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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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来訪者編
  第31話 長い土曜日

今朝は九重寺で新しい訓練をしだしたのだが、学校は土曜日ということで、半日授業だ。生徒会役員としての役割は、今日もあったのだがおこなわなくてもよくなった。リーナを臨時生徒会役員にとの話だが、女子だけで話したいとの内容が深雪から届いたからだ。こっちは昨日の相手がリーナのパレードで変身した姿だとわかっているので、そしらぬ顔をして会えばいいのだろうが、リーナはどんな顔をするだろうという、ちょっとした好奇心はあった。しかし、授業の終わりとともにエリカに実習棟まで連衡されることになった。幹比古の眼はあきらめろという感じだが、昨晩に限っていえば僕は幹比古を見捨てた形なので、良い人すぎるぞ。

幹比古がいつも使う実験室に入ったところで、人払いの結界を幹比古によりはられたが、その上で僕が侵入検知と、遮音用の風精結界をはったところで、エリカから

「昨晩言っていた犯罪人の引き渡し条約って何よ!」

「他国で犯罪を犯した人物を、捕らえた時に引き渡す条約のことだけど」

「他国の魔法師がなんで『吸血鬼』を追っているのよ」

「自国での犯罪行為者を秘密裏に捕らえに来たらしい」

「秘密裏って、どっかの国の工作員?」

「現在日本にいると思われる『吸血鬼』はステイツの軍人らしい。脱走軍人を捕らえにというか、実際には処刑しにきたんだろうが、ステイツの軍人で昨晩の相手はスターズのアンジー・シリウスだよ」

「はいっ?」

「しかも、昨晩はあの『吸血鬼』と呼んでいるパラサイトの前に、1体のパラサイトを処刑しているよ。問題はそのパラサイトの肉体は処刑できても、パラサイトの精神は別な人間に取り付く可能性が高いから、僕のアルバイト先の依頼元から、パラサイトの特徴と対策のために撮影を依頼されていたところ」

「パラサイトが複数いるの?」

「そうだよ。ちなみに撮影した画像を見てみるかい?」

「当然でしょ!」

「これから見せるのは、まずはオフレコで」

「わかったから早く!」

そう言われたので、サイオン光が写った画像を昨晩使った情報端末で、シリウスとパラサイトのおいかけっこと対決シーンを15分近く見せた。
言葉を失っている2人に

「どう? 感想は?」

「どうって言われても、こんなのを相手に捕獲しないといけないのか……」

「戦い方を考えるから、この画像データちょうだい」

「電子チップでよければ渡せるけど、入手ルートは秘密にすること。それと画像をみた端末は2度とネットと接続しないこと。パラサイトは捕獲にとどめること。アンジー・シリウスの正体を漏らさないこと。この条件を飲めなければ、渡すことはできない」

「アンジー・シリウスの正体を漏らさないこと? なぜ? その他はなんとなくわかるけれど」

「アンジー・シリウスの正体を漏らさないことは、西の古式魔法師の退魔師チームがステイツに入る時の条件だったんだ。だから、現在日本に残っている退魔師としての能力を持つ者は、ほとんどが二流以下だよ」

「この吸血鬼って、ステイツが発生源なの?」

「最初に発見されたのはステイツだけど、発生個所とか原因はまだ不明。問題はステイツで『吸血鬼』と呼ばれるパラサイトは7体の発生が確認されたけれど、他の既存種のパラサイトや、妖魔なども同時に召喚されていて、現在確認されているだけで30体を超えている。ステイツの古式魔法師がてんてこまいしているところから、国際協力のもとに日本からも退魔師部隊が編成されて行ったんだけど、その際の交渉で遅れて行った時と入れ替わりぐらいで、日本へパラサイトが来たようなんだ」

「なんで、そんな要求を日本のその対魔師チームはのむのよ!」

「ステイツの古式魔法師の秘術を変わりに教えてもらえるからさ。すでに1種類は僕も教えてもらっているよ。雷精霊の一種であるサンダーバードの使役の術をね」

「サンダーバードって、ネイテイブ・アメリカンの神霊じゃないか」

「日本でいえば、雷神と同格な高位な精霊だね。あくまで、画像データを渡すということならば、この条件を飲んでもらわないといけない。そうでない場合は情報として画像データは渡すことはできない。こういう交渉方式は、ロンドン会議の古式でも退魔関係者の分科会できまったことなので、一般の古式魔法師でさえも知らないことだよ。この情報を渡す人にも同じ条件が必要だから。さてどうする?」

幹比古はサンダーバードの術式に興味が移っているようだが、エリカは多分実家で条件をのませられるかで悩んでいるようだ。

「言い忘れていたけど、術の方は退魔師チームの方と契約をしないといけないから」

幹比古はがっくりきているようだ。西の古式魔法師と疎遠になっているんだろうな。

「翔くん。もしも、結果として約束を反故することになったらどうなるの?」

「その画像データには人造の契約精霊が居て、内包された各種精霊が暴れだす術式がかけられている。その際に外部にも応援を呼ぶはずだから、もし、契約を反故したと契約精霊が判断したならば、千葉家の道場でそれが行なわれた場合、千葉家道場は少なくとも無くなると思うよ。そうでなくてもエリカと、それを見た相手までは対象になると思う。ちなみにステイツでの200年はたっていない人造精霊だから、日本ではあまり知られていない精霊だよ」

「……答えをだすのは、来週でもいい?」

「退魔師チームの日本での仕事が終わるまでだから、パラサイトの事件はかたずかないという意味では残念だけど、しばらくは大丈夫だと思う。それと昨日は、アンジー・シリウスの目の前に出て、トリッキーな術で帰っていただいたから、増援が来る可能性は高そうなので、僕は今日いっぱいで追いかけるのは無くなる予定だから」

このあとは、別れるかと思ったら、昼食を一緒にとることになった。エリカの気分の切り替えがはやいのか、それともそうみせているのかは、微妙なところだけどそこはあえて聞かないのがよいのだろう。



夜になり、シリウスとパラサイトの戦いがはじまったので、撮影のために僕も待機していた車両から追いかけに入る。「まるでストーカーだなぁ」というのは横においといて、逃げては戦い、逃げては戦いというところの3回目の戦いの場所には、達也のプシオンがある。

昨日のエリカや幹比古みたいに、割り込まないでほしいんだけどなぁ、という思いは持つが、達也の動く意図がわからない。とりあえずは、達也とは反対方向から撮影するようにして、何かしかけてきても巻き込まれないようにする。

ここで別な問題が発生した。深雪に、九重先生がこの場にきている。九重先生は深雪の隠行のレベルにあわせているだけだろう。深雪の場合、10月末の霊気のラインを切り離したのが8日後の月曜日には元にもどっていた。もともとそういう性質の術だったのか、それとも新たに術をかけなおしたのかわからないが、そのせいで、深雪の魔法の制御能力に不安定さを感じる。今回は、そういう場面はおこらないと思うが。

さらに、パラサイトを追いかける役の甲賀の忍者が、どうも九重先生の弟子の忍術使いに倒されたようだ。二流っていっても、それなりの隠行をしていたのにあっさりと倒されるなんて、ステイツに行っている甲賀か伊賀の忍者に来てほしかったな。

これとまるで合わせたかのように、達也が弾丸をパラサイトに撃ち込んで倒れただけのようだ。普通なら殺せるけれど、服に穴が開いただけといったところでシリウスが達也の
方へ向かって銃を発射しだした。

今日もここまでだなと思いながら、昨日とは違って撮影は続けている。達也の魔法に興味があったからだ。達也とシリウスの戦いはちょっと移動が早いので、巻き込まれないように近くの木陰に入り込みながら撮影を続けていると、拳銃型CADを壊されると、次にパレードを使いながらダガーを投げて対抗しはじめている。このすきに吸血鬼は逃げ出して、達也とシリウスの戦いになっている。なんとなくだが、シリウスは達也の実力を測っている気もしないではないが、達也も本体の位置をさぐるためにパレードを術式解体でパレードの魔法を解体しているが、シリウスのパレードの再展開が速い。だからって、散弾式手榴弾を使うかよ。

「止せ、リーナ! 俺は君と敵対するつもりは無い」

達也もシリウスのことをリーナとして気が付いていたのか。だけど、リーナの上にかぶさって言う言葉かというところだが、リーナの方も観念したのか

「……無茶をするわね、タツヤ」

その後も、言葉のやりとりや分散して落ちていたダガーが達也に向かっていき、達也に届いた瞬間に発散系魔法で分解されてしまったところが撮れたので、個人的な目標は達成できたが、とりあえず可能なら撮っておいてほしいといわれているシリウスの術や技の撮影を続けることにした。

リーナはパレードの他に顔に小さな仮面をつけていた。それを達也がはがそうとしたところで、リーナから

「後悔するわよ、タツヤ!」

ここは何もしなくても、アンジー・シリウスの正体を漏らすわけでないから、契約精霊は動かない。まあ、そもそも正体は音声を聞かなくても、プシオンや幽体の特徴で丸わかりだし、念のためと持たされているものもあるしな。そのままだまってみていると、リーナが襲われているふりで大声をだし、警官に変装した4人のリーナの部下がきたりして、そのうち1人への偽警官へのフェイントのはずの蹴りがそのまま当たってしまったのは、スターズの格闘技術が低いのか、それとも単純に高校生だからとなめていたのか、他に理由があるのかもしれないが、安心してみているというよりは、もう少し芸がみたいという感じだ。

このあとはリーナの態度が少しかわって、正式の所属と名称に階級を名乗ったところで、

「ワタシの素顔と正体を知った以上、タツヤ、スターズは貴方を抹殺しなければなりません。仮面のままであれば幾らでも誤魔化しようはあったのに、残念です」

ステイツの古式魔法師が、アンジー・シリウスの正体を漏らさないの意味はこういうことだったの、かっといったところだが、素直に理由を言ってくれればいいのにとも思う。しかし、話せないというのもあるのかな。難しい交渉事は師匠とか専門家にまかせるのが一番とそのまま見続けていたかったが、深雪のプシオンが荒れだしている。もしかしたら、行動するかもしれないと思い、撮影はやめてメガネと変装用マスクをはずして、コートにしまった。その直後にリーナから

「……さようなら、タツヤ」

「そんなことはさせないわよ、リーナ!」

状況はリーナとその部下で達也を囲んでいたはずなのが、その一言を端に発して、状況はリーナの正面に深雪、その左右に達也と九重先生が立っていて、リーナの部下たちはあっさりと倒されている。
僕の出番は無しなのは良いが、ある意味良い機会なので、リーナの後ろに立っている九重先生のところの忍術使いの後ろをさらにとって、シルバー・ホーンをリーナに向けておいた。

「いやぁ、達也くん、危ないところだったね」

「白々しいですよ、師匠。隠れて出番を待っていたくせに」

「まあ良いじゃないか。君も色々と訊きたいことがあったみたいだし」

九重先生が出番をまっていたのかは、結局のところわからなかったが、達也から

「それに、訊きたいことは、これから訊けば良いだけだしな」

「……力づくで尋問する気?」

「尋問というのは大概、力づくなものだと思うが」

「1対3なんてずるいじゃない! アンフェアよ!」

「リーナ、1対6だよ。やっぱり気が付いていなかったんだね」

リーナと深雪が驚くのは仕方がないとして、九重先生の忍術使いまで一瞬ながらも振り返るって、どの程度のレベルなんだ?

「九重先生。この忍術使いの人たち、まさか高弟だなんて言いませんよね?」

「いや、手厳しい」

「それはともかく、僕と協力関係にある忍者たち……九重先生のところからみたら二流かもしれませんが、それを倒してくれちゃったみたいなので、面倒をみていただきたいんですけど。それに僕もリーナに訊いてみたいことはあるので」

どこで話し合いができるのかなぁ、と思いながら流れに身を任せるのが最善かなとも思いつつあった。
 
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