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魔法少女リリカルなのは ―全てを変えることができるなら―

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第四話

 ――――機動六課FW部隊の初出動があった。

 緊張や不安を感じながらも、何とか任務は成功してロストロギア/レリックの回収に成功した。

 朝我を除いたFW四名に新たなデバイスが与えられ、訓練内容も大きく変わった。

 なのはだけでなく、ヴィータも教導役として参加して相手をしている。

 そんなある日、午前の訓練が終わり、昼食を済ませた朝我は部隊長室に呼ばれていた。

「え、俺ってまた何か問題起こしたの?」

「説教するためだけに呼んだことなんて全くないんやけど?」

「それじゃなんだ?」

「任務や。
っというか、なんで任務が発想にないんや!?」

「いや、浮かんだは浮かんだけど……」

「ここ、機動六課。
ここ、仕事場。
そしてここ、部隊長室、OK!?」

「お、オーケー……」

 若干キレ気味にツッコミを入れるはやてに、朝我は気圧されながら頷いた。

 深呼吸して落ち着いたはやては、早速……と言って本題に入る。

「明日開かれるオークション会場に、今日から先に現場入りしてもらいたいんよ、以上」

「……あの、一言でまとめようとするのやめてください部隊長」

「へ?」

 先ほどの仕返しか、はやては聞こえないフリをして耳に手を当てて朝我を見る。

 流石に仕事モードだと思っていた朝我は不意をつかれ、敬語になってしまった。

「先に副隊長のシグナム、ヴィータが警備に向かっとって、明日はフォワード部隊総出動や。
せやけど前日からトラブルがある可能性もあるし、フォワード部隊の伝達を速やかにさせるためにも、フォワードから一人行かせるっていう結論が今し方出たんよ」

「……(ああ、ホテル・アグスタか)」

 無言の中、朝我はこの任務が何なのかをようやく理解した。

 過去に経験した通りの出来事、そしてそれが行われる日も変わってはいなかった。

「わかった。
なら今から一時間後にここを出る」

「ほんなら詳しい説明は現場まで送ってくれる人に話してもらうから、ちゃんと聞いとくんやで?」



*****


 一時間後、予定通り朝我は機動六課隊舎を後にした。

 出入り口で待機していると、黒の車が現れ、彼の目の前で停車した。

「……これはホント、想定外だな」

 経験したのは、ホテル・アグスタでの事件。

 しかし知らないのは、その前日のできごと。

 朝我は前日は普通に訓練を受け、普通に業務をこなした記憶しかない。

 つまり今日この日は、機動六課入隊から初めての“大きな変化”である。

 そしてそこへ連れてってくれるのが――――。

「それじゃ行こっか」

「ああ、フェイト」

 ――――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンだった。

 少し前のこと、夜の訓練が終わった所から少しだけ距離を置いていた。

 寝言を聴かれたこと、そしてそれを追求されるのが怖くて、避けたのだ。

 しかし神様というのは意地悪で、そうして距離を置きたい人と必ず接近させる。

 とはいえ、仕事は仕事だと切り分けて朝我はフェイトの隣の席に座ると、フェイトは慣れた手つきで運転を始めた。

 高速道路に入った所で、フェイトは今回の任務内容を説明しだす。

「今回の任務場所は骨董点などのオークション会場/ホテル・アグスタ」

 予想通り、と言う意味も含めて朝我は頷く。

「レリックを目的に動くガジェット・ドローン。
だけど、他のロストロギアにも反応して襲撃してくる可能性があるから、今回は機動六課が警護任務を担当することになったの」

「シグナムとヴィータが先に行ってるって言ったけど、今のところは報告なしか?」

 すでに経験した事象ではあるが、どこで変化があるか分からない。

 念のため、と言う意味を含めて朝我は聞いておくことにした。

「うん、今のところは問題ないって。
オークションは明日からだから、先に宿泊するために訪れているBIP客とかがいるらしいけど、それを狙った人もいないみたいだし、今のところは平和だって」

「……そうか」

 現状、変化なしと朝我は納得した。

 唯一の変化があるとすれば、オークション前日に朝我とフェイトが会場へ向かうと言うこと。

 しかしその行動が大きな変化を起こすとは思えなかった朝我は、現状は変化なしと判断するに至った。

「…………あの、さ」

「なんだ?」
 
 数秒の間を置いて、フェイトは意を決したように話しかけた。

「この前のこと、なんだけどさ……」

 この前、と曖昧な問いだが朝我はすぐに、なんのことかを察した。

 だから疑問には思わず、無言で首を縦に振った。

「朝我の気に障ったなんだよね?」

「いや、そんなこと……」

 気に障ったわけではない。

 しかし、その先は言えないもどかしさに、朝我は下唇をギュッと噛み締める。

 じんわりと口内に広がる血の風味が、様々な記憶を蘇らせながら。

「朝我のこと、色々と聞きたいけど……今は、答えられないんだよね?」

「……ごめん」

「そう……」

 頷いたり、肯定するのではなく、謝罪した。

 どんな想いで謝罪をしたのか、フェイトには計り知ることができなかった。

 それでも彼がやましい事や、自分たちの“何か”を脅かすような人ではないと信じたフェイトは、それで納得した。

「なら、いつかきっと……話してくれる?」

「……ああ、約束する」

「うん、それで充分だよ」

 車を運転していなければきっと、彼の顔を笑顔で見つめただろう。

 そうして頭を撫でていただろう。

 何もできないもどかしさを抱えながらフェイトはバックミラーを覗き込むと、そこに写ったものにフェイトは頬を緩ませる。

 朝我の表情が緩み、安心しきった様子で窓の外に広がる景色を眺めていたのだ。

 ここまでずっと、彼の表情はこわばっていた。

 本人は必死に隠していただろう。

 だが、どうしてかフェイトはそれが強がりなのを察することができた。

 まるで長い時間、一緒に過ごしていた、なのはとはやて達といるかのような……そんな、言動以外の何かで通じ合っているような――――。

 どうしてそう思うのだろうか。

 フェイトはそんな疑問を抱えつつも、彼と和解出来た喜びを抱えながら、アクセルをいつもより強めに踏んだ――――。


*****


 ホテル・アグスタに到着した朝我とフェイトは駐車場を出て建物のロビーにて既に待機していたシグナムとヴィータの二名と合流した。

「スターズ5、朝我 零。
ただ今到着いたしました」

「ああ、予定より早かったな」

 真剣そうな表情を崩さず、シグナムは朝我を見つめると、その隣でフェイトは申し訳なさそうに苦笑する。

 実はアクセルを少し踏みすぎて制限速度ギリギリになったと言う、初心者にありがちな事を起こしていた。

 そんなことをシグナムとヴィータに告げるのは恥ずかしく、笑って誤魔化すしかなかったのだ。

「まぁ早く到着して悪ぃことはねぇ。
早速でわりぃけど、朝我はアタシらと建物内の見回りに行くぞ」

「了解。
……それじゃフェイト、また明日」

「うん、またね」

 そう言ってフェイトは笑みで手を振り、再び駐車場に向かって歩きだした。

 その背が消えるまで、朝我は見つめる。

「“仕事中”だからな?」

 朝我の右からヴィータが意地悪そうな笑みを浮かべて肘で小突く。

「プライベートにまで干渉するつもりはないが、仕事と割り切ってもらわねば任務に支障をきたす」

 更に左からシグナムが僅かに微笑み、腕を組みながら何かに納得したように首を縦に何度も振った。

「分かってるよ。
さて、行きますか」

 シグナムとヴィータは、朝我をからかったつもりでいた。

 フェイトに気があるのでは?

 そんなことを遠まわしに伝えて、動揺したところを見ようと言う魂胆だった。

 それは親密な関係であるがゆえの当たり前の悪戯であり、そして朝我が何かしらの反応があるものだと思って疑わなかった。

 ――――しかし朝我は言葉を言葉通りに受け取った。

 仕事とプライベートを分けろ、今は任務中だ。

 二人に注意を受けたとしか思わなかった。

 だから動揺もせず、ただ謝罪をして歩き出していった。

「シグナム、アイツってたまに何考えてるか分かんねーよな」

「……同感だ」

 八年前、友人である高町 なのはが事故で入院した際、たまたま病室が隣だった縁で知り合い、そしていつの間にかシグナムやヴィータにとっても友人と呼べる間柄となった。

 当初、記憶喪失の次元漂流者と言うワケありな彼を警戒していた時期もあった。

 だが彼はとても紳士な人であり、気が利く相手だった。

 異性でありながらも、傍にいて違和感や不快感を感じることもなく、いい感じの距離を保ってくれた。

 言葉に出さなくても、こちらが何を求めているのかを察して行動してくれた。

 だが、彼は彼自身の中身を見せなかった、

 何を求めて、何をしたいのか、簡単には教えてくれなかった。

 ――――いや、今でも教えてはくれていないのだろう。

 だから時々、彼が何を考えているのか分からない時がある。

 自分たちの予想とは違う反応を示すときがある。

 そしてそのときは決まって彼は――――何か|(つら)いものを飲み込んだような顔をする。

「……私たちも任務に戻ろう」

「だな」

 シグナムの一言で、ヴィータも思考を振り払った。
 
 結局、今考えたところで仕方ない。

 今、この場で朝我に聴いた所で彼は答えてくれないだろう。

 だから最初の頃に不信感を抱いた。

 しかし同時にそれは、彼が紳士な人であることの証明にもなった。

 何があろうと、相手にどう思われようとも、話せないことは話さない。

 その意志の強さは、不信感とは対照的に信頼感を与えた。

 だが、それ以上に――――なぜ彼のことは、信頼できた。

 多くの言葉を交えたわけじゃない。

 刃を交えたわけじゃない。

 一言で言えば、直感にも似た感覚だった。

 ――――朝我 零は信じてもいい。

 そう思って疑わない感情が、初めて出会った頃からシグナムとヴィータの中にはあった。

 どうしてそうなのか。

 答えは相変わらず分からないが、それでも今はいいと、そう思えたのだった――――。 
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