| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第19話:納得いかない事がある。それが人生だ!

 
前書き
ラング出るよ 

 
(グランバニア城・外務大臣執務室)
リュリュSIDE

しょんぼり気分で執務室へ戻ると、私の机にも先程のお饅頭が置いてあり、一緒にグリーンティーが添えられてあった。
どうやら一息入れる様だ。

「リュリュ……僕もね、父さんの力になりたいと思い色々頑張ってきた。ちゃらんぽらんな人間に見えるけど……いや実際にそうなんだけど、何事もキチッとしてる人なんだ。仕事を抜け出してる事が多々あるけど、遅らせては拙い政務は終わらせて、遅らせても問題の無い事柄だけをボイコットしてるんだ。だからグランバニアは発展し続けている」

「はい……それは解ってます」
理解してる事を一々言われ、ムッとしながら返答してしまった。
「いいや解ってない!」
しかし否定され、尚更苛立ちが募ってくる。

「リュリュが剣術を始めた切っ掛けが、父さんの力になる為だと言ったね? 本当に今現在のリュリュはリュカ陛下の力になれているのかい? 上辺だけの父さんを見て、為人の全てを理解した気分になってるんじゃないのかい?」
「そんな事ありません!」

「じゃぁ、その誤字だらけの書類は何だい? 本当に父さんの力になりたいのなら、国王リュカ陛下の邪魔になる事ばかりをしてる君は何だ? “お父さんが好き”ああ結構! “闘技大会優勝で愛人になる!”勝手にするが良い! だが仕事の邪魔をしてどうする!? 僕も父さんも……誰もがリュリュなら頑張って外務大臣補佐官という大役を務めてくれる、その仕事に情熱を注いでくれる、そう思ったから君を任命したんだよ。リュリュを信頼して任せてくれたんだよ」

ちょっとの誤字でこんなに怒られるとは……
そんなに重要な書類なのか?
思わず手元の書類を凝視する。

「そんなに特訓をしたいのか? 目の前の仕事が疎かになるくらい修行をしたいのか?」
「え!? わ、私……疎かにしたつもりはありません!」
そんな事してない! 頑張って仕事を憶えようとしてるよ!

「そうかい……僕にはそう見えないけどね」
「そんな事はありません! 私は一生懸命に努力してます!」
赤丸チェックの入った書類を握り締め、私はティミー君を睨み付けた。

「だと良いが……僕も父さんもリュリュに無理強いをするつもりはない。止めたくなったら何時でも父さんに言うと良い。僕も使えない部下は必要ないからね」
(あったま)きた!
こんな嫌な事を言う人だなんて思いませんでしたよ!



(グランバニア城・国王執務室)

思わず私は執務室から飛び出しちゃいました。
どうするつもりだったのかは解りません。
でも気付いたらお父さんの部屋に居て、ティミー君の意地悪さをぶちまけてました。

言いたい事を全部言って気持ちが落ち着いたところでお父さんを見ます。
何時もの様に優しい瞳で見詰めてくれますぅ♥
きっとお父さんなら私の気持ちは解ってくれてますよ。

「落ち着いたかいリュリュ?」
「はい」
ティミー君を呼び出してお説教ですかね? それとも後でコッソリ叱るのかな?

「悪いけど僕もティミーと同じ気持ちだよリュリュ」
「……………はい?」
何が悪いのですか? 何が同じ気持ちなんですか?

「お前はデルコに剣術を教わったんだよね?」
「は、はい……そうですけど……」
デ、デルコさんが関係あるんですか?

「じゃぁアイツに剣術を習ってるときに、アイツの事を“剣術だけの馬鹿”と思った事は有るかい?」
「そんな事思う訳ないじゃないですか! 私はデルコさんを尊敬してますし、剣術を教えてくれた事に感謝してるんです!」

「でもティミーの事は……上司のティミー大臣は尊敬してないし敬意もはらってないよね! もし敬意をはらってたら『書類を上の空で見てた』とか言わないからね。リュリュより仕事の経験を積んだ上位者に対して『仕事してるのか不明』なんて言わないからね!」
「そ、それは……」

「僕もリュリュがこの仕事に不満を持ってる事は知ってる。特訓をしたい時に別の用事を押し付けられて、不満を抱えてる事は存じてます。でも妊娠し仕事から退かねばならなくなったアルルの為に、リュリュなら頑張ってくれるだろうと思ってお願いしたんだ。でも買い被りだった……僕もティミーも、自分の血縁ってだけで買いかぶりすぎてたみたいだ」

あぅぅぅぅ……いっその事怒鳴られた方がマシなほど、心に突き刺さるお父さんの言葉。
哀しそうに私を見詰め嘆くお父さん……
これだったらティミー君の苦言を聞いてれば良かったわ。

「リュリュ……お前はティミーが上の空で仕事してると言ってたが、そう見えるだけだよ。何故ならお前の事を気にかけながら仕事をしてるからね……それでも書類の誤字を発見する程アイツは優秀なんだ。それを“上の空”と評するとは……」

「そ、それは違うの! だって私の作った書類をしっかりと見ないで返してきたから……だから上の空に見えちゃったの!」
「僕だってそんなにマジマジと見てないよ」

「そ、それはお父さんが凄い人だから……仕事の出来る凄い人だから……」
「ティミーの場合は駄人間で、僕の場合は偉人か……息子を馬鹿にされるのは腹が立つな! しかも父の僕より仕事の出来る息子を貶されるのは我慢ならない」

哀しい瞳から一転、お父さんの目には怒りの色が窺える。
そ、そんな怒るなんて……私は只、ティミー君の意地悪を訴えに来ただけなのに!
「ち、違うのお父さん……別にティミー君を……」

「いや違くない!」
私の訴えを右手で遮り厳しい目を向け続ける。
嫌だ……お父さんに嫌われるのは絶対に嫌だ!

「ティミーは真面目な努力家だ。幼い頃から王子としての教育を受けてきた……しかも僕と再会し、世の中の事も学んできた。勇者として生まれてしまったから正義感も強い。だが何より素晴らしいのは、アイツの持つ優しさだ。誰に対しても優しく、そして公明正大だ。お前はティミーに意地悪されたと思ってるのだろうが、ティミーが優しいからこその態度だと理解する必要がある! “無能な部下は要らない”と言われたんだろ? 僕ならそんな事言わない……ただ黙って切り捨てるだけだ。そして新たな人材の育成に取りかかる。でも優しいティミーはお前を叱咤し、やる気を鼓舞させようと努力した。まだチャンスを与えようと言ってるんだよ! なのにそれすら解らないお前は、ただ愚痴を言いに僕の下に来て政務の邪魔をする……お前は本当に何をしたいんだ? 良い()ちゃんなまま誰からも愛される存在で居続けつつ、自分のしたい事だけをして生きて行きたいのか? やりたくもない仕事をして、それなのに怒られて腹立つのなら、ここで愚痴ってないで辞めちまえばいいんだよ! それで大会に向けて特訓しろ……優勝したら抱いてやるよ! 犯してやるよ! そんな身勝手で我が儘な女は娘でも何でも無いからな」

一気に色々言われ涙が溢れてきた……
「泣くんなら帰れ……田舎に帰れ! そしてグランバニアに近付くな。それとも、まだ僕の娘として頑張りたいのなら、その涙を拭ってティミーの下に戻れ……そして言うべき一言を言ってこい。アイツは優しいから、お前が怒りにまかせて飛び出してきたとしても許してくれる」
でもお父さんは泣く事を許してくれず、娘を辞めるか娘を頑張るかの選択を迫る。

私に何も反論を許してくれないお父さん。
そんな私に出来る事は、言われた通り涙を拭いてティミー君の執務室へ戻る事だ。
そして謝る。仕事に真剣な態度で取り組むんだ!

リュリュSIDE END



(グランバニア城・外務大臣執務室)
ティミーSIDE

リュリュが泣きながら戻ってきた。
父さんに叱られたのだろう……
だが懸命に涙を流さない様に努力してる。

その姿のまま父さんの執務室からここへと戻ってきたのだろう。
近いとは言え途中で多数の者達に目撃されたに違いない。
半開きの扉の向こう側には、何事かと不安に思った者達(特に若い男)が群がってきてる。

「リュリュ……取り敢えず扉を閉めなさい」
「ふぁい……」
泣きながら鼻声で扉を閉め、再度こちらに向き直る。そして……

「ごめんなさい……生意気な言動を許して下さい……」
許すも何も無い……僕は怒って等いないし、戻ってきてくれた事が嬉しくて堪らない。
だけどクールに対応せねばならない。

「リュリュ……僕は怒ってないよ。これからの政務で示してくれれば問題ない。僕はリュリュと一緒に仕事をしたいんだから」
そう言って彼女を席に着かせ、一緒に楽しく仕事をしていける環境を整える。

今日はまだ無理だろう……
でも自分の意思で戻ってきてくれたのだから、明日以降には見違える様なリュリュになってるに違いない。
父さんから貰った饅頭を食べさせながら、一緒に頑張ろうと誓い合う。



(グランバニア城・国王執務室)

暫くしてリュリュも落ち着いたので、僕は父さんの執務室を訪ねる。
仕事の話もあるけど、それ以外の用件もあるから。
しかし困った事に、父さんの執務室は黒山の人集り状態だった。

理由は明確だ。
リュリュが泣きながら父さんの執務室から出てきたから!
リュリュに気のある(ばか)共が、何事かと詰めかけてるのだろう。

ほら……聞き覚えのある声が響いてくる。
「一体何をリュリュさんにしでかしたんですか!? 泣いてましたぞ……あの美しいリュリュさんが涙を流してたんですぞリュカ殿!」

やっぱりリーダー格になってるのはラングストンだ。
奴の声が室内から聞こえてくる。
父さんの声が聞こえてこないって事は、忙しくてシカトしてるのかな?
でも何時まで我慢できるだろうか?

「良いですか……リュリュさんのピュアな心を傷付け「うるせぇな!」
何だ……もう我慢の限界か。
相変わらず早いなぁ……

「うるせぇとは何事ですか!?」
「うるせぇもんはうるせぇーんだよ! 家庭の問題に口出ししてんじゃねーよ! お前等は何なんだよ!? リュリュの彼氏か? リュリュの旦那か? “自称”や“希望”を語んなよ! どうせフラれる運命の他人共だろうが! 俺の家庭の事に口挟むんじゃねーよ!」

一人称が“俺”になってる……
あんまり怒らせないでくれよ……この後僕も用事があるんだからさぁ。
そんな事を考えながら、この鬱陶しい人集りを眺めてると、部屋の奥から誰かが誰かを殴る音が聞こえてくる。

殴られてるのはラングかな?
でもアイツ……そういうところで要領良いから、以外にスルリと躱して誰かを犠牲に逃げてるんだろうなぁ。
ってな事思ってたら、案の定……足下から無傷のラングが這いずり出てきて逃げて行く。

それを切っ掛けに、この人集りは蜘蛛の子を散らす勢いで解散された。
何人か血を流し担がれてる者も居たけど、それらを無視して落ち着くのを待つ。
そして静寂を取り戻した国王執務室へノックと共に入室。

「父さん……色々お疲れ様でした」
「ティミーか……お前もお疲れだったね。巧くリュリュの心を政務に縛り付ける事が出来た……助かったよ」

「いえ……父さんとウルフ君が作成したシナリオ通りに進めただけです。お二人のあくどさに比べたら僕なんて……」
「そんなに褒めんなよ……照れるだろ」
褒めてねーよ。

「でも泣かす事はなかったんじゃないですか? お陰で先程の騒ぎですよ……何ですかあれは?」
「泣かす気なんてなかったさ……可愛い娘だもの! でも泣いちゃったんだよ……僕だってビビったんだよ。でもお前の事を悪く言うから……つい……」

ついって……()より息子()の事を気にしたって言うのか?
だとしたら息子としては嬉しいが、兄としては複雑だ。

ティミーSIDE END



 
 

 
後書き
出番少ないけど、美味しい役回りなラング。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧