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剣聖龍使いの神皇帝

作者:黒鐡
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第2巻
  イギリス本部長と亜鐘学園理事長との密談

こんな早朝から漆原家に賓客が来ていると知った理事長は、使用人から報告を受けると自宅の裏庭に向かった。園芸会用のテラスがあり、待ちに待った人物がテーブルでモーニングティーを楽しんでいた。サントラ代わりがスマートフォンに置いてあり、爽快な曲を流している。クラッシックではない音楽であるが、堅物理事長なのでゲームのサウンドは聞いた事がない。傍にはメイドがいたが、この家の使用人ではなく客人の正統派(ブリティッシュ)スタイルのメイド服を着ていたから、AJだと確信した。ちなみにこれは、小型無人偵察機から見ている様子を零家で見ていた俺。

『日本の水道水で淹れた紅茶はやはり格別だねえ』

美人メイドが注いでくれたお代わりを客人は堪能するが、この客人は俺に喧嘩売ろうとしてきたイギリス本部長。俺が期待はあるが、白騎士機関では置いてはいけない程の危険人物であると記憶に刷り込ませた。期待外れのはずだけど、そう言った方が手を打ってくれるだろうし、ランクS以上の者で扱えない程だとな。

『一声かけて下されば迎えの車を遣わしたものを、サー・エドワード』

理事長は日本人らしく一礼をした後に、完璧に英語を喋ったのだった。

『実は一昨日にはもうこちらに到着してたんだけど、少し野暮用があってね。モロハって言ったか、彼の実力を自分で調べて来ちゃった』

エドワードはカップ片手に気さくに答えながら、言った言葉で理事長はとても驚く。

『・・・・まさか、サーお手ずから戦闘行為をなさった訳ではありますまいな・・・・?』

もし本当だったら、内政干渉に等しいと抗議しようとする。

『ちょっと試しただけだよ。誓って暴れて何かないし、第一誰も傷ついていないよ。その程度なら文句をつけられる言われもないけど、流石の蒼い翼だけは戦闘行為を見ていたけどね』

エドワードンの説明に理事長は一応納得したが、蒼い翼というキーワードを聞いて理事長は少し冷や汗をかいた。

『でさあ、そのモロハなんだけど・・・・期待良かったけど、残念ながら扱えきれないよ。あのエキスパートにはね』

端的な結論だけを告げるエドワード。期待外れの所を良かったが、こちらでは扱いきれないと言った。

『扱いきれないと申しますと・・・・?』

『ボクにモロハをランクS認定しろってのが、キミの要請だったよね?』

確認されてから、理事長は首肯する。諸葉をランクSに仕立て上げるための企み、その最後の一押しがイギリス本部長よりお墨付きを賜る。そのために遥々日本に来てくれと、エドワードに請うたのだ。学園視察という口実であり、理事長もエドワードもそんなのはどうでもいい。

『ボクとしても日本支部とは仲良くしたいし、その要請、聞いてあげたかったけどさあ。難しいと思うよお、あれはランクS以上だと言い張るぐらいの力を持っている事は明白であり、白騎士機関に取り込みたいけど、蒼い翼やCBが邪魔をしてくる。ロシアの雷帝でも、その強さは未知数であり日本支部に置いてはおけない大きな器。白騎士機関所属にしたいのはいいけど、敵には回したくない強さだよ』

のんきな声で話をするが、ロシアの雷帝というのはロシア支部長の異名で、日本支部とは犬猿の仲。日本支部が取り込みたいと思っている人物は、蒼い翼兼CB所属の人間を受け入れてしまうと、企み首謀者の理事長だというのがバレる。その上これがバレてしまうと、零達也から理事長職を剥奪される可能性だってある。

『しかしですな、灰村諸葉は弩級《異端者(メタフィジカル)》を斃した実績があるのですよ?』

『そうだよねえ。ボクもそう聞いてたから、キミの計画の片棒を担ごうと思ったんだよ。でも試したら、思ってた以上に力もあり内政とかの権力も強い。白騎士機関を蒼い翼が潰す事も出来てしまう。その事実があるから、ボクはこの計画から手を引く事にしたんだよ。やはり神皇帝となる者は、白騎士機関よりも蒼い翼やCBに所属を置いた方が彼としても、最大の力を発揮するだろう』

エドワードが言う傍で、控えていたメイドが怖い眼をして理事長を睨んでいる。白騎士である主の検分を疑ってないか?という風な目で語っていた。無論理事長だとそこまで道理が分からない訳ではない。腑に落ちない事は変わりなく、難しい顔をしている。

『モロハ一人だと弩級だろうが、ドウターだろうが一人で倒してしまうのは見て分かる。一緒に戦った二人が相当強かったとボクは思うよ?例えばアンジェラみたいなランクA《救世主(セイヴァー)》が数人掛かりで戦ったって事なら或いは・・・・』

『ですが九頭大蛇は、日本支部総力で討つべき魔物だったと、報告で聞いておりますが?』

『うん、それは犠牲を出すまいとする白騎士機関の定石展開だね。でも、犠牲を厭わず死に物狂いで戦えば、ランクA数人だけでも十回やって一回は勝てるだろうね。更に万に一つの奇跡も掴めば、三人とも生きて帰る事も出来ただろう。今回はCB所属のが数人いたから、倒せたと考えれば辻褄が合う話でもあるけど、CBから引き抜こうとは思っていない。神皇帝が三人目という先入観を持ってしまったからか、過大評価をしていたからその二人の少女を見落としたと考えるのが定石だろうね』

理事長は口元に手を当て、少し考え込む。ランクS以上の力を持つ者とは戦いたくないエドワードなのか、《救世主(セイヴァー)》ではない凡人理事長なのか、その辺りの判断材料が曖昧となってしまう。白騎士がそう言うのであれば、そうだろうと考えたくない。

『仮にランクSだと認定したとしても、ランクSSを持っている日本支部長や中国支部長でも勝てない相手だとボクは思う。ランクSSSだと思うし、これについてはCB側のランク付けとなるけどね。そんな相手よりも確かシズノって言ったけ?君の妹が実は優れた《救世主(セイヴァー)》だと考えれば辻褄が合う』

エドワードは相変わらず気さくだったけど、CB側からのランク付けは階級に値する事を知っている。織斑総司令官や零社長兼CEOも頭脳や戦闘面に関しては、ランクSSSだと見ているからだ。巨大グループの社長だったとしても、戦闘は実はかなり出来る方だと噂で聞いた事があるエドワード。先入観の違いにより、神皇帝は強いという思い込みをしていたから身内の妹を侮っていた事になる。

『キミは自分への評価も妥協しない所がありそうだけど、身内への点数付けも辛すぎるんじゃないかな?だからこそウルシバラの人間は、有能な人間が多いのかもだけれどね』

『・・・・灰村諸葉は本当に、手が付けられないぐらい強かった訳ですな』

企みがご破算になった隠しがたいものを隠すのが精一杯であったが、ランクSSSとランクSでは実力は違いすぎる事も明らかとなった。そしてランクA相当であれば、諸葉と静乃ともう一人で力合せてその手前のレベルだと言う。

『正直ランクSSS相当の《救世主(セイヴァー)》がいるというのは知らないだけで、ホントは神皇帝という事だけで三人いる事実だけが残る。モロハをランクSに認定されても、アンドウが反論を言うだろう。彼はゼロ様ととても親密だと聞いているし、ランクSは六人だけいるというのは白騎士機関だけの事。CBにはランクSに相当する実力者が数百人いると聞いているから、モロハよりも君の妹ならランクAの実力を持っていると証明出来ると思う』

エドワードが苦笑しつつも、灰村諸葉の実力は未知数であり同じ神皇帝の織斑一真や零達也ぐらいの力を持っていて、CB側にはランクS相当の実力者が数百人いると世間が知れば、白騎士機関は面目丸潰れである。そればかりか、蒼い翼やCBに信頼を寄せてしまうぐらいの民衆からの眼を持っている。実の妹が黒魔だった事とそれ程優秀だったとは嬉しい誤算ではあった。

『白騎士機関として面目は潰したくないからさ、ボクのお願いを聞いてくれないかい。タダノリ?』

『と、言いますと?』

『キミの妹を英国に留学させるつもりはない?』

ざっくりと切り出されて、理事長はこれまた驚きを表情に出さないようにしていた。と同時に慎重な態度で取り、すぐには答えを出さないようにする。イギリスにも《救世主(セイヴァー)》育成校があり、サーはそこへ妹を招きたいと言う。しかしあちらは亜鐘学園よりレベルが低く、行かせるメリットがないように思える。

『タダノリも知っていると思うが、イギリス本国は優秀な《闇術(ダーク)の使い(セイヴァー)》が乏しく困っているんだ。だから将来有望なシズノなら、是非にも招きたいんだよ。もちろん、イギリスで卒業した後は幹部にすると約束するよ。どうかな?希少なダークセイヴァーを引き抜かれたら日本支部としては困るだろうけど、ウルシバラ家としては悪くない話だと思うよね?』

エドワードの話を聞いている内に、今度は笑みを隠す事を努力しなければならない状態となった。先程感じていた失望が吹き飛んだかのように、失望というより大きすぎる器を管理するのが無理な事だったが身内の者なら管理する事が可能。それくらい理事長にとっては魅力的なお願いである。

『ええ、悪くありませんな』

素早く計算して即答する凡人理事長。漆原家は既に日本支部と強いパイプを築いている。この上、イギリス本部でも静乃が地位を確立出来れば、白騎士機関内における漆原家の権勢は揺るぎない物となるだろうが、それを邪魔するかのようにする蒼い翼をどうするかなどは後にした。諸葉をランクSに仕立てようとサー・エドワードを招いたが、目論みは壊れてしまったが、思いも寄らぬ功を奏してくれた。

『タダノリならOKしてくれると思ってたよ!じゃあ後はシズノ本人の気持ちだね』

『ああ、そんなものは気に掛ける必要はありませんよ。必ずハイと答えますから、しばしお待ち下さい』

理事長は極平然と断言してから、一礼しその場から立ち去る。全ての会話を聞かせてもらったが、動くのはまだかもしれない。静乃奪還作戦をやる上でやりたい事もあるからだ。力強く屋敷の中へ向かう理事長に対して、残されたエドワードとアンジェラ。理事長の考えは教育者としてではなく、他人を駒扱いとして利用する政治屋特有の笑みを浮かべていた。

『案外、簡単に転びましたね』

理事長が去った後に脇に控えたアンジェラが言った。エドワードは、種明かしをしたみたいだけど。

『タダノリはね、どんな手段を使ってでも自分の野心を満たす事が出来るという点で、有能さと行動力を持つ強い男なんだよ。でもだからこそ、最初から欲望で誘導してやるとコントロールしやすい一面があるのさ』

『なるほど、流石です』

白騎士の持つ意外な策士振りに、部下はうっとりしていた。

『やっぱり、ちょっと小突くフリをしただけじゃ、どうにも消化不良感が否めないからね。出来ればだけど、ランクSSSの力を持つ三人目の神皇帝であるモロハを白騎士機関に取り入れたいから、全力で戦ってみたいね』

そのためには、神皇帝の予想出来ないほどの頭脳を持つ者と、この国で暴れてはならないというエドワードの制約が邪魔をする。

『でも、ボクが思った通りに話が転んで、タダノリとモロハがぶつかり合えば・・・・ねえ?』

エドワードは紅茶の香りを堪能してから、笑みを浮かべた。傍にいるアンジェラはうっとりと眺める。

『しかし、我が君がそこまでハイムラに執着されていたとは』

『《白騎士機関(オーダー)》にとっては、大事な事なのかもしれない。イギリス本部と各支部・・・・六つの組織は今、奇跡的なバランスで均等を保っている。表面上の小競り合いはともかく、一応は団結して《異端者(メタフィジカル)》討伐の責務を遂行している。それと最近になってドウターという《救世主(セイヴァー)》では倒せない化け物を私設武装組織ソレスタルビーイングが動いているし、街が破壊されても無償で建て直す蒼い翼はとても厄介な組織と巨大グループだ』

『六という数字がよかったのだと、中国の御老人も言っておりますね。それとCB所属の者は、少数部隊で《異端者(メタフィジカル)》で戦えます。我々白騎士機関の定石を覆すかのように・・・・。均衡しているというと、何らかの事件で破綻します』

『七人目のランクSではなく、三人目のランクSSSだと認めるには実力を知らないといけない。過去にも蒼い翼日本本社社長兼CEOである零達也は、頭だけかと思ったが我らランクA以上の者と戦っても敗北し二人目のランクSSS保持者だと認めざる負えなかった。ボクの白騎士機関(オーダー)は組織としては全うしているが、雷帝やPSGの思惑のまま優性人類として旧人類の支配に乗り出すかもしれない命運がある。もう一度神皇帝に挑んでみるボクでも、力さえ見せてくれれば三人目のランクSSS保持者として認めると思うんだ』

エドワードは立ち上がると、テラスを後にする。アンジェラが三歩下がって、恭しく随行する。テーブルに残されたのは、空になったティーカップなのでお茶の時間は終了と同時に盗聴時間も終了という事になった。この事は既にヴェーダに送信した後に、小型偵察機はゼロの指揮の元で漆原家に潜伏をしていた。CBと蒼い翼は、そのまま待機任務となったが動くキーは灰村諸葉となった総司令官兼社長にあったのだった。 
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