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ぼくは浴室マーメイド

作者:相生
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ぼくは浴室マーメイド

 
 沖田総悟は人魚だ。もう一度言う。沖田総悟は人魚だ。
 普段は(魔女から脅し取った)薬によって人間と変わらない姿をしているが、身体に水を浴びると元の姿に戻る。
「土方ァ、頭洗え。後尾鰭も洗え」
「それぐらい自分でやれ。つーか呼び捨てすんな」
 シャンプーハットを被り手を伸ばしてくる沖田の手を叩いて土方はため息を吐く。
 上記の理由から、なかなか水に浸かりたがらない沖田を風呂に入れるのは土方の仕事だ。毎回逃げ回るので非常に骨が折れる。
 自分でやれと言いながらも沖田に甘い土方は結局は折れて頭を洗ってやる。
「丁寧に洗いなせぇよ」
「文句言うな」
 頭を洗って貰いながら正面の鏡の水滴を払い、そこに映る土方の顔を見る。いつもの仏頂面はなりを潜め、どこか穏やかな表情の土方がそこにいた。
 濡れるのは嫌いだがこうして土方に触れて貰える時間とふたりで過ごす時間限定のこの穏やかな表情を見るのはまんざらでもねーな、と沖田は思う。死んでも口には出さないが。
 シャカシャカシャカ。シャカシャカシャカ……。
 頭を洗う水音だけが浴室に響く。沖田は目を閉じて髪に触れる土方の手の優しい感触を甘受する。
「……痒い所ねーか?」
「ありやせん」
「流すぞ」
 土方がシャワーで泡を洗い流すと、沖田は少しだけ嫌そうに尾鰭を揺らした。
「……もう鰭出てるから良いだろーが」
「元に戻るから水嫌がってたら濡れんの自体嫌になってきやした」
「何だそりゃ」
 土方が少しだけ笑う。鏡越しにずっと見られている事に気付いているのだろうか。
 尾鰭を洗うために正面に移動し、向き合う形でしゃがみこむと鏡を見ていた沖田が視線を落として目が合った。
「何だよ」
「いや、やっぱりアンタは甘いなァと思っただけでさァ」
「……誰にでもじゃねェよ」
 土方は目を逸らしながら否定する。その言葉に沖田は満足そうに目を細めた。
「それって俺が特別って事ですよねィ」
「……調子に乗んじゃねーよ馬鹿」
 眉をひそめながらも否定はせずにボディソープを手に取り泡立てる土方の様子にますます機嫌をよくした沖田は、前屈みになるとそっと土方の額に口付けた。
「……っ」
「アンタが可愛いのが悪いんですぜ。後で部屋でエッチしましょう」
「絶ッ対しねェ」
 微笑む沖田に、土方はムスッとした表情で尾鰭を洗いながら俯いてしまった。しかしその耳が赤く染まっているのを沖田は見逃さなかった。







ぼくは浴室マーメイド







(泡になったりしないから傍にいて下せぇ) 
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