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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 中学編 13 「見破る? キリエ」

 フェイトと視線が重なったまま立ち尽くすこと数秒。
 フローリアンが新しい服を手に取って俺の前にかざす。それと同時にフェイトの顔がより硬直したのは言うまでない。
 俺は自分から進んで誰かと買い物に行くわけでもないし、行くにしてもはやてやディアーチェといった近しい間柄の人間だけだ。その手の人物は基本的にフェイトもよく知っている人物だけに問題はない。
 だがフローリアンと出会ったのは今年の4月だ。ディアーチェ達の知り合いに加え、俺と同じクラスということくらいは伝わっているだろうが、一緒に買い物に行くような関係とは思っていないはず。驚愕のあまり固まってしまうのも当然だろう。はやてだったならば何食わぬ顔で「こんなところで奇遇やね。今日はデートでもしてるん?」と話しかけてきただろうが。

「ショウ君、だったらこの服は……どうしたの? 浮気現場でも見られたような顔してるけど」

 それくらいやばそうな顔をしている自覚はあるが、なぜそんな例えを出すんだ。まさかお前、フェイトがいるのに気づいてて、わざとここに誘導したんじゃないだろうな。もしそうだったらお前、はやて達以上に性格の一部に難がある女だぞ。
 と思いもしたが、首だけ回して振り返ったフローリアンの顔は今フェイトの存在に気が付いたものだった。

「あらん? あなたは……確かハラオウンさんだっけ?」
「え……あぁうん」
「そう、奇遇ね」

 フローリアンは一度にこりと微笑みかけると視線を俺のほうに戻してきた。どうやらフェイトへの関心はそれほどないらしい。

「話を戻すけど、ショウ君これなんかどうかしら?」
「え、いや、だから自分のを選べって」
「意見くらい教えてくれてもいいでしょう。今後の参考になるし」

 参考って俺に対するのじゃなくて異性に対する参考だよな。それなら答えるのは構わないが……先にフェイトの対応をさせてもらえると助かる。服持ったまま俺とフローリアンを交互に見てるし。

「えっと……ふたりは何をしてるの?」
「それは」
「見て分かるでしょ。デートしてるのよん♪」

 はたから見ればそう見えるかもしれないけど、わざわざデートって言葉を使わなくてもいいだろ。買い物でいいじゃないか。というか、俺が言おうとした瞬間に被せてきたってことはお前わざとやってるだろ。
 フェイトは割と純情で異性への意識もきちんとしてるから、この手のものには弱いというか過敏に反応するんだ。頼むからからかうのはやめてくれ。そう切実に思った。

「デ……デデデート!?」

 フェイト、気持ちは分かるが落ち着け。そんなに高速で俺とフローリアンを見ても何も起きないぞ。起きるにしても君の首にだ。良いことなんてひとつも起きはしない。

「落ち着けフェイト、俺はただ買い物に付き合ってるだけだ」
「もう往生際が悪いわね。世間一般的に女の子と一緒に買い物するのはデートって言うでしょ……もしかして、彼女はいないとか言ってたけどハラオウンさんと付き合ってるとか?」
「なっ……!?」

 驚愕の声を上げたのは俺――ではなくフェイトだった。彼女の顔は真っ赤に染まっており、あわあわとテンパっている。俺と目が合うとさらに顔を赤面させて持っていた服で顔を隠した。
 昔から過剰に意識してくることがあるので一際意識させられることが多いだけに、今回も気が付けば可愛いと思って意識を集中していた。一瞬にも満たない時間だったのか、フローリアンには気づかれなかったのが救いだ。

「いや、フェイトとは付き合ってない。そもそも、付き合ってるならお前と買い物なんか来ないだろ」
「どうかしらん。ショウ君って結構女の子に知り合いが多いみたいだし、隣のクラスの八神さんと付き合ってるくらい仲が良いって話も耳にしたわよ。親しい子に荷物持ちとか頼まれたら誰かと付き合ってても行くんじゃないの?」

 それは……完全には否定できない部分がある。だが少なくとも俺はもしそうなっても付き合っている相手に隠すつもりはない。隠したほうが相手は嫌だろうし、俺の親しい異性のほとんどは顔見知りがほとんどだ。隠す理由もないだろう。

「そんな仮定の話は今は関係ないだろ。俺はともかく、フェイトのことをからかうのはやめろ」
「あららん、えらくハラオウンさんをかばうのね。もしかして……ハラオウンさんに気があったり?」

 はやてがからかってくるときに浮かべる笑みと同種の笑みを浮かべているフローリアンに「何を馬鹿なことを」と思ったが、自然と視線がフェイトのほうに流れてしまう。それが仇となってしまい、顔半分だけ覗かせていた彼女と視線が重なり、今度は背中を向けられてしまった。
 やばい……顔を服に埋めて悶え始めてしまった。これじゃ落ち着かせるのに時間が掛かるぞ。耳まで赤くなってるし……って、俺まで意識してどうする。それじゃあ余計にフローリアンにからかわれるだけだ。落ち着け、落ち着くんだ夜月翔……。

「フローリアン、人のことからかって楽しいか?」
「からかうだなんて人聞きの悪い。ただハラオウンさんのこと名前で呼んでるし、親しげな感じがしたからそう思っただけよん♪」
「言ってることはまともだが、お前がそういう風に笑うのは大体人のことをからかってるときだぞ」
「あらん、私のことよく見てるのね。もしかして本当は気があるのかしら?」

 一目惚れもしてないのに付き合いの短いお前に気があるわけがないだろ。お前と付き合うなら親しくしてるあいつらと付き合うわ。
 しかし、だからといってそこにいるフェイトを話題には出さないぞ。ここで出せば余計にフェイトとの仲が疑われるし、彼女の顔色を見る限り恥ずかしさのあまり放心状態にまで発展する恐れがあるからな。というか、これ以上フェイトにも影響するような言葉を言うつもりなら俺ももっと強い言葉を口にする。

「そんなにムスッとしたら可愛い顔が台無しよん」
「…………」
「冗談よ、分かったから怒りを静めて。W・I・Sよ」

 最後ので余計に苛立ちを覚えるんだが。お前、別に事態を収拾するつもりないだろ。まあなるようになるだろうくらいでやってるんだろ。言っておくけどな、周りの奴はお前が思ってる以上に迷惑してるんだぞ。

「ところでハラオウンさん」
「え、こ、今度は何!?」
「あ、どうどう。あんまり買ってもないものをクシャクシャにするのは良くないわよ」

 フローリアンの言葉にフェイトは自分の手の中にある服へと意識を向ける。彼女が強く握り締めたり、顔を埋めたりしていたせいか、近くにある同種のものと比べるとしわが入ってしまっている。
 今の指摘は正しかったわけだが、このようになってしまった最大の原因はフェイトよりもフローリアンにあるように思える。

「あららん、見事にしわが入ってるわね。お店の人に謝るの?」
「ううん……買うよ。元々買おうかなって思って見てたし。ありがとう教えてくれて」
「いえいえ、別にお礼を言われることはしてないわ」

 そのとおりだ。フェイトが感謝する必要性は全くない。もしも今、「それほどでも」などと言っていたならば、俺はツッコミを入れていただろう。

「というか、それの代金は私が出すわよ」
「え、いいよ」
「いいからいいから。私にも原因はあるし、こっちに来たばかりで仲の良い子も少ないからね。お近づきの印ってことで」

 フローリアンのまさかの発言に俺は固まってしまう。
 この場を掻き回すだけ掻き回して放置するかと思ったが、意外にもまともな部分もあるんだな。それなりには善い心も持ってるってことだな。まあそうじゃないからはやてやシュテルに近いものを感じたりはしないか。あいつらは本気で怒らせるようなことはしないし。故にある意味性質が悪い。
 意識をふたりのほうに戻してみると、フェイトが遠慮気味の表情を浮かべていた。まあ親しい間柄でもない相手に奢られるのは、彼女の性格ならば抵抗を覚えるのでおかしくはない。
 だがしかし、フローリアンは気にした様子もなく笑顔のままフェイトに近づいて話しかける。

「まあまあ遠慮しないで」
「だけど……」
「じゃあこうしましょう。ひとりで買い物に来てたってことはこれといって予定はないんでしょ? 私の買い物に付き合ってくれないかしら?」

 ……何やら予想していなかった方向に話が進み始めたぞ。
 俺と似たような感想を抱いたのか、フローリアン越しにフェイトと視線が重なる。とはいえ、ここで俺までフェイトを誘うとまた話題が戻りそうであり、また誘うなと否定の言葉を口にすれば別の方向でややこしくなる可能性がある。時として無言が正解ということもあるだろう。

「えーと……ふたりはデートしてたんじゃ」
「うんまあしてたわよ。でも~別に恋仲になろうと思ってしてたものじゃないし、私達すっごい昔に会ったことがあるの。加えて、私はまだこの街に慣れてないから案内してもらってただけよん」
「そ、そうなんだ……」

 先ほどまでとは180度違うフローリアンの行動に困惑するが、まあ俺にとっては良い方向に話が進んでいるので余計な口出しはしないでおこう。

「そ・れ・に……ハラオウンさん、何だかショウ君のことが気になるみたいだし~」
「――っ、べべべ別にそんなことは……!?」
「またまた~、その顔の赤らめ方はどう見ても恋する乙女のものじゃない。私、こう見えても同じような人を間近で見たことあるんだから分かるのよん。少なからず良いなぁ~って思ってるでしょ?」

 何やらこそこそと話し始めたが……フェイトに善からぬことを吹き込んでるんじゃないだろうな。割と純情なんだから変なことを言ってるようなら許さないぞ。フェイトの様子がおかしかったら彼女の家族が心配するんだから。
 特に使い魔はフェイトのことになると沸点が低いので、とばっちりを受けるのはご免である。

「そ、それは……」
「素直になったほうが良いと思うわよ。八神さんとの噂があったりするから今は何もないけど、結構ショウ君って女子じゃ人気あるからね。気が付いたら……なんてこともありえるんだから」
「そうだけど……」
「女は度胸よ。というか、買い物に付き合ってくれたら流れでショウ君に意見を求めることができるのよん。私に付き合う? それとも別れる? 別に私は付き合ってくれなくてもいいのよ。ショウ君とのデートに戻るだ・け・だ・か・ら♪」

 フローリアンはフェイトに密着しながら彼女の耳元で囁く。なのはとの時のようなふたりだけの空間という状態ではないが、何というか見ていてはいけない気分になってくる。
 かといって目を離すのも危険な気がする……フェイト、何かしら反応してくれないだろうか。そうすれば俺も動けるんだが。

「……いくらでも付き合うよ」
「良いお返事ありがと。ショウ君、ハラオウンさんも一緒に回ることになったからよろしくねん」
「あ、ああ……別に構わないけど、フェイトは本当にいいのか?」
「う、うん……ふたりっきりにはしたくないし」
「え?」
「ううん、何でもない。ひとりで回るよりは楽しいかなって!」
「そ、そうか」

 ならいいんだが……そこまで必死に言わなくてもよかったのではなかろうか。聞き返したから元気に言っただけかもしれないし、さっきまでの後遺症が残っててテンパってるだけかもしれないが……。
 まあ考えても仕方がない。今切り込んでも答えてはくれないだろうし、フローリアンへの対応のほうを考えておかなければ。そうしなければ、ここからの買い物でフェイトが玩具にされかねない。巻き込んでしまった以上、彼女を無事に帰さなければ。

「まあフェイトが居てくれると助かるよ」
「そうかな? いつもからかわれるほうだから力になれる気はあまりしないんだけど」
「まともな人間が自分以外にもいるってだけで心強いさ」

 それにフェイトの笑顔は見てて癒されるし。
 なんてことは思っても口にはしない。フェイトの性格的に恥ずかしがりそうというのもあるが、フローリアンの前で言おうものなら自分から獣がいる檻に飛び込むようなものだ。言動には気を付けなければ。

「イチャついてるとこ悪いんだけど、次の場所に行ってもいいかしら?」
「べ、別にイチャついてなんかないよ。ただ話してただけで!」
「フェイト、過剰に反応するのは逆効果だ。フローリアン、次は何を見に行くんだ?」
「そうね……」

 今考えるってことは決めてないのに話しかけてきたのか。きちんと決めてから次に行くって言えよ。

「じゃあ、水着でも見に行こうかしら。もちろん、ショウ君も一緒に♪」
「なっ――おい、そういうのには行かないって約束しただろ」
「そうだけど、ハラオウンさんも一緒なのよん。ハラオウンさんの水着姿見たくないの?」

 そ、それは……見たくないといったら嘘にはなるが。綺麗だし、スタイル良いし、レヴィと違って羞恥心があるからより可愛く見えるだろうし。
 でもここで見たいって言えるわけがない。俺の性格的に言ったらフェイトに対してセクハラをしていると思われるだろうから。

「い、一緒に見るのはいいけど、私は着ないから。この前ディアーチェ達と買ったばかりだし。というか、ショウを連れて行くのはダメだよ!」
「えぇ~いいじゃないのん」
「ダメだよ。他のお客さんが嫌がるだろうし!」
「そっか、ハラオウンさんはショウ君に見られるの嫌なのね。なら仕方がないわ……」
「え、いや、そういうんじゃなくて! 他のお客さんはって意味であって、別に私が嫌とかじゃ……というか、今までに何度か一緒に海とかプールに行ったことあるし! そもそも、ショウが居心地悪いだろうって思って……」

 そこでふと自分が大声で何を言っているのか気が付いたのか、一瞬の硬直のあと凄まじい勢いでフェイトの顔に赤みが差した。何か必死に弁解しようとしているが、感情が整理できないのか口だけパクパクしている。

「ありゃりゃ、ちょっとやりすぎちゃったかしら。これはしばらくショウ君と一緒にいないほうが良さそうね。ショウ君、私はハラオウンさんを連れて水着見てくるからそのへんで待ってて」
「え、おい、そのへん……って、行きやがった。……何ていうか、はやてとレヴィを一緒に相手してるような気分になるな」


 
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