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黒衣

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3部分:第三章


第三章

 そしてだ。昌良にまた話した。
「それが見えたということはです」
「本当に死ぬんですね、わしは」
「間違いないかと」
「そうですか」
 それを聞いてもだ。昌良はだ。
 穏やかな顔のままでベッドに寝ていた。そうしてこう医師に話した。
「わしはもうこれで」
「やはり。取り乱したりされないですね」
「今更ですから」
 またこう言うのである。
「九十まで生きて。思い残すこともないですし」
「ではこのまま」
「はい、このまま寝させてもらいます」
 そうするというのである。
「その時には」
「わかりました。では私も」
「先生もですか」
「最後まで見送らさせてもらいますね」
 医師もだ。昌良に対して話すのだった。
「そうさせてもらいますね」
「はい、それでは」
 昌良は医師のその言葉を受け入れた。そうしてだった。
 彼は静かにその時を待った。それは暫くして来た。
 息子や孫達に囲まれながらだ。彼は眠る様にしていた。その中で彼等に言うのだった。
「今まで楽しかったのう」
「楽しかったんだね」
「そうなんだね」
「うむ、最高だった」
 まさにそうだとだ。彼等に話すのである。
「何の思い残すこともない」
「けれど。お爺ちゃんが死んで」
「寂しくなるよね」
「死んで欲しくないよ」
「本当に」
「ははは、それは無理だ」
 昌良は彼等のそうした話にはこう返した。
「人間は絶対に死ぬんだからな」
「けれどそれでも」
「やっぱり」
「死んで欲しくないから」
「絶対に」
「人は絶対に死ぬんだよ」
 彼は優しい声でだ。悲しい顔の彼等に話すのだった。
「それだけは絶対なんだよ」
「それはわかっていても」
「それでもやっぱり」
「お爺ちゃんが死ぬのは嫌だよ」
「絶対に」
「じゃあこう言おうか」
 どうしても悲しみを隠せない彼等にだ。昌良は言うのだった。
「死ぬ時にだよ」
「死ぬ時に?」
「というと?」
「満足して旅立てたらいいんだよ」
 こう言うのであった。
 
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