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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  1.デスゲーム

俺にむかって降り下ろされる手斧を、俺は後ろに跳ぶことでかわした。相手のモンスター、《ルインコボルド・トルーパー》が体勢を崩したその瞬間、両手に握った剣を担ぎ気味に構える。剣がオレンジ色の光に包まれ、俺のからだが半自動的に動く。両手剣スキル突進技、《アバランシュ》。この世界における最大の攻撃要素、《剣技》――《ソードスキル》が、コボルドの左肩口から右脇腹にかけてばっさりと斬り裂いた。視界隅に表示されているHPが減少していき、ゼロになる。コボルドがぎしっと不可思議な体勢で硬直し、直後。
硝子が砕けるような音を立て、その体が青いポリゴンとして四散した。これが、この世界の死。
背後の壁に体を預け、長い溜息をつく。さすがに毎日これをずっと繰り返すのは疲れる。なにせ、俺たちもゲームオーバーになると死ぬのだから。

ゲーム内だけではなく、現実世界でも。この世界の死は、本当の死を意味する。


一か月前に茅場晶彦によって開始された、このデスゲーム。嘘か本当か、ゲームで死ぬと同時に現実世界で《ナーヴギア》が俺たちの脳を焼き切る。きっとこれは真実なのだろう。嘘なら、一か月もたつのに救出策が講じられていないはずがない。俺が望んだ嘘と虚構の世界は、現実(リアル)になってしまった。

なのになぜ、俺は危険なフィールドに出て、モンスターと戦っているのか。モンスターは一切現れない《圏内》に籠らず、迷宮内を駆け回っているのか。
その答えは、まだ自分でも見つけられていない。でも、きっと。
「恐怖が…ないからかな、多分」
呟き、俺は迷宮の出口に向かって歩き出した。

今日夕方4時から始まる、《第1層フロアボス攻略会議》に参加するために。


トールバーナの噴水広場には、44人が集っていた。俺が思っていたより結構多い。全員死ぬ可能性があるのに。
「隣、いいか?」
「ん?あぁ、構わないぜ」
俺が声をかけた―――かけてしまったのは、かなりの巨漢だった。一瞬身構えてしまったが、お相手は気にした様子もなく承諾してくれた。ありがたく座らせてもらう。
攻略会議は、ディアベルという名の自称 騎士(ナイト)が自己紹介するところから始まった。しかし、何事もなくすんなりと会議は進んでくれなかった。
《キバオウ》という名前のプレイヤーが、ベータテスターがどうだのこうだの喋りはじめたからだ。なんでも、今までに死んだ二千人は本ベータテスターが見捨てたせい、アイテムやら金やらを差し出して謝罪しろ、ということだった。はっきり言って面倒くさい。どうでもいいではないか、そんなこと。ベータテスターが誰かわかるわけではないし、せっかく集まったプレイヤーが減る可能性もある。それに、アレも配布されているというのに。
ちょっと黙らせようか・・・と俺が思い始めたころ、張りのあるバリトンが広場に響いた。
「発言、いいか」
声の主はさっきの巨漢だ。エギルという斧使いはわめくキバオウを、ポーチから取り出したアレ――ガイドブックによって見事に黙らせた。その後ディアベルの言葉によってキバオウは引き下がったが、俺にとって問題はここからだった。
――パーティーを組んでくれ、といったのだ、ディアベルが。
俺は今までずっとソロでやってきていたので、フレンドどころか普通の知り合いさえ少ない。と言うよりほぼいない。さてどうしたものか、と俺が唸っていると。
「なぁ、あんた。1人なら、俺たちとパーティー組まないか」
断る理由は無かったので俺は頷いた。出されたパーティー参加申請を受諾。次々にほかの仲間――そろいもそろってデカイ――も自己紹介してくる。
「あぁ、よろしく頼む。見ての通り、両手剣(ツーハンデッドソード)を使う」
「おぅ、よろしく。名前は・・・アルト、でいいか?」
「あってる」
パーティーを組み終わり、ディアベルが役割分担をして会議はお開きになった。なんだか普通の戦闘よりも疲れた気がする。
「ふぅ・・・じゃあエギル、明日はよろしく」
「よろしくな、アルト」
ひらっと手を振ると、俺は噴水広場を出た。





 
 

 
後書き
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