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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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来訪者編
  第30話 空中戦ね

結局『魂眼』である名倉あかり撮影依頼は受けることになった。『魂眼』の力をきかされたからだけど、生きていても相手するのは面倒そうだし、『魂眼』が死ぬにしても特定の条件がそろわないと、さらに問題だそうだ。けれど、生きていてもらわないと、強力な妖魔への最後の対抗戦力なので、発見できたら各国の実戦能力がある霊能力者たちは、これを保護するとのことで、これを聞いた以上は、絶対古式の実戦魔法師にはならないぞっと。

それで今は、その翌日の放課後に一高の隣のプラットフォームで降りて、特徴のある男性と裏賀茂の仕事を請け負う間で通じるという、プシオンの手印をみせあってから合流した。

その中型車へと乗り込んだのは、人気が少なくてカメラへの偽装画像やサイオン感知無効化の古式魔法でごまかしているようだ。人通りが少ないから、人払いの結界も弱くて済むといったところなのか、弱い術しかかけられないから人気の少ないところを選んでいるのか微妙なところだ。個人的には前者だと信じたい。

その中型車に乗って、中にいるのは運転手に、事前情報からいうと今度も役にたたないと思われるけれど『吸血鬼』と呼ばれているパラサイトを追いかけて居場所をつきとめる役は甲賀の忍者2人で、合計3人が先に入っている。

そのなかで、忍者が使用する変装用防弾、防刃用のカーボンアーマー型衣服に着替えて、さらに顔面に変装用マスクと撮影カメラ付きのメガネをつける。これで鏡を見ると、別人の顔付になっている。少し顔が大きくなるのは仕方がないとして、口、鼻はマスクで、目の間隔はメガネにしこんである仕掛けによるものだから、一般の街頭にあるカメラ類なら、これだけで変装とは見分けられないだろう。あとはCADや鋼気功専用の武具に、対銃器系の陰陽五行でも金行魔法用魔法陣を縫い込んだハーフコートを着込んで準備は完了と。

撮影用メガネの映像は光ファイバー式で、腰にある録画装置まで伸びている。こちらは、電磁波を完全に遮断しているようで、電磁波は感じ取れない。これを隠すためのハーフコートだ。魔法で音声は遠隔から装置に取れる技術は開発されているけれど、映像系はいまのところ人間同士でもやりとりができないんだよなぁ。



リーナもといアンジー・シリウスをつけている甲賀の忍者の元までいって、シリウスをおっかけるのはいいが、シリウスは2体のパラサイトを追いかけていたはずなのに、あっさりと1体を殺してしまって、パラサイトがはがれてしまうのを感じた。

本来なら、このパラサイトをおいかけたいところだが、今回の目的はあくまでアンジー・シリウスとパラサイトの戦いを撮影することなので、みつかっても仕方がないとシリウスの20mまで近づきながら走ることにした。なんせ、この撮影機、まともにとれるのは1m~30mの範囲内というものだから、撮影機能は本当におもちゃ以下だ。その分、電磁波など通さないようにとか、サイオンも霊体も撮影しつづけられるとか、長時間持つバッテリーが搭載されているんだけど。

そんなところで、パラサイトが追いつかれそうになったら反撃しては、逃げるといったところをシリウスとパラサイトに気がつかれたり、巻き込まれないようにしながら、撮影を続けていたのだが、当然のごとく知らない小さな公園でシリウスとパラサイトがまた戦い初めたところに2人の乱入者が入ってきた。

『幹比古とエリカかよ!』

十師族とは別に、レオの件で『吸血鬼』を追っているのは推測できていた。しかし、ここであらわれるかよ。今回はシリウスとパラサイトの戦いを撮影することは諦めて、変装をといてマスクとメガネをコートの内側の胸ポケットにしまいこんだ。そしてエリカとシリウスの間に間隔ができたところで、発火念力による炎を発生させ、二人がさらに間をとったところで、声をかける。

「エリカ、目的は『吸血鬼』だろう。この相手の足止めぐらいはしてやるよ」

「翔! ここになんでいるのよ!」

「目的は目の前か? 『吸血鬼』か?」

答えずに幹比古の方に行ってくれた。話しながら、僕は近づいていたのだが、シリウスはエリカを意識しつつ炎と僕が観えるような体勢なので

「ここで、戦術的撤退をしてくれると嬉しいんだけど、ダメかな?」

答えは、エリカというかパラサイトの方へと抜け出そうとしたので、シリウスの目の前に鋼気功を発動させたナノカーボンチューブで作った極細の糸だが、カバーとなる手持ちの糸巻きのようなデバイスを使用する。そして、これだと普通の相手には観えないので、サイオン光をはっきりと見せると、そこで止まってくれたので、

「今の状態だと観えるけれど、このサイオン光を薄くしていくと、君の眼にとらえられるかな?」

そう言っている最中に、糸は節となるように玉をつけているので、魔法を発動させる目印となり、そこを中心に複雑なうねりをみせていた。その鋼気功のうねりをさらに大きくしていきながら、サイオン光も薄くしていくのとともに、炎を消した移動型術式解体『グラム・デモリッション』を僕とシリウスの間にもってくる。

シリウスから素早く出されたのは実弾発射型の拳銃型CADのようで、情報強化の魔法がかかったようだが、途中の術式解体でその魔法自体はとまっている。しかし実弾はそのまま、僕が糸を操作している左肩だが、単発なら、ちょっと、避けて元の位置に戻ってみせて動揺を……してくれない。動いたのが観えていたのね。さらに2発、3発と連射しだしてきたので、その銃を刻んでみせた。もちろん、シリウスも動きながら打っていたのだから、これは驚いたようだ。使用中のCADは普通壊れにくいのが常識だからな。

驚いている間に『纏衣の人形』と、いきたいが中間に『纏衣の逃げ水』を挟む必要がある。相手から視えているときは、一瞬ながら本体と分身が同時に見えてしまうので、『纏衣の逃げ水』を必要とする。まあ、単純な幻術でもいいんだけど、影精霊を使った幻術はそこまで得意でないから、『纏衣の逃げ水』の方を多用する。初伝より中伝の方が楽っていうのも変だが、楽なものは楽なんだ。

そんなことはどうでもよくて、シリウスの背後にまわって、点穴術のひとつである『便秘解消』のツボに気を流し込む。相手は軍事用緩衝素材を着込んでいようが、気を扱えない限りは気を通しづらいというだけで、気を届かせることはできる。これで気が届いた場合には便秘解消のはずが『下痢』をひきおこす。

あわてて振り返ってきたので、分身を消して本体である僕をあらわせる。これで幻術か、知っていても『纒衣の逃げ水』までとしか大抵は気がつかれない。なんせ糸なので、始点がどこだか知らなければ不明だからだ。

こっちをにらみつける目はたいしたものだけど、おなかを抑えているようじゃ意味をなさない。接近戦で生理現象をおさえきれるか、それともおさえないというのもあるが、その時は身体が弛緩するので、隙ができる。かなりお下劣な術だが効果はある。

「おいかけないから、離れたトイレにでも行ってくれるかな」

シリウスがおなかの不調を治せるなら別だが、生体波動を観れる僕には、大腸がよく動いている様子が診える。

だまっているようにみえるが、姿がぶれてそのすきに幽体を持った本人は逃げ出したが、その本人にむかって

「犯罪人の引き渡し条約もあるからねぇ」

とは言ってみたが、ICPO魔法犯罪3課の言うこともとりあっていないようだから、本当に言っただけだ。こちらを視ているので『纒衣の逃げ水』に似た現代魔法が効かないとわからせていたところだが、逃げたのはトイレだけが問題じゃなかったようだ。パラサイトに逃げられて、放出系魔法の電撃にかろうじてしびれるだけで済んでいるエリカに、幹比古がエリカにかけよっているところで、達也がシルバー・ホーンをシリウスの居た位置に向けて、発散系魔法をつかいかけていた感じがある。

プシオンのサーチをしたところパラサイトには甲賀の忍者がついていっているからわかるけれど、速度差があるからあの見えづらいパラサイトに追いつくのは無理だろうなぁ。

それで、倒れているエリカの方に向かったが、一足先についたのは、達也だが

「大丈夫なようだな」

「ちょっと、しびれているだけよ」

「じゃあ、僕はここでお別れするから、また明日学校で」

「翔くん。どうしてここに? それと達也くんは?」

「えっと、アルバイトで『吸血鬼』の手の内を観察していただけで、その最中にエリカと幹比古に割り込まれたんだけど」

「なんで観察しているのよ!」

「知らないけれど、普通なら対応方法を考えるためじゃないのか?」

「そうなの。ところで、犯罪人の引き渡し条約って何よ」

あっ! エリカに聞こえていたのか。

「それは明日の昼食後に、幹比古がいつも使っている実習棟で」

「明日は土曜日よ!」

「それじゃ、生徒会がなかったら幹比古がいつも使っている実習棟で、生徒会があったらそのあとでやっぱり実習棟で」

「今、話しなさいよ!」

「師族会議にことわっているかい? 結構音が響いていたから人が集まってくると思うけど」

「翔は明日ね」

「ところで、達也くんは……バイクね」

とりあえず、達也はバイクで来ているから、あとはどうでもいいので、脱出することにした。エリカは達也のバイクに乗って逃走するようだが、幹比古はぽつりと取り残されている。それはどうでもよくて、幹比古から見えなくなったところで、変装用メガネをとりだした。そして中型車が待っているところまでの移動は、情報端末をとりだしながら確認してだ。情報端末が自分の物じゃないから使いづらいぞ。

ちなみに糸は、魔法を通し終わった糸は使い終わると、魔法が使われた先の部分から分断されてバラバラとなる。下手にそのままにしておくと、いろいろな物が切断される恐れがあるので、こういうふうになっている。使い捨てなわりには、作成するのに手間隙がかかるので、滅多に貸出しはしてくれない。鋼気功以外の使い方もできるが、シリウスが日本にいる間は、貸しておいてくれるだろう。残りの糸の部分と、糸を収めてある術具はコートの内側についている右の胸ポケットへとしまった。



翌朝土曜日の朝は、毎週のことだが、九重寺で達也と稽古というのだが、今回はどうだろうか?
達也はまだついていないのはいつものことだが、門を通過すると九重先生が来た。いつもは達也が来たときなので、少し早いなぁと思いながらも、軽くいつもの型の練習をしながら、九重先生に話をしてみた。

「昨日の晩ですけど忍術使いの『纏衣』に似た現代魔法を取り入れた術を使う者をみかけましたよ」

「ほぉ。どうして話したんだい?」

「師匠から九島家の『パレード』に似ているので、九重先生なら興味を示すんじゃないかと言われましたので、それで言っただけです」

「ところで、使った相手はわかっているのかな?」

「ステイツのスターズ所属アンジー・シリウスですけど、ここまで言えば九重先生なら、日本に何という名前で入ってきているか知っていますよね?」

「まあね。しかし、パレードを使えるというのは知らなかったよ」

「ところで疑問なんですけど、『纏衣』を使える者がいるというのに対して、なぜそんなに気にかけるのですか?」

「逆に聞きたいのだけど、君はどういうふうに習っているんだい?」

「はあ。師匠の先代の時には『纏衣』を旧第九研究所に術を売って、今の道場と周辺の敷地をもらって、弟子入りした魔法師には古式魔法師としていたはずなのに、先代が死亡したら、新しい弟子の一部は系統外・精神干渉系魔法師へなるようにと勝手に変えられたと、言ってましたけど」

「術を売ったね。たしかにあの契約書は、そういう風にも読めるかもしれないね。系統外・精神干渉系魔法師というのは、古式の魔法を伝える者たちで集まったイギリスの会議で、一部はしかたがないという話はでているんだけどね」

「僕としても、系統外・精神干渉系魔法師となると制限がかなりきついそうなので、できるのなら古式魔法も使える現代魔法師が一番楽なんですけど、もしかして話をずらしていませんか?」

「いやいや、関係する話だよ。僕たちの方では術を伝えるかわりにこの場所をもらい、弟子を育てるのを認めてもらうだけで、世間の評判は気にしないからね」

「そうですか」

「ところで、達也くんと魔法を使って練習してみる気はあるかい?」

「へっ?」

聞いてみれば、九重先生の予想よりはやく『纒衣の逃げ水』をおこなわされて、しかも破られるので、同じ術を使えるのなら、『纒衣の逃げ水』を行なう時にぶれが生じない僕の方が相手にするのなら良いだろうって、九重先生に

「『纒衣』の後継者はいないんですか?」

「いるけど、まだこの場にくるのは早い」

見学させてもらっている中での、空中戦は無い方向で行う事というふうに話はついた。空中戦はする気はなかったというか、空中戦で忍術使いに勝てるわけがないだろう。

甲賀や伊賀でもあそこまで高度な戦いをしているのは観たことがなかったからな。九重先生のところが特別というか、それに追従できる達也がすごいというべきか、達也との訓練は新しい段階に入った。

ちなみに、最初はなんとか逃げ切ったというのが僕の印象だった。
 
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