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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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外伝
  外伝《絶剣の弟子》②

 
前書き
お待たせしました。外伝第二弾です。 

 
 
 後に、本当に後になって知ったことだが、《Lisbeth Smith shop》の店主、レプラコーンのマスタースミス、リズベットさんはALO内でかなり名のある鍛冶屋だったことを知った。
 同じマスタースミスでも、何故かリズベットさんの作るものは他の鍛冶屋とは品質が違うのだ。何かズルをしている訳ではなく、パラメーターに違いがある訳でもなく、"心なしか使い易い"とか"心なしか折れにくい"というゲームのくせにかなりアバウトな理由からだ。
 鍛冶の工程を丁寧にこなせば成功率や品質が上がるというのはかなり昔から言われてる話らしくいが、そこのところは専門職でない俺には分からない。
 カウンターを挟みユウキさんとリズベットさんがやり取りし、俺はユウキさんの少し後ろにつっ立っている。

「という訳でリズ、ライトに武器と防具作ってあげて!」
「……待ちなさい。という訳ってどうゆうことよ」
「だからね。そろそろライトの装備が実力と釣り合わなくなってきたからリズが新しいの作ってくれないかな?」

 暴君である。実に横暴だ。リズベットさんの店に見本として置かれている武具はどう見ても上級装備。当然装備出来るものではなく、それしか置いてないということはそうゆうことである。

「……あのね、ユウキ。あたしは知り合いだからって基本的にはビタ一文まけないわよ?」
「お金はあるよ。大丈夫」
「素材は?」
「必要なら取りに行くよ。それくらい分かってるってば」

 リズベットさんも慣れているのか諦めているのか。全てニコニコしながら返答するユウキさんにため息を吐き、こっちを見た。

「で、あんたのお師匠様はこう言ってるけど。当のあんたはどうなの?」
「えっと、素材集めやらは俺の為なので。勿論行きます」
「……そう、分かった。ちょっと待っててね」

 リズベットさんがウィンドウを開いて何やら分厚い本を取り出すとページをめくりながら何事かをブツブツ言っている。
 こっそり表紙を見てみると、どうやら武具名鑑のようなもののようで何やら古めかしい表装だ。

「ところであんた、どんな武具がお望み?見たところ軽装戦士のようだけど」
「あ、はい。片手剣と盾を使います。今使っているのは「え?ちょっと待って」はい?」

 分厚い名鑑を肩に担ぎカウンターから出て来たリズベットさんは何故か不穏なオーラを放っている。

「どうしたの、リズ?」
「どうしたもこうしたも……ユウキあんた、この子の装備とかステ振りとかどうやって選んだの?」
「え?えっと、色々あってお金だけはあったからインプ領で店買い出来る、最高スペックのものとモンスタードロップの組み合わせだよ?ステ振りはライト任せ」
「あんたが指示したのね?彼のチョイスではなく」
「う、うん。動き易いように……って、うわぁ⁉︎」

 リズベットさんは肩に担いだ名鑑の背表紙をユウキさんの脳天に直撃させるべく振り下ろすが、ユウキさんも流石の反応速度で避ける。

「なにすんのさ⁉︎」
「おバカ!この子どう見ても盾剣士!つまりタンクタイプ!装備は重装!回避盾じゃなくて肉壁!」

 エクスクラメーションマークごとに分厚い名鑑を軽々と振るい、ユウキさんに殴りかかるリズベットさん。どうやら俺の為に怒ってくれているらしいが、酷いことを言われている気もする。

「え、そうだったの?」
「戦闘中はどうしてたのよ!何見てたの⁉︎」
「えっと……立ち回りとか、色々……っとと」
「はぁ、はぁ……まずライトに言っちゃうと、完全に参考にする人物を間違えたわね。ステ振りまでミスってたら大変だったわよ」
「あ、いや。でも、ユウキさんのお陰で回避は格段に良くなりましたよ?」
「回避主体の盾剣士なんて……まあ居ないこともないけれど、普通盾で凌ぎ切っちゃうわよ。あんたのイメージしてた戦闘スタイルってこっちじゃないの?」

 確かに俺は長年2Dのゲームで盾剣士としてプレイして来た。タイミング良く防ぐことでダメージを完全に防ぎ切れる上に相手にディレイを与えることが出来たりするからだ。俺はこの手の操作が得意で、盾は防御力の底上げというより、もう一つの武器に近かった。

「まあ、そうなんですけどね……」
「まったく、この子は……」
「あぅ……ごめんね、ライト」

 こちらの顔色を伺うように上目遣い気味に見上げてくるユウキさんにドキッと跳ね上がりつつ顔を背ける。

「別に、大丈夫です。さっきも言った通り、ユウキさんが頑張って教えてくれるからこんな短い間でここまで来れたんです」
「ライト……。うん、ありがとう。……えと、教えられることは大分少なくなっちゃったけど、これからも、その……」
「はい。これからもよろしくお願いします」

 ちょっと……いや、かなり不安だが、本来は自分である程度は身に付けなければならない過程だったのだ。たまたま熟練者の人と会えて、たまたま仲良くなって、気まぐれで教えてもらっているだけなのだ。俺が自分のスタイルに合っていないからと言って投げたすことは無い。特別執着はないから最悪スタイルを変えたって良いのだ。

「……で、どうするの?あ、これ必要な素材の一覧ね」
「ありがと、リズ。……うへぇ、面倒なの多いなぁ……」
「一個ランク落としても良いけど。揃えるなら最高のものがいいでしょ?」

 よっぽどなのか、苦い薬を飲み干したような顔をしているユウキさんの隣に行き、そのリストを見てみる。そこには聞いたことの無いような厳めしい名前や不思議な語感のものなど、いかにも珍しげな素材の名が列挙してあった。

「言っておくけど、この剣の素材になってる《火山龍の灼鱗》だけはユウキがどんなに強かろうと勝てない敵から採れるやつだから。最後に回しなさい」
「え?そんなに?」
「昔、レイとキリト、リーファ、クライン、アード、セイン、それとあたしでやって、ギリギリ勝てたって言えば分かりやすい?」
「あ、それは無理」

 えらくあっさりと納得したが……今リズベットさんが列挙した人たちは何者なのだろうか。2人が共通して知っているということはかなりの有名人か、親しい友人なのかもしれない。それでいて、おそらくかなり手練れのメンバーなのだろう。

「という訳だから、そうねぇ……まずはこれ。ノーム領の中級遺跡ダンジョン深奥で採れる《ターコイズ・インゴット》か、同じくノーム領の海で狩れるモンスターからごく稀にドロップする《海百足の油》あたりをお勧めするわ」
「うーん。油の方は海の中に入った方が効率が良いよね……そうするとウンディーネの誰かに着いて来て貰った方が良いから……鉱石の方かな。どうかな?」
「俺は構いません……というかその辺の知識はまだあまり無いのでお任せします」

 他人任せにするのは心苦しいが、実際知識が追いついていないのは確かだ。流石にインプ領周辺の知識は人並みに付いたが他種族のものとなるとまだあやふやな部分が多い。

「オッケー。じゃあ今日は鉱石採りに行って、油は明日か近い内に。明日がダメな場合は他のを採りに行くかスキルの熟練度上げしよっか」

 そうユウキさんが宣言して2人でリズベットさんの店から立ち去ろうとすると、後ろからオホン、とわざとらしい咳払いが聞こえた。何事かと思って2人して振り向くと、リズベットさんが腕組みをしてこっちを見ていた。

「ちょっとユウキ。こっち来なさい?」
「え?あ、うん」

 不思議そうに首を傾げながらユウキさんがリズベットさんに近づいていくと、リズベットさんはガシッとユウキさんの首根っこを掴んで後ろを向いてしまった。そしてリズベットさんが何やらユウキさんに囁くとユウキさんはすぐ様顔を真っ赤にして。

「ち、違う違う!絶対違うから⁉︎」
「ふーん?どーだか。分かるわよぉ、ユウキ。すーぐどっか行っちゃうあいつより良いんじゃない?」
「……っ、とにかく、違うから!もう、変なこと言わないで!」

 フン、と少し怒ったように顔を背けこっちにずかずかと歩いて来るユウキさん。

「あ、あの。ユウキさん?」
「行くよ!ライト。ノーム領までまた結構翔ばなきゃいけないから。あっという間に時間なくなっちゃうから!」

 腕を掴まれ引きずられるように店から出ようとすると、再び店の奥から声がした。

「ちなみに、採掘スキル持ってるあたしが一緒に行けば入手確率上がるわよ〜?」
「…………」

 それならば是非一緒に来て頂きたいところだ。しかし、どうゆう理由かは不明だがユウキさんは怒っている……というか、ムキになっている感じだ。その原因であるリズベットさんは特に悪びれた様子もなく、からかうような笑みでこっちを見ている。

「ライト、キミが決めて良いよ」
「え?ああ……じゃあ、リズベットさん。ご同行、お願いして良いですか?」
「ええ、良いわよ」

 こうして鉱石採掘のメンバーにもう1人メンバーが加わった。






 ユウキさんはリズベットさんに怒ってるというより、やはり何かしらの反発心を持っているような感じだ。
 ツンケンした口調ながら会話はちゃんとしてるし、喧嘩という訳ではないようなので一安心した。

「見えて来たわよ。あれがノーム領南端の都市《ガノーメン》。あの街のちょっと先に洞窟があってその奥にあるのが地下要塞都市である首都《レニバス》。今回用があるのはさらにその先にある《群青の洞窟》ってとこ」
「……群青、ですか?」
「そうよ。何か気になる?」
「狙っている鉱石は《ターコイズ・インゴット》。ターコイズは赤系統の色なのに群青、つまり青系統が基本色であろう場所に行くのが気になって」
「ああ。そうゆうこと」

 現在、眼下にノーム領最南端だと言う街を収めつつ尚も北へ進んでいる。今回は速度優先という事でポップしたモンスターはユウキさんとリズベットさんが瞬時に駆逐して行くため、俺がこれまでに戦闘に参加することは無かった。基本的に先頭を翔ぶユウキさんが立ち塞がる敵を両断して行き、洩れたその他をリズベットさんが受け持っていた訳だが……ただの生産職とは思えない戦闘力だ。自身の作であろう片手棍(メイス)を豪快に振り、モンスターを文字通り塵へと変えていく。強さ的にはユウキさん程ではない感じがしたが、戦闘慣れしているのは明らかだった。
 戦闘に備えて少し先行しているユウキさんに代わり、リズベットさんが俺の何気ない疑問に答えてくれた。

「《ターコイズ・インゴット》は確かに《群青の洞窟》では珍しい。でもね、深奥のボスからのドロップと、その部屋の採掘ポイントからは他のダンジョンよりドロップ率が高いのよ」
「なるほど……」

 これは多分、《群青の洞窟》のドロップアイテムにおける所謂"はずれ"としてドロップする《ターコイズ・インゴット》を取りに行こうというものだろう。ドロップ確率を逆手に取ったある意味、裏技的な方法だ。
 いやしかし……目的のものであるアイテムが"はずれ"としてドロップするということは……

「あの、リズベットさん。もしかしてそのダンジョン、難しいんじゃ……」
「まあ、その……大丈夫よ。多分」
「…………」

 それから翔ぶこと約20分。俺達は途中で地上に降り、ローテアウトして諸々の用を済ませた後、その洞窟の入り口を見つけた。
 雪で真っ白な森の中でその洞窟は淡く輝き、辺りを青に染めている。

「ここ結構レベル高めだから、ライトは回避と防御主体に立ち回ってね。スキルの経験値は平等に入るように設定してあるから」
「え……それはちょっと……心苦しいというか……」
「良いのよ。どうせ最後にはうんと働いて貰うんだから。今のうちに強くなっておいて貰わないと」
「最後……?」

 そう言えば、リズベットさんの店でなにかの素材を後回しにしろと言われた。ユウキさんがどんなに強くても絶対に勝てないから、と。

「そう、最後の最後。あんたの盾を作るのに必要な素材がドロップするモンスターは生半可な相手じゃない。まあ、まだ当分先よ」
「……分かりました」

 そう言われるとこれ以上言い返せなくなる。このまま最後まで頼りっぱなしというのは褒められたことじゃないし、そうなりたくもない。なるべく早く強くならなければ……。

「よし。準備万端!行くよ2人とも」
「ええ」
「はい」

 ウィンドウを開いて最後の各種チェックを終えたユウキさんが気合を入れるように大きな声を出し、洞窟の方へ進んでいく。
 リズベットさんはまるで散歩するかのように自然に、俺は既に緊張を漲らせながらそれに続いていった。















 《群青の洞窟》は地下へ広がる中規模ダンジョンだ。全4層の内3層が坑道……というか迷路になっており、2層に中ボスが存在配置されている。

 ユウキさんとリズベットさんがポップする敵モンスターを出てきた側から吹き飛ばすので、俺にはあまり仕事が無い。妨害呪文で敵を弱らせたり、たまに囮役をやったりするだけだ。
 多くはオーク系やエレメント系、ゴーレム系のモンスターがポップし、3匹から4匹程度の群れでエンカウントする。オークやエレメントはユウキさんが切り裂き、ゴーレム系はリズベットさんが粉砕しながら順調に進んでいた。

「この先の部屋が中ボスだね」
「事前情報だとヘイトの低いプレイヤーは取り巻きに狙われるみたいだから、ボス本体はユウキが。その他のやつらはあたしとライトでやるわよ」
「は、はい」

 ボスクラスを1人で相手することになったユウキさんは特に普段と変わらない様子で準備をしている。
 自己強化のスキルを発動させ、効果を確かめるようにジャンプやステップを繰り返している。そしてふと立ち止まると俺の方を見た。

「大丈夫だよライト。ボスなんかボクがすぐにやっつけちゃうから!」
「あ、いや……ユウキさんこそ、1人で大丈夫なんですか?」
「え?……うん、大丈夫だよ。ここのボスってそんなに強くないから」
「そ、そうですか……」

 ごく当たり前のことのように、何の気負いもなくそう言うユウキさんは頼もしくて……どこか寂しそうだった。

「そーそー。そうゆうことだからあんたは何も心配しないで、自分が生き残ることだけを考えてればいいの」
「……はい」

 当然と言えば当然。自分が弱い故の行動。世間一般には『寄生』と言われる行為である。ユウキさんとリズベットさんの善意から生じた必然であるにしても自身の心中では納得と、もどかしさが同居していた。
 それが具体的な言葉にし、言えれば2人は代わりの作戦を提示したかもしれない。

「ーーーーっぁ‼︎」

 だが、俺はそれを言おうとし口を開くと声が出なかった。

 VR世界のアバターは現実の人間と違い、声帯を震わせて声を発している訳ではない。アミュスフィアが発声しようとした使用者の電気信号を読み取り、アバターの発声に変換している。
 意思に反し、脳がライトが発声することを拒んだ。"建前"でしかない、ライトの表層意思のさらに深奥の"真の意思"を汲み取ったのだ。

(どうして……⁉︎)

 忘れもしない『あの日』。あの子を傷つけてしまったことを、酷く後悔したあの日。暗闇に隠れ、ひたすら後悔し、自分を責め、塞ぎ込み、時間の流れで記憶を風化させて……そうやってようやく日の下へ這い出してきた。それ以来、常に誠実であろうと努力し、それを実行して来た。
 して来たつもりだった。今日、この時までは。

(俺は、また……っ!)

 自責の念がどくとくと溢れ出し、ようやく癒えてきた心を荒らし、ライトの、光の弱いところを抉る。
 体が震え、汗が噴き出し、息が苦しくなった。
 アミュスフィアがバイタル変化の警告を表示すると同時にライトのアバターは地面に膝を突いた。

「え、ライト……?」
「あんた、どうしーーー」

 その音に敏感に反応した2人の声もほぼ聞こえないままに、ライトはアルヴヘイムから消えた。
 
 

 
後書き
はい。今回はユウキとライトの師弟コンビにリズベットが新たに加わりました。
この外伝では今まであまり動いてなかったキャラ(つまりMORE DEBAN勢)に活躍してもらう、というか存在を思い出してもらうという試みも為されております。
原作で出てきたキャラもオリジナルキャラもMORE DEBAN!と言っているやつには登場してもらおう(予定)と思っております。

さて何やら最後の方で、きな臭い事になって来ましたがシリアス分補給ということでひとつ。
ライトの言う『あの子』って誰なんだろう?
ライトって今年の春から高校生で、ってことは14か15歳だなぁ……。



ん?15……?



などと思いつつ次回をお楽しみに。それではノシ 
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