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嵐神の炎

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3部分:第三章


第三章

 その彼の前にヴォータンが来た。そのうえで彼に問うた。
「何処に行くつもりだ」
「何処とは?」
「そうだ、何処に行くつもりだ」
 咎めるような顔になってだ。ローゲに問うのだった。
「一体何処に行くつもりだ」
「時が来ました」
 こう話すのだった。
「ですから」
「去るというのか」
「はい、人の世がはじまろうとしています」
「人の世が、か」
「貴方は人との間に子をもうけられましたね」
 ヴォータンを見ながらそのうえで話す。
「そうですね」
「知っていたのか」
「炎は何処にでもあるものですから」
 己が司るそれはというのだ。彼も炎の化身なのだ。
「ですから」
「だからか」
「その子供達、ヴェルズングの一族がです」
「・・・・・・・・・」
「貴方はわかっていてそうされましたね」
「そう思うのか」
「私はそう見ています」
 その赤い両目でヴォータンの左目を見ながらだ。そのうえでの言葉だった。
「あくまで私がそう見ているだけですが」
「そうだというのだな」
「はい、神々の中で貴方と私」
 まずは彼等だというのだ。
「そしてエルダ。地の底にいるあの女神の三人だけが神々の運命を知っています」
「神々がこの世を永遠に治めるということをだな」
「おやおや」
 ローゲはヴォータンの今の言葉に拍子抜けしたように笑ってだ。そして言うのであった。
「そう仰いますか」
「違うというのか」
「まあそう言われるのならいいですが」
「そしてそのヴェルズングの者達がか」
 ヴォータンはローゲに問い返した。こうだ。
「何かをするというのだな」
「人がこの世を治めるはじまりを築かれます」
「そうなるというのか」
「おそらくは。そしてです」
「そしてか」
「その時に神々は黄昏を迎えます」
 そうなると。ローゲは話した。
「そして貴方はそれを避けようとしながら実は」
「実は、か」
「その黄昏を望んでおられますね」
「黄昏を望む者がいるのか」
「不思議に思われるかも知れません」
 その思っている者を見ての言葉だった。
「ですが確かにいます。貴方は人がこの世を治められるべきだとも考えています」
「人にそんなことができるものか」
「さて。神々より満足に治められるかも知れません」
「有り得ないことだな」
「ですが既に動きはじめています」
 また言うローゲだった。
「ノルン達の紡ぐ糸は」
「それに従いか」
「私は去ります」
 ローゲは穏やかな声でヴォータンに告げた。
 そしてだ。恭しく一礼してだった。
 彼はヴォータンの前から去った。そして最後にこう告げた。
「また御会いしましょう」
「黄昏の時にか」
「はい、その時にまた」
 こうヴォータンに告げるのだった。
「御会いしましょう」
「楽しみにしている」
 自分でも何故言ったかわからない。だがヴォータンは確かにこう言った。
 
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