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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  カンクロウ

 最初に動いたのは、カンクロウの方だった。
 審判が開始の合図を告げるよりも先に、傀儡を自らのチャクラ糸で操っていたのだろう。
 はじめの言葉が終わるよりも先に、その鋭い爪がカトナに襲いかかった。
 だが、カトナもまた反応は速い。持っていた大太刀にチャクラを込め、自由自在に動き回るチャクラ糸を切る。
 幾分かのチャクラがカトナの大太刀に吸収されたが、微々たるものでしかない。
 カンクロウは自分のチャクラが奪われていることなどには全く気が付かず、新しいチャクラ糸をすぐさま結びつけると、かたかたという不気味な音を鳴らさせながら、カトナの刀に迷いなく接近した。
 カトナが思わず条件反射で大太刀を振るえば、その刀が当たるよりも先に、全てのパーツをバラバラにして避けさせ、一気に距離を詰める。
 ぱかぱかぱかという音と共に、人間のようにとはいかなくても、それに似た滑らかな動きで、腕の代わりに取り付けられた刃が、彼女の体を切り裂こうとする。
 しかし、彼女も慣れたものでその刃をチャクラを纏わせた手の甲で弾く。
 生半可な鉄と同じほどの硬度になった手の甲を傷つけることは出来ず、刀はあらぬ方向を向く。
 その隙を狙うように傀儡の懐に飛び込もうとし…嫌な予感から彼女は後ろへと体を引いた。
 その判断は、正しかった。ぱかりと、傀儡人形の腹が空き、中にはがらんどうの空洞がある。
 その空洞の壁一面に取り付けられた刃に、彼女はそれがどういった目的かを察し、捕まえようとする腕が振れる前に、左横へと飛ぶ。
 が、その動きを制限するかのように、彼女の真正面から、カンクロウが投げた苦無が彼女の体へ向かう。
 その向かう先は、心臓。
 舌打ちを打ったカトナは空中でそれを迎え撃たず、大太刀を地面に突き刺す。
 と同時に、足を強引に滑らせ、スライディングの要領で地面を滑る。
 ひゅっ、と彼女の頭の上数センチを駆け抜けた苦無が、地面に落ちた音をとらえつつ、上から振り下ろされる刃をごろごろと転がって回避する。
 体制が立て直されるよりも先に、追撃を行おうとしたカンクロウの眼前に、寝ころんだままカトナは苦無を投げる。
 咄嗟に傀儡人形を引き戻し、防御に集中させられた隙を狙い、カトナは両手を地面につき、押し返した衝撃でくるりと回って着地する。
 彼女は自分と大太刀の距離を確かめると、迷いなくカンクロウに接近した。
 驚いたカンクロウが防御の姿勢を取らせたままの傀儡人形に命令を出すより早く、カトナは名を呼ぶ。

 「黄昏!!」

 ばっ、とすぐさま自分の腰にかかった重さを気にせず、彼女はあえて鞘から抜くことなくその大太刀を、両手で振りぬいた。
 鞘から出ていない大太刀といって侮ることなかれ。鉄の塊で殴打されれば、流石にたえきれない。
 それが、人体の体ならば、だが。
 寸での所で防御が間に合っていたらしいと、自らの手ごたえに舌を打とうとしたカトナは、見た。
 目の前の、傀儡人形の頭が、ないことを。
 驚くと同時に後ろに振り向いた彼女は、目撃する。
 飛んでいる傀儡人形の頭と、口から飛び出ようとしている苦無を。
 理解して、回避行動をとろうとする。 
 が、しかし、僅かに傀儡人形の方が、はやかった。
 口から飛び出た苦無を避けきれず、切っ先が肩を掠める。そして、僅かな毒が、出来た傷口から侵入する。
 思わずそちらに目を遣ろうとしたカトナの気を逸らさないように、待ってましたと言わんばかりに、カンクロウは持っておいた苦無をありったけ投げる。傀儡人形もまた、その主に倣うように口から投げる。
 傀儡の口から、カンクロウの手から、放たれる苦無の弾幕の嵐を避けながらも、しまった、と慌てて自身の傷口から血を吸おうとするが、肩にできた傷など血を吸いたくても吸えるわけがない。
 しかも、少量の即効性の毒薬というのは回るのが速い。それが血液で、しかも今の様に有酸素運動が行われている状態なら、なおさらだった。
 やっと、苦無での攻撃が終わったころには、完全に、毒は彼女の体に回っていた。
 ふらふらと、自分の意思とは関係なく、おぼつかない足取りで揺れるカトナを見ながら、カンクロウは、今頃この戦いを観戦しているだろう我愛羅を思った。
 風影の息子であるカンクロウは、血を分けた弟である一尾の人柱力のことが苦手であった。
 どうしたって理解できない、どうしたってわかりあえないもの。
 それが彼にとっての弟であり、それが彼にとっての人柱力だった。
 だから、彼はカトナを見たとき驚いた。
 冷静かつ温厚。自分の弟とは違い、自分の感情をコントロールできる人物。
 それは、彼が今まで持っていた人柱力に対するイメージを、真っ向から覆すものであったからであろう。
 だからこそ、彼はこんな無謀なことを挑めたのかもしれない。
 と、自らをそう判断しながらも、カンクロウはじりじりとカトナとの距離を詰める。
 音の里と砂の里による木の葉崩しが水面下で進む中、カンクロウはある重大な任務を任されていた。
 それはうずまきカトナの暴走…あの13年前の悪夢の再来を起こすことである。
 カンクロウがつかった毒は、服用すれば、眩暈、吐き気、頭痛、震え、幻覚を伴い、相手の思考を奪う毒と、もう一つは痛覚を刺激することで激痛を与える毒。そして、彼女のチャクラを暴走しやすくする薬であった。
 本来は拷問に使われる類の毒なのだが、カトナに勝つにあたってこれ以外のないだろうと考えていた。
 砂の里と手を組んだ音の里の長…大蛇丸からもたらされた情報の中で、カンクロウが特に着目したのは、彼女の卓越したチャクラコントロールとその思考の冷静さであった。
 彼女のチャクラコントロールを潰すためには、まず、その集中力を奪うべきであると、そう判断した。そのために、彼は激痛を与える薬を用意した。
 どんな人間であろうと、痛みというものに鈍感には慣れない。無痛症という病気が存在するが、それが病気であると判断される理由は明確だろう。
 痛みというのは、ある種の危険信号の一つである。その危険信号を無視して闘い続けれる人間など、存在するはずがない。
 次いで、彼女の思考を殺すべく、眩暈や吐き気などを伴う毒を用意した。
 人間というのは万全なコンディションでないと、自分の力を100%発揮できない生き物だ。眩暈による視覚の混乱、頭痛による考察の邪魔、吐き気による反射の妨げ。不調に悩まされた状態では、彼女の頭は回らないだろう。
 そして最後に渡されたそれは、大蛇丸が過去に行ってきた実験の副産物であるため、カンクロウには一体どのような効能があるかは詳しく分からないが、チャクラの暴発を引き起こすものである。
 経絡系を無理に刺激し、脳内にアドレナリンという物質を生み出させ、興奮状態を引き起こす。チャクラコントロールというものは感情に引きずられやすいので、暴発したチャクラが上手く扱えず、忍術が不発する、といった仕組みだ。
 その、今まで上げたいずれの毒も、少量でも効果は絶大であり、僅かにつけた傷口から、彼女の体を侵食する。
 小柄な彼女の体には常人よりも回りが早いらしく、たった数分しかたっていないというのに、もう、彼女の眼の焦点があっていない。先程から幻覚も見ているらしく、時折、あらぬ方向を見てはこちらを見返すという行為を何度も繰り返している。
 これは勝ったと、カンクロウは確信した。

 「お前の体には、もう、毒が回ったじゃん。お前だって中忍になりたいかもしれないけど、もしかしたら、ほかの何かのために戦ってるかもしれないけど、お前に勝機はないじゃん」

 そう確信しても仕方がないだろう。相手の弱点を突き、相手の長所を殺すことは、戦闘での鉄則であり、今おけるこの戦闘で、確かにカンクロウは優位に立っただろう。

 「もう、降参した方がいいと思うじゃん」

 しかし、首を振る。
 理解不能の行動にいらだった様子でカンクロウは言う。
 自分の価値はゆるぎないと安心しきった状態で言う。

 「…そんなに勝ちたい理由が、負けたくない理由があるのかよ!?」

 しかし、これはカトナを舐めていたとしか…いや、カトナを勘違いしていたとしか言いようがない。
 彼女の絶対的な忠誠を、彼女の絶対的なまでの価値観を、カンクロウは、図り違えて、読み違えていた。
 カトナの頭の中には、確かに痛みしかなかった。
 いたい、くるしいという言葉しか脳に浮かばない。じくじくじくと、体中が異常を訴える。
 回り始めた毒が脳の正常性を奪う。
 ゆらゆらと、目の前にいる男が…いや、全ての景色が蜃気楼のように揺れる。
 立っていられないほどの激痛に、彼女の体から力が抜け、握っていた大太刀を取り落とす。
 揺れる視界。眩暈。頭痛。吐き気。
 油断したら嘔吐しかねない状況。
 ぐらりと、膝から力が抜けた。
 倒れていく体は、言うことを聞かず、心もまた、言うことを聞かない。
 そんな中、彼女は当たり前のようにその人物を見た。

 なる、と。

 こんな状況でも、彼女が求めたのは弟の姿であった。
 焦点の合わない目が、ゆらゆらと彷徨い、あの目立つ金色を見つけた時には、もう、膝は地面に触れる寸前であった。
 けれど、カトナの目は見逃さず、逸らさない。
 カトナが薄れゆく意識の中で見たのは、こちらを見る、弟の、青い、青い瞳だった。
 こちらを信じきっている、あの瞳だった。いつもと変わらない、瞳だった。

 …負けられない。

 崩れ落ちかけた足に力を込める。
 必死に歯を食いしばり、こらえる。
 がくりと、いきなりこめられた力についていけない感覚と、それに呼応して痛む頭。
 けれど、耐えきる。
 あの瞳がある限り、あの子がいる限り、カトナは負けたくない。
 寸前で耐えきったカトナに驚いたカンクロウが何らかの声を上げるより前に、カトナは問いに答えた。

「…だって、格好つけたい、じゃん」
「あ?」
「あな、たが、たずね、、た」

 目の目の男は不思議そうに首をかしげた。
 何故戦うのか。なぜ負けたくないのか。何故勝ちたいのか。
 そんなもの、簡単ではないか。明確で明快で、明解ではないか。

 「弟の前、で、ぐらい、かっこいいとこ、見せたい、」

 ごぽり。
 血で染まった口が、鉄の味を感じる。
 あつくて苦しくて痛くてつらくて、けれど、それくらい耐えきってみせる。
 彼女を彼女たらしめる根源…ナルトの姉であるという自意識が、彼女を立たせていた。

 私は、姉だ。
 カトナはそう自負しながら、足に力を入れ、目の前の敵を睨み付ける。
 私はあの子よりも早く生まれた。
 私はあの子を守るために生まれてきた。
 なのに、私は自分の役目を果たせなかった。
 今度こそ、果たして見せる。今度こそ、その役目を守って見せる。


 私は、姉だ。



 私は、あの子の姉だ!!!!!


 その意識が、彼女の中にあった朦朧とした意識も何もかもを、明瞭にする。

 それは、あの子が九尾の人柱力だろうと、なかろうと、変わらない。
 そんなものは、付属価値だ。そんなものは、おまけだ。そんなものは、取るに足らない事柄だ。
 あの子が弟であることに、あの子が私の家族であることに、なんら、何ら変わりはない!!!
 だからこそ、カトナはこの男に負けられない。
 自らの弟を化物と恐れるこの男に、死んでも、負けられないのだ。
 カトナは震える手で、地面に落ちていた大太刀を掴み、鞘から抜く。
 もうおぼつかない視界では、その大太刀の輪郭すら分からなかったが、しかし、体は覚えている。
 ずっとずっと支えてくれた、自分にとって唯一無二の物。
 鞘をいつもの定位置に戻した後、握りしめた大太刀を、呼吸と共に、彼女は太ももへあてた。
 何をする気だと目を見開いたカンクロウに、彼女は笑う。
 そして、一気に切りさいた。
 切りさかれた動脈が血を吹くよりも先に、彼女はすぐさま別のところを切り裂く。
 太もも、首筋、額、胸、手首。
 どれも深く刃が食い込んだ結果、ぶしゃあああ、と勢いよく血が飛んだ。
 それは、離れた場所にいたカンクロウの顔にさえも付着する。
 会場に居た人間全員がぎょっと息をのんだ。
 それほどの血液量。それほどの異常行為に、真っ先にカンクロウが怒鳴りつけた。

「お、お前、何してんじゃん!?」
「…きまっ、てる」

 ふらふらと、はやくも血液を失って眩暈がし出している中、カトナは正常とは言えない判断を下しながらも、正常な思考のまま断言する。
 今のカトナの細く薄い体には、血液を介して毒が回っている。
 それは意識を奪いかねない。ならば、ならば!!

 「どく、を、ぬく」

 彼女の体中から流れる血という血は、大量出血という量をとうにこしている。
 動脈という動脈を裂いた彼女の体は、最早、血でぬれていないところがないくらいに真っ赤だった。
 真っ赤で真っ赤で真っ赤で、真っ赤でしかなかった。

 「さっきの毒の量なら、もう、ぬけたはず」

 元々、少ない量でも効果を発揮する毒だったのが、あだになったともいえるが、しかし、誰がこんな手を取るという話だ。
 体中に回った毒を抜くために、血液を抜く。
 裏を返せばそれは、失血しかねない…いや、失血する道しかないのだ。
 此奴は馬鹿か、と誰もが思った。
 今にも倒れかねない彼女は、今にも死にかねない。

「お前、死ぬ気じゃん!?」

 その場にいる全員の気持ちを代表して怒鳴りつけたカンクロウに、怒鳴り付けられたカトナはいかにも不思議そうに、首をかしげた。

「…なに、いってるの」

 カトナには死ぬ気なんてあるわけない。
 ナルトを守れていないのに、ナルトが生きているのに、カトナが自ら死を選ぶ道筋はない。
 だからといって毒を抜くために血液まで抜いたのは、彼女は何も痛みから逃げたかったわけではない。
 彼女は自身に逸脱の術をかけることで、痛覚から…ひいていたは痛みから目を逸らしている。
 そんな彼女にとって毒による痛みなどは、自身の体に負担をかけても精神には負担をかけない。心に負担がかけられないのならば、彼女にはあってもなくても同じことである。
 ならば、何故、彼女がそんな行動をとったか。

「チャクラコントロールの正確さを、取り戻すためだよ」

 そう、彼女は自身のチャクラコントロールを取り戻すためだけにやったのだ。
 たかが、チャクラコントロールと侮ることなかれ、彼女のその技術は、最大にして最強の武器であり、尚且つ、彼女が生き残るための絶対的な命綱なのだ。
 毒がぬかれたことで、正確なチャクラコントロールを取り戻した彼女が行ったことは、単純にして簡単なものであった。

 なおって、いく。

 凄まじい速さで。目を見張るほどの速度で。もはや、体の方が追い付けないほどの速さで。体という体に流れた血液が流れる勢いが、急激に衰えていく。
 彼女が自分の体を治すほどのチャクラは、先程自らを切りつけた短刀から得たのだろう。
 自らの中にあるチャクラとカンクロウから奪ったチャクラで、彼女の怪我を治すことは、彼女以外には不可能でも、彼女には不可能ではない。
 だからこその自傷であった。
 すっかり元通りになった体を見せびらかすようにくるりと回り、カトナは言う。

 「これで、元通り」

 と、いっても、失われた血液全てが戻るわけではない。
 体中を活性化させ、アドレナリンを放出させ、脳のリミッターをある程度といたとはいえ、血液を今すぐ作ることは、人間としての性能上、彼女では不可能だ。
 今にも貧血になりかねない状態でありながらも、彼女はカンクロウを睨み付ける。
 彼女がとった行動はデメリットしかないと、誰もが思ったかもしれないが、しかし違う。
 少なくとも、目の前にいる敵を怯えさせることができる程度の効能はあった。
 人間というのは案外、自分に理解できない行動をとる人間と言う物に対して恐怖を感じやすい。
 何よりも、彼はあずかり知らないが、二人の境遇は似ている。
 そんな、似ている人間の強さをまざまざと見せつけられて平気そうな顔が出来るほど、カンクロウは強くなれない。
 怯えを感じたカンクロウが最初にとった手は、自らの傀儡人形でもう一度、カトナを攻撃することだった。
 まだ、彼女を倒すための毒のストックは残っているし、傀儡の仕掛けの半分も見せていない。
 勝機は、まだある。カンクロウは、そう考えた。
 血液を流し過ぎた彼女は、もう二度と同じ手は使えまい。そう判断したが故の攻撃であった。
 が、それをみすみす見逃すカトナではない。
 傀儡人形の素晴らしさと言えば、人間では決して行えない攻撃の多様性だ。
 だから、カトナは真っ先にそれを封じにかかった。
 大太刀をその場につき刺し、彼女は自らの指からチャクラ糸を伸ばす。

 「チャクラ糸は操るためのもの…どっちのほうが操れる、かな」

 その言葉に、カンクロウは動揺し、しかし思いなおす。
 カンクロウが持つ傀儡人形がどのような仕掛けなのかは、操り手であるカンクロウにはわかるが、事前情報が全くないカトナには操れない。
 その事実に気が付き、彼は安堵し、油断してしまった。
 考えることを停止してしまった彼は、気が付き損ねた。
 カンクロウが持つ傀儡人形が、いったいどのくらいの数の、どのような技を持っているか、カトナは知らないが知る必要はない。
 だって、多様性も何も必要ないではないか。
 人間の構造など、どれも似たようなものだから。

 カンクロウのチャクラ糸の細さがばらばらになり、一律を保っていたチャクラが引き出される。出すはずだった技が出せず、それどころか出すつもりが無かったギミックが飛び出す。
 自分の思い通りに動くはずの体が上手く動かず、チャクラが自分の意のままに操れない。
 わけのわからない状態に彼の体は戸惑い、更に、指揮権をカトナに奪い取られる。

 「っ!!」

 自分に起きている現状がわからず絶句していた彼は、遅れて、自分に起きている事態を察した。
 何もチャクラ糸で操れるのが傀儡人形に関係ないのだ。使い手次第では、意識がない人間の体を自在に操れることができる。
 それは裏を返せば、意識がある人間でも操れることを意味していた。
 チャクラ糸越しに、チャクラ経路をいじくる…単純に言ってしまえばそんな行為に、カンクロウは必死にコントロール権を奪い返そうとしながらも、怒鳴り付ける。

「ばけもんかよ!!」
「まぁ、ね」

 そう口答えする彼女の顔に、僅かな焦りが走る。
 この作業には集中力がいる。当然だ、現在進行形で人の体の中を好き勝手しているのと同じことなのだから。
 ただ、仕組み的なものは医療忍術と変わらない。経絡系をいじることは、まだ、軽度の治療しか出来ないサクラでさえも、やろうとしたらできる芸当だ。チャクラ糸を通して行うのはさすがに人外じみているが、別に医療忍者ならば、やろうと思ってやれないことはない。
 しかし、その行為を観衆に晒しているということが、彼女の中に焦りを浮かばせていた。
 今現在は逸脱の術をかけているが、残りのチャクラは少ない。それほど長くは逸らせれない。直視されれば…まずいことになる。
 カトナはいつだって従順なふりをしなければならない。抵抗の術があると思わせては駄目なのだ。
 それ以上に、逸脱の術を重ね掛けしすぎだ。このままでは、本当に隠したいものが隠せなくなってしまう。
 はやく、はやく。
 焦る気持ちに、彼女は迷うことなく逸脱の術をかけ、その事実から目を逸らす。
 そうやって、いくつもいくつも重ね掛ける。彼女はそうやって自分の気持ちを操り、制する。
 だからこそ冷静に、彼女は判断をした。
 このままでは勝ち目がない。ならば。
 彼女はもう片方の手で地面に刺しておいた大太刀を一気に引き抜く。
 と、片手だけで器用に大太刀をあやつり、斬りかかる。その間にも行われるチャクラコントロールで、傀儡人形は操ることが出来ない。
 カンクロウはちぃっと苛立ちに満ちた声を上げながらも、振るわれる大太刀をなんとか避ける。
 刃がぎりぎり腹部を掠める。
 掠めた切っ先に赤いものが付着していたが、しかし、重傷を負わせるには至っていない。
 その一瞬の邂逅で相手との間合いをはかったカンクロウは、再び横凪に振るわれる刃を紙一重で避けようと一歩分後ろに飛んだ時、彼女がチャクラを爆発させた。
 瞬間、振られた大太刀が、一気に伸びる。
 その刃の形状が変化し、更に長く、伸びる。
 その長さと形状を見れば、みるものはわかっただろう。
 その刀は長巻に類されるものであった。

 「な!?」

 思わず驚愕に声をあげたカンクロウを無視し、カトナは叫ぶ。

 「…曙!!」

 そのカトナの叫びに応えるように、曙は震えた。
 カトナが持つ刀は、鞘が無ければ、刀の形状が変化できないわけではない。
 ただ、その形状を保てる時間が数秒なのだ。しかも、チャクラが大量に喰われる。具体的には、カトナから九尾のチャクラを引き出しかねない量なのだ。
 普通なら愚策でしかない。
 しかし、数秒でよく、先程まで切ったチャクラのストックがある今の状態で、それは最善の策であった。
 長巻の峰の部分が、距離を測り損ねたカンクロウの腹にぶち当たり、そのまま振りまわされた結果、カンクロウは勢いよく吹っ飛んだ。
 なすすべもなく、受け身すら取れずにカンクロウは壁にぶち当たり、そして、気絶する。
 意識を失ったことを確かめたゲンマが勝者を告げる。

 「勝者、うずまきカトナ!」

 
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