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元虐められっ子の学園生活

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閑話ノ1 バイト風景

バイト生活でもっとも欠かせないもの。
それは笑顔である。
笑顔とは、コミュニケーションをとるための最善方法であり、良策でもある。
しかし、葉山隼人の様になりふり構わずスマイルを振り撒く輩はいずれにおいても痛い目を見るのだ。
何故か?何も考えてないからだ。
無心な表情が現状の維持や打破をすることなどまず無理であると思われる。
ところで、私の笑顔はどうだろうか?
嘗て比企谷に笑顔を作ってみた結果、『恐い』と言う感想を頂いた。
故に、店長も空気を読んで接客には割り振らなかったのだろうと私は思う。
正直に言えば自分の顔は怖いと言う自覚はある。
だが、試してもいない事を無理だと言うのは間違いではないのだろうか?
結論を言おう。 一度で良いから接客してみたい。









「三番テーブル完了です!」

「了解!」

俺は返事をしつつ忙しなく手を動かす。

「オーダー入ります!業炎野菜炒め1!サッパリしまくり炒飯1!」

「了k…嘘ぉ!?マジで!?」

「マジです!早く!」

「り、了解!」

新しいオーダーに俺は驚く。

まずこの店の説明をしよう。
俺が下校後に働くこの店、『ビュリー・4』は43歳の店長、松頼 武が勤める結構人気な中華料理店である。
店内はそれなりに広く、来客30名弱が入れるところだ。
俺が入った当時はそんなに客足も無かったのだが、今では忙しい毎日となっている。
そんな店舗の一番の不思議がメニューの名前である。
先程のオーダーに加え、三日月だの夕刻、極限、斬新、到達、爆熱、神域、三途川等が付くメニューがあるのだ。
それぞれに付く名前にあった料理が作られる(と言うよりも俺が作る)のだが、其々の名前からどんなものかは大抵予想が付く筈なのだ。

そして今回頼まれた”業炎”。
これはその料理の辛さを示しており、来店する客にはチャレンジ料理として知られている。
最近では全く頼まれなかったこの料理を頼む者がまだいるとは思わなかったため、俺は驚いてしまったのである。

「業炎野菜炒め上がり!」

「はい!」

調理した料理をカウンターに出して炒飯の準備をして止まる。
何故止まるのか。それは――――――

『ひぎゃぁぁぁぁぁあ!?』

客がダウンするからである。
この料理を食したものの大半が悲鳴をあげて轟沈する。今まで完食する者もいなければ、これによってクレームが来たことすら無いのは不思議である。

「あー、お帰りになります…」

「了解……炒飯代は引いといてあげて」

「わかりました…」

今回の客は意識が持つまで耐えたのか。
次に作るのはいつ頃になるのかなぁ…。
そんなことを考えながら溜まっている食器に手を伸ばす。

「お疲れ九十九」

「ああ、紗希さん。今から?」

裏口から入ってきた紗希さんが、片手を上げて入ってくる。

「そう。ねぇ、さっきの客って…」

「ああ…”業炎”で轟沈」

「頼んだ辺りで勇者だよ」

「そんなに辛いか?」

「辛いなんて者じゃないよ。あれを完食するのあんたしかいないから」

「ぐ………」

確かに、作った本人が食べられなければ意味がないからな。

「2名様ご来店でーす」

「川崎入ります」

「俺もやっちゃうか……」

再び食器に手を伸ばして、シンクに流していく。
前まで無かった洗浄機もあるお陰か、大分楽できているのは良いことなのだろう。
しかし厨房が俺一人と言うのは寂しさが感じられる。
誰かもう一人雇っても良いんじゃないかと店長に相談したところ、「だって誰も九十九君のスピードに付いていけないんだもん」とのこと。
良い歳した人が「もん」を使うのはどうかと思うのだが、確かにそうなのだろう。
前まで来ていたバイトの人も、直ぐにやめてしまった次第である。

「オーダー入るよ。
極炎炒飯1、三日月のパンツェッタ1……タンカ用意した方が良いんじゃない?」

「……嘘だろ……?」

まさか”極炎”をオーダーする客がいるなんて…!

「死んだりしないよな?俺は食えるけど…」

「今度こそクレーム来そうだけど…」

「………とりあえず作るよ…」

俺は作業に取りかかった。
当店には辛さに別けて段階がある。
桃色から始まり、炎熱、爆熱、業炎、極炎である。
因みにこの業炎と極炎の間が明らかに激しいと、これを食した店長は語る。

「極炎上がり……紗希さ~ん」

「はいはい」

カウンターに置いた件の料理を持っていく紗希さん。
取り合えず三日月に取りかかろうと、これから響くであろう悲鳴を覚悟する。

客席からは『止めときなよキリト君…』『大丈夫だって!行ける行ける!』
と聞こえてくるが、やはり止めた方がいいのではと思考が廻る。

「う…………!」

来た!?

「うんめぇええええ!」

………………………………………………………………………え?
店内は、少しの静寂に包まれた。

「き、聞き間違いかな?今美味いって……聞こえたような……」

「気のせいじゃ無いから……」

そんな馬鹿な…あれは俺しか完食することが出来なかった代物だぞ…。
あれを完食するなんてどこの猛者だ…?
俺は意を決して厨房から除いてみることにした。




「すげェ上手いぞこれ!」

「私には赤を通り越して緑にしか見えないんだけど……」

まぁ世界一辛いと言われる香辛料を使ったからな…。

「アスナも食べてみろよ!」

「え!?わ、私はいいよ…」

当然だ。食ったら死ぬぞ?
その少年が特殊なだけだ。







「……なんと言うか、凄いな」

「私も驚いてるよ。あんな美味しそうに食べるなんて…」

まぁタンカ持ち出さなくて幸いだった。

そんなとある一日のバイト風景でした。 
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