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エターナルトラベラー

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エイプリルフール番外編 【シャナ編】 その1

 
前書き
やはりエイプリルフールですので、番外編です。迷走したものを掲載する日になってきてしまっている感じですね…今回の物も迷走してます…誰とはここでは言いませんが、ちょっと強くし過ぎました… 

 
それは記憶(オーラ)のかけらだった。

本来ただ消え去るだけの物だった。

だが、何の奇跡か…いや、神のいたずらか、それはそれだけで転生してしまった。

しかし、それは不慮の事故であったため、彼は本来持っていたものの大半を失うことになる。

失った物は数多い。

ゼロ魔式魔法、変身能力、リンカーコア、各種マジックアイテム、簒奪した権能や各種耐性など。

残った能力の方が少なく、残った物は記憶と先天性のものは写輪眼のみだ。

いや、よくそれだけでも残ってくれた物と感謝はしている。

後天的に習得可能な技術については修行でどうにか会得できる。

念法、忍術、剣術、食義などの体得は時間は掛かったが可能であった。

オーラ総量は以前と比べるまでも無く、リンカーコアも無いために魔導は使えない。まぁソルも居ないから使えたとしても有用には使えないのだろうけれどね。

目下の努力目標は空を自在に飛ぶこと。

空を自在に飛び回るのは人間本来には持ち得ない事のようで、今ある技術では実現には至らない。

まさかここに来て原初の憧れを抱こうとは、因果な物だ。

生まれた世界は地球系の傍流で、時代は中世ごろ。ギリシャ南部の山奥の村に生を受けたようだ。

穏やかだった山村での生活が一変したのは15を迎えた秋の事。

小さな収穫祭での事だった。

「…なんだ?」

世界が揺らぎ、空の色が褪せたように感じられる。

それは炎の揺らぎを幻視させ、そして唐突に変化は起こった。

「なっ!?」

人数の少ない山村だが、そこにひあ50人ほどの人数が今日のこの日を楽しんでいたはずだ。

だが、それが一変。人間がいきなり爆発する。

「きゃーっ!?」

「な、なんだよ、なんなんだよっ!?」

響き渡るのは村人の恐怖の声。

一人、また一人と爆発し、しかしその身体は散りも残さず光と消えた。

「何が…」

とっさに万華鏡写輪眼・桜守姫(おうすき)で事態を見つめる。

一人、二人と爆散するのを検分すると、何か大きなオーラが人間に入り込み、その量に器を保てなくなった人間が爆発して消えているようだ。

流れ込むオーラも色や質が違っている事から、誰か一人が起こしている現象なのかまではまだ推察が出来ない。

「逃げ場は…」

何処までが影響圏外なのか。取り合えず離脱を試みる他は無いのだろう。

だが、その試みは不可能だった。

「ぐぅ…」

足元に蒼銀の炎が揺らいだと思えば何者かが自分の中へ入ってくる感覚。

侵入してくる何かは俺の体を強制的に作り変える。何ものかが入り込む器として。

しかし、この量だ。普通の人間ならば入れきる前に耐え切れず破裂するだろう。

オーラの乱入に伴い意思の様な物が囁く。

いたい…くるしい…こわい…やだ…

「黙れこのやろう。嫌なら出て行け」

できないの…だってむりやりだもの…

「あそう…じゃあせめて何が起こっているかくらい説明しろよ」

たぶんぐぜのともがらとにんげんとのきょうせいけいやく…

「つまり正規手段じゃないと言うわけか。で、俺の中に入ろうとしているあんたも被害者と…で、君の力に器が保たなければ…」

周りは今も次々と人が爆発している。

ああ…みんなもどれずにしんじゃった…わたしも…きっと…

「俺も流石に内側からの爆死は勘弁だな…」

この半端な俺が死んだ後転生できる保障はないしな。

いや、生きる目的も無いからいっそ…?

なんて考えているとなにかがめそめそ泣き出した。

やだ…やだ…しにたくない…しにたくないよぉ

「何こいつ…面倒なんだけど…」

はぁ…と息を吐いて嘆息すると成り行きに身を任せた。

何かに身体を作り変えられている最中も周りの景色の変動は留まらない。

祭り台が消えた。家が消えた、畑が消えた。井戸が消えた。

人が消えると同時に世界も人とのかかわりを忘れたかのように無くなっていく。

結局、俺は生き残ってしまったらしい。

身の内から全盛期とは行かないまでも強力なオーラを感じる。

しかし、生き残りは俺一人。村人は一人も居ない。いや、村があった形跡すらない。

俺は強力な呪力を手に入れて…そして、この世界の繋がりを失った。

「さて」

くすん…くすん…

「泣いているところ悪いが、これで終わりか?」

くすん…ええ。これでけいやくはかんりょうよ。

「面倒だから、破棄してもらっても構わんが?」

できないのよ。けいやくはきはできないけいやくなの。

「あ、そう。契約満了は?」

あなたがしぬまで…

「死ねば解けると?」

くすん…むりぃ…それもむりなの…

「はぁ?」

あなたがしねばわたしはさいけんげんもできずにしぬわ…

「それは…運がわるかったな…」

くすん…

泣きたいのも分からんでもない。今の彼女?かどうかは分からないが、かの存在はその力だけを俺に拘束され、身動きが取れず、自由な物は意思のみ。

そして俺の死はすなわち自身の死で、契約破棄の法も無いと。

「これは死んだも同然だな…と言うか死んでるな」

うわーーーーーん…

「まぁそれはそうと…こんな大規模な事件…いや、内容から実験か?その首謀者にはきっちりと落とし前をつけてもらわないとな…」

両親はこの事件の前に死んでいたしどこか隔意を抱いてしまっていたが、彼らは村人達は俺に優しかった。だから…

『円』を広げる。

ええっ!?けいやくしたてでこれだけのじざいほうを?

俺の中にいるだれかが驚く。

オーラは銀の炎を振りまきながら広がっていく。10メートル、50メートル、100、200、300…いたっ!

円に強烈なオーラが触れた。

「なにっ!?」

次の瞬間、そのオーラはすごい勢いで遠ざかっていった。

だが、オーラの匂いは覚えた。いつか落とし前はつけさせてやろう。


この世界には紅世の徒と言われるこの世の歩いていけない隣から渡り来る幽鬼のような存在が居るらしい。

彼らはこの世界の根源的な力である存在の力を貪り食い、その力を使い条理を歪め、己の欲望を満たしているらしい。

いちばん効率的に吸収できるのは人間で、その為に彼らは人の存在の力を貪り食う。

しかし、本来はこの世界には存在しない彼らはこの世界を大きくゆがませる。その歪みが果てはこの世界と歩いていけない隣…誰が呼んだのか紅世との危機と危惧する紅世の徒もいた。

その彼らは世界の安定のために同胞を討つ者が現れた。しかし、世界の安定のために同胞を討つのに自分が世界を歪めてしまう訳には行かない。そのために考え付かれたのは自身を人間との契約で契約の器に閉じ込めその力によって歪みを起こすことなく同胞を狩る方法だった。

それがフレイムヘイズと呼ばれる存在の始まり。

基本、フレイムヘイズは紅世の徒に大きな恨みを抱えている。そこを付いて彼らは契約する。その為自発的に渡り来た紅世の徒を討滅する。

フレイムヘイズは契約した瞬間に人間としての存在が抹消される。その人間の時空間の広がりの隙間を器に見立て、世界とのつながりを絶ち、そこに契約する紅世の徒が入り込むためだ。

それ故にフレイムヘイズは不老であり、長い時間紅世の徒を追う事ができた。


そこに来て、アオは異常であろう。

フレイムヘイズになったのは何かの実験の所為であり、強い恨みがあったわけじゃない。

いつかはとは思うが、自分も、紅世の徒も時間は膨大だ。焦っても仕方が無い。

目的はあったが目的遂行意識は低かった。

だから目の前に紅世の徒が居ようと討滅意識は薄かった。

「いけーっ!やっちまえーっ!」

胸にぶら下がる宝石がうるさい。

この宝石は契約した紅世の徒の意識を表す神器である。

アオの契約した紅世の王、『繚乱の(おり)・ソエル』が猛々しく吠える。

ソエルは名は無いと言った彼女の俺が送った名前だ。

「ぶっころせーっ!」

彼女を俺の中に留める事故の原因が探耽求究ダンダリオンであろうと言う事はこの数年の調査で分かったのだが…大別するとそのダンダリオンは本性そのままこの世界に現れる紅世の徒であり、簡単に言えばフレイムヘイズの敵であった。

坊主憎ければ…の精神で、彼女はとにもかくにも本性の儘に顕現する紅世の徒を憎悪する。

まぁそのおかげで同胞?と言えるかわからないが、フレイムヘイズとの軋轢はそれほどは無い。

それはいいのだが、マスケット銃を片手に徒の紛争の最前線に居るのはいかがな物かと…

どうしてここに居るのか。それはある宝具が欲しかったからなのだが…

基本的にフレイムヘイズは歳を取らない実力主義とは言え、年月を経た方が強力だ。

新人フレイムヘイズなぞ初歩の炎弾の自在法もまともに使えない。

そんな彼らへと渡されたのが小型銃。

「第一射、てーーーーっ!」

バンバンバン

迫る徒に銃を撃つ。効果は余り無い。小型銃ごときで死ぬ相手ではないのだ。

その小威力に気をよくして進撃してきたところに…

ドーンドーンドーン

後ろに控えた大砲の一斉射。

これにはたまらずに多少の徒が炎えと消えた。

「とは言え、…ここまでだなぁ」

「あ、ちょっと!?」

ソエルの言葉をさっくり無視してマスケット銃を放り捨てる。

「戦略は意味を成さなくなった時点で撤退だね」

が、見渡すフレイムヘイズは目の前に憎き徒が居るのだ、まだ逃げる状況には至らない。

互いに入り乱れての乱戦。

それを一歩引いて眺めている。

第一陣が全滅したところで二陣が撤退し始める。逃げる足取りは強者のそれではなく、ただの負け犬。ほうぼうの体で逃げ惑う。

「戦略級の自在師が居ないんだから戦争にはならんか。所詮は寄せ集めか」

「なにのんきなこといってんのーっ!?なんとかならないのっ!」

「何とかっていってもなぁ…ダンダリオンも居ないみたいだし…逃げようか」

宝具はあきらめよう。

「ちょっとー!?仲間を見捨てる気?」

「あー…じゃあ一撃だけ」

そう言うと印を組み上げ大きく息を吸い込むと地面を蹴ってジャンプ。

「火遁・豪火滅却」

ボウと口から大量に吐き出される炎弾。

直撃した徒は一瞬で炎と化した。

「ぽかーん…」

「おお、開いた口がふさがらないか」

口無いけど。

さて、ソエルが放心している間に撤退しようか。







逃げる方向を間違えた…いや、大威力攻撃をと跳んだのがいけなかったのか。

空を飛んで走る極光の射手、カールが駆るゾリャーにぶつかりそのまま上空の人となってしまっていた。

何とかゾリャーでの突撃は身を捻ってかわしたまでは良かったが、そのままゾリャーの上に着地したのが間違いだった。

「なんだい、おまえさんは」

「いやー、何と言われましてもね?」

ぶつかってきたのはそっちだろうに。

で、降りられない一番の理由は既にここが敵陣で、味方が誰もいないから。

不幸はそれに留まらない。

油断なく写輪眼で眺めれば目の前には格別の敵。

「あ、あれはヤバイな…」

そう確信した瞬間、突撃をかまそうとするカールのゾリャーから飛び降りる。

次の瞬間、巨大な鉄の棒でカールはつぶされ炎に還った。

「ほう…感のいいやつだ」

紫煙を吐く強大な存在感をかもし出す男がつぶやいた。

「千変、シュドナイ…」

それは音に聞く歴戦の紅世の王であった。

「ああ、だが、さよならだ」

振るわれるのはいきなり巨大化した鉄の棒。その様はまるでニョイボウのようだ。

これは流石にマズイっ!?

「ま、まずいんじゃないのっ!?」

ソエルが叫ぶ。

分かってるっての!

「スサノオっ!」

左手を振り上げるように突き出すと現れるヤタノカガミ。

「ぐぅ…重い…」

圧倒的な膂力で振るわれるそれはヤタノカガミの上から俺を弾き飛ばした。

腕を粉砕され錐揉みしながら地面を転がるが、スサノオの肋骨が衝撃を緩和しているためにダメージは少ない。

「ほう、俺の攻撃を凌ぐか…」

ヤバイヤバイヤバイ…

こいつはマジでヤバイと本能が警鐘を鳴らしているのが分かる。

鼓動は全力で脈打ち呼吸も荒い。

周りは徒に囲まれている。それも一軍に匹敵する数だ。全力で行かなければヤラレるっ!

せめて木遁が使えれば…

転生からこっち火遁、風遁、雷遁以外の属性忍術は成功していない。つまり使えないと言う事だ。

転がりながら印を組み上げると立ち上がりざまに発動させる。

「火遁・豪火滅失」

ゴウと火の壁が当たり一面を覆い尽くす。

「ぬぅんっ!」

シュドナイは手に持ったニョイボウ…神鉄如意を真一文字に振るい俺の豪火滅失を裂いた。

「ちぃ…!?」

とは言え、そのすべてを無効化したわけではないので周りにいた徒は炎に飲まれて消失した者も居たが、一割も削れていない。

劣勢な状況。しかし冷静に次の印を組み上げる。

「ほう、面白い、面白いなっ!」

飛び上がりざまにシュドナイは神鉄如意を投げ穿つ。

穿たれたそれは幾重にも分かれた槍となって降り注いだ。

おいおい、マジかよ…マジで桁違いかよっ!

俺は旅装束のマントを翻すと星の懐中時計でその時を止める。

途端にそのマントは時の干渉から外れそれに干渉することが叶わない。干渉できないと言う事は何ものにも壊されないと言う事。ある意味最強の盾である。

権能級のクロックマスターを失った今は念能力にしてもこれが精一杯だ。

ドゴンドゴンと鉄針が降り注ぐがマントを貫く事叶わず。しかし、逃げる事も叶わない。

降り注ぐ神鉄如意が降り止むとシュドナイの手に戻っていた。

「ぬぅんっ!」

いつの間にか二本になっていた神鉄如意。

その巨大化した二本の如意棒が俺を挟むように振られていた。

「くっそっ!」

慌てて下がったところに三本目が迫る。

増えたシュドナイの腕が三本目の神鉄如意を振るったのだ。

避けれないと悟った俺は左手で神鉄如意を掴む。とたんに神鉄如意が動きを止めた。

時間を止めたのだ。しかし、シュドナイはさらに腕を増やして神鉄如意を振るう。

右手でその時間を止めたが、これで手一杯。

五本目は止められない。

「はぁっ!」

ああ、これはちょっと…無理。

「しぬー、しぬー、しんじゃうーっ!」

ソエルが絶叫。

プチンと小気味良い音を出してつぶされたかと思うと俺は炎となって消えた。

「お疲れ様でした、将軍」

シュドナイの部下が彼を労う。

「馬鹿者、よけろっ!」

「っ!?」

忠告虚しく、シュドナイの軍勢の五分の1ほどが巨大な剣の一薙ぎで炎となって消えた。

「オロバスっ!」

吠えるシュドナイだが、彼自身はその一刀を神鉄如意で防ぎきり押し戻す。

「ぬぅんっ」

振るわれた一刀は草薙の剣の一振り、スサノオの持つ霊刀だ。

「へ、ええっ!?いきてるっ!?やったー」

ソエルの安堵する声。

「何故生きてやがる」

シュドナイの質問には答えずに跳ね返された草薙の剣を袈裟切りに振り下ろす。

ギィンと草薙の剣と神鉄如意がぶつかり合う。

何故生きているのかと問われればイザナギを使ったから。

使用されたイザナギは死亡したと言う現実を夢に置き換えたのだ。

結果死亡したと言う現実は否定され、無傷の俺が現れたと言う事だ。あとは認識の時間差を利用してスサノオでの一撃をお見舞いしたと言う事だった。

「お前達、この場から逃げろっ」

叫ぶシュドナイ。

「ですが、将軍を残してなぞっ」

「分からんのか、お前たちを守ってやる事が出来んと言う事がっ!お前達を無為に失えばベルペオルのヤツが何を言うか」

「しかし…」

「良いからいけっ!それとも俺につぶされたいのかっ?」

「はっ!直ちに」

問答の末、徒の一軍が後退する。

「こんなに滾るのは久しぶりだ。…さぁ、やろうか」

「な、なんかあいつチョーやる気になってるけど!?」

「分かってる、黙ってろ、ソエルっ!」

言い終えるが速いかシュドナイがその姿を直立歩行の巨大なキメラのような合成獣に変化する。

虎や蛇、蝙蝠などが混ざっていて、何処となく醜悪なつくりだ。

獣の足が躍動し、物理限界を超えて跳躍する様はまるで百獣の王。

神鉄如意の攻撃をヤタノカガミと草薙の剣で凌ぎ、時に破られ粉みじんに粉砕されるが、現実を書き換えながら戦闘を続行させる。

「不死の自在法だとでも言うのか?まぁこれだけの術だが、まさか無制限と言う訳じゃねえよなぁ?」

イザナギの制限時間は刻々と近づいている。

一度距離を空けると空間に漂うエネルギーを吸収する。人間や紅世の徒の存在の力とは似て別種の存在。世界そのものの力とでも言おうか。

背後に紋章が現れる。

うっすらと浮かんだそれを吸収率を上げ強化。肉付くようにはっきりと浮かび上がる。

「ちぃ!」

途轍もない力を感じたからだろうか、シュドナイが焦ったように神鉄如意を振るうが俺は避けない。

避ける必要も無い。

狙っていたのは最初から唯一つ。ただ、それには相手が強大すぎて地力が足りていなかった。

戦闘に割く分も考えればやはり不可能だったそれを、輝力の合成でまかない、現実を幻想で書き換え、そして発動。

万華鏡写輪眼・思兼(おもいかね)

相手の思考を誘導する力。しかし、言い換えれば相手を操る力である。

「っあ…はぁ…はぁ…死ぬかと思った」

いや、実際は何度も死んでいるが…

「ちょっとー何したのよ!?」

「ちょっと幻術をね」

「幻術ってなによっ!」

あー、うっさいうっさい。

「取り合えず、こいつを盾に逃げるよ」

シュドナイが存在の力のありったけで巨大化し神鉄如意を持つ。

イザナギが終了すると即座に時間を巻き戻し、失明のリスクをカット。後は気力と輝力が持つかどうかだ。

存在の力が密集している所には当然紅世の徒。

そして、このシュドナイをどうにかするのは彼の存在の力を使い切らせれば良い。

命令は単純。

存在のすべてを掛けて自陣を攻撃しろ。

誰もが見上げるほどに巨大化したシュドナイはそれに見合った大きさにまで変化した神鉄如意にさらに存在の力を込め、渾身の力で振り下ろした。

「お、おおっ!?」

「きゃーっ!?」

その一撃は大地を裂きそれに伴うクレーターと地震、そして衝撃派を撒き散らす。

化け物かよっ!

いや、化け物だったな。

イザナギが無ければ確実に死んでいたのは俺だ。

さらにその口から巨大な炎弾を飛ばす。並の徒など防御の手段を講じようが瞬時に炎となって消えた。

しかし、どれだけの存在の力を溜め込んでいるのか。

紅世の王の中でもこいつは別格だろう。

操っていると言っても自らの意思であるように誘導しているのだ。その戦闘技術を邪魔しない。

上空から黒い蝿のような何かが襲い来るが、炎弾で焼き尽くし、何処からとも無く伸びてきた鎖のような物は神鉄如意で弾き返しながら自陣を混乱、壊滅させていく。

…あいつ一人でこの戦争勝てね?

空を覆っていた黒い何かが無くなった事により、ようやく飛行が可能になる。

フレイムヘイズとなって何とか完成させた飛行の自在法を行使して飛び上がった。

徐々にその存在の力を消費して縮んでいくシュドナイ。ようやく存在の力が底を付きかけた頃、再び鎖が襲い掛かった。

拘束されたシュドナイはぐったりとしていたがどうやら俺の幻術からは脱した模様。

これはマズイ展開だ。

ああ言うタイプは根に持つタイプだ。このまま生かしておけば再戦に持ち込まれ、次は負けるかもしれない。

「禍根は断っておくべきか」

「なにするのよ?」

「シュドナイにはご退場願おう。実際弱っている今がチャンスだしね」

そう言うと輝力をすべてスサノオに回す。

スサノオは見る見る巨大化し、紅い竜鎧に身を包んだ。

天狗のツバサで空を掛け、腰につるした霊刀を抜き放ち、そして抜刀。

「ああああああっ!」

渾身の力で振り下ろしたその刃先から衝撃がほとばしり、シュドナイを粉みじんに斬り飛ばした。

余剰の力でクレバスもかくやと言う裂け目ができてしまったが、強大な王の討滅のためだ、仕方ない。

「ぽかーん」

本日二度目のぽかーん、いただきました。

さて、脱出。と羽ばたこうとした時、ブロッケン山の山上に強大な存在の力が顕現した。

それは先ほどのシュドナイをもってしても敵わないほどの力の発露。

山上に魔神が現れる。

紅世の徒とも一線を隔すその存在は神威の現われ。

「神威…招来?」

それはまるで神が光臨した様。

「なんだ、アレは…ソエルっ!」

「わかんない、わかんないよっ!ばかー」

ソエルは若い紅世の徒なのだ。その力は比較的大きく、王と名のっても遜色の無いものではあったが、発生は新しく、その為彼の存在、『天壌の劫火』アラストールのその顕現を知らなかったのだ。

ソエルは分からずともアオには感じ入る物がある。

それは幾度も神と戦った経験から来るものだった。

「…あれは真性の神、その招来じゃないのか?と言う事は、振るわれるのは神の権能…」

『審判』と『断罪』の権能を司る天罰神の顕現であった。

スサノオをもってしても今の俺にはアレには敵わん…

彼の出現はこの戦いの勝敗を決定付ける物となった。

徒達は逃げ惑い、フレイムヘイズ達は意気軒昂と徒を狩る。

アオはそれを見ながら姿を消した。


さて、あの大規模な闘争から幾年月。

ヨーロッパの当たりを気の向くままに旅をしていると、目の前でトーチに一体が霞と消えた。

トーチとは紅世の徒が人間を食った後に配置する食らった人間の代替物である。このトーチが世界に歪みの緩衝剤になると共にフレイムヘイズの目を誤魔化す一手にもなっている。

この辺りはトーチの数は多いが紅世の徒の気配がしないため既に討滅されたか去ったと思っていたのだが…

今のトーチ、自然に消滅したと言うには少々おかしい。

視線を彷徨わせ、トーチを探すと、再び消失。

今度はその消失の流れを視ていた。

トーチから分解された存在の力が一箇所に飛んでいく。

存在の力を扱うのは紅世の徒かフレイムヘイズ。

フレイムヘイズは自前で事足りるのでトーチをどうかしようとは思わない。

反対に紅世の徒は残りかすのトーチを食らうより人間を食らった方が効率は良いためにトーチなどを分解しようとは思わないだろう。

と言う事は、どう言うことだ?

視線を彷徨わせると緑の髪をした少女に行き当たる。

少女と視線が合うとドキリと身を震わせていた。

存在はかなり薄い上に何かしらの隠蔽がされているが紅世の徒だ。

「アオ、あれって紅世の徒だよっ!」

ペンダントが声を上げる。

「そーだなー」

「薄いっ!反応が薄いよっ!倒して、アレたおしてよー。ねーっ!」

「あー…どうしようか?」

声を向けられた緑の髪の少女は困り顔で答える。

「わたしに言われても…」

彼女の存在の器は並の徒ほど。普通に考えれば討滅に時間は掛からない。

アオは後悔する。この出会いを。

アオは憎悪する。この後現れる神を。


彼女、『螺旋の風琴』リャナンシーは先の大戦の中核だった宝具『小夜啼鳥(ナハティガル)』そのものだったと言う。

その宝具はどんな自在法をも紡ぐ事ができると言われていた宝具であり、俺も奪取をと考えたが、大戦もあり諦めていた。

宝具はリャナンシーを閉じ込め、強制的に操るだけの物で、効果が…いや、そのどんな自在法も使えたのはリャナンシーであったらしい。

彼女の目的と俺の目的を鑑みて、協力できるのでは?と彼女に構成中であった幾つもの自在法を改良、また新しく作ってもらった。

その中の一つ。『封時結界』その劣化自在法『封絶』の開発。それが俺の後悔の始まりだ。

対象と自身、その他建造物を時の因果から切り離す自在法なのだが、対象を限定しなければその空間すべての因果を閉じ込め孤立させる。

この自在法は簡略されている事もあり、殆どのフレイムヘイズや徒が使うことが出来るほどだ。

だからこの術式を俺は、いやリャナンシーも誰にも教える気は無かった。

だがしかし、この世界には隠蔽する事に対して反目する権能を持つ神が渡り来ている事をアオはもっと注意を払うべきだったのだ。

(かく)のショウ(ぎん)』シャヘル。

アラストールと同じく紅世真性の神で、その権能は『喚起』と『伝播』

その神に目をつけられた封絶は彼女の権能で徒達に伝播され、結果、効率的に人間を貪り食うために使われることになる。

「すまなかったな。まさかこんな事になるとは…」

と、リャナンシー。

「いや、俺の所為だろう。安易に作るべきじゃなかったのだろうな」

俺たちが開発した自在法で効率よく人間達が殺されていく。これでは関係が無いとは言える問題ではなくなった。

「封絶を絶やす事は既に不可能。ならば落とし前は喧伝した本人に取らせるべきだろう?」

「だが、相手はどこに居るかも、いや存在そのものは在るとされるが実体を伴うかは分からぬ神なのだぞ?」

「ああ、だが、実体が有るのなら殺してみせる。…だから、その神が実体を表す自在法を作ってくれ」

「また無茶な事を…」

「ああ、そうだな。だが、これで最後だ。これ以上は作らない…作れない」

「…わかった、神威招来の術式をもう一度見直してみよう。私の所為でもあるのだからな」

「…助かる」

結局、彼女をもってしても作れた自在式は対処療法のようなもの。

しかし、細く繋がる復讐の糸だった。

その後、俺とリャナンシーは言葉もなく別れた。彼女は彼女の目的があったし、俺にも新しい目的が出来たためだ。


シャヘルをいまだ発見出来ず、時は20世紀初頭。

面倒な娘を押し付けられた。

何を言っているのかと思われるが、事実はそれだけだ。

フレイムヘイズを支援するアウトローと呼ばれる組織がある。

アオは殆ど利用しないが、生きていればフレイムヘイズとしての知己も増える。

そんな中、押し付けられたのが15歳ほどの少女だ。

契約したばかりだという彼女は徒を目の前にして、いや目の前にせずともその力を暴走させていた。

フレイムヘイズが悠久の時を生きるとて、人間の寿命を超えるのは稀だ。

一つ目の壁が人としての寿命である80年。それを乗り越えれば数百年は生きる。

とは言え、それは精神に限っての事だが。

戦闘で命を散らすフレイムヘイズは多く、数百の年月を重ねるフレイムヘイズと言うのは実は数が少ない。

そして、もっとも危ないのが契約したてのフレイムヘイズだろう。

契約し、絶大な紅世の王の力をその身に宿したといえど、それだけで強大な技が使えるという訳ではない。習熟にはそれなりの期間がかかり、よって契約したてのフレイムヘイズなどは紅世の徒との闘争の果てに負ける事は珍しくなかった。

それをどうにかしようと、先達が後輩の面倒を見るというのも珍しい話では無いのだろうが…

アオは後輩の指導など受け持つつもりも無かった。

しかし、彼女。キアラ・トスカナは文字通り置いていかれたのだ。

彼女を連れてきたフレイムヘイズは既に去った。

ここはイギリス、ロンドン。

そこでアオが開いた小さな喫茶店だった。

「…まぁ取り合えず」

ぼりぼりと頭を掻くと給仕服を取り出してキアラに渡す。

「…なんですか?」

「今は忙しい。それを着てこっちに来い」

そう言うと休憩室を出る。

「こ、これはなんなんですかー!?」

しばらくして、キアラの絶叫が聞こえたようだが気にしない。

「じゃ、はい、これ三番テーブル。あー…右手前から一番だから」

「あ、はい…じゃ無くて、私この場所であなたからフレイムヘイズとして学びなさいって!」

「とは言え、今は忙しい。後で聞いてやるから取り合えず、手伝え」

「ええええっ!?」

「給仕もできん戦闘狂なぞクソの役にもたたん」

余りの忙しさに初対面だと言うのに扱いが雑だった。

彼女はしばらく面を食らっていたようだが、しぶしぶと動き出した。

「ああ、二階に金髪の小さい生意気娘が居るからつれて来い」

「ええ!?」

「いいから行くっ!」

「はいーっ!」

タタタっと駆け上がるキアラ。

しかし、しばらくするとダダダっと駆け下りてきた。

「ぐっぐっぐ…」

「ぐ?」

「紅世の徒が居ますよっ!?ここ、あなたはフレイムヘイズですよね!?」

「それが分かって倒さずに降りてくるお前もお前だ」

「……ああっ!?」

「アオー、なんか変なのが来たんだが…って誰?」

現れる金髪を両側でアップスタイルに纏める10歳ほどの少女。

「こ、この子。この子です。この子、紅世の徒ですよね!?」

パニックに陥るキアラをあえて無視。

「お前、忙しい時にサボるとは良い度胸だな」

「だ、だってー」

「だってもクソもあるか。お前が大食らいの所為で路銀がろくに貯まらないんだぞ?おかげでこうして居ついて商売を始める始末だ」

「それはアオも同じじゃぁ…」

「ああん?そんな事言うと二度と外には出さないが?」

「ご、ごめんなさいっ!…い、いらっしゃいませー」

と言うと金髪の少女。ソエルは店の入り口へとダッシュで掛けて行った。

「か、彼女、何なんですか!?」

「あれか?あれは俺の契約した紅世の王。名を『繚乱の澱』と言ったか?たしか」

「ええっ!?」

俺の言葉にさらにショックを受けたのか、しばらくの間…それこそ昼が終わるまでキアラは固まっていた。

昼の繁忙期を終えると、ようやく休憩。

「彼女、何なんですかっ!」

再起動したキアラが再び同じ質問をした。

そんな彼女、ソエルはイスに腰をかけると足をプラプラさせてコップに注がれたジュースを飲んでいる。

「俺の契約した王だが?」

「それはおかしいでしょうっ!」

「そうよ、何で契約した王が自由に体を得て活動しているのよっ」

俺の答えに返ってきた声はキアラのオサゲについている二つの鏃。

キアラが契約した紅世の王、『破暁(はぎょう)先駆(せんく)』ウートレンニャヤと『夕暮(せきぼ)後塵(こうじん)』ヴェチェールニャヤだ。

かしましい事この上ないやかましい性格のようだ。

「ソエルの表層意識を神器から分離、存在の力で体を作って自由行動。それだけだが?」

ソエル本体は今も俺の中にある。

あそこに居るのは言わば影分身、その応用の自在法だ。

「まぁ、その存在だけを見れば確かに自由に顕現している紅世の徒だな」

「存在するための力はどうしているの?」

とウートレンニャヤ。

「当然、俺から引っ張っている。人を食う事はないな」

食えないとは言ってないが。

「え?それって有りなの?」

とヴェチェールニャヤ。

「どうやっているか分からないけれど、それって不老不死を餌にすれば紅世の徒は自由に顕在できるって事?」

ウートレンニャヤも追随する。

「まぁそうだな」

「それって…」

「今までの法則が崩れるわよっ!?」

「紅世の徒は暴れたい放題じゃないっ」

「そうは単純じゃないな。この自在法は難しい上に…」

印を組み上げる。

「きゃっ!」

ガシャンとコップが地面に落ちて割れた。

いきなりソエルが消えたからだ。

「優先順位はこちらにある。フレイムヘイズの意思無くては顕在は出来ないな」

再び印を組み上げ自在式を廻すとソエルが現れる。

「もーっ!アオのばーかっ!ばーかばーかっ」

この術式を得て以降ソエルは丸くなったのだが、それがいい事なのかどうか。

「え、でも強力な紅世の王を顕現させることが出来るんですよね?」

と、キアラ。

「まぁ本来の半分でよければね」

「半分?」

「そ、半分。フレイムヘイズにあるはずの存在の力を半分にしてアレを出してるの。つまりどう言う事か分かる?」

「えと、どう言うことですか?」

「もー、しっかりしてよね私たちのキアラ」

「存在の力が半分になっちゃうんだから地力の差が出ちゃうじゃない。そんなんで紅世の王を討滅出来るほど簡単じゃないのよ」

俺の言葉にウートレンニャヤとヴェチェールニャヤが答えた。

「だから普通のフレイムヘイズには無用の長物。まぁ、そもそも習得出来ないだろうけど」

ま、それよりも。

「俺のところで修行しろって?」

「あ、はい」

面倒な…

「でもフレイムヘイズの能力は個人個人別の形態だろう?」

「でも、当代随一の自在師であるあなたには学ぶことも多いだろうと…」

「ああ…なるほど…だが俺は使用者(ユーザー)だ。製作者(クリエイター)じゃないが…まぁそれでも教えれる物はあるのか?」

「ユーザー?クリエーター?」

人気の無い裏通りへと移動する。

足元から円形に蒼銀の火線が広がっていき、半径50メートルほどを現実から切り離す。

「封絶…」

ピクリとその言葉に嫌な感情が喚起される。

「…そんなまがい物と一緒にして欲しくないな」

「まがい…もの?」

「私達のキアラ。これは封絶じゃないわ」

「私たち以外の人間がいないわよ」

「え?」

「これは封時結界。空間を切り取り時間をズラす自在法。これの劣化自在法が今日伝わっている封絶だ」

「そうなんですか?」

「もしかして封絶の生みの親ってあなたなの?」

キアラが良く分からないが感心し、ヴェチェールニャヤが問う。

「そう。俺の原罪」

「もしかしてあなたは…」

ウートレンニャヤが何か言おうとした所をさえぎると封時結界の自在式を表す。

「これは?」

とキアラ。

「封時結界の自在式。未だにこれを使えたフレイムヘイズは俺以外いないのだが…ここでの修行の最終目標はこれを自在に使いこなすことだな。契約したてのヒヨッコが覚えれたとなれば他のフレイムヘイズが出来んのは自身の怠惰の所為だろ」

「ええええっ!?でもでもでも、難しいんですよね?」

「いいから覚えろっ!これは師匠命令」

「いつから師匠にっ!?」

「え?お前がここに来た時だろ?不本意だが」

「そ、そうなんですか?」

そうだろ。

そんなこんなで始まるキアラの修行。

しかし、やはり中々覚えられず。

仕方が無いので今までの経験からアプローチを変えてみた。

心転身の術から影分身の術。

「ちょ、ちょっとなんか私の体が勝手に動くんですがっ!?と言うかなんで私のなかにぃぃぃぃいいい!?気持ち悪いですっ!早く出て行ってっ!」

「気持ち悪いとか言うな。これは覚えの悪いお前に仕方なくだろ?」

「自分の口で押し問答とか気持ち悪すぎですっ!」

「はいはい」

「だ、だからーーーっ!?」

影分身で封時結界の感覚を掴み経験値を稼ぐと本体へ還元。しかしやはり一筋縄では行かないらしい。

まさか習得に1年掛かるとは…そんなに難しいのか?

最後は250人まで分身を増やしての1年。

普通にやれば250年かかる計算だった。

「キアラ才能無いんじゃね?」

「うっ…」

「こら、私達のキアラをいじめないで」

「そうよ、私達のキアラをいじめていいのは私達だけよ」

と、落ち込むキアラに止めをさすウートレンニャヤとヴェテールニャヤ。

「それに一年も不眠不休で心の中に師匠が居るんですよ?プライベートも全くな無いし…私もうお嫁に行けません…」

しくしくと泣き始めるキアラに突っ込みを入れる。

「人間やめてもお嫁には行く気だったのかよ」

「もう師匠がお嫁に貰ってくださいね…」

「あー、はいはい」

「約束ですよぉ…」

コントは終了。さて。

「私達のキアラの嫁ぎ先の事はさて置いて、私たちは存在の力のコントロールにこんなに順序だった修行方法があるとは知らなかったわよっ」

なんで他のフレイムヘイズが知らないのと、ウートレンニャヤ。

「まぁ、教えてないし。実際列強のフレイムヘイズは何となくでも自然と使えてたから教える機会が無かった」

纏、錬、発、絶、凝、周、円、堅、硬。

これが使えれば取り合えず紅世の徒との闘争での生存率は上がるだろう。

フレイムヘイズや紅世の徒の能力はオーラと殆ど同じ性質だ。

誰もが使える自在法がある一方、自身の欲望や本質儘の能力は他者が真似ることは難しい。

前者は忍術、後者は念能力と言うところか。

念法を元にそれらを基本から応用まで、影分身を使っての修行。

それもどうにか形になってきた。

後は彼女の『発』の本領だけだ。

彼女の契約している王の先代を見たことがある。

輝くオーロラに乗った美丈夫だ。

代を重ねるフレイムヘイズの契約主は先代の技術を模倣させたがる。

『極光の射手』その必殺の自在法は鏃に乗っての特攻から『グリペンの咆』『ドラケンの哮』での射撃攻撃。

重爆撃機と言った戦闘方法だった。

だが、彼女。キアラはそれを使えない。

誘導も出来ないオーロラの矢を撃ち出すのみだった。

俺はキアラの髪から神器ゾリャーを千切る。

「きゃー、ちょっと髪の毛がちぎれましたよっ!?」

「フレイムヘイズなんだからそれくらいほっておけば元に戻るだろ」

キアラの苦情を封殺。

「ちょっとちょっと」

「私達をどうするつもりっ」

とウートレンニャヤトヴェチェールニャヤ。

「ちょっと話がある。キアラは先に戻ってろ」

「えっと…あの…」

「いいから」

「あ、はい…」

おずおずと席を外すキアラ。

そしてその場には俺とウートレンニャヤとヴェチェールニャヤのみとなる。

「で、話って何よ?」

「別に私達にはあなたと話すことは無いのだけれど?」

「お前らは先代と同じ戦い方をキアラにさせたいのか?」

と、問う。

「ええ、そうよ」

「だってキアラは極光の射手なんだもの」

「本来、フレイムヘイズの個々の能力は契約した王の本質から自身に合う能力を身に付けるものだ。先代の自在法がゾリャーによる突撃と強力な砲撃であったとしてもそれがキアラに合うかは別物だ」

「それは…」

「君らが語って聞かせる先代が、キアラそのものを歪めているな」

「そんな…」

「キアラはキアラだ。カールじゃない」

「あなたカールを知って?」

「殆ど面識は無かったがな。彼が死ぬ瞬間を見ていたのは俺だ」

覚えてないか?と。

「あなたっ!あの時のっ」

ヴェチェールニャヤの驚愕。

「カールがやられたあいつ…千変シュドナイを倒したのってあなたなのっ!」

そうウートレンニャリャ。

キアラと契約してから調べたのだろう。先代、カールを討ち滅ぼした彼女達の宿敵を。

そしてそれが討伐されたと言う情報も。

「新人教育にしては少しやりすぎたが…もう良いだろ」

世の中には纏、錬、発、絶、凝だけ教えて後はがんばれみたいに教えるやつも居るんだぞ?

路銀もしばらくどうにかなりそうなくらい貯まったし、店ももうたたんだ。

久しぶりに放浪に出るとしよう。

「行くのか?」

いつの間にかソエルがやってくると自身でその存在を俺の中に戻した。

「あんたらも戻れ。望めば直ぐにキアラの元に戻れるのだろう?」

神器とはそう言うものだ。

『フライヤーフィン』

胸元の宝石からソエルの声が聞こえ、自在法が展開される。

背中に現れる二対四枚の翅。しかし羽ばたくことの無いそれはただの力の発露に伴う形の現われでしかない。

蒼銀の燐粉のような炎を撒き散らしながらゆっくりと上昇。

「それじゃ、因果の交差路でまた」

そう言うと手に持った神器、ゾリャーからも返答がある。

「ええ因果の交差路でまたお会いしましょう」

「二度と会いたくないけどねー」

最後までかしましい奴らだったね。



フランス・パリ。

さて、こうして師匠の役目も一応終わったと思ったのだが…

「師匠、今度はあれを食べてみましょうよっ!」

俺の腕を引くのはオサゲ髪の少女だ。

「とっても近い交差路でしたわね」

「残念、本当残念」

「お前ら、きっとこうなるって分かってただろ」

とゾリャーをにらみつけるが、鋼鉄の鏃は何処吹く風だ。

「こら、ソエルお前は食いすぎだっ!」

「んごっ!?」

両手いっぱいに食料を手にしたソエルが息を詰まらせる。

「何でこうなったかねぇ…」

俺と合流するために飛んで現れたキアラはゾリャーを巧みに操っていた。

しかしそれはカールのように戦闘機のように跨るのではなく、背後に廻した二つの鏃から極光を迸らせ、翼のようにはためかせての登場だった。

それはカールとは違った力の発露。

まぁもう少しこのかしましい奴らと付き合うのも悪くないか。







神器ゾリャーをひったくる様に私から奪っていったあの日、あの人は私の前から姿を消した。

あの人の修行は、それはとても大変だった。

大変ではあったのだが、理論騒然として、その修行内容はどこか合理的だった。

日に日に強くなるのが自分でも分かる。

ただ、それでも私はまだ極光の射手としての力を殆ど使えていない。

極光の射手は本来神器であるゾリャーに跨り空を掛け、グリペンの咆とドラケンの哮での攻撃をおこなうらしい。

その事は私の契約者、ウートレンニャヤとヴェチェールニャヤに聞いていた。だけど…

私はきっと自分の力が恐ろしい物だと思って無意識の内にセーブしているんだって思っていた。だけど…

私の前から飛び去るあの人が背負う光る翅。その撒き散らす蒼銀の火の粉がとても美しい物に見えた。

なんてキレイに力を使うんだろう。

そう思った。

ああ、そうか…そうだったんだ。

私は、あの時…

そう思った次の瞬間、私はゾリャーを握り締めていた。

開いた手のひらからゾリャーが浮かび上がると私の背面へ。

「そうだね、キアラ。あなたはあなたよね」

「そうだね。あなたはあなたの極光の射手だったのね」

ウートレンニャヤとヴェチャールニャヤの声。

ゾリャーが極光をまとうと噴射しながら両翼へと変化した。

そうか。これが契約した王の本質を基にフレイムヘイズが形作る力の発露。

自在法。あの人が言うところの『念』能力。

地面を蹴る。

蹴ったつま先は地面を離れたまま空を切る。

体が浮かんでいた。

あの人を追いかける。

風を切る風圧が思いのほか少ない。しかし、これは風圧を軽減する自在法を展開して和らげているからで、感じる風圧はそよ風が肌を通り抜けるようだ。

飛び去ったあの人の姿はすでに見えない。

でも大丈夫。直ぐに追いついてみせる。

だって私は大空を翔る極光の射手だもの。この世界に辿り着けない所はないわ。

あんなに綺麗に力を使う人だもの。もう少し間近でみて見たい。

フレイムヘイズとしてはダメなんだろうけど、それでも…







封時結界内。

そろそろいつもの事となったキアラの修行。

形は変わっても極光の射手の戦い方は何も変わらんらしい…

高速で特攻、爆撃。以上…

「どうですか?」

「まぁ、戦闘機のそれだな…」

「戦闘機?言葉を読み解くと航空機に兵器を付けた機械の事みたいですけど…」

時は19世紀後半。

まだ航空機は登場し始めていたが、戦闘機はまだ登場していなかった。

「そうだろう?飛びながら弾薬を撒くような戦い方なんだから」

「なによなによっ」

「私達のほうがよっぽど速く飛びまわれるわ」

とウートレンニャヤトヴェチェールニャヤ。

「そんな事は音速の壁を越えてから言え」

「あ、あの…音速って?」

「そこからかよっ!」

あー、いやまあしょうがないか。

一般的に知られるようになるにはまだ早い単語だ。

「移動砲台を目指すならせめて気配遮断(ステルス)の自在法を常時張っておけ」

「あの…それは結構難しいのですが…」

ゾリャーの展開、それと必殺技のグリペンの咆ドラケンの哮で念能力でコンピュータで言うところのメモリをすべて使い切っているようだ。

「大体、師匠がおかしいんです。どうしてそんなに幾つも自在法が展開できるんですかっ!」

「そりゃ平行思考(マルチタスク)で起動するからだろ?」

「マルチタスクってなんです?」

1から10まで知らないのを聞いてくるのはいい事なのだが…10全部を教える身にもなってくれ。

「その体はもう普通の人間じゃないんだぞ?脳の機能を活性させて思考を分割すれば同時に幾つも展開できるだろ?」

「だろ?って言われましても…どうやって?」

「まず右手で円を書き、左手で三角を書け。それを思考できるようにしろ」

「で、出来ませんよっ!」

「やれっ!影分身をしてでも覚えろ」

「ひーっ」

こんな調子で、まだまだキアラには教えることが有った様だ。

しばらくして影分身を解くと頭を抑えて地面を転がりまわるキアラの姿があった。

「あたまが…あたまがーーーーっ!?割れる…割れちゃうっ…いや、もう割れたよっ」

「割れてない割れてない」

「アオってけっこうきちくよね」

と、一緒になってキアラを眺めていたソエルが言った。

「そうか?」

「そうよ」

そうらしい。

「しばらくこの修行だな」

「ぞんなーっ」

キアラの顔が色々見せられないくらいにベシャベシャだった。

百年の恋も冷める勢いだ。

「せっかくかわいい顔が台無しだぞ?」

「え?かわっ…ってそんな事よりも清めの炎お願いっ!」

「もーしょうがないわね、私達のキアラは」

オーロラ色の炎が瞬間キアラを包んだかと思うとベシャベシャだった顔が元に戻る。

「それだけ回復したならもう一度だな」

「え?ええっ!?そんなー…」

「やっぱりきちくなんじゃない?」

そんなはずは無いはずだ。



さて、どこまでキアラに教えるべきか…

捕縛自在式(バインド)防御自在式(プロテクション)は必要か。

どうやらキアラの空中戦闘は砲撃魔導師のスタイルだろう。

動けない敵に対しての必殺の一撃。シンプルだが強力だ。


今日は模擬戦。

空中のキアラが弓を構える。

グリペンの砲だ。

別に弓の形をとらなくても撃ち出せるが、モーションは集中力を高めるためにも有用であるし、フェイントとしても使える。

撃ち出すグリペンの砲から後ろの羽からのノーモーションのドラケンの哮。このコンビネーションはかなり危険だった。

対する俺は手に持つ宝具『弐連神威』を構える。

これは東洋の刀職人がその存在を掛けて生み出した宝具の一振り。

片割れの大太刀は行方不明のままだが、これは俺に送られた。

手になじむ大きさの小太刀である。

「行きますっ!」

キアラのグリペンの砲が討ち出される。

小太刀に存在の力を込めて切り裂くが、直ぐにドラケンの哮が襲い掛かるためにやむなく回避。

『プロテクション』

ソエルの援護。

次の直撃は防御自在式で受け止める。

『バインド』

「あぶないっ!」

ふっと現れるソレをキアラは急加速でかわして見せた。

「ならばこっちもっ!」

そう言うキアラは弓を構えて発射。

斬るか、受けるか、考えたところで矢が幾つもの光陣を引きながら裂けた。

「バインドかっ!」

俺の体を取り囲むように四方八方から襲い掛かるバインド。

最初の一矢はカムイで引き裂いたが、さらに同種の術式をキアラは既に放っていた。

初動が遅れた為に幾重ものバインドに拘束される俺。

「あお、かっこわるい」

「だまってろっ!」

そこに…

ゴウゥとグリペンの砲、ドラケンの哮が襲い掛かる。

「ちょっ!それは流石に…」

慌てて輝力を合成する。

背後に現れる紋章。

そこに剣十字の文様は織られていない。さらに巴も欠けている。それは俺にもうその模様は相応しくないと言う事…

中心の太陽、それを囲むように太陰太極が織られた曼荼羅。

欠けている俺にはこの文様が相応しいのだろう。

そして…

「…乖離遮断(ゼロエフェクト)

途端に縛っていた捕縛自在法が分解する。そしてそれは着弾したはずのキアラの攻撃をも触れる前に存在の構成を分解されて食らい尽くす。

「う、うそぉっ!?」

驚くキアラ。

「殺すつもりで撃っておいてその反応はどうなんだ?」

「あ、あはは…」

取り繕ってからゆっくりとキアラが近づいてくる。

「それで、師匠。それはどう言う?」

「みれば分かるだろ。自在法を無差別に分解する自在法」

繚乱の澱、ソエルの本質から来る自在法だ。

「え、ええっ!?」

別にあのキアラの攻撃を他の技でもいなせないわけじゃない中これを使ったのは実験も含めていたから。

「キアラの攻撃が防げるのならこの術式は完璧だな」

「ちょっと待ちなさい。なによそのおっかない自在法はっ」

とウートレンニャヤ。

「と言うか、どうしてあなた自身の自在法は分解されないよ」

とヴェチェ-ルニャッヤ。

「自分の術式まで分解するのはアホのする事だろ」

「えええっ!?もしかして師匠って無敵なんじゃ?」

「そうでもないな。おそらくキアラのさっきの攻撃ほどの存在の力の量が限界だ。俺の基準でおよそAランク攻撃相当と言う事。それ以上は無理っぽいな。あと実体を伴う攻撃は防げない」

決して無敵の能力では無いのだ。

「それでも並の徒など何も出来ずに終わるんじゃ…」

「並程度なぞ今のキアラでも瞬殺だろうに…」

「それもそうねー」

「さすが私達のキアラ」

ウートレンニャヤとヴェチェールニャヤがそう言って鼻を高くする。

「でも…師匠に勝てる気がしません」

「お前…まだ契約して数年だろうが…数年で抜かれたらヤだよ流石に」

とは言え、影分身での修行で数年でも百年を超える経験値を得ている。有象無象のフレイムヘイズなんかよりはよっぽど強いだろうが。

「まぁキアラは後はフィジカル面かな」

キアラの持ち味は高機動、高威力と言う面から突撃からの制圧と言うトリックスターのような戦い方に向いている。だが、それを許されない環境と言うのも多々ある。

「キアラはまだ砲撃タイプの弱点はまだ克服できてないからねぇ…接近してきた敵を相手には大分不安がある」

「フィジカル面での修行ですかぁ…」

「ま、やる気が無ければ別に良いさ」

「キアラ、ここはあの鬼畜から接近戦を学んでおきなさい」

「そうよ、私達は最強だけど、弱点は無い方がいいわ」

過去の苦い思い出からキアラの契約主が声をあげる。

先代の死に様を思い出したのだろう。

「うぅ…分かりました。お願いします、師匠」

「そんな怯えなくても最初はゆっくりと乱打から始めるさ」

「…最終的には?」

「フレイムヘイズって腕の一本や二本生えてくる物らしいよ?」

「ひぃぃ…」

俺の答えにキアラは涙眼だった。

「そう言えば、師匠の二つ名ってなんて言うんですか?」

「誰が好き好んでそんな厨二病患者のようなも名乗るかっ」

「えっと、達意の言でも言葉の意味を推し量れないんですが…チュウニビョウってなんですか?」

「あと100年したら分かるだろ」

「ええっ!?」

その言葉が生まれるにはまだ100年ほど早かった。



世界から色が失われ、稜線を弁柄色の炎が揺らぐ。

「封絶っ!?徒っ!」

キアラが突然の徒の来訪に驚きの声を上げる。

「ねぇ、アオ…この色はあいつだよね…」

と、めんどくさそうな声を上げるのはソエルだ。

「ああ…あいつだ…しかし見かけによらず器用なヤツだな。性格的に封絶なんて張れないと思っていたよ」

だが…

封絶(これ)は嫌いでね」

覆った風絶に蒼銀の炎が干渉し、術式を書き換える。

封時結界だ。

途端に内部から人間の気配が消えた。

ドシンドシンと地面を震わせて現れる紅世の王。

驀地シン(ばくちしん)・リベザル。

その姿は二足歩行の巨大なカブトムシ。力ある徒は人化する傾向がある中、珍しく本性のままに顕現する徒だった。

「久しいな、悪夢(ナイトメア)。ここであったが100年目。今日こそはここでお前を討たせて貰おう」

「いや、100年は経ってないとおもうぞ?」

「ま、まってよ、リベザルっ!相手はあの悪夢(ナイトメア)なんだよっ!ここは逃げようよ」

リベザルの後から走りよってきたのは小柄な紅世の徒、蠱溺(こでき)(はい)ピルソインだ。

この二人はどう言う訳かいつもセットで行動している。

強大な王と普通の徒だが、関係は対等。故にリベザルに臆せずに物言いをするピルソイン。

「ふんっ!怨敵に出会って逃走するなぞ出来るかっ!」

「そう言って何度も負けてるじゃんかっ!今度こそ死んじゃうかもしれないよっ!」

「闘争の果てに散るなら本望。ここで逃げれば亡き将軍どのに顔向けできん」

「死んでないからっ!ね?将軍は死なないの、分かるでしょ?」

「それとこれとは話が別だ」

「同じじゃないっ!」

ちょっとしたコントを眺めていると、キアラも困惑の表情だった。

「えっと…どう言ったご関係で?」

「何十年かに一回くらいの割合でああやって突っかかってくるんだ」

「で、どう言うわけか毎回逃げられるんだよね」

とソエルが補足する。

さて、まぁ…今回はっと。

「キアラ」

「はっ、はいっ!」

「紅世の王にどれだけやれるかやってみろ。即死はするなよ。即死以外なら助かる」

「っ…は、はいっ!」

いつまでも、いつでも俺がキアラの傍に居るなんて事は無い。

いつかは一人で対峙しなければならないのだ。

彼女はフレイムヘイズ。徒を狩るものなのだから。

「そこをどけ、小さいの」

「師匠がやれというんです。出来ません」

「お前はあいつの弟子なのか?」

「ええ、まぁ…」

なんだ、その歯切れの悪い言葉は。

「ならばお前でまずは肩ならしだ。ピルソイン、お前は下がっていろ」

「あああああ、もう、勝手にしなよっ!」

「いくぞっ!」

そう言って四本ある腕の一つを振りかぶると見かけによらず俊敏な動きで距離を詰め振り下ろした。

「はっ!」

キアラは後手に回った。

距離を取って戦う戦法を得意とするフレイムヘイズが距離を詰められる。

普通だったら致命的だ。

「くっ…」

存在の力の攻防力を足に30、腕に70に振り分け頭の上でクロスさせた両腕でリベザルのコブシを受けきった。

ガンと足元の地面が沈み込み、苦しそうに嗚咽を洩らすがキアラにダメージらしいダメージは無い。

キアラはリベザルのコブシを跳ね上げると距離を取ろうとバックステップ。

しかしリベザルは素早く追撃する。

「はぁっ!」

それより一瞬速くゾリャーが弓の形に変化。矢を番え撃ち出した。

「ぬぅんっ」

十分な存在の力を込める暇も無く撃ち出されたそれをリベザルは事も無げにコブシで打ち砕いた。

「うそぉっ」

キアラを打ち砕かんと迫るコブシをキアラは弓に存在の力を込めてそのまま打ち払った。

激突する弓とコブシ。

互いに込めた存在の力が大きい物だったのか余波で空気が震える。

二つの力の激突は互いに堪らずと距離を空けた。

しかし、距離を空ければ遠距離攻撃が主体のキアラが有利。

キアラは既に弓を構えている。

離した指先から極光が幾条も走りリベザルを襲う。

打撃一辺倒の徒ならこれは堪らないはずだ。

だが、リベザルは違った。

組んでいた腕についている数珠を飛ばし、極光にぶつけて来た。

リベザルが持つ宝具『七宝玄珠』だ。

「っ…」

苦悶の声を上げるキアラ。

なんと力負けをしたのはキアラの矢の方だった。

しかしキアラは冷静に二射を放つと七宝玄珠を押し返した。

だが、その攻防に隠れてリベザルが接近。その大きなコブシを振り上げた。

「ぬぅん」

「あっ…かはっ…」

肺から空気が全部出る勢いで圧迫され空中に投げ放たれるキアラ。

「む?」

やった手ごたえが無かった為にリベザルはいぶかしんだ。

それもそのはず、キアラはダメージこそ負ったが致命打にはなっていない。

攻防力を操って瞬間的に胸部の防御を上げていたのだ。

キアラは空中で印を組む。

アオの教えた数少ない忍術の内の一つ。

影分身だ。

現れた三体の影分身。

それに相応の存在の力が込められている事に気が付いたのか、リベザルも投げはなった宝珠に存在の力を送り自在法を組み上げると、その珠を核とするようにリベザルの分身が現れる。

振るうコブシ、受ける腕の攻防はそれぞれの分身で一進一退だ。

リベザルの猛攻を凌げるとは、どうにか修行の成果が出ているようだ。

その後方ではキアラは必殺の一撃、ドラペンの砲を構えている。

「甘いわっ!」

リベザルは残りの宝珠を飛ばすと残りの四体の分身でキアラを攻撃する。

多数の攻撃にキアラは二体を巻き込むように矢を放つのが精一杯で残りの二体の攻撃は止められない。

挟み込むように左右から迫るリベザルのコブシ。

「ちがうよっ!リベザル、それは偽者だよっ!」

ピルソインの言葉が響いたときにはリベザルの攻撃で矢を放ったキアラは消し飛んでいた。

ポワンと消えるキアラ。

後方のそれも実は影分身だったのだ。

前方に出した3体の影で新しく出した四体目。それに注目を集めておいての奇襲。

「何だとっ!?」

注意を周囲に向けるリベザル。

しかし、気がついた時には既にキアラはゾリャーを展開。極光の翼を広げてリベザルへと突貫していた。

「バカものめっ!」

リベザルの存在の力の桁が上がる。それにつれて一瞬で身長が倍近くに変化。

その巨体から繰り出すコブシ、その重量にしては速い攻撃はカウンターでキアラを捉えた。

いつかの極光の射手のように大きな物理攻撃でキアラは潰されてしまう。

「やった?」

とピルソイン。

「ちっ…やってねぇっ!」

「え?」

飛んできていたのはゾリャーのみ。

つぶされたキアラの影分身は分解される存在の力を再構成。鏃はグルグルと縄を引くようにリベザルを回り込み、彼を拘束させる。

「これくらいでこの俺がどうにかなるものかっ!」

「そう言わずにもう少し私たちに付き合いなさいよ」

「遠慮しなくていいのよ」

捕縛の術式を強化。リベザルを逃がさない。

本体は討たれた影分身のさらに上。そこに隠蔽の自在法を使って身を隠し、本当の必殺の一撃を穿とうと狙っていたのだ。

敗れた影分身に使った存在の力を回収、さらにキアラの背後には太陽とそれを見送る女神と向かえる女神の曼荼羅。女神はいつも太陽に寄り添う。

今上空でキアラは莫大な量の輝力を鏃に溜め引き絞っていた。

「貫いてっ!」

「小娘がっ!」

撃ち出される矢とそれに群がリベザルの分身。

極光は次々に分身を屠りリベザル本体へと迫る。

だが、次の瞬間霧がリベザルを包み込む。ピルソインの自在法ダイモーンだ。

しかし、当然そんな物をものともせずに極光は目標を貫く。

極光は大地を穿ち、噴煙を巻き上げ、同時に衝撃で大地が揺れる。

「逃がした?」

と、キアラ。しかしまだ油断はしない。

円を広げてみても彼らの気配は無い。

「いつも後一歩で逃げられるんだよね」

「逃げ足も一流なんて、すごいよねぇ」

俺の言葉にソエルも同意する。

今回は俺が出れば多分討滅できた。

だが、キアラの習熟をかねて彼女に任せた。結果逃げられ、人間は食われるのだろう。

すべての徒を殺す、なんて事実際不可能なのだ。後に何かをするために今の被害を黙認する。

それは生粋のフレイムヘイズには出来ないこと。

やはり俺はズレているらしい。

空からキアラが降りてくる。

「どうでしたか?」

「逃がしちゃったけどキアラは良くやったわ」

「本当、文句のつけようは無いわね」

キアラの言葉にウートレンニャヤとヴェチェールニャヤが囃し立てる。

「ああ、良いんじゃないか?」

古参のフレイムヘイズと比べても今のキアラは見劣りしない。

「これで本当に卒業かな」

「あ…ありがとうございます」

日々の修行の苦痛からようやく開放されてキアラはホッとしている。

「後は自身の望むフレイムヘイズになればいい」

「はいっ!」

キアラの返答を聞くと俺は踵を返す。

フレイムヘイズは我をもって自分の道を行くもの。つるむことの方が少ない。

こつこつと道を踏む音に、こつこつと追随する音が絡みつく。

「あれ?卒業って言ったよね?」

「…?はい」

「自分が望むフレイムヘイズになると良いとも」

「はい」

「ここは綺麗に別れるシーンでは?」

「…?」

え?俺がおかしいの?

「キアラの望みは?」

「師匠…アオさんと一緒に行く事ですが?」

あ、あれ?

「私はもともと徒への怨みは少ないですし、だったら今私のしたい事をと考えたらアオさんに付いていく事だったんです」

ん?なんか違和感が。

「そ、そう?」

「それに、アオさんの全力ってのもまだ見てない気がしますしね。アオさんの全力が見てみたい。今の私の目的です」

あ、呼び名が師匠から変わっているのか。まぁ教えることは教えたつもりだし、師匠も卒業か。

「付いてきても楽しい事は無いと思うが…」

「良いんです。それが私のしたい事ですから」

と臆面もなく言い放つキアラ。

「男なら女にこれ以上言わせるんじゃないわよ」

「それとも言わせたいの?この鬼畜」

「と言ってもキアラもまだ自分でも分かってないけどね」

姦しい双子女神が囃し立てられ久方ぶりにほんの少し赤面する。

「あー…まぁ、取り合えず飯でも食べに行こうか」

「はいっ!」

「なにっ、飯かっ!わたしはあれがたべたいぞ、…えっとなんて名前だったかな」

気まずい雰囲気になりかけた空気をソエルがぶち壊してくれたおかげで笑顔のままにレストランテに歩いた。

キアラとは長い付き合いになる。この時何となくだがそう思ったのだった。

 
 

 
後書き
とりあえず、次からが原作本編です。 
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