| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

母の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

4部分:第四章


第四章

「そうだったな。そういえば」
「それでホワイトがお家に来たのって」
 清音はさらにお父さんに言う。
「三年じゃないの?お母さんが来てから」
「ああ、そうだな」
 これもまた娘に言われてやっと気付き思い出したことだった。
「そういえばそうだった」
「ひょっとしたらって思うんだけれど」
 何時の間にかホワイトは清音の側に来ていた。そうして彼女の足に頬を摺り寄せてきている。甘えている証拠だ。
「ホワイトってお母さんのね。生まれ変わりじゃないかしら」
「ははは、まさか」
 本当にまさかと思いながらもそれは否定した。
「そんなわけはないさ。確かにお母さんはそう言ったけれど」
「ええ」
「ホワイトがそんな筈はないさ」
「それは違うの?」
「ホワイトは猫だよ」
 こう清音に言う。
「ある筈ないじゃないか。そんなことが」
「違うの?」
「ああ、違うさ」
 やはり心の中ではまさかと思いながら娘に告げるのだった。言いながらホワイトの方を見る。
「そんな筈がないさ。確かに賢い猫だけれどね」
「そうよね。悪いことしないし」 
 人の困るようなことは一切しない猫なのだ。
「奇麗好きだし」
「うん」
「お風呂も好きだしね。こんな立派な猫いないわよね」
「寂しいかい?」
 ふと娘に尋ねるのだった。
「寂しいって?」
「だから。お父さんはいつも仕事だけれど」
「うん」
「ホワイトがいて寂しいかい?それはどうだい?」
「寂しくなんかないわ」
 すぐにお父さんにこう答えることができた。
「だって。ホワイトがずっと一緒にいてくれるから」
「だから寂しくないかい」
「ホワイトが一緒にいてくれたらそれでもう充分よ」
 御飯のキャットフードを食べるホワイトを見て目を細くさせていた。
「それでね。もう充分よ」
「そうか。満足しているんだな」
「ええ。ホワイト大好き」
 こうも言うのであった。
「ホワイトがいてくれたらそれで私幸せ」
 これが清音の偽らざる心だった。彼女はホワイトのおかげで寂しくなく明るく楽しく幸せに生きていた。中学校でも高校でもそうだったしその心のおかげで何をやっても上手くいき失敗してもめげなかった。結果として高校も無事に合格し大学にも。ホワイトはもう結構な歳になっていたがそれでも元気なものだった。
「御前も遂に大学生だな」
「うん」92
 二人は自分の家のテーブルに向かい合って座っていた。そのテーブルの上には清音が作った御馳走とビール、それにジュースが置いてある。それで祝っているのであった。
「思えばあっという間だったね」
「そうだな。長いようで短かった」
 貞晴は皺の増えた顔でこう娘に告げる。その手にはコップに注がれたビールがある。
「本当にな」
「小学校からだったわよね」
 清音は笑って父に言った。
「そういえば」
「んっ!?ホワイトのことか?」
「そうよ。だからもう十二年ね」
「ああ、そうだな」
 思えば長い。そのことも思うのだった。
「十二年か。全然変わらないからわからなかったよ」
「大きくなっただけね。けれど昔から」
「賢くていい猫だよ」
「ええ」
 そのホワイトは今は清音の足元で丸くなっている。丸くなってゆっくりと寝ているのだ。
「おかげで全然寂しくなかったわ。ずっと」
「ずっとか」
「だって。家にいたら絶対にホワイトがいてくれているから」
 笑顔でこのことを父に語る。彼女が持っているコップにはオレンジジュースが入っている。それでお祝いをしているというわけだ。
「寂しいなんて思ったことなんて」
「そうか。それはよかった」
「あとね」
 ここで清音はさらに言うのだった。
「凄いことだってあったし」
「凄いこと?」
「実はね、三年前のことだけれど」
 その時のことを今父に対して話すのだった。
「私夜道で変な人につけられていたの」
「夜道!?じゃあ」
「ええ。学校の帰りにね」
 その途中というのだった。その時に狙われるという話は多い。清音に関してもそうだったということである。貞晴は娘の話をじっと聞いていた。
「つけられていて。もうすぐで追いつかれそうっていう時に」
「どうなったんだ?」
「急に猫がその変質者に襲い掛かって顔とかあちこち引っ掻いてね。それで」
「変質者は逃げたのか」
「ええ、そうだったのよ」
 こう父に語るのだった。
「それで助かったのよ。多分」
「こいつか」
「ええ、ホワイトだと思うわ」
 二人で丸くなったまま寝ているホワイトを見るのだった。ここでも彼女はただ寝ているだけだ。だがそれでも二人は温かい笑みで彼女を見ていた。
「確かには見ていなかったけれど」
「そんなことがあったのか」
「他にも。お父さんが出張の時とかね」
「ああ」
「ずっと側にいてくれてベッドでも一緒に寝てくれたし」
「そうか」
「まるでお母さんみたいだったわ」
 父の顔を見てまた告げたのだった。
「だからね。ホワイトはひょっとして」
「実はな」
 ここで父はあらたまって娘に述べた。
「ずっと。不思議に思ったいたんだ」
「不思議に?」
「そうだ。お母さんが死んで三年後だったな」
「ええ」
 父のそのあらたまった言葉に頷く。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧