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剣を手に

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8部分:第八章


第八章

「ここまで来たんだね」
「止めを刺しに来た」
 そうだとだ。女巨人に告げる彼だった。
「その為にここに来た」
「あんた一人でかい?」
「見ればわかるな」
「確かにね」
 それはその通りだとだ。女巨人も答える。
「あんた一人だね」
「最早動けぬか」
「やられて。ここまで戻るのに無理をしたからね」
 その為だ。力尽きたというのだ。
「残念だよ」
「そうか。やはりな」
「しかし。よく来たものだよ」
 女巨人は動かずにだ。声だけで言ってくる。
「人間一人で。ここまで来るなんてね」
「それがおかしいか」
「おかしくはないさ」
 そうではないとだ。女巨人はまた言った。
「ただね。剣一本で来るなんてね」
「それがか」
「驚いたよ。凄い勇気だよ」
「褒めているのだな」
「そうだよ」
 まさにその通りだとだ。女巨人も言う。
「それ以外の何に聞こえるんだい?」
「聞こえない」
 それにしかだとだ。彼も返す。
「そうか。そう言うか」
「あんたはこれからもそうして生きていくんだね」
「剣を手にして戦うだけだ」
「わかったよ。じゃあそうして生きていきな」
 女巨人は彼にまた言った。
「最後までね」
「俺は床で死ぬつもりはない」
 それならば何処で死ぬか。答えは出ていた。
「戦って死ぬ。それだけだ」
「わかったよ。じゃあそうしなよ」
 最後にこう言ってだった。女巨人はこと切れた。これがベイオウルフが名を挙げた闘いだった。
 その彼はそれからも多くの魔物や敵を倒しその功で王になった。王になってからも彼は戦い続け。老齢になってもだった。
 既に年老いていたが竜が出たと聞いてだ。玉座を立ちだ。
 あの巨大な剣を手に竜の退治に向かおうとする。しかしだった。
 ここでだ。騎士の一人が彼に言うのだった。
「王よ、もう闘いに出られるのは」
「駄目だというのか」
「御言葉ですが」
「確かにな。わしはもう歳だ」
 老齢であった。大柄な身体も筋肉もまだ持っている。しかしその顔には深い皺が幾つも刻まれ髪の髭も白くなっている。老いは彼を確かに包み込んでいた。
 彼のそれを見てだ。騎士も言うのである。
「ですから。我々に任せて下さい」
「いや、それでもだ」
 それでもだとだ。ベイオウルフは言うのだった。
「わしは行く」
「行かれるのですか」
「それがわしの務めだからだ」
「王としてのですか」
「王であると共に」
 それと共にだ。あるものは。
「剣を持つ者としてだ」
「それでなのですか」
「だからだ。わしは行く」
 毅然としてだ。彼は騎士に言った。
「わかったな。ではだ」
「竜を退治にですね」
「今から行く」
 こうしてだった。彼はその剣を手にだ。竜を退治に向かうのだった。
 そいして騎士もだ。その彼に言うのであった・
「では」
「供に来るか」
「そうさせて下さい」 
 彼のその心を知っての言葉だった。
「是非共」
「わかった。それでは来るがいい」
「そうさせてもらいます」
 こうしてだ。彼はベイオウルフと供に竜の退治に向かった。それがベイオウルフの看取りになるとしてもだ。彼は行くのだった。剣を手にし己の務めを果たす彼の為に。


剣を手に   完


              2011・7・5
 
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