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鏡に映るもの

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9部分:第九章


第九章

「中身は常に変わっていたので」
「常にだと!?」
「そうです。ですからスプーンに映るその姿も」
「変わっていたんでさ」
「そういうことです」
 こういうことだったのだ。彼等は奥方自身だったり奥方に化けた妖精の誰かだったりで始終交代していたのだ。だからスプーンに映る姿は常に変わっていたのである。
「見られることはわかっていましたし」
「もうね。人のやることはいつもそれなんで」
「むう。読まれていたのか」
「皆同じだからねえ」
「ねえ」
 ここで顔を見合わせて言う妖精達であった。
「そういうことだから気にしなくていいよ」
「そのことは」
「気にするなと言われても」
 そうはいかない生真面目なハインリヒだった。そもそも彼は今こうして妖精達を見ていることこのことがあまりにも信じられないのだから。
「何故貴殿等の様な者達が」
「世の中にいるのは人間ばかりじゃないし」
「そうそう」
「では悪魔か?」
 やはりここでも生真面目な彼だった。言葉にそれがはっきりと出ている。
「妖精と言いながら」
「だから違うんだって」
「私達はあくまで妖精」
「別に人間を陥れたり魂を取ったりしないし」
「それは保証するよ」
「では今のは何だ」
 厳しい顔で彼等に対して問うハインリヒだった。まだ警戒を解いてはいない。
「この様なことを」
「この様なって悪戯じゃない」
「それがどうかしたの?」
「やはりたばかっていたのか」
 今の妖精達の言葉に怒るのだった。
「この私を」
「だから違うのに」
「わからないのかな、この人」
「ひょっとして頭堅いの?」
「人間だよねえ」
 今度は人間全体をさすような妖精達の言葉であった。
「最近の人間ってとにかく難しく考えるよね」
「全く」
「最近だと?」
「そうだよ、そのキリスト教とかいうの」
「それにかぶれてから」
 キリスト教についてもこんな感じであった。全く信仰している様子はない。それどころか明らかに馬鹿にしているのであった。
「そんなふうになってね」
「昔はもっとありのままに見れたのに」
「とにかくだ」
 ハインリヒは彼等の話を強引に打ち切るようにしてまた言ってきた。
「貴殿等は私をたばかってはいないと言いたいのだな」
「その通りだよ」
「そんなことはしないよ」
 彼等の返事は少し強いものになっていた。どうやらそれだけははっきりと言いたいらしい。
「僕達がするのはあくまで悪戯」
「それ以外はしないから」
「それではあの砂は一体」
 フリッツがここで口を開いた。
「不意に我等を襲ったあの砂は」
「ああ、あれ」
 フリッツの言葉を聞いた大きな袋を背負っている老人がここで言った。見れば背丈は人間の半分程度しかない。頭には大きなナイトキャップを思わせる帽子を被っている。
「あの砂ね」
「むう!?その方は」
「あれはわしがやったんじゃよ」
 そして老人はフリッツに応えるようにしてこう言うのであった。
「あれはね」
「何の為にだ?」
「決まってるじゃないか。眠ってもらう為だよ」
 老人は何を今更といった感じで彼に答えた。
「朝までね。ぐっすりとね」
「ぐっすりと」
「わしはサンドマンっていうんだ」
 そしてここで名乗ってきた。
「この袋に入っている砂をかけて寝てもらうのが仕事さ。ゆっくりとね」
「むう、それで我等は」
「寝ていたというのか」
 ハインリヒも言う。種はわかったがそれでもどうにも釈然としないものも感じている二人であった。とにかく悪戯に遭ったのは事実だからだ。
 
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