聞いて慌てて走りだした俺の不安とは反対に、今はまだルフィは戦っていることを見聞色で感じ取る。
 まだ元気な証拠だ。
 手遅れにならないようにと、俺は今走っているけど、そこに着いたとして俺はいったい何をする気なんだろうか。一騎討ちと言い出したのはまず間違いなくルフィ。俺がそこに入っていって、一騎討ちを邪魔していいものなんだろうか。

「……」

 ダメだと思う。

 というか、絶対にそれはやってはいけない気がする。
 ルフィが青キジに勝てるとは思えない……いや、でも俺は心のどこかで期待しているのかもしれない。今までクロコダイルにもエネルにも、ルフィは勝ってきたし、その度に俺はルフィが勝てるわけがないと思ってきた。もしかしたら今回もルフィは勝つのかもしれない。

 どこかでそういう淡い期待もある。
 ルフィが勝つならそれでいい。けど、やっぱり負けそうだったとして、一騎討ちってことは負けたら殺されるってことで……俺はそれをただ傍観しているだけでいいんだろうか。

 ……いや、それはまずい。

 ルフィが死んだら麦わら一味はどうなるんだろうか。それだけはあってはいけないことだ。けど、だからといって決闘の邪魔をするのもおかしい。でも決闘に乱入なんかが許されるわけがない。けど、乱入でもしないとルフィが死ぬかもしれない。

「……っ」

 八方塞がりだ。
 もしも。
 下手をしたら。
 最悪。

 そんな嫌な予感が次々と浮かんでは消えていく。
 自然と走るペースが上がっていた。そろそろ限界だと訴え始める体に、けれどもペースを落とすなんて選択肢があるわけもなく、ただひたすらに足を漕ぐ。
 とりあえずは現場に行ってルフィの応援をするしかない。
 あと少し。

「ん?」

 突如、空に浮かんだ人影。見覚えのないその姿は、つまりは青キジってことだろう……あれ、あんな顔だったっけ。いや、もうずいぶんと昔のことだからなんか風貌が違う……多分俺の記憶が曖昧でほとんどうすぼけていることが原因だ。
 まぁ、青キジの顔なんてどうでもいい。それよりなんであんなに空中に?
 そう思った時だった。
 ルフィが青キジの懐へと飛び込んだ
 そして、決着は一瞬だった。
 止める間も、それどころかルフィが危ないと思う時間すらなかった。

「……なっ」

 声を失う。

「ルフィ!!」

 ルフィが氷像となって、そのまま空中から地上へと自然落下を始めたから。
 このまま地面にぶつかったらそのまま砕けて死んでしまう。反射的にまたペースを上げて、そのまま地面をすべり込む。

「……っとと……セーフ」

 間に合った。
 ルフィを抱えて、体のどこも欠けていないことを確認。心底ホッとした……なんて、そんな息をついている場合ではない。

「お、ハントじゃねぇの……何年ぶりだ……あー、まーいいか。とにかく本部で会って以来、久しぶりだな」
「……1回会ったっていうか顔を見ただけで会話だってなかったのに、よく覚えてるな。俺みたいな子供のこと」
「そりゃあ、海峡の弟子だ、しかも人間の。これで注目しないわけにはいかねぇだろう」
「……なるほど」

 どうやら青キジは青キジで俺のことをある程度はマークしていたらしい。一回だけ見たときも偶然だと思ってたけどもしかしたら偶然じゃなかったのかもしれない。そりゃそうだよな、何か用がなきゃ海軍の大将が海賊の賞金首を受け取る窓口にいるいるはずないもんな。
 青キジが俺のことを覚えてるということに対して妙に納得……って、いやそんな場合じゃなかった。

「っ」

 氷漬けになっているルフィを抱えるのも辛くて、慌てて武装色を発動する。
 これで別に俺の肌が温かくなるわけじゃないけど、ルフィの抱えてて冷たくて痛いっていう感覚をなくせる。いや、正確には感覚がなくなるわけじゃなくて肌を武装色で覆っているだけで、単純に肌をガードしてる程度なんだけど。まぁ、それでもこうしないとルフィを抱えっぱなしでいるのは辛い。

「へー、武装色も使いこなせるようになってるじゃないの」
「……別に敵に褒められても嬉しくないんだけど」

 この状況は明らかに言ってまずい。 
 っていうか、これどうなんだ?
 俺はルフィをキャッチしただけだけど、もしかしたらそれって俺が一騎討ちの決闘を邪魔したことになるんだろうか。それともまだ未だに青キジ的には決着がついたうちには入らないのだろうか?

「さて――」
「――ま、待ってくれ!」
「?」

 ダメだ。
 青キジに今、口を開かせるわけにはいかない。言葉を遮って、ルフィを壊れないようにそっと草原の地面に寝かせる。

「……」

 どうすればいい?
 どうすればいいんだろうか。
 今から俺が青キジに戦いを申し込む? ルフィが既にこの状態で、しかも俺も体調が万全じゃないのに?

 下手に戦いが長引けばそれだけルフィの命が危なくなる。一刻も早くチョッパーのところにルフィを連れていきたい。それに、今の俺じゃまず勝てない。弱腰になってるとかじゃなくて、そもそも体調が万全でも厳しい相手なのに、今の俺はちょっと本気で走っただけでもう筋肉が限界を訴えているという有様。下手に挑んで負けてしまったら単純に被害を増やすだけになる。

 ……くそっ。 
 内心で毒づく。
 ルフィを助けなければならない。けど、手段がない。

 ――本当に?

 どこかで感じたことのあるこの感覚。
 無力な自分。
 体が震えるくらいな焦燥感。

 ――ルフィを助ける?

「あっ」

 思い出して、自然と声が漏れた。
 この感覚を。

「っ」

 首を振る。
 けれど、それ以外に方法がない。
 この方法をとるぐらいなら青キジに戦いを挑みたい。けど、そんなことをしてる時間すら惜しい。

「頼みがある!」

 青キジへと正座した。

「……へー?」

 少しだけ面白そうに呟いた青キジの言葉に、とりあえず話してみろという意味だと勝手に解釈させてもらう。正座して青キジを見上げていた頭を地面へと下げて、額を付ける。あまりプライドがある方とはいえない俺だけど、やっぱりこういうポーズってものすごく屈辱的で、悔しい。

「……何の真似だ?」
「決闘でルフィを殺さない代わりに――」

 頭を下げたまま、今青キジはどんな顔をしてるんだろうか。一度だけ大きく息を吸って、そして吐き出した。

「――俺を! 俺が身代わりになる!」
「……」

 これしか、俺には方法が思いつかない。
「……」
「……」

 頭を下げていると、青キジが小さな空気が漏れる音が聞こえた。
 笑った?
 額を地面にこすりつけてるからわからないけど、たぶんそんな音。

「落ち着け、命まで絶つつもりはねぇ。つってもそのまま凍死する限りは知らねぇが」
「……え?」

 次いで聞こえてきた声の意味がよくわからなずに、ほとんど反射的に頭をあげていた。青キジの顔を見つめるけど、残念ながらどういう感情の表情なのかは全くわからない。だから「え、なんで?」

 自然と声が漏れていた。
 意味が分からないし、もしかしたらルフィが助かるかもしれないし。多分、いろんな感情が混ざったせいだ。

「命を絶つのは造作もねぇが……借りがある。これでクロコダイル討伐の件をチャラにしてもらおうじゃないの」

 借り? クロコダイルの件?
 なんだそれ。。
 ルフィはいつの間に青キジに貸しを作ってたんだろうか……まぁ、わからないけど少なくとも本当に青キジは氷漬けのルフィにとどめを刺すつもりではないらしく、そのまま俺に背を向けた。

「じゃ、じゃあ勝手にルフィを連れてくけどいいんだな?」
「好きにしろ」

 ホッとした。心の底から。
 手が凍傷にならないように武装色の覇気を発動させて、ルフィを抱えて走りだす

「いたぞ!」
「ルフィ! ハント!」

 ゾロとサンジの声だ。

「砕かれちゃいねぇ。ハントもどうやら無事みてぇだ」
「よかった……よかった……」

 大声でこっちにまで走り寄ってきた二人にホッとした。
 俺たち3人でルフィを運ぶ。

「……」

 そっと後ろを見る。
 いつの間にか、青キジの姿はなくなっていた。

 
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