| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

始まりはこの日から……

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

妥協的勇者物語

 
前書き
リュカ伝2の10年前の話です。
主人公はアノ勇者様です。 

 
(アリアハン城)

いやはや……困ったね。
どうして世の父親共は、娘が男に喰われると目くじらを立てて激怒するのだろうか?
娘の自由意思によって喰われたんだから、そこは暖かく見守る器が欲しいよね。

今現在も俺の目の前では、娘を喰われちゃった父親が血管ブチ切れそうな勢いで怒鳴っている。
俺も初めての事じゃないし、普段だったらサラッと適当な事を言って有耶無耶にしちゃうんだけど、今回は相手が悪いからなぁ……

でも仕様がないじゃん、俺モテるんだからさ。
生まれ持った美形と、培った強さの所為で、大抵の女性は流し目一つで心と股を開いてくれる。
まぁ勿論、リップサービスも忘れないけどね。

だからこそ、このアリアハンでも知れ渡った美女で或る、アメリアを娶る事が出来たんだから。
小さいながらもマイホームを持ち、愛する美しい妻との間に可愛い娘を持つ事が出来たのだ。
親父が居候してて邪魔だけどね。

「聞いておるのかオルテガ!?」
「はい、勿論聞いております陛下!!」
聞いてねぇっつの! 長ーんだよ、お前の話は……

あ~あ……やっぱ拙かったかなぁ? お姫様に手を出しちゃうのは……
でもなぁ……お姫様の方から言い寄ってきたんだしなぁ……
『オルテガ様、外の話をお聞かせ下さい♥』ってな感じで話を聞きたがるお姫様の事を、王様も微笑ましく見てたし……

今でこそ魔王バラモスの存在は知れ渡ってるけど、俺が兵士に成り立ての頃は未だ知られてなかった為、モンスターが凶暴化した事の抜本的な解決法が見いだせてなかった。
従って俺達兵士が徒党を組み、モンスター討伐に出るのが通例だった。

アリアハンは島国だから、それ程特殊なモンスターも居なかったけど、魔王バラモスの影響が出始めて、見た事のないモンスターも出現した。
名ばかりの気取った兵士共には、強くなったモンスター相手では敵わなかったので、幼き頃よりモテる為のスキルとして剣術や魔道を高めていった俺の見せ場となった。

お陰で“勇者オルテガ”と呼ばれ、狙っていた以上にモテる事になったのだが……
その結果がコレですよ。
メイドや町娘を喰うだけで止めときゃ良かったのかなぁ?

でもなぁ……密室で男女二人きり。
最初は俺の冒険譚を話してるだけでも、互いのフェロモンにムラムラしちゃうってモンじゃねぇ?
これは不可抗力だよね? 俺、悪くないよね?

そんなこと言ったら殺されるかな?
いや、現状でも死刑なのかもしれないなぁ……
まぁ俺一人だけで罪を償わされるのなら構わないけど、家族にまで及ぶのはちょっと……
親父ぐらいは道連れにしても良いけど、アメリアとアルルは守らなくては!

「さてオルテガよ……如何に責任をとるのだ?」
「はぁ?」
何だ責任って? 喰っちゃっただけじゃんか。妊娠させてねーぞ!

「『はぁ?』ではない! お前はワシの娘を傷物にしたのだぞ! その責任を如何するのか聞いて居るのだ」
傷物ってなんだよソレ!? お互いが同意の上でエロっただけだろ。
周囲を見渡すと、俺に対して良い感情を持ってない連中がニヤニヤした顔で眺めている。

何コレ? 新手の苛め?
ガキの頃から美形過ぎて、周囲の野郎共の嫉妬対象だったから、苛めなんて屁でも無いけど、連中のニヤケ面はムカつく。
後でブッ飛ばすしかないね。

「如何した……責任のとりようがないか?」
「ええまぁ……なんせ私はしがない兵士ですから」
解ってんだろお前も。俺に大した事は出来ないって!

「ではワシから提案がある」
「はぁ……提案ですか……」
何か周囲のニヤケが酷くなっていく。

「オルテガよ……ワシの娘と結婚せい!」
「はぁぁぁぁ!? な、何を仰ってるのですか陛下は!? わ、私には妻と娘が居ります……それなのに姫様と結婚せよとは……意味が解りません!?」

「意味が解らん訳ないだろう。平民の女とは別れ、王家に入れと言って居る……簡単な事であろう?」
「か、簡単ではございません! 私も平民です……王家に入るなんて」
ふざけんな馬鹿。権威になんて興味ないわボケ!

「確かに貴様は平民だが、“勇者”として名を轟かせて居る。多少の反対意見など物の数ではあるまい」
反対意見が如何とかじゃねーんだよ……アメリアを愛してるんだよ。
あぁ……如何すっかな……いっそ“殺してくれ”と言った方が早いかな?

「陛下、オルテガ殿の言い分も尤もですぞ。下賤なる平民と姫様を結婚させるなんて……」
助け船を出したのはニヤついてる取り巻き連中の一人……アルトラム子爵だ。
大した実力も無いのに、縁故だけで近衛騎士になった男。

「ほぅ……では如何するのだ? ワシの娘を傷物にした罪は償わなくても良いと?」
「いいえ、勿論違います。ただ私の提案では、罪を償わせると言うよりも、それを上回る功績を挙げて補償とするのです」
何を言ってるんだ、このアホは?

「ワシの娘を傷物にした事と同等の功績とは?」
“オルテガの娘を犯させる”と言ったら、アイツ殺す!
アルルは未だ5歳……来月6歳になる子供だ。自分の意思で男を決めたのなら、俺としては見守るだけだが、力尽くは許さん!

「勇者オルテガ殿にしか為し得ない功績……即ち“魔王バラモス討伐”です!」
ど、何処に居るのかすら判ってない魔王を倒せと言うのか!?
これだからアホの考える事は……

「なるほど……確かに良い案じゃ」
本当に良いと思ってるのかよ……思ってるとしたら、このジジイも馬鹿だな。
まぁそれで許されるのなら俺は構わない。家族(親父は除く)の安全も得られそうだし。

「陛下……私はそれで構いません。魔王バラモスは(いず)れ討伐せねばならないと考えておりましたし……」
うん。ウソじゃないよ。
現状何処に居るのか判らなかったから、俺からは何ら行動に出れなかっただけで、可愛い娘の将来を考え平和な世界にしないとって思ってたからね。

「そうか、流石は勇者オルテガよ!」
あれ? 王様(ジジイ)が満面の笑みになったぞ?
大切な娘の処女と魔王討伐が等価なのか?

はっ! コイツ等最初からコレを狙ってやがったな!
ニヤケ連中と連合して、俺を危険な任務に就かせる事が目的だったな!
くっそぅ……まんまと罠に嵌まったって訳か、俺は。

「へ、陛下……」
「何かなオルテガよ?」
討伐に旅立つのは良い……だが言っておかねばならないことがある。

「来月になれば私の娘が6歳の誕生日を迎えます。魔王討伐となれば長き旅路となるでしょう……次は何時娘に会えるのかも判りません。せめて来月の誕生日だけは、娘と……家族と共に過ごさせて下さい!」
「来月……か……」
王様(ジジイ)は顔を顰め少し考えてる。そして……

「仕方なかろう……旅立ちの準備もある事だろうし、一月の猶予は与える。しかし準備できたら早々に旅立つのだ! 貴様の旅立ちに合わせ、いざないの洞窟を封印し凶暴なモンスターがこれ以上アリアハンに来ない様、措置をするのでな」

つまり俺には帰ってくるなって言ってるのか……
上等だよクソジジイ。勇者オルテガを舐めるなよ……
美女(アメリア)が居る限り、どんな事をしても帰ってきてやる!





(アリアハン城下)

俺は自宅へ帰るなり、事の経緯を妻に説明する。勿論お姫様喰っちゃったって事は省いて。
アメリアは不安そうな顔をし何かを言いかけたのだが、名誉とか栄誉とかに弱い俗物的親父殿が「よくぞ決断したオルテガ! 流石はワシの息子じゃ」って先に騒ぎ出した為、何も言わずに抱き付いてきた。

一人じゃ心細いって言って途中まで親父を連れて行こうかな?
いざないの洞窟は封印されちゃうのだし、ロマリアまで行ったら置き去りにしちゃおうかな?
でもなぁ……そこまでだって邪魔くさいし!

そんな事を敬愛する親父殿に対して考えていると、(アルル)が俺の足に抱き付いてきた。
「如何したんだいアルル?」
「お父さん何処かに行っちゃうの? もう帰ってこないの?」

「馬鹿だなぁ……お父さんは帰ってくるさ。お前達の為に悪い奴等を倒してくるだけで、全てが終わったら帰ってくるさ!」
そう……帰ってくるさ!

「だから俺が帰ってくるまで、良い子にしてるんだよ。お前がお母さんを守ってやるんだぞ」
俺は愛おしくなりアルルの額に口吻をする。
アメリアに視線を向けると、目に涙をためて頷いてくれた。



翌日から旅立ちの準備に勤しんだ。
城になんぞ出仕せず、一ヶ月という短い期間を悠々自適に満喫する。
一日の大半を家族と過ごし、そして気分転換で町を散歩する。

そんな日々を3週間過ごしたある日、教会の側で声をかけられた。
振り返るとそこには一人の少女が……
褐色の肌に美しい金髪、(アルル)よりは2.3歳年上であろう美少女。

「オルテガ様……聞きました。魔王を討伐しに旅立たれるんですよね?」
5年程前モンスターに襲われた一家が居た。
丁度その現場に出会(でくわ)した俺は、モンスターを倒し彼女を助ける事が出来た。

ただ……ご両親は助けられなかった為、俺は彼女をアリアハンの教会が運営する孤児院に託し、時折様子を見に来ている。
そんな高給取りじゃないから、あんまり良いものはあげられないけど、時々服とかを差し入れて……

「うん。チョロッと魔王を倒して、またミカエルに会いに来るよ。だから良い女になっておけよ(笑)」
未来の愛人候補に冗談を言ってハグしようとしたが、一緒に連れていた二人の子供に目が行き、流石に取り止めた。

「あ、ほら……ご挨拶をしてハツキ・ウルフ」
(アルル)と同年齢くらいの少女をミカエルは『ハツキ』と呼び、更に幼い男の子の手を引いてる彼女を俺の眼前に押し出した。
多分この男の子は『ウルフ』であろう……

「は……はじめめましてオルテガ様……」
「はじめましておるてがたま」
ハツキは恥ずかしそうに挨拶すると、それを見たウルフも真似をする。

「はじめまして。君達も孤児院の子かな?」
「そうなんですオルテガ様。まだウチに来たばかりですけど、私が話すオルテガ様の事を気に入っちゃって……憧れてるみたいなんです」

「憧れ? いやぁ~照れるなぁ~」
俺はそう言って二人の男女を抱き寄せる。
そして優しく頭を撫で「じゃぁ、どんな事にも負けるなよ」と言い残しその場から去った。

俺は憧れられる様な存在では無いのだ。
今回の件だって、俺のスケベ心が発端だし……
でも憧れる子供達の為に、そして大切な家族(親父は除く)の為に……

魔王バラモスを倒す決意を新たに固める。
本音を言えば面倒臭いけど、愛する者達の為に俺は旅立とう。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧