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ファイアーエムブレム ~神々の系譜~

作者:定泰麒
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第二章 終わらせし者と月の女神
  第九話

 「『家なき人』からの情報によると、どうやら怪しい人物達が二、三日この街に出入りしていたということでした。素性は『家なき人』にもわからないということで、相当厄介ですね」
 
 アベルはフレデリクの指示で、情報を得に行っていた。それなりに有益な情報だと言えるが、情報は不完全であり今回の件に関わりがあるかどうかはわかっていない。
 しかし、彼らには漠然としているがその怪しい人物達がセレーネに何らかの行動を起こしたというのが考えられた。そう彼女の父親を殺した連中と似たような情報が挙がってきたからだ。

 「なるほど、分かりました。実は私の方でも似たような事を聞きました。呪いを解くため教会に助言を求めに行ったのですが、解呪の得意な神父様の一人が先日殺されたという話でした。何者かはわかりませんが、この流れから見るにセレーネさんに呪いをかけた方と神父を殺した方には繋がりがありそうですね。しかしですが、運良く呪いを解く方法を手に入れることができたので既にセレーネさんに解呪を施しています」

 「どのような方法ですか、それに神父様は亡くなられたんじゃ?」

 「まぁそうですね。説明しなければなりませんが、ものすごくお金が必要でした」
 
 フレデリクは、苦笑いするしかなかった。

 「金!? 一体全体どういうこったい」

 アベルの横にいたソワレ。彼女はアベルとともに、情報収集に勤しんでいたが報告自体をアベルに任せていた。そんな彼女も金という言葉には反応を見せた。彼女は金などどうとでもなるという考えの持ち主だが、治療するために金がかかったということが引っかかったのだ。

 「少し非合法な手段をとってしまいました。この町には、運がいいことに傭兵団に所属しているシスターを生業にしている方がいらっしゃったのでその方に頼むを得なかったのです。原因もわかりました、予測通り呪い。しかもそれなりの効果を持ったものです」

 「それで、その傭兵のシスターとやらに頼んだから金が取られたという話か……」

 「いえ、そういうわけではないのです。ここで一つ聞きたい、今後再びこのようになったとき二人はどのような対処をしなければいけないか少し考えていただきたい」

 アベルとソワレはお互い顔を見合わせる。それからそれぞれ思案に耽り少ししてからソワレが口を開くことになった。

 「どうしようもないな……悔しいが」

 「ソワレの言うとおりです。我々だけでは、不可能です」

 口惜しげにソワレが言ったことに対して、アベル
も同意する。そんな二人を見てフレデリクは二、三度うなずくいた

 「そうなのです。我々は戦いには強いのかも知れませんが、如何せん魔法や呪いといった知識がありません。そこで、今後このようなことにならないためにも一つ案を練りました」

 フレデリクの言うことに興味を示す二人を尻目に、フレデリクはセレーネが眠っている部屋をそっと空けて手招きをした

 「マリアさん。お願いします」

 フレデリクが手招きをすると、その部屋から一人の女性が出てきた。

 「お二人とも、はじめまして。マリアといいます。これからよろしくお願いします」

 急にそんなことを言われたものだから、二人は戸惑った顔を見せる。フレデリクはまた苦笑いをするしかなかった。

 「そうさきほどの私の案というのは、その呪いを解くことのできる人物を手元に置いておくという案です。だから二人には理解してほしい、今日からこのマリアさんは我らの仲間となります」





 剣士ソールは、なんとも妙な雇い主にあたったものだと考えていた。

 剣術を筆頭に槍も斧も、それに魔法だって一通り使えるような少年。
 素性もはっきりしている。ノディオン王国の王子。兄は先日、国の王となったエルトシャン。余りにも早すぎる旅立ちに未だに領地も拝領されてない。
 なぜ、そこまでして旅をする必要があったのか。王族で現王の弟に当たるロキは、決して愚かでもない。
 逆に頭が切れる印象がある。そんな彼が秘密裏に旅をする理由が如何せん掴めない、神の啓示など信じるに値しない。

 かくいう俺は、ロキを別に嫌いではない。しかし、本能的なものが警戒を解かせない。
 きっと奴が持つ雰囲気にどこか陰惨な物があるからだろう。
 話しても不快に感じたりもしない。だが好きになれない。

 俺の雇い主は、そんな少年だ。



 「ソールさんは兄弟は?」

 「いない」

 「出身地のほうは?」

 「くだらん、なぜ聞く?」

 「この前、教えてくれるって」

 「それはいずれだ」

 「そうですか……」

 ソールさんは、どうも俺に対して一歩どころか二、三歩引いてるところがある。
 雇い主と雇われ者の関係としては間違っているのかわからないが少し寂しく思う。
 
 旅は比較的に順調だ。このペースで行けば余裕でブラギの塔にたどり着くだろう。
 なのに一向にソールさんは、距離を保つ。こういう旅って何度も経験してるけど、この微妙な緊張感が漂う旅はめったにない。
 旅っていうのは、連帯意識がどうしても出るもんで距離感も自然と縮まってしまう。
 
 「兄さんと姉さん大丈夫かな……」

 ふと考えたことが言葉に出てしまった。ソールさんが会話に乗ってくれない以上、どうしても考える時間が多くなる。
 
 「心配か?」

 何故かソールさんはこの独り言に乗ってきた。どこか思うところがあるんだろう。

 「まぁ、それなりにですね」

 「聞いていいか?」

 「どうぞ」

 「何故兄弟が心配なら旅に出た?」

 「割と核心をついてきますね。それに……まぁいいです」

 一つ呼吸を置く。そういえば神からの啓示としか言ってなかったななんて思う。
  
 「本当にね、神の啓示なんですよね。この剣が証拠なんですけど……」

 「この剣か? 確かに名剣なのは見て分かるが、そんな名のある物ではあるまい?」

 「ええ、剣自体は名剣程度です。でもこの剣が僕に渡ってきた所が問題なんです」

 「ほう、聞かせてくれないか」

 「もちろん」

 ソールさんは余計に興味を持ったらしい。

 「あれは僕が兄と共にヴェルダンに友好の証として使者になった時のことです。あの国には湖が有るのはご存知ですか?」

 「あぁ、ノディオンの前はアグスティにいたからな」

 「そうですか。では、その湖のほとりにある『女神の泉』のことは?」

 「それも知っている。だが訪れたことはない。どうも胡散臭くてな伝説とはいえ御伽噺だ」

 「気持ちは分かります。でもね、伝説は事実でした。確かにあの泉には女神もいて伝説通りに武器をくれました。それがこれです」

 「ふっ、おもしろい。良くできた話しだ」

 これは完全に疑っている顔だ。それも当然だと思う。俺だって普通信じない。
 きっと、この前の神の啓示と言ったことも信じていなかったんだと思う。だから俺も最初に言葉を飲んだ。
 でも事実、これは紛れもない事実なんだよな。

 「なにも証拠はこの剣だけじゃないんです。証人も勿論いてヴェルダンの第三王子、ジャムカ殿もその一部始終を見ていました」

 「なにジャムカが?」

 「もしかして、ジャムカ殿とお知り合いで?」

 「少し剣を教えてやったんだ。まぁ本人は弓の方が得意だったらしいがな」

 以外にも僕らには共通の知り合いがいたようだ。そっちの方が驚きだ。

 「へぇー。まぁそれで証人もあって証拠もある。それでその女神様にブラギの塔に迎えと言われたんで旅に出ることにしたんです。僕自身、そんな旅が出来る立場でも状況でもなかったんですけど無理やり作りました」

 「神など信じるに足るとは思わないが……」

 「どうでしょう。でもそれは神は存在していると思っているということですか」

 「存在はしているんだろう。だが神という奴は気にくわない。それだけだ」

 きっとソールにもなにかあったんだろう。
彼は物事を本能で決める節がある。でもそこには常に理性という物も挟む。
 今回の旅に同行するかもそうやって自分の中で決めたのだ。

 この旅で何が得られるかわからないが、俺にとっては良い物を得られるように神に祈ろう。
 久しぶりにそう思った。


  
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