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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第十四章 水都市の聖女
  エピローグ 赤い女

 
前書き
 長くなりそうだったんで、予定を変えてキリ良くエピローグにしました。
 次から第十五章です。
 ここから大分原作から変わっていく予定です。 

 

 ヨルムンガンドの残骸が広がり、土煙が未だ舞い上がる中、聖堂騎士達ルイズの護衛の者達が後処理に走り回っている。その中に峡谷の崩落により出来上がった小さな丘ほどある瓦礫を前にポツンとルイズは佇んでいた。吹き寄せる細かな土混じりの風に顔に掛かるのも構わず、ルイズは八体のヨルムンガンドが埋まっている瓦礫の山を見つめ続けている。硬く口を噛み締めたその顔からは、苦しげな様子が見える。疲れたようにルイズは視線を自分の足下へ移動させると、寄り添うように隣に立っているキュルケに顔を向けないまま声を掛けた。

「……生きてる、かな」
「普通に考えたら生きてはいないと思うけど……」

 「あなたはどう思う?」とキュルケは聖堂騎士たちに指示を出しているタバサに顔を向けた。

「分からない。ただ、油断はしない方がいい」

 チラリと瓦礫を見上げたタバサは、直ぐに顔を戻し治療を受ける水精霊騎士隊の下へと歩いていく。ルイズとキュルケの視線はタバサの後ろ姿を追っていたが、直ぐにどちらともなく溜め息を吐くと互いに顔を見合わせた。

「一応これで任務は終了となった訳だけど、でこれからどうするのつもり? 一旦アクイレイアに戻る?」
「そう、ね。でも、アルトはまだ戦っているだろうし……」

 顎に指を当て一つ唸ったルイズは、国境付近の上空で行われているだろう戦闘に思いを馳せた。心配気な様子を見せるルイズに、乱れた髪を手櫛で整えていたキュルケが苦笑いを浮かべた。

「あ~ダメダメ。あの人の事をあたし達程度が心配しても意味がないわよ。それにあの人の事だから、もしかしたらもう既に終わってるかもしれないし」
「流石にそれはないんじゃない?」
「さあ、それはどうかしら……」

 隣にいるルイズにも聞こえない小さな声で呟く。
 眉間に皺を寄せていたルイズが思わずといった様子で小さく笑う姿から顔を背けたキュルケは、色々と常識外れの片割れの事を思い返す。キュルケは別に冗談を口にした覚えはない。それ程までに彼女は、彼女たち(・・・・)は別格なのだ。
 キュルケはこれまで今まで生きてきた十八年の間に、様々な人間を見てきた。それはその奔放な性から多くの男と関係を持ってきたため、数多くのトラブルに見舞われた事に端を発する事が多かった。結果、キュルケは多くの男と、そして女を見る事になった。その数と種類について、自慢ではないが(本当に自慢ではないが)キュルケは自信がある。
 その中でも、アルトリアと士郎の二人は別格であった。
 二人について考える時、その桁外れというか常識外の戦闘力にばかり目が行くが、キュルケは二人が纏う雰囲気とでもいうか言葉に出来ない気配のようなものについてにこそ興味をそそられていた。巨大な竜が傍にいるかのような圧力を感じさせながら、同時に父母に見守られているかのような安心感を抱かせるそれは、胸の奥をざわつかせながらも落ち着かせてくれる不思議な気持ちにさせる。
 何時もではないが、こういった非常時にそういった雰囲気を士郎たちは身に纏っていた。
 見方には安心感を与え、敵には恐怖を与える。

 きっと、ああいう人を“英雄”っていうのね。

 ふっと、思わず口元に笑みが浮かんだキュルケは、手の平で口を覆うと口元を揉みほぐした。

「ギーシュたちの怪我はいくら水魔法で治したからって完全に完治ってわけでもないし、今のあたしたちにアルトの事に出来る事なんて何もないわよ。報告も兼ねて今後の予定で―――」

 口元に浮かんだ笑みを揉み消したキュルケが、未だに迷っているルイズに声を掛けようとし―――瓦礫の丘が弾け飛んだ。

「「「「―――ッ!!!???」」」」

 火山が噴火したかの様に、瓦礫の山が吹き飛ぶ。溶岩や煙の代わりに(瓦礫)の下から現れたのは、顔が大きく歪んでいるが手足が未だ健在のヨルムンガンドだった。もうもうと立ち込める土煙。未だ状況が把握できていないのか、大半の者がただ呆然と瓦礫の下から立ち上がったヨルムンガンドをただ見上げていた。中にはルイズの保護や攻撃に意識を向けていた者たちもいたが、戦闘終了直後故にか、意識の切り替えが出来ずどうにも動きが鈍かった。頼りのギーシュたちは治療したとはいえ戦闘が可能な状態ではない。
 鈍く光る単眼を明滅させながら、咄嗟に杖を向けるルイズへと手を伸ばすヨルムンガンド。
 その手が硬く握り締められていた。
 ルイズは咄嗟に杖を向けるが、詠唱する時間はない。キュルケがルイズの手を掴み逃げようとするが、ヨルムンガンドの手の方が速かった。このヨルムンガンドの目的が捕獲であったならば、キュルケの動きの方が速かっただろう。しかし、ルイズに向かって伸ばされる手の疾さは明らかに捕獲を目的にはしていなかった。

「ルイズ―――ッ!!」

 掴むのではなく殴りつけるための動き。
 風圧がルイズとキュルケの全身を叩く。
 キュルケに手を引かれるルイズの顔が背後に向けられる。

「―――ぁ」

 か細い声が漏れる。
 視界を硬く巨大な拳が目前に。
 まるで巨大が岩壁のようだ。
 ルイズの思考に“死”が過ぎる。

「し―――ろう」

 溢れた言葉は、救いか、願いが込められていたのか、その声は―――





「―――Anfang(セット)





 爆音を持って答えられた。




 ドドッズゥゥウンッ!!

  


 爆音が響き、爆圧が周囲を吹き飛ばす。吹き飛ぶヨルムンガンドと吹き飛ばされるルイズとキュルケ。爆風に背中を押され五、六メートル吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がっていく。

「ッ、な、なにっ?!」
「いっ、いったぁ~……何よこの爆発? ルイズあんた何かした?」

 十数メートルは吹き飛ばされながらも、幸運な事に大した怪我もなかったルイズたちは、痛む身体を庇いながらゆっくりと立ち上がった。

「―――何よ、これ」
「これは……凄いわね」

 もうもうと煙が周囲を覆う中、乱れた髪を抑えながら振り返った二人の目に映ったのは、上半身を綺麗に吹き飛ばされて立つヨルムンガンドの姿だった。残された下半身が、神社の鳥居のように立っている。

「怪我は」

 ぱたぱたと駆け寄ってきたタバサがルイズたちに声を掛けるが、応えることなくルイズたちはヨルムンガンドの残骸から目を離せないでいた。無視された形となったタバサだが、気にすることなく二人の身体をざっと見て怪我がないことを確認すると、二人と同じように下半身だけとなったヨルムンガンドを見上げた。

「あなたの“虚無”―――ってわけじゃないわよね」

 キュルケが隣にいるルイズに顔を向けず尋ねる。ヨルムンガンドに襲われた時、ルイズに呪文を唱える時間などなかった。そして、魔法を発動させるような仕草も見られなかった。それを知りながらも、キュルケは確かめずにはいらなかった。こんなふうに、ヨルムンガンドの下半身だけを残して破壊する術を持つものなど、キュルケの知る中には精々二人しかいない。

「……違うわよ。それに、これ(・・)は“エクスプローション”じゃない」
「高速で何かが飛んできた」

 目を細めじっとヨルムンガンドの残骸を見つめるルイズの横で、タバサがポツリと呟いた。ルイズとキュルケの視線が一斉にタバサに向けられる。
 ルイズがヨルムンガンドに襲われた時、比較的遠くにいたタバサはその瞬間を俯瞰的に見ていた。あの瞬間、ヨルムンガンドの前方から五つの光が飛んできた。朱、蒼、翠、黄、白と、まるで虹のように光る帯を伸ばしながらヨルムンガンドへと向かったそれは、“反射(カウンター)”が消えているとは言え分厚い鎧を容易く打ち砕いた。

「何かって……なら―――」
「こんなのが出来るのなんて―――」

 二人の脳裏に同じ人物の姿が浮かぶ。
 その時、ざっと砂を踏む音が響き、二人は背後に人の気配を感じた。
 チラリと見えた赤い影が、頭に浮かんだ人の姿を更に鮮明に造り上げる。

「「シロ―――」」

 同時に背後に振り返り、危機を救ってくれた愛する人へと勢い良く飛び込もうとした足は―――。


 
「「・・・・・・誰?」」



 ピタリと止まる事になった。
 そこには一人の女性が立っていた。
 二十代前半ぐらいだろうか、切れ長な目を細め、晴れ渡った空のように、底が見えない泉のように深い青の瞳に剣呑な光を灯らせたその女性は、ジロリとルイズとキュルケを睨み付けた。小さく傾けた顔につられ、後ろで一つに縛った黒髪がサラリと動く。
 ビクリッ、とルイズたち二人の身体に震えが走った。
 まるで大型の肉食動物に見つかったかのように小動物のように怯える二人。
 近くにいるタバサも動けず様子を伺うしか出来ない。
 見るからに荒々しい雰囲気を身に纏った女性は、一歩一歩ルイズたちに近付いてくる。女性の足が一歩進むたびに、ルイズたちは面白いように身体をビクつかせる。女性が歩く度に翻るトレンチコートの赤が、二人の目には血に染められたかのように感じられた。
 遂に手を伸ばせば届く程の距離まで近づいた女性は、固まるルイズたちを観察するようにじろじろと見始めた。
 
「あ、あの、何か?」

 特に確かめるように顔を念入りに見つめられていたルイズが、もう我慢できないとばかりに声を上げた。
 ルイズの声に、女性の視線がピタリと止まる。

「―――」

 綺麗―――と、ルイズは改めて思った。
 ルイズの周りには様々な美しい女性がいるが、それに引けを取らないと美しさであった。強い意志が宿った瞳からも感じられる、確固とした己がある大人の女性とルイズは感じた。赤を基調とした服と、漆黒の髪に白い肌が映える。強さと美しさが交わった刀剣のような凛とした美しさ。

 ……あ、れ?

 思わず女性に見蕩れていたルイズだったが、不意に既視感に捕らわれる。
 何処かで、それも最近見たことが、ある?
 これだけの美人をそうそう忘れる筈がないにも関わらず、どうも直ぐに思い出せない。
 最近色々と立て続けに起きているとは言え、何かが邪魔をして上手く思い出せないでいた。
 心の中で唸り声を上げて思い出そうと頭を捻っているルイズに、ルイズから顔を離した女性は、周囲をぐるりと見渡した。

「……あいつ、何処にいるのよ」

 えっ、と声を上げて思考から現実に引き戻されたルイズに向かって、その赤い女性はルイズやキュルケ、タバサの視線を一身に受けながら顰めていた顔を横に逸らした。


「―――あいつが何処にいるか聞いてるんだけど?」
「「「―――え?」」」 


 明らかに不機嫌な声と態度。
 それでもハッキリと感じ取れる焦燥感と期待感に、思わず聞き間違いかなと声を漏らすルイズたち。
 そんなルイズたちの様子にイラついたのか、赤い女性は白い肌も赤く染め上げながらルイズに指を突きつけた。

「だから衛宮士郎は何処にいるのかって聞いてんのよっ!!!」

 純情な少女ならば泣き出してしまいそうな剣幕を見せる女性に、ヨルムンガンド以上の命の危機を感じルイズたちは震え上がる。
 その瞬間、命を危機を感じルイズの脳裏に流れた一瞬の走馬灯が、一人の女性の姿を映し出した。

「―――あっ!!」
「何よ?」

 反射的に声を上げたルイズを、両腕を組んだ赤い女性が見下ろす。
 その目は下手なことを口にすれば今にも噛み付いてきそうだ。
 両手で慌てて口を塞いだルイズは、恐る恐ると自分を見下ろす女性を再度見直し、間違いないことを確かめる。
 ルイズは、この目の前の女性を確かに見たことがあった。

「えっと、お名前を、お聞きしても?」

 何時もの余裕がないキュルケ。引きつった笑みを浮かべるキュルケを一瞥した赤い女性は、一度目を閉じると身体に渦巻く熱を吐き出すかのように深い溜め息を一つ着き荒々しく髪を払い口を開いた。

 そんな中、ルイズの思考は高速回転していた。この赤い女性を見た時から感じていた既視感。そう、ルイズは確かに彼女を知っていた。幾度となく見たことがある。しかし、それは現実ではなく、殆どは夢の中で、だ。
 その士郎と深い繋がりを持つであろうその赤い女は――――――。


 
「―――遠坂凛よ」



 士郎の世界に居るはずの人であった。








 
 

 
後書き
 感想ご指摘お願いします。

 ……何とか二期に間に合った。 
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