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GOD EATER StrikerS

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グリニッジ支部

 やけに足音の響く長い廊下を、少女が歩いている。
 歳は十六歳、少し栗毛に近い色をした肩にかかる程度の長さの髪に淡い緑色の瞳。顔立ちは日系で目鼻立ちも整っている。
 少女の名前は四葉ミフユ。ここ、ロンドンにあるグリニッジ支部へとある実験の為に訪れていた。

 現在この世界は、アラガミという怪物の脅威に曝されている。今のところ、そのアラガミに対しての有効な手段といえば神機という、いわば人工のアラガミともいうべき武器を用いてこれを駆逐する存在である神機使い。通称『ゴッドイーター』が唯一の対抗手段だった。
 しかし、神機使いはあくまでも人間が生身の身体でアラガミと対峙する為、命の危険が常に隣りあわせで存在する。そんな状況を覆す為に開発されたのが、神機技術の粋を使ったパワードスーツ、『神機兵』である。

 とある事件をきっかけに、無人運用は無期限凍結となり、有人制御のもと研究、開発が行われていた。今回はその新型の神機兵のテストパイロットとしてミフユは選ばれていた。

 廊下の先には、いかにも厳重な警備がされている扉がある。
 ミフユはあらかじめ渡されていたカードキーをセンサーにかざし、次に長方形の透明なガラス板の上に手を乗せる。ミフユの手が置かれたガラス板の上から下に向かって光がゆっくりと移動し、扉の上についているライトが赤から緑へと変わった。

≪認証完了、入室ヲ許可シマス≫

 まるで空気でも抜けてるような音をたてながら、分厚い金属の扉が開く。
 開いた先は階段になっていて、どうやらここから下へ降りるらしい。ここまでも十分に歩いたはずなのだが、まだ歩かなきゃいけないのかとミフユは眉をしかめる。やれやれと溜息をつきながらも、階段を下りることにした。
 薄暗い階段を、手すりと壁の切れかかっている照明の明かりを頼りに降りていきながら、ミフユはこれまでの事を思い返していた。

 ミフユがフェンリルに入ったのは今から丁度三年前の事。当時十三歳だった彼女は、神機使いになる為の適合試験にやって来ていた。
 適正検査入隊志願者が神機に適合するかを確かめる検査で、神機を載せたプレス機に似た機械でハーネスを右手首に嵌め込む事で行われ、かなりの苦痛を伴う。
 表向きはパッチ検査の一種とされているが、神機に適合しなかった場合は神機に「捕喰」され肉片になってしまう。現在はコンピュータによる精密な予備検査を経て候補者を絞っているため、適合失敗による捕喰はほとんど無くなった。
 
 しかし、彼女は適合しなかった。

 幸い一命は取り留めたものの、一年以上も昏睡状態が続く事となる。目が覚めた彼女に待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった。彼女が眠っている一年の間に、ミフユの両親はアラガミに襲われ死亡、妹も行方不明になっていたのだった。あまりのショックに一時は失語症に陥るもなんとか回復し、適合試験失敗の経緯や身辺の状況も考慮して、彼女はフェンリルへと入る事となった。
 適合試験に失敗したとはいえ、奇跡的に一命を取り留めた彼女の処遇はフェンリル内部でも優遇に扱われる事となったが、ミフユは自分の無力さが悔しくてたまらなかった。もしもあの時、自分が適合試験に失敗せず神機使いになれていたら、両親をアラガミから救えたかもしれない。妹の捜索は既に打ち切られており、現在は死亡扱いになっている。それでも彼女は、妹はまだきっとどこかで生きているんじゃないかと信じていたかった。心のどこかでは、そんな事はありはしないと思っていたとしても、そう思わずにはいられなかったのだ。だからこそ彼女は、誰よりも力を欲した。
 偏食因子の投与により、神機使いは身体能力が向上する。ミフユは神機使いには及ばなくとも、身体能力はそれなりに高かった。精密検査では適合が失敗しても一命を取り留めたのは、適合率は決して低くはなかったからではないかという結論だった。
 しかし、例え他の人より身体能力が高くとも、神機を使えなければ神機使いにはなれない。アラガミと戦う術をもたず、ただ脅えるしかない現実がミフユは耐えがたかった。
 
 そんなある日、極東支部で起きた事件を耳にする事になる。

 神機使いに取って代わる存在として開発された神機技術の集合体である神機兵。フライアのクーデター、螺旋の木と呼ばれるものの発生、終末捕食。
 どれもこれもが大きな出来事で、彼女の手の届かない場所で確実に世界は終焉へと歩みを進めていた。最終的には終末捕食という世界の終焉は回避され、瞬間的にこの世界が終わることはなくなった。
 
 それでも、アラガミはまだこの世に存在している。

 フライアのクーデター以降は神機兵の無人運用は無期限凍結となり、有人制御での開発が進められていく中、ミフユはパイロットへの志願をした。
 神機使いでなくともアラガミと戦える力が手に入る。彼女の神機兵により期待は人一倍強いもので、パイロットとしての適正としても申し分はなかった。確かに神機兵は神機を使えない人間が乗ることが前提とされ開発されてはいるものの、搭乗者に付加が多い事から乗りこなす為には相当の訓練を積まなくてはならない。これは神機使いだとしても例外ではないが、やはり普通の人間より身体能力が高い分さほど苦労もないようだ。
 ミフユは身体能力という点では神機使いには劣るが、普通の人間よりは高い。フェンリルとしても、彼女のパイロット志願は受け入れるに値するものだった。
 神機兵の正規パイロットとしてミフユはその実力を遺憾無く発揮していき、フェンリルでの地位を確立していく。彼女の操縦する神機兵は、並みの神機使いよりも戦闘能力が高いという者さえ現れ、実際にその表現は過大評価ではなかった。
 そうして今回、従来の神機兵よりも性能の高い新型の神機兵のテストパイロットとしてミフユはグリニッジ支部を訪れていた。

 階段を下りた先の扉を開ける。
 
 中では技術者達がバタバタと仕事をしていて、足元には様々な色や太さのコードが地面を這っていた。迂闊に歩くと転んでしまいそうだなと思いながら、気を配りつつ歩を進める。技術者の何人かがミフユの姿を目に留めると、最初は怪訝な表情を作るもすぐさま姿勢を正して敬礼をした。
 その態度にミフユは嫌な顔一つせず、特にそちらを向くことなく先を進む。彼女にこういった態度を取る者は、実は少なくない。年齢でいえば十代半ばの少女がそう偉いはずもなく、大人達からすれば「子供の来るところじゃない」というのが本音だろう。
 しかし彼女の場合は神機兵による戦績の評価で、フェンリル内の同年代の中でも特出して出世している。大人の中でも、彼女より階級が下のものまでいるのが現状で、それほどにミフユの神機兵の操縦センスは高かった。
 
 辺りを見渡しながら、今日ここで会うことになっていた人物を探す。
 
 「来たか」

 声のした方向を向き、先ほどの技術者達と同じように今度は自分が姿勢を正し敬礼をした。
 そこには黒くて長い髪と、強い意志を秘めているような瞳。すらりと伸びた長い足、右腕には黒い腕輪。男なら思わず振り返らずにはいられない、例え女性でも目を奪われるような、黒いパンツスーツに身を包んだ女性が立っていた。

「四葉ミフユ大尉であります」

 ミフユの敬礼に倣い、黒髪の女性も敬礼して挨拶をする。力強く芯のある、それでいて綺麗な声にミフユは思わずドキッとした。

「少佐の神前だ、長旅ご苦労だったな四葉大尉」

「はっ、ありがとうございます」

「ふっ、まだ若いのに堅苦しい奴だな。楽にしていいぞ」

「はい、失礼します」

 ミフユは腕を後ろで組み、休めの姿勢をとる。
 神前はヤレヤレ、といった苦笑いを一瞬浮かべるが、すぐに表情を元に戻す。
 ちなみにフェンリルは元々オラクル細胞を研究していた生化学企業であり軍隊ではないが、アラガミ発生以後はその技術を用いて名実共に、世界の盟主となった。現在フェンリルで使われている軍事階級は旧アメリカ海軍のものを併用している。
 旧、と表現しているのは、アラガミ発生以後は世界情勢は崩壊、国という国が機能しなくなったためだ。
 旧アメリカ海軍の軍人階級は下から新兵、兵、上等兵、伍長、軍曹、三等曹長、二等曹長、一等曹長、特務曹長、士官候補生、下級准尉、上級准尉、少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、准将、少将、中将、大将、元帥、の順である。
 つまり神前はミフユより二階級上の上官にあたる。補足ではあるが、将軍という階級は存在しない。将軍とは将官を一まとめにした便宜的呼び名であり実際には准将から大将までのいずれかの階級の人物を表す表現として使われる。

「わざわざこんなところまで足を運んでもらってすまないな。本来であれば、ちゃんとした応接室に通すのが筋なのだが、上が煩くてな」

「いえ、問題ありません。自分は気にしていませんから」

「ふん、そうか。ならばもはや何も言うまい。ついて来い、お前に見せたいものがある」

 確かにミフユは大尉という地位にはついているものの、年齢が若い。神機使いの中にも、彼女と近い年齢で大尉の階級を持つものは数名いるが、神機使いと神機兵乗りでは扱いが異なっているのが現状だ。神機使いになる為の適合試験は十二歳から十八歳の間で行われ、加齢が進むほど成功率が下がっていく。この為神機使いは若い年齢のものが多く、実用化当初は軍からも「餓鬼」扱いされ、毛嫌いされていたことが背景にあり、今でも若い年齢のものに対しては階級が高かったとしても不遇の扱いを受ける事が多い。ミフユは特にそういった事には興味を抱かず、彼女が求めるのはあくまでもアラガミを殺す為の力であり、自身の待遇などどうでもよかった。

 神前の後をついて行くと、大きなコンソールのような装置のある場所まで来た。その先には、例えるなら中世の騎士の鎧をモチーフにしたような形状をしたものがたたずんでいた。大きさ的には通常の神機兵よりもやや小さめだろうか、神機兵は一言でいうなら筋骨隆々としたフォルムに、丸いヘルメットのような頭部で顎の部分が太い。
 それに対し目の前にあるものは筋骨隆々とはほど遠く、スッキリとした形状で、色は白と青を基調にしている。全体的に流線型の形をしていて、背中の部分には剣を束ねたようなモノがついている。美的センスが自分にあるかは分からないが、一目見て「綺麗だ」と感じたのがミフユの第一印象だった。

「神前少佐、これが……例の?」

 その意図を読み取ったのだろうか、神前は満足げにうなずいて見せた。

「そうだ。これが新型の神機兵、コードネームは『ウィンデーネ』お前の新しい剣だ」

「これが……私の、新しい剣。私の力」

 



まるで吸い込まれるように、ミフユはその新型の神機兵を見つめていた。
 


 

 
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