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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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作戦会議

 
前書き
ブリーフィング回。 

 
~~Side of フェイト~~

「ごめんなさい……まさか高等裁判でも判決を全然覆せないなんて」

「あなたが謝る事じゃないわ、リンディ。私自身もとっくに覚悟はしていたもの。もしもの時はフェイトとアリシア……二人の事は頼むわね」

「まだ諦めないで下さい! 最高裁で今度こそちゃんとした判決を勝ち取って見せます!ですから悲観しないで下さい、プレシアさん。あなたがここで諦めたら、あなたを信じてフェイトとアリシアを託したサバタに示しがつかないでしょう!?」

「でも最年少執務官のクロノもわかってるんでしょう? さっきの裁判で、こちらの弁護や証拠を彼らは受け入れなかった。彼らの要求は私が破棄したプロジェクトFATEのデータと、成功体のフェイト……。彼らは“裏”に関わる連中よ、私も長年潜ってきた経験があるから一目でわかるわ。正攻法じゃこのまま続けても勝ち目がない。だからせめて娘達だけでも守らないと、今度こそ母親の資格を全て失ってしまうわ」

「母さん……」

「ママ……」

「ああもう、ややこしくて頭こんがらがりそうだよ~! なんでこうなっちゃったのさ!?」

申し訳なさそうに謝るリンディさんとクロノ、儚げな笑みで私達を撫でてくれる母さん。哀しい現実を直視している母さん達の姿を見て、私と姉さんは何も出来ない自分に対する無力感を募らせて、アルフは訳が分からなくて頭を抱えていた。
さっきの裁判のように最初の裁判でも、何故か私達の意見は封殺されてしまっていた。言及しても、無視されるか余計立場や印象が悪くなる一方だった。難しい事はまだわからないけど、見えない所から来る策略で私達は追い詰められているのだろう。せっかく太陽の力があっても、この状況では何の役にも立たないよ……。

「清廉潔白なのが私達の売りだけど、こういう時に“裏”に対して圧力をかけられないのが弱みよね……」

「くそっ! 管理局は法を守る組織だから、どんな人間も公正に扱わなければならないというのに、それを自分たちの利益や権力のために改変して……! いつから管理局はここまで汚れてしまったんだ!」

リンディさんは最高裁で待ち構える策謀にどう立ち向かおうか思案していて、クロノは裁判所の対応に目に見えて憤っていた。八つ当たりとか怒鳴り散らすような真似はしていないけど、いつも冷静なはずの二人でも相当腹を立てているのがわかる。
でも“裏”への対応策を思い付かないから余計焦り、私達を助けたいのに裁判がちゃんと行われていないから怒り、それで対応策がまとまらなくて焦る……という悪循環に陥ってしまっている。

そんな膠着状態の空気が漂っていた時、待合室の扉が開いて管理局員らしき男女が入ってきた。一人はリンディさんの艦長服と似た、それでいて実戦向きのカスタマイズがされた服を着た男の人。もう一人はショートカットでコバルトブルーの髪色に、まるで海の光のようなターコイズブルーの瞳で、白い服装の女の人だった。

「ふん、やはり打つ手なしといった所か? ハラオウン」

「あなたは……サルタナ提督!? ッ……なぜここに?」

「“提督”という呼び方は好きじゃないんだが、まあいい。ここに来たのは先程帰還した時に、エレンが興味を抱いたからだ」

「エレンさんが?」

「久しぶりねクロノ君。最後に会ったのは、あなたが受かった執務官試験の時だったかしら?」

「確かにそのくらいの期間だと思うけど、試験前にお互い言葉を一つか二つ交わしたぐらいで、特に仲が良かったとかそういう関係では無かったような……」

「あら、薄情なのね。私は同じ試験で受かった執務官の同期だと思ってたのに」

「すまない……当時の僕は、周りが見えていなかったんだ。そういう性格だから執務官には向いていない、とよく師匠に当たる人達に言われたものだよ」

なんか昔……と言う程昔でもない同期と出会って、クロノは軽く困惑していた。一方でエレンさんは何と言うか……落ち着いた大人の女性って感じがした。すごく綺麗な人だし、同じ女性としてちょっと憧れるかも……。
クロノをちょっといじったエレンさんは淑女らしい微笑みで私達の方を見た。思わず気を付けしちゃったけど、「そんなに気を張らなくてもいいわよ?」とこちらを気遣う言葉を投げかけてくれたので、姉さんと二人して肩の力を抜いた。

「初めまして、私はエレン・クリストール。あなた達のお名前を聞かせてくれるかしら?」

「フェイト・テスタロッサです」

「アリシ……じゃない、アリスだよ! よろしく、エレンさん!」

「ええ、よろしくね。それであなたが“太陽の使者の代弁者アリス”なの?」

「うん! まあ、そうなるまで色々あったんだけどね。きっかけはお兄ちゃんとの出会いだけど」

「あら、あなた達にはお兄さんがいらっしゃるの?」

「そうだよ。ジュエルシードに私が暴走させられた時に、身を張って私を止めてくれた、すんごく頼れるお兄ちゃんだよ!」

「今はここにいないけど、私も母さんも、友達や現地の人達もお兄ちゃんに助けてもらったんです」

「へぇ~立派な人なのね? ねぇ、お兄さんの事好きだったりするの?」

「うん、大好きだよ!」

「姉さん!? え、あ、ああぅ……わ、私も!」

「あらあら、ふふ……可愛い子達ね」

急に聞かれた内容でおろおろした私を見て、エレンさんがおかしそうに笑っていた。うぅ……恥ずかしいよぉ。さっきまで悶えていたアルフが一転して微笑ましそうに見てくるけど、そういうのはやっぱり早いと思うんだ。

「だって凄いんだよ、お兄ちゃん? 私の時なんて……こう腕を突き出して、ジュエルシードの魔力を暗黒の力でドバァーっと消し去っていったんだから!」

「暗黒の力? それって……」

姉さんが初めてお兄ちゃんと会った時の状況を話したら、エレンさんはどうしてか急に考え込んだ。もしかして、魔力を消す作用に警戒してしまったのかな……? 管理局的に暗黒物質の性質は受け入れがたいものだから迂闊にお兄ちゃんの力の事を話しちゃダメって、姉さんに後で釘を刺しておこう。

シューっと扉が開く音がした。

「様子を見に来たぞ。フェイト、アリス、アルフ、プレシア」

「え、お兄ちゃん!?」

「わーい! お兄ちゃんが来てくれたぁー!」

「やっぱあんたがいてくれないと、あたし不安だったよ!」

「あら、あなたも来てくれたのね」

まさかのサバタ兄ちゃんの登場に、さっきまで鬱屈としていた空気は消し飛び、姉さんは嬉しくてたまらず駆け寄って行った。アルフも突撃しちゃったので、いっそ私も二人に続こうと思っていたのだけど、エレンさんが目を丸くして、驚愕の面持ちでお兄ちゃんの方を見ていた。対するお兄ちゃんもアリスロケットとアルフミサイルを受け止めてこちらを、具体的にはエレンさんを見た瞬間、いつもの冷静な表情が崩れて唖然としていた。

「はぁっ……!? ま、まさか……おまえは……!?」

「あ、あら……本当に来ていたなんて、こんな所で会うとは驚いたわ」

「それは俺の台詞だ! どうしてこちら側にいるんだ、エレン!」

「ポニーテールからショートカットに髪型を変えたのに、ちゃんと気づいてくれるのね、サバタは」

「女性のそういう変化には機敏であれ、と教えられたからな……ってそうじゃない!」

「わかってる、後でちゃんと話すわよ。これまでの事も、これからの事も」

少しわからないけど、とにかくわかった所はある。エレンさんはサバタ兄ちゃんの浅くない知り合いだったみたい。つまり彼女も世紀末世界出身……色々知りたい事が増えたね。

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ~~

程々の時間でナカジマ家を出た俺は、バイクは地上本部に預けてリーゼ姉妹の手配で本局へ航行する定期船に乗ってテスタロッサ家の所へ向かった。なぜリーゼ姉妹かと言うと、クロノの伝手でグレアムがフェイト達の身元保証人という立場になっていたからだ。
突然俺が来たらフェイト達はきっと驚くだろう、とリーゼ姉妹は話していたが、彼女達が裁判の間一時的にあてがわれている部屋の中へと入った際、まさかのエレンと予想だにしない再会を果たして、逆に俺が驚かされる羽目になるとは思わなかった……。

「まったく……しばらく会ってないと思えば、いつの間にかそこまで出世していたとはな。そもそもエレン、おまえはどうやってこちら側に来たんだ?」

「それが……あなたには隠す必要が無いから正直に言いますけど、私もわからないのよ。一人で放浪の旅をしていたら突然目の前が暗くなって、気が付いたらこちら側にいたの」

「で、行き倒れていたエレンを俺が見つけた、という訳だ」

「おまえは?」

「時空管理局帝政特設外務省、第13紛争世界突入二課、全時空万能航行艦『ラジエル』艦長サルタナ。ついでに言っておくが“提督”という呼び名は嫌いだ」

「はぁ……なぜ嫌いなんだ?」

「別に…………単なる嗜好の問題だ」

「そうか」

「そうだ」

「……………」

「……………」

「実際に顔を合わせると、驚くほど性格が似てますわね。会話を続けようとしない所とか、攻撃的な口調を使う所とか。もしかしたら二人って並行世界の同一人物なのかもしれませんね」

エレンが変な解説を入れているが、俺は俺でサルタナは中々出来る男だと見抜いていた。が、同じようにサルタナもこちらを見抜いているだろうな。俺より多少年上で艦長であるサルタナは色んな意味で侮れないが、対等な人間として見ればかなり気が合いそうだった。

「……そうそう閣下、彼なら先程口にした条件を全て満たしていますわ。どうでしょう、彼に任せてみては?」

「俺達が認める実力を持ち、潜入任務の経験があり、アレクトロ社にマークされていない人間……確かにその通りだな。彼なら起死回生の一手を打てるかもしれん」

「……何の話をしている?」

「そうね……来たばかりのサバタは知らないでしょうから、裁判の現状を説明するわ」

プレシアから説明された内容によると、彼女達の裁判がどうも腹黒い連中の手が回っているせいで、このままだとプレシアは処刑、フェイトとアリスは実験体にされるかもしれない運命が待っているそうだ。それでさっきまで彼女達で話し合っていた内容は、もし最高裁でも極刑が下されたら、フェイトとアリスはリンディ達の手で逃がすというものだった。

それでは折角家族の絆を取り戻した意味が無いじゃないか。何をやっているんだ、管理局……。

「……リンディ?」

「ごめんなさい……連中がプロジェクトFATEのデータを手に入れるために、まさかここまでしてくるとは想定していなかった。甘く見ていた私のミスよ……」

「僕からも謝る。君やなのは達の期待に応えられないまま、ここまで経ってしまった。すまない……」

二人が謝罪してくるが、今それはどうでも良い。それよりサルタナが言っていた“起死回生の一手”を知るのが先だ。こいつらを再び闇に落とそうというのなら、俺が何とかしなければな……。

「ところでサルタナ提督、エレン大尉、もしかして裁判で私達の味方をしてくれるの?」

「理解が遅いぞ、ハラオウン。その調子では見た目はともかく、頭は老けたか?」

「ふ、老けてなんかないわよ!?」

「ですがこの二人が味方してくれるのは心強いです。事件や裁判の“裏”の対処において、彼らの右に出る者はいません。ここはぐっと抑えてください、母さん!」

「うぐぐ……! でもクロノの言う通り、相手に“裏”が関わっているこの裁判で彼らがこちら側に着いてくれるのは確かにありがたい話なのよね……。だけどどうして助けてくれるの?」

「相互利益のためだ、ビジネスライクとも言える。下らん話を続けていないで、さっさと本題に入るぞ」

「では、ここからは私が説明しますわ。まず今回の裁判の目的は、プレシア・テスタロッサさん達の罪の減刑、及びフェイト・テスタロッサさんとアリスさんの人権保証。ここで厄介なのが、フェイトさんがプロジェクトFATEの成功例である事と、アリスさんが魔導生命体に近い精霊という管理局の概念にない存在である事、そしてプレシアさんが元ヒュードラ開発主任である事です」

そこからエレンが説明してくれた内容を簡潔にまとめると……今回の裁判の黒幕はアレクトロ社、かつての事故の真実を暴かれる前にプレシアを口封じしてしまおうとしている。更にプロジェクトFATEの実験データを手に入れれば、強力な魔導師を量産できて、自分たちに圧倒的な利益が得られるという腹積もりらしい。
要するにアレクトロ社は過去の不祥事を二度も闇に葬り、被害者に全ての積を押し付け、成果をまたしても横取りしようという訳だ。悪徳企業も真っ青な腹黒さだな、アレクトロ社。

「企業絡みの根回しは、いくら俺達でも全ては防げない。裁判はある程度まともなものにまで戻せるが、検察側に有利に働きやすいのは変わらん」

「そんな……じゃあどうすればいいの?」

「奴らの言い分が全て消し飛ぶ、それこそ相手の破滅を招くほどの“起死回生の一手”を打てばいい。ハラオウン、俺達の目的はむしろその起死回生の元となるシロモノだ」

「私達はかねてより闇組織の流通を調べてきたのですが、半年前に巨大な取引の痕跡を発見しました。それを極秘裏に調べていくと、アレクトロ社に不穏な動きが多い事が判明したの」

「不穏な動き?」

「まだ全ては掴んでいませんが、彼らが作り出そうとしている物の情報は一部判明しています。名前は『SEED』……プロジェクトFATEと同様に遺伝子が必要らしいのですが、どのように使っているのかまでは判明していません。そこで私達は調査と証拠確保のため、アレクトロ社に潜入できる人間を探していたのですが……」

「諸事情で俺やエレン、部下達はアレクトロ社に警戒されていてな。迂闊に侵入出来んのだ。魔導師は魔法が目立つから潜入には不向きで、何より潜入任務の経験がまず無い。故に手をこまねいていたのだが……サバタ、おまえが現れた」

俺? ……なるほど、大体話の流れはつかめた。

「要するに、俺がアレクトロ社に潜入して調べて来い、という事だろう」

「その通り。裁判中のテスタロッサさん達は当然動けず、ハラウオン親子も知名度があって目立ち、私達は警戒されている今、最も自由に動けるのはサバタ……あなただけですの」

「この裁判がこちらの勝利で終わるか、奴らの思い通りにされてテスタロッサ家が再び翻弄されるか、その全てがおまえの行動にかかっている。無論、俺達もサポートはするが、相手は“裏”に通じた巨大企業だ。一人で立ち向かうには相手が大きすぎる事は重々承知している。しかしそれでも、おまえにはこの任務をやってもらいたい」

「管理局がこんな状況にしておいて、よくもそんな事が言えるな。それに……俺が断るとほんの少しでも考えている事が失礼だ」

「じゃあ……任せてもいいのですね?」

「ああ。こいつらは新しい太陽だ、いきなり黄昏に沈める訳にはいかないだろう。それに……久しぶりに会えた旧友の頼みでもあるしな」

「あら、お上手。そういう所は相変わらずでほっとしましたわ、サバタ。時間があればゆっくり思い出話でもしたいところですけど、やはり“あの子”も含めた三人が揃っているのが望ましいわね」

ザジの事か……エレンがこちら側に来ていたため、かつての旅仲間で世紀末世界に残っているのは唯一彼女のみとなってしまった。一応ジャンゴ達サン・ミゲルの連中がいるから大丈夫だとは思うが……少々心配だ。

「結局……最後まであなたに頼る事になってしまったわ、サバタ」

「過去は切り離せないものだからな、プレシア。今はまだ最悪の事態にはなっていないが、この状況の想定はしていたさ」

「お兄ちゃん……ごめんなさ―――わふっ!?」

「フェイト、そうやってすぐ謝る癖は直しておいたほうがいい。謝罪の気持ちより、感謝の気持ちを表に出しておけ」

ポンポンとフェイトの頭を強くなでると、彼女は大人しく頷いてくれた。それと……順番待ちでもしているのか、期待に満ちた目でアリスとアルフがフェイトの後ろに並んで見てきていた。

「…………仕方ない、順番にだぞ」

『わーい!』

喜びを全面に出す二人を見て、少し嘆息する。そんな微笑ましい俺達のやり取りを見ていたエレンは、ふと俺に呟いてきた。

「サバタ……あなた性格丸くなった?」

「む、そう見えるか?」

「ええ、昔と比べて結構変わった気がするわ。もちろん良い方向によ」

「そうか……それはきっと、こちら側に来て会った連中の影響だろうな」

「地球の方々ね? 今度私も会ってみたいわ」

「そうだな……おまえなら俺も安心して任せられるな」

「なんだか最期に言い残すような表し方ね。何かありました?」

「……色々な。それよりエレンの方こそ、昔と比べて随分おしとやかになったじゃないか。あの時はそれなりに感情を発露していたのに、今では落ち着き払っているというか、余裕粛々というか、つかみどころが見当たらなくなった」

「あら、つかむ所ならちゃんと育っていますわ。ふふ……むしろ鷲掴みでもしてみる? 自分で言うのもなんですが、結構やわらかいわよ?」

「そういうネタを俺に振るな! 結構おしとやかになったと思っていたが違った……色々図太く、強かになっていたと言う方が正しかった!」

「私も閣下に助けられてからこの界隈、それなりに潜り抜けてきたから強かにもなりますわ。……もう昔のように大切なものを全て失いたくないから、三度目は嫌だから、私は上り詰める必要があったの」

一度目はビフレストでの魔女の力の暴走でミズキや居場所を失い、二度目は金属板の影響でザジの記憶喪失を誘発し、後味が悪いまま旅が終わったことだろう。俺はあの時、ザジとエレンのためを思って別れたのだが、俺にその後の苦悩があったように、二人もそれぞれ葛藤があったに違いない。
要するに俺の物語があったように、彼女達にも彼女達の物語があった。それだけの話だ……。

「……変わってない部分もあったな、お互いに」

「そうね……人間の本質や根幹は、そう簡単には変わらないのでしょう」

「ああ。しかし他人と関わる事で変わった部分も確かに存在している」

「私が強かになったように、サバタもいつの間にか天然ジゴロになっていますしね」

「真面目な話をしている時に天然ジゴロとか言うな! そもそも俺は自らに誓った事を守っているだけだ!」

「だから天然ジゴロなのですわ……。まあその話は置いておいて、今のサバタを見ていると、どことなく昔の私を思い出すわ」

「そりゃあ昔の旅仲間だったのだから、思い出しもするだろう」

「そういう意味ではないのですが……久しぶりの再会で心が躍っているせいか、上手く私自身もとらえ切れていないの」

「おまえにしては、あやふやだな」

「そもそも確実や絶対なんて言葉自体、事実かどうか曖昧ですからね。いずれわかった時にでもまたお話しします」

こうしてエレンと久々の会話を交えると、後になって彼女に会話の主導権を気付かない内に自然と握られていた気がした。会話が巧くなったというか、頭が回るようになったというか……。そもそもエレンには魔導師の素質もあったのか……大尉まで登っているのだから恐らくリンカーコアはかなり強力だと思われる。
魔女の力“真空波”と魔導の力“リンカーコア”、エレンはその二つを自在に振るえる訳だ。戦闘経験もかなり積んでいるようだし、敵にしたら厄介だが、味方だとかなり頼もしいな……。

「ところでサバタ、あなたの力は魔力を消滅させるのでしたね」

「ああ、ダークマターはそういう性質を持っている。それがどうかしたか?」

「それだったらデバイスを使って撮影はまず出来ませんので、カメラと無線機を用意する必要があるわ。あなたの武器はかつて使用していた暗黒銃ではなく暗黒剣と麻酔銃のようですが、今回は戦いに赴くのではなく、『SEED』の存在をカメラに収め、アレクトロ社の立場を危うくさせる事で裁判を逆転させるのが目的です。なので潜入任務全般に言える事ですが、戦闘は避け、見つからない事を最優先して下さい。もし敵に見つかったり、あなたの事だからあり得ませんが敵に捕まったりしたら、裁判や立場の悪化を避けるため私達は関与を否定します。全て自己責任で対処してください」

「何だかやたらハイリスクな役割が押し付けられている気がするな。失敗したら俺だけ次元世界のお尋ね者か?」

「もちろん、あなたが失敗すればテスタロッサ家の命運は尽き、敗訴した私達の立場もかなり悪くなる事でしょう。私達は過去、“裏”と幾度も渡り合い、その全てに勝利してきた事で短期間にこの立場まで登り詰め、尚且つ“裏”に染まらずにやって来れたのです。少々遠まわしではありますが、私達の命運もあなたの任務の成否にかかっています」

「おまえの事だからわかるだろうが、ここにいる面子だけじゃなく、ハラオウンや俺達の部下の命もかかっている。それだけじゃない、将来的に『SEED』の犠牲にされる命も含まれている。おまえの任務の失敗は、そいつら全ての命が失われるのと同義だと言える」

サルタナ、そういう重荷になるような事は言わない方が良いと思うぞ。まあ、言いたい事はよく分かった。テスタロッサ家、リンディやクロノ、エイミィ達アースラクルー、エレンやサルタナ達ラジエルクルー、実験の被害者達、それら全ての命が俺の肩にのしかかっている訳だ。
やれやれ……フェイト達の様子を見に来ただけのつもりが、どういう風の吹き回しか、とんでもないミッションが与えられてしまった。しかし……俺にしかやれないのなら、必ずやり遂げて見せるさ。それが全てを守る事に繋がるならな……!

「アレクトロ本社はミッドチルダ中央部にありますが、流通ルートをたどると『SEED』の建設地はミッドチルダ北部にある極寒の孤島、彼らの所有地に存在する研究施設でしょう。あそこは外部の人間は一切立ち入らせず、出入りできるのはアレクトロ社の重役か、内密に癒着が疑われている管理局のごく少数の佐官クラス以上の者のみです」

「だが警戒も本社と同じか、それ以上に厳重で、正面からの侵入はまず不可能だ。しかし施設の構造……というより、次元世界に調査員やスパイの概念が薄いせいか、上辺は取り繕えても下はからっきし。つまり水中からの潜入は至極簡単だ」

「水中……いくら夏とはいえ、北の極寒の海の中を潜れと? 氷点下の水の中に入ったら、一時間もせずに凍り付くぞ」

というか下の警戒が薄いのは、いくら魔導師でも氷河を潜って来る訳が無いと思っているからに違いない。実質、極地の海は自然の要害だ。それに管理局の性質上、疑わしければ正面からの突破を図るだろう。変な根回しは得意なくせに、戦略となると途端に貧弱になる……大丈夫なんだろうか、この組織。

「そこは私達に任せて。極寒の海に一週間潜ってても温度が伝わらないバリアジャケットの機能を、マリエル・アテンザっていう私の友人レティ・ロウランの部下の子が昔作ったの。そこで彼女とエイミィに頼めば、すぐに特注の装備が作れるはずよ。問題は最高裁までの時間だけど……」

「高等裁判を終えたばかりの今、上告の申請をさっき僕が提出したから、まだ猶予はあるはず。その間にサバタは潜入の準備を整えておいてくれ」

ここまでエレンとサルタナと共に話を進めた所で、ようやくリンディとクロノが役に立ちそうだった。流石に空気はマズいだろうな、色んな意味で。

とりあえず作戦がある程度まとまって、その準備のためにリンディ達やエレン達が行動を始める。そこで俺は、空気が重くなっていたテスタロッサ家のフォローをしておくことにした。

「そういえばプレシア、『ミッド式ゼロシフト』は完成したのか?」

「ええ、バッチリよ! おかげでフェイトの速度と回避が洒落にならないレベルまで上がったわ! ここまで来ると私が全力を出しても直撃させるのは難しいわね」

「い、言い過ぎだよ、母さん……! 私、まだまだ母さんみたいに強くないよ……!」

「何を言ってるんだい、フェイト! 攻撃を喰らうかと思えばすり抜けて、圧倒的な優位に立てるその魔法を使えたら、どんな相手にも対応できるじゃないか!」

「うんうん、あまりに凶悪性能過ぎて、ちょ~っと頼り過ぎちゃいそうだもんね。とゆ~かお兄ちゃんの魔法だし、私も使えるようになりたいよ~」

「アリシアが使える戦闘術は、太陽魔法の他には俺の体術を真似たものぐらいだしな。月光魔法までは範囲に無かったが……ああそうだアリシア、見よう見まねで俺の体術をあそこまで再現できたのは称賛に値するが、ちゃんと技術が身についていなければ、すぐに身体を壊すぞ」

「えぇ!? で、でも私、精霊に生まれ変わったんだよ? 人間とは身体の作りが違うから大丈夫だと思うけど……?」

「フッ、甘いな。おまえは確かに精霊に生まれ変わったが、身体のつくりは人間の性質を色濃く残している。恐らくカーミラの慈悲がそうさせたのだろう。他人と違う事を必要以上に感じさせない様に……排除すべき異端の存在として見られない様にな……」

「そうだったんだ……。じゃあもしカーミラさんの慈悲が無かったら、私はどうなっていたのかな?」

「……身体がおてんこのように植物のひまわりか、タツノオトシゴそっくりになっていたんじゃないか? 太陽の使者なんだから、太陽の恩恵を受けやすい体質や外見に変化してもおかしくない」

「それ絶対イヤァーー! ありがとうカーミラさん! 私を人間の姿のままにしてくれて、ホンットありがとうございます!!! このご恩は一生忘れませぇ~んっ!!!」

その時の自分の姿を想像してしまって、あまりの変化に耐え切れず叫んだ直後、どこかの空に向けて土下座するアリシア。やはりおてんこの姿になる事は、女の子のアリシアとしては受け入れられないようだ。この台詞をおてんこが聞いたら、どう反応するだろうな……想像したら少し面白かった。

「話が脱線したが……とにかく技術さえ身に付ければ問題ない。作戦が始まるまでの間に、少しだけ訓練を指導しよう」

「う……うん、わかった。これは私のためでもあるんだもんね、頑張るよ!」

「あ、そ、その……お兄ちゃん? 私も……教えて欲しいなぁ、なんて……ダメかなぁ?」

「ダメでは無いぞ、フェイト。教えるなら一人も二人も変わらん」

「ありがとう……! 頑張って覚えるね!」

「ただ二人に言っておくが、魔法と同じようにこの鍛錬は続けないと意味が無い。今は訓練メニューを教えるから、後は自分たちで努力するんだ」

『はいっ!』

なので作戦が始まるまでの間、俺は二人にCQCとは違う体術の訓練を施した。暗殺用近接格闘術でもない、純粋な格闘術……人を活かす技だ。生命の息吹を見守るアリシアが覚えるべき格闘術は、命の狩り取りに特化した暗殺用なんて物騒なものじゃない、もっと正当かつ人を救える物にするべきだからな。

そして作戦の用意が出来たらしく、クロノとエレンがそれぞれの道具を手に戻ってきた。リンディとサルタナはそれぞれ提督としてやっておくべき仕事があるため、そう何度も時間を取れないそうだ。

「サバタ。これが管理局随一の技術者が突貫で作り上げた、魔力を使わずに氷河を潜れるスーツだ」

クロノが持ってきたのは、全身を覆う黒いスニーキング・スーツだった。今は着けないが、潜水装備であるマスクと空気ボンベも用意されていた。

「ふむ……試しに着てみたが、ドライ効果は高いようだ。しかしサイズが緩いな……これならいつもの服の上に着て、ようやく丁度良いサイズかもしれん」

「元々大人用だったからね。それに……いや、何でもない」

「おいクロノ、今何を言おうとしたんだ?」

「何でもないよ。別に害は無いし、作戦の障害にもならない。どうしても知りたいんなら、今じゃなくて後で話すよ」

どうも申し訳なさそうな顔をするクロノだが、一体このスーツに何があるのだ? 知りたいような、知りたくないような……。

スニーキング・スーツの着心地を確かめていると、次にエレンが俺に軍用ベルトのようなものを手渡してくれた。持ってみると見た目に反して、色んなものが入っているせいかズシリと重い。

「防水加工がされているから、しまっておけば水中に入っても中の物が濡れる心配はありません。流石に大剣は入れられませんので、持っていくなら背負ってもらうしかありませんが……あなたが持ってきた麻酔銃に改造されたベレッタM92Fと暗黒カード、それと私が用意した一眼レフカメラは中に入れてあります。カメラはミッドチルダで売られている物で最も高性能なものを選びました、再会を祝う私からの贈り物よ」

「そうか……感謝する、エレン」

「いえ、作戦の成功のために最善を尽くしただけですよ。それとこちらの無線機を耳に付けてください、サバタ」

そう言ってエレンが差し出したのはかなりコンパクトに作られた特別製の無線機で、装着しても耳に違和感は全くなかった。エレンの説明によると、人差し指を当てるだけで通信が可能で、耳小骨を直接振動させる代物だから敵に聞かれる心配はないそうだ。

「閣下はハラオウンさんと共に裁判の手札を準備しているので、こちらの作戦指揮は私に一任されました。私との通信の周波数は140.85ですわ。何か不測の事態が発生した場合は私に連絡をください」

「そうか、覚えておく」

「それとクロノ君はあなたが集めた情報の整理を担当します。彼に連絡を取る時は、周波数を140.96に合わせてください。撮った写真はカメラを無線機と接続してコールする事で彼のデバイス、S2Uに送信されるように設定してあります。ふふ……まあ同じ場所にいるので、結局私も見る事になるのですけどね♪」

そう言って微笑むエレンは、昔より色んな意味で女性として実に魅力的に成長していて、こうやってからかってこられると対応に困る。言っておくが、記録係を女性がやるのは別の物語の主人公達だ。こちらの役割分担では単にこうなっただけで、他意は無い。

「あと周波数の147.79にテスタロッサの方々と通じる様に回線を開いておきました。カウンセラーの知識は彼女達にはありませんが、直接言葉を交わせた方があなたも彼女達も安心出来るでしょう?」

「まぁ、そうだな。声が聞けるのと聞けないのとでは、気分が全く違う。ありがたい気遣いで、胸に染みるよ」

視線を向けると、フェイト達は俺に手を振ってきた。彼女達もこの配慮は嬉しいものだったようだ。全く、エレンの他人に対する気遣いは昔から変わらず、上手く出来ているな。

「では、現地の周囲二キロまでは『ラジエル』の艦載機で運びます。そこからはソナーに引っかからない無音魚雷で内部へ直接あなたを送り込みます」

「魚雷……俺は神風でも特攻隊員でもないのだが……」

「これしか方法が無いので文句言わないで下さいまし。あ、それと潜入する前に一つ、耳に入れておいた方が良い情報がありますわ」

「なんだ?」

「2ヵ月前と最近の出来事なのですが、アレクトロ社の人間が地球のとある場所に無許可で潜入した形跡が発見されました。恐らくですが、彼らは優秀な人間の遺伝子を確保しに行ったのでしょう」

「なるほど……『SEED』に必要な遺伝子を求めていたのか。それでその場所は?」

「アラスカ、フォックス諸島沖の孤島、“シャドーモセス島”です。その地では数年前、とあるテロ事件が発生しています。事件はある一人の人間が潜入してテロリスト打倒を為し遂げた事で幕を終えたようですが、そのテロリスト達は元特殊部隊だったので、それぞれが超人的な能力の持ち主であったそうです」

「超人的な能力?」

「ごめんなさい……記録が抹消されているのか、調べられたのはこの事件があった所までなのです。事件を解決した人間についても情報が消されていて、断片的な部分しか得られていません。詳細については判明次第報告しますが、とにかくアレクトロ社はその特殊部隊の遺伝子を確保したのだと思われます。彼らがその遺伝子をどう使っているのかは不明ですが、十分気を付けてください」

「わかった、忠告感謝する」

では、そろそろ作戦を開始するとしよう。

 
 

 
後書き
シャドーモセス島:メタルギアソリッド1の舞台、ここが全ての始まりとも言える土地です。アレクトロ社が確保した遺伝子はゲノム兵のではない、とだけ今は伝えておきます。

140.85:MGSにおける大佐への無線周波数。今すぐに電源を切るんだ!
140.96:MGSにおけるメイ・リンへの無線周波数。記録担当。ことわざをクロノは言いません。
147.79:MGS4におけるローズマリーへの無線周波数。気力ゲージに関わる話が出来ます。 
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