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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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蟷螂

 
前書き
ネタとメタ、新事実回 

 
少女が使っていたPSG1スナイパーライフルは、セミオートマチックの狙撃銃で、ボルトアクション式の狙撃銃と比べて連射率がはるかに高い。連射も出来て精度も高い高性能なスナイパーライフルだが、そのしわ寄せとして非常に重い。手に持った感覚でだが、大体8キロぐらいあると思われる。

「今更だが、よくこんな重いものを持てたな、おまえ」

「…………」

いくら鍛えていても、フェイトと同じくらいの少女がこれほどの物を使って戦うのは大変だ。そう考えると彼女はやつれた見た目に反して、かなり力持ちなのだろうな……などと少々失礼な事を考えると、少女が俺の手を取って文字をなぞった。

『マホウ、チカラ、キョウカ』

「なるほど、トリックは身体強化魔法か……ゲイザーが魔導師にコンプレックスを抱いた理由も何となく理解出来た」

リンカーコアの有無で、戦えるかどうかが全て決められる才能社会。それが次元世界の常識なのだろうが、リンカーコアが無い=守られるべき弱者、という概念がどうしても納得できなかったのだろう。その点は俺もわからなくは無い。
生まれながらの才能だけで強制的に弱者の立場に追いやられる。それはゲイザーに限らず、誰であろうと嫌に思って当然だ。方法は間違っていたがゲイザーはある意味、次元社会の歪みを正そうとしただけなのかもしれない。
魔導師は絶対的な強者、という諦めにも近い認識を変えようとした。そのための力として、彼が手を出したのがSEED。それは魔導師、非魔導師問わず優れた人間の力をコピーして扱えるようにする、一見すると画期的な発明かもしれない。冷静に考えれば、世の中には才能や能力がどうしても他人より劣る人間が数多存在する。その人達に優れた才能を持っていた人間の力を与えれば、より大きな発展へと繋がる可能性は十分あり得る。要するに10の力を持つ人間の能力を、1の力しかない大多数の人間にコピーすれば、10の力が人数の分だけ倍になるわけだ。
これだけ聞くとSEEDは弱者を救う存在に思えてしまうが……実際はそのために作られた物ではない。一度付けたSEEDは取り外すと薬物依存症や幻覚症状で精神を蝕み、下手をすれば廃人へと陥るという副作用が酷い代物だ。力を求める人間達には甘い蜜だが、同時に猛毒でもあるのだから決して使ってはならないし、ましてや表の世界に流通させる訳にもいかない。人間が人間を道具として見る世界になってしまえば、それはイモータルの言い分である“銀河系を滅ぼす存在”に完全に成り果ててしまうのだから。

「それにしても……リーゼアリアはエレベーターにたどり着けば楽な物と言っていたが、たどり着くまでがむしろ大変じゃないか……!」

地下1階の中央エレベーターのある地下ホールだが、そこには大量の武装社員が規律の整った巡回をしており、身を隠しながら進むのはかなり難しかった。ちなみにこの地下ホールだが、地上1階のエントランスの役割も兼ねており、地形的には高級ホテルにありがちな凹面形状となっている。この形のおかげで外の冷気が上手く遮断されており、格納施設より空間が温かい。これは極寒の地で働く人間の知恵が組み合わさった、合理的な建築だと思う。

ま、そのせいで上下からの監視の目も注意しなければならない羽目になった。今、俺達は社員用通路を抜けてホールに入ると、すぐ近くにあった物置に身を隠している。そこからホールの様子を伺っているのだが……エレベーターは中央の大きな階段を上った地上1階の方に設置されていて、そこまで行くにはどうしてもホールの中央を突っ切る必要があった。そんな所を進んだら普通に見つかるだろう……故にエレベーターの所にたどり着くにはどうすればいいのか考えているのだ。

「……(くいくい)」

「? どうした?」

一緒に隠れている少女が俺の服を引っ張り、倉庫の中にある物を指差した。それは板紙に波形の段をつけた中芯を張り合わせたもので、主にクラフト紙や古紙を原料とし、リサイクルも可能なので経済性も高く、丈夫で格納性も高いので荷物の梱包に広く使われている、どこかの蛇が好んでそうな“例のアレ”が畳んで置いてあった……。

「…………」

被らないの? と純粋に言いたげな少女の目を前に俺は…………俺は……観念してしまった。立ち上がった俺はソレ…………“ダンボール”を手に取り、箱の形に開いてみた。

「意外に大きめだな。これなら2人で入っても大丈夫そうだ」

周波数140.85からCALL。

『通称、ラブダンボールですわね♪』

『ら、ラブダンボール……』

『いいなぁ……私も入ってみたいかも』

『いやいや二人とも、ダンボールは普通被るものじゃないんだが!?』

『あらクロノ、私の愛する娘達のお願いをそんな無粋に切り捨てなくともいいじゃない。フェイト、アリシア、裁判が終わったらダンボールをすぐに用意してあげるから、それに好きなだけ入ると良いわ! そして私はその光景を撮影して堪能するわ!!』

『わーい! ママありがと~! 今から楽しみだよ~!』

『どんな感じなんだろう、ダンボールに入るのって。面白いのかな?』

『そういやダンボールって保温性が高いらしいから、動物形態なら居心地良さそうだね』

『いやいやいや!? さっきプレシアさんの台詞に聞き捨てならない単語があったんだけど!? というか皆、それ放置なのか!?』

『クロノ君、別に自分の子供を撮影するぐらい親として当たり前の愛情表現じゃないですか。そんな事も知らないで執務官をやっているのですか? 常識を疑います』

『全くね、親の顔が見てみたい……あ、とっくに何度も見てたわ』

『うんうん! 取り戻した親子の時間を絶賛穴埋めするだけなんだから、何もおかしい事なんてないよ!』

『クロノ……私達の大切なひと時なんだから、変な事を言わないでよね』

『見た目や経歴とは裏腹に、クロノって実は可哀想な子だったりするんだね』

『そ、そんな……僕が……僕がおかしいのか? さ、サバタ、君はどう思う!?』

「どう思うって……俺に訊くな。だが親が子供の写真を撮るのは普通の事なのだろう? ならこの場合はクロノがおかしいんじゃないか?」

『や、やっぱり……僕が間違っていたのか……って違う!? 僕が言いたかったのはそっちじゃなくて、ダンボールを被る行為について……! でもなくて……ええっと、あれ?』

「思い出せないなら、この話題は終了だな。リーゼ姉妹を待たせているんだから、さっさと先に進みたい」

『あ、ああ……うん、足を止めさせてすまなかった。……しかし、変な風にやり込められた気が……』

内容が変な通信だったため、キリの良い所で切断した。クロノは最後まで困惑していたが、彼はきっとこの先何度もからかわれる運命が待っているのだろう。お気の毒と言っておくか。

「………」

「おまえは何かを狙ってるのか?」

さっきからダンボールの蓋を上にして少女が中に入り込み、まるで捨て猫のような格好でこちらを見つめていた。今の使用用途だと蓋の位置が上下逆だが、普通はこの向きが正しいんだよな……。というかこの子、若干茶目っ気というか天然の素質があるな。いや、何も知らないまま育ったから、こういう当たり前の道具も珍しく見えるのだろう。

「これからバレないようにダンボールを被るが、ピッタリ動きを合わせてエレベーターの所に行くぞ。いいな?」

「……(コクリ)」

そういう訳で正直自分でも何やってるんだ、という気分ではあるが、ダンボールを被って俺達はホールに突入。武装社員の目がこちらに向いていない隙を突いては移動し、こちらに視線が向けば停止、離れれば移動を繰り返してゆっくりと着実に進んでいく。それにしてもさっきから何で疑問に思わないんだって、こいつらにとにかくツッコミを入れたくなる。バレるからしないけど……モヤモヤする。

そうやって何とかうまくエレベーターへたどり着き、スイッチを押して乗り込む。割と早く着いたエレベーターには誰も乗っておらず、さっさと入り込んで地下2階へスイッチを押した。

「はぁ……まさかこの俺がダンボールを被る羽目になるとは……」

『タノシカッタ』

「ああ、そうかよ。そりゃ良かったな……」

なんか気に入ったのか、エレベーターが着いても少女はダンボールを被ったままだった。確かにダンボールに隠れていてくれたら、戦いに巻き込まれても安全かもしれない。そういう意味では良い拾い物だったかもな。

さて、地下2階は今までの場所とは少々趣が異なっていた。具体的には建築や機材、設備に使われている技術がこれまで見てきた物より優れていて、管理局と引けを取らないどころかそれ以上かもしれないと感じた。

~♪♪

「やっと到着したみたいだね」

「想定より少し遅かったわね。無事だったから良かったけど」

本棟地下の妙な技術力の高さは気になるが、それは置いといてエレベーターの近くで待っていたリーゼ姉妹と合流できた。ホールの警戒網に関して問い詰めたい所だが、警戒が厳重になっていたのは俺にも責任があるかもしれない。なにせこの子の狙撃を潜り抜ける際、途中にあった監視カメラへ何の対処もしていなかったからな。向こうはホールに誘い込んで確実に包囲出来る様に待ち構えていた可能性がある。何とか潜り抜けたから問題ないが。

さて、リーゼ姉妹と合流を果たして気付いたが、無線を通す度に聞こえていた歌が何処かから流れていた。もしこの歌を彼女達が流しているのだとすれば、敵に居場所がバレバレだ。今の内に注意しておこう。

「音楽を聴く行為に精神的リラックスなどの効果があるのはわかるが、こういう場所では控えた方が良い。周囲の音を聞き逃したりする可能性があるぞ」

「あは! 大丈夫だよ。そんな迂闊なミスはしないから」

「あなたに心配されなくとも、全然問題ないわよ」

「……そうか」

それにしても無線ではわからなかったが、何故か二人の声質がこもり気味に感じる。この場所ではそういう音響が働いてしまうのか? 普段より気を付けておこう。

「ところでさっきからダンボールを被ってるその子は?」

「ああ、色々あって俺が保護している。今後の探索において、おまえ達にもこの子の事を話しておいた方が良いと思って、一度合流したわけだ」

「でもなんかすっぽり隠れてるから、まだよく顔が見えないわよ?」

「案外気に入ったようでな、そのままにしてあげてくれ」

「ふ~ん……ところでちょっと移動しておかない? ここだとエレベーターで移動してきた敵に気付かれるかもしれないし」

「そうね、ロッテにしてはまともな意見だわ。ひとまず所長室へ行きましょう、あそこは制圧したから敵の姿は無いわ。一時的だけど安全な場所よ」

「私にしてはって、ちょっと酷くない……?」

「…………」

顔に縦線が入ってリーゼロッテが落ち込むが、まあ俺と出会ったのが運の尽きだろう。ところで少女はさっきからダンボールを被りっ放しだが、一体何がそこまで気に入ったのだろう? ここに敵はいないはずなのだが……安全を確認した場所で聞いてみよう。

彼女達の案内で俺達は地下2階の奥にある所長室へ向かい、その入り口に着くと突然、少女が隅でダンボールを被りながら座り込んだ。同時にリーゼ姉妹が急に頭を抱える。

~~♪♪

「頭が……! 痛い……!」

「どうした?」

「ダメ……来ないで、サバタ!」

そのまま二人とも蹲り、「大丈夫か!?」と強めに尋ねる。するとしばらくして、二人はゆらりと立ち上がり、焦点が定まっていない瞳をしながら返事をしてきた。

「大丈夫……さあ、入って……」

「どうぞ、暗黒の戦士……所長がお待ちよ」

「……?」

何だか様子が変だ。これは……何かあるな。少女は部屋に入る事を拒んでいるようだし、あえて俺一人で行く事にしよう。それで多くの調度品が飾られたり、高価そうな椅子や家具が置かれていた部屋内へ少女を除いた面子で入る。俺が彼女達の様子を案じている間にリーゼアリアが所長室の扉を閉める。

……ピッ。

「ん? 扉をロックしたのか?」

~♪♪♪

「……ええ……そう、よ……? それが……どうか、した……?」

「もしかして……私達の、こと……信用、できな……い?」

「おまえ達……さっきから一体どうしたんだ? 口調が明らかに変だぞ」

「やっぱり……協力、なんて……無理だった、のよ……。元々、敵同士……だったのだから」

「じゃあ……仇、とっちゃっても……いいよね? 敵は……倒さないとね」

直後、リーゼロッテから正拳突きが放たれ、リーゼアリアから魔力弾が向かってきた。反射的に俺は正拳突きを身のこなしでかわし、魔力弾は暗黒剣で打ち消した。しかしリーゼ姉妹が急に敵に回った事に、俺は納得がいかなかった。彼女達は俺が闇の書の件を終わらした事を受け入れ、新たな道を模索し始めた。それなのに突然手の平を返したかのように攻撃してくるのは流石に妙だ。

何度か攻撃を対処し続けていると、周波数140.85からCALLが入った。

『サバタ。シャドーモセス事件のFOXHOUNDの記録を辛抱強く探ってみたら、興味深い事実が記されていました。FOXHOUND部隊には、他者を洗脳する力を持った超能力者がいたようなのです』

「洗脳? という事は……」

『ええ。恐らくリーゼ姉妹は、超能力者の力が込められた洗脳ミュージックを使われて操られているのです。決して彼女達に殺傷武器を使ってはなりません』

「はぁ……リーゼ姉妹は曲がりなりにもエースなのだろう? その二人相手に殺傷武器を使うなとは、厳しい注文だな。だが……」

通信を切って一旦彼女達と距離を取った俺は左手を突き出し、手を仰ぐように動かす。それは俗に言う、挑発ポーズだ。

「いいだろう、まとめて相手してやる」

『……ッ』

すぐさま飛び掛かってきたリーゼロッテの拳を、俺はCQCで逆に彼女の腕を捉えて彼女の体躯をひっくり返し、全体重を乗せて勢いよく床にたたきつける。床に倒れたリーゼロッテを見てすぐさまリーゼアリアが魔力弾で追撃を仕掛けてきたが、こっちは麻酔銃で彼女の首筋に狙いを定めて撃つ。その隙にリーゼロッテが水面蹴りを放ってきたので、回避も含めて跳躍、バック転で体勢を整えると彼女も蹴りの勢いを利用して起き上がり、こちらに突進してくる。
彼女と俺との間で、目にもとまらぬ速度の体術が交差。腕と腕、膝と膝のぶつかる音が部屋内に響くが、俺は拳を交えたリーゼロッテの拳術を改めて垣間見て、確かに実力はエース級なのだろうと彼女に対するへっぽこな認識を少しだけ塗り替えた。操られている時点で結局へっぽこなのだが。
一方で麻酔が浸透して力が抜けているリーゼアリアは、魔法の発動が困難になって膝立ちのまま先程より少ない数の魔力弾を放ってくるが、どれもコントロールが甘かった。なので弾道の予測はあまりに容易く、俺はリーゼロッテの顎に一撃を入れて脳を揺らしてふらつかせ、CQCで捕らえた彼女を魔力弾の盾として使った。

「べぶぼっ!!?」

……悪い、非殺傷設定を俺は使えないのでな。おまえの場合はこうしないと無力化出来なかったんだ。
不憫な目に遭ってリーゼロッテが悲痛の涙を流しているのを横目に、また魔法を発動しようとしていたリーゼアリアに向けて今度は……、リーゼロッテをぶん投げた。

「うみゃああああ!!!?」

「ゲフゥッ!!?」

折り重なるように倒れて気を失ったリーゼ姉妹を前に、俺は「ふぅ……」と息をつく。

「長くも苦しくもない戦いだった……」

ひとまず無力化には成功したが、リーゼアリアも操られて二人同時にかかってきたのに結局敗北したのだから、これからリーゼ姉妹はへっぽこ姉妹と認識する事にした。

「役に立たん女どもだ」

「フッ……ステルス迷彩、いや、隠蔽魔法か。手品のタネは世界が異なろうと子供だましに過ぎないのだな」

「貴様……俺の力を信じてないな? 世界最高の読心(リーディング)能力と念力(サイコキネシス)、今からおまえに見せてやる」

「ッ……!」

ステルスを切って姿を現したのは、ガスマスクを付けてアレクトロ社の制服を着た細見の男性だった。とすると、彼がSEED使用者か……。

「いや、正確にはこの男の精神を俺が乗っ取った、というのが正しいのだよ。暗黒少年サバタ……」

「乗っ取った!? それに今、俺は声に出していなかったはず……!」

「俺の前では声に出す必要は無い、サバタ。俺はサイコ・マンティス。そうだ、これにはタネはない。正真正銘の力だ」

「くっ……!」

麻酔銃を構えると、サイコ・マンティスは手を出して余裕そうに振った。

「無駄だ、行っただろう。貴様の心は全て読める」

そう言うとサイコ・マンティスは奇妙な動きを見せて、何かを告げてきた。

「貴様の性格を当ててやろう。いや……貴様の過去と言うべきかな。……んぅ~ぬぉぁ~っ!!!!」

「………」

誰でもそうだろうが、あまり自分の過去は他人に見られて良いものではない。それに俺には色々後悔している事や過ちが多い過去ばかりだ。自分から話すのはともかく、勝手に話されるのは気に入らない。

サイコ・マンティス……貴様は一体何を言うつもりだ!

「……………………何? 記録……データはどこだ……? メモリーカードがない……いや、そもそもゲームハードではない? ここは…………ネットの小説投稿サイト? クソッ、道理でセーブデータがないワケだ! ゲームの進行を記録する場所じゃないのだから当然か! 文字媒体のパソコンが相手では俺の念力も見せられない……! それに携帯電話は着信も無いのに振動させる訳にはいかないだろう!」

「……?」

「ならばこれはどうだ!? ……携帯で読んでいる者は、駅のホームなどではあまり読まない方が良いぞ。前方不注意になるからな、人にぶつかって事故が起きたりする前に気を付けておけ。電車の中で読んでいるならば、うっかり吹き出さないように注意する事だ。誰だろうと周りから迷惑な眼で見られたくないからな。そんなものはどの作者も望んではいない。パソコンで読んでいるならば、周りの音や時間をちゃんと気にする事だ。晩御飯で呼ばれているのに気付かなかったら、怒って食事を抜かれてしまうかもしれないぞ。……どうだ!! 俺の力がわかっただろう!!」

「いや、流石にそこまで言ってれば、何か一つぐらいは該当するんじゃないか……?」

「よ~し……デモンストレーションはここまでにしておこう。それと、俺自身は貴様と戦闘はしないぞ」

「?」

「コントローラーが無い場所では、どうも戦う気が失せる。そこの女どものような魔導師という連中に俺の力が通用するとわかっただけで、俺は既に満足している」

「……そうか」

「俺の力をどこの誰とも知れん連中に、勝手に使われるのは気に入らないからな。我々FOXHOUNDは、ただ利用される事を善しとするような軟弱な部隊ではない。SEEDは死者の力も模倣出来る仕組みがされているようだが、俺がやったように使用者の精神が乗っ取られる事もある。俺達のボスの遺伝子を利用するような真似をすれば、瞬く間に使用者の精神は砕け散るぞ。まぁ、変装中で正体が掴めなかったデコイ・オクトパスの遺伝子の回収は出来なかったようだが、それはむしろ連中の命が助かった事に繋がる」

俺もサイコ・マンティスが語った内容には同意した。彼らのボスは恐らく俺も知ってる“彼”だ。あんな強靭な精神の男の遺伝子を利用するなんて、アレクトロ社どころか次元世界の誰であろうと間違いなく不可能。どうせ迂闊に手を出せば、逆に核を撃ち込まれるのが関の山か。

「確かにそれもあるが、俺が言いたいのはそれだけではない。俺達の遺伝子は“運び屋”が撒いたナノマシンに感染していて、プロジェクトFATEのクローンに使ったとしても瞬く間に死が訪れるようになっている。SEEDが遺伝子に秘められた力をコピーしているなら、特定の人物を死に至らしめるナノマシンFOXDIEの対象に、使用者の遺伝子も変化している可能性がある。即ちFOXHOUNDの遺伝子を使ったSEEDは、使用者をいつか殺す代物であって何もおかしくない訳だ」

「なるほど……しかしそれを俺に教える意図は何だ?」

「サバタ……貴様はウルフの遺伝子が使われたSEEDを埋められた少女を保護しているな。SEEDをそのままにしていれば、いつか彼女もFOXDIEの影響を受けてしまうのではないか?」

「!」

「おっと、急いてはいけないぞ、サバタ。レイブンの時のように力づくでSEEDを抜き出せば、使用者の反乱を防ぐためにSEEDに仕込んだ精神錯乱剤、依存性が強い麻薬が体内に投与される。レイブンの力を使った男が幻覚を見た理由は、レイブン本人の意思もあるが、開封されてしまったその麻薬も関わっているのだろう」

「なら……どうすればいい?」

「後遺症を起こさずに処理するには、最新の設備が整った治療室で麻薬の入ったカプセルを割らず慎重に摘出しなければならない。無論、この施設で手術は出来ないし、貴様も医者ではないから手術の仕方も知らない。彼女を救いたければ、明日の日が沈むまでに手術を行い、SEEDを摘出するのだ」

「明日、日が沈むまでだと? 理由は!?」

「少女の遺伝子がFOXDIEのターゲットに変貌しきるまでのタイムリミットだ。それを過ぎれば少女はFOXDIEによって心臓発作を起こし……死ぬ」

「ッ!!」

「なぜ俺が見抜けたか教えてやろう。俺が乗っ取ったこの男はSEEDの開発責任者だ、当然リスクも想定していた。しかしSEED製造機を完成させて役目を終えたため、社長の意図でこうして俺の遺伝子が使われたSEEDを埋め込まれたのだよ。使えば近い内に死ぬと知っていて、わざと利用したのだ」

「そうだったのか……その男が……!」

地球には“科学者は罪を知った”という格言がある。ジュリアス・ロバート・オッペンハイマーという物理学者が残した言葉だ。彼は原爆の使用に関してこの言葉を残した訳だが、彼がこう言うまでの経緯を考えると、人間にとって使う事の出来ない兵器なんて存在しないのかもしれない。
FOXHOUNDのSEEDは使えば時間差で使用者を殺す。そしてFOXHOUNDの遺伝子を使っていなくても、SEEDには内臓された麻薬という“首輪”がある。こんなものを作ったこの男には色々言いたい事はあるが、何よりも……次元世界の科学者はまだ罪を知らないのだろうか?

「少なくとも、地球と比べてモラルが低いのはわかるな。自分たちが行った研究が世界にどう影響するのか、自覚も想定もせずに研究している。人間は人を幸福にするようには創られていない。この世に生まれ落ちた時から、人を不幸にするように運命づけられている」

「……くだらない。くだらなさすぎて、反吐が出そうだ」

「ほう……貴様は中々面白い思考回路をしている。俺は人の心が読める。今まで何千という人間の心と過去を覗いてきたが、どいつの腹の中にも、欲という名の夢、種の保存という名の利己的な理想が詰まっていた。しかし己の利益を考えていない貴様を見ていると、あの男の時のように落ち着く」

「……」

「SEED製造機があるのはここの地下5階。そこの本棚の裏に隠し通路があり、その先に専用エレベーターがある。ただ注意しろ、今は社長のイエガーがそこにいる。この男を乗っ取る前に一度見てわかったが、見た目以上にあの男は腹黒い。逆転の隠し玉を用意していてもおかしくないぞ」

「そうか……!」

「最後にもう一つ、SEEDに使われた麻薬の販売元を教えてやろう。地球のブラジル、リオ・デ・ジャネイロ州を拠点とする麻薬組織だ。少女達が使っていた銃器は、そこから密輸されたものだ」

「地球……麻薬組織……!」

こうして事実や真相が暴かれる度につくづく思う。この世界は本当に平和なのか……、人間は他者との共存なんて実は望んでいないのではないか……と。

「俺がこうして話せるのも時間切れのようだ。そうなったらこの男は麻薬の影響で自我を喪失する。そして俺は再び死の安息に入る。暗黒の戦士よ、貴様が小さな命が零れ落ちるのを防げるのかどうか、高みの見物でとくと拝見させてもらおう!」

そう言い残すと、笑いながらサイコ・マンティスの精神はこの男から去っていった。彼の力から解放された開発者の男は倒れると、そのままレイブンのように白目をむいて意識を失った。彼以外で後に残ったのは、意識を取り戻して調子を確認しているリーゼ姉妹と、部屋の安全が気配でわかったのか、所長室に入ってきたSEEDのタイムリミットがある少女。そして……酷い真実を伝えられて精神が苦痛に歪む俺の姿だった。

「サバタ……ごめん。サイコ・マンティスに操られて私達、味方の君と戦ってしまった。ホントごめんなさい!」

「私とした事が迂闊だった……まさかあんな能力者がいたなんて……。あ~あ、二人してまた新しい汚点を作っちゃったわ」

「実は合流する無線を受け取ってから、どこか記憶が曖昧になってるんだよね。というかあの変な歌、確か私達が潜入して少ししてから急に聞こえてきたんだけど、その辺りから妙にふわっとした感覚があったのよ」

「思えばその時から私達はサイコ・マンティスの手の上だったのね。それにしても操られていたとはいえ、二人がかりで挑んで見事に敗北するなんて、もうロッテの事は言えないわね……」

「それは………もういい、済んだ事だ。それより……」

俺は傍に駆け寄ってきた少女の頭を軽く撫でる。そして彼女の髪をかき上げ、リーゼ姉妹に顔を良く見えるようにした。

「ッ! こ、この子は……アリア!!」

「そんな……まさか!!」

だが少女の顔を見た瞬間、二人の顔が驚愕に彩られる。一体何がそこまで衝撃的なのか、俺はすぐに尋ねた。

「サバタには伝えたよね、私達はヤガミ以外にケジメをつけなくちゃいけない過去があるって。それがこの子……マキナ・ソレノイド」

「そして11年前の闇の書の主の名は、エックス・ソレノイド。そう……この子は闇の書の先代主の娘よ」

「……ッ!」

どうやら今回の物事は、俺が想像していたよりはるかに複雑で絡み合っていたらしい。
 
 

 
後書き
SEED編ストーリーおさらい。
はやての所から旅立つ→なんか色々人命救助→旧友と思わぬ再会→フェイト達が裁判に勝利するために潜入→SEEDを埋め込まれた少女を保護→マンティスにSEEDの副作用を伝えられる→少女の寿命が明日の夕方までだと気付く→少女が闇の書の先代主の娘と知る←今ここ。

ブラジルの麻薬組織は一種の伏線。MGRを知っていれば想像は出来ます。 
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