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バロンダンス

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1部分:第一章


第一章

                          バロンダンス
 それぞれ派手な仮面と変わった衣装を着てだ。二人が踊っていた。
 周りは椰子の木や木の建物が並んでいる。そして日に焼けた顔の男女が笑顔で見ている。他にも様々な顔の老若男女がいる。
 その彼等がだ。踊る二人を見ながら話すのだった。
「いやあ、これがあのバロンダンスか」
「話には聞いてたけれどやっぱりいいよな」
「ああ、いい踊りだよ」
「仮面に衣装もな」
「奇麗だよな」
 こう話してだった。彼等はそのバロンダンスを見るのだった。
 ダンスは善と悪の対立を表していた。男のバロンが善であり神の獣である。女のランダが悪であり魔女だ。御互いに別れて舞っている。
 善と悪が戦いその結果善が勝つ。しかしその戦いは永遠に続く。観光客達はそれを見て楽しんでいるのだ。 
 ここはバリ島だ。インドネシアの島だ。観光地として有名な場所だ。そこにおいてだ。バロンダンスが行われていたのである。
 その舞いが終わりだ。その後でだ。
 実際に舞っていた二人が仮面を脱ぐ。二人共赤い肌に顔をしている。黒いきらきらとした目をしておりアジア系だがいささか彫のある顔をしている。どちらも黒髪で縮れ気味である。その二人であった。
 男の方がだ。仮面を脱いでだ。女に話すのだった。
「なあ、プラム」
「何、ヤティ」
 女の方もだ。男の名前を呼んで応える。
「今日の踊りのこと?」
「どうだった?僕の調子」
 ヤティと呼ばれた彼はだ。こうプラムと呼んだ女に問うのだった。実は二人は夫婦だ。その姓はアジダルマという。インドネシア人に苗字はないが姓はそういうことになっているのである。
 その二人がだ。ダンスの後控え室で仮面や衣装を外しながら話すのだった。夫はだ。その楽屋の中で妻に尋ねたのである。
「今日は」
「あんなものじゃないの?」
「よくも悪くもないっていうんだね」
「ええ、普通ね」
 こう妻は話すのだった。
「本当によくも悪くもなかったわ」
「そうだったんだ」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「私はどうもね」
 プラムは首を捻ってだ。浮かない顔で話すのだった。
「よくなかったわ」
「そうかな。よかったと思うけれど」
「乗りきれていなかったのよ」
 その浮かない顔で話すプラムだった。
「子供のことが気になって」
「スカハトのことだね」
「あの子の風邪大丈夫かしら」
「大丈夫だよ」
 夫はこう言って妻を慰めるのだった。だが、だ。
 彼のその顔も浮かない。その顔での言葉だ。
「熱は下がってきたしね」
「そうね。咳も収まってきたし」
「だから大丈夫だよ。お薬も飲ませてるしね」
「ただ。あまり食べてないから」
「じゃあ帰ったら栄養のあるものを作ろうか」
「そうね。帰ったらね」
「とにかく。それが気になってだったんだね」
 話すがバロンダンスに戻った。そのことにだ。
「それで今一つ」
「気にしたらよくないって思っていても」
 それでもだというのだ。母親としてだ。
 子供のことが気になるのは当然だった。それで乗りきれなかったのだ。踊りにもそれがどうしても影響してしまってのことである。
 それを話してだ。プラムはヤティに言った。
「じゃあ帰ったらね」
「スカハトの為に栄養のいいものを作ろうか」
「そうしよう」
 こんな話をしていた。とにかく我が子のことが気になる二人、特にプラムだった。それは次の日にもだ。影響が出ていたのだ。
 子供の風邪は快方に向かっていた。それでもだ。プラムは安心しておらずだ。ダンスをしてもだ。やはり乗りきれないのだった。
 それに対してだ。ヤティはだ。彼女をフォローしていく。
 それでバロンダンスは無事に進む。そのまま順調に終わった。だが、だ。
 楽屋でだ。プラムはまたヤティに話すのだった。
「どうもね」
「まだ気になるんだね」
「完全に治らないと」
 そうでないとだ。安心できないというのだ。
 
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