| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

―封印・降臨―

「大変です!」

 エドと亮がオブライエンとの合流を決めた直後、屋敷へと一人の人物が駆け込んできた。偵察部隊として外に出ていた《戦士ラーズ》であり、その尋常ではない雰囲気にエドと亮は警戒する。

「どうした?」

「覇王軍です。どうやらこの隠れ家がバレたようです……」

 その報告を受けてからの二人の行動は早かった。収容所から助けたデュエリストたちや、その他協力者たちへと素早く連絡を済ませると、すぐさま屋敷からの脱出準備を整えていく。偵察部隊の戦士ラーズもまた、自分の役割を自覚して仲間を呼んで待機する。

「ではカイザー、頼んだぞ」

「ああ。オブライエンの基地で落ち合おう」

 偵察部隊と一部の精鋭部隊を率いて、迫り来る覇王軍にこちらから奇襲をかけるのはカイザー。非戦闘員を含む者と大多数の戦力を率い、ここからの脱出を優先するのがエド。事前に決めてあった通りに行動し、隠れ家として活用していた屋敷を亮は飛びだしていく。

 四方は全て森で覆われており、夜が明けることはないこの世界ならば脱出は容易だろう。しかし、そのことは覇王軍も百も承知の筈であり、何の策もなく攻め込んで来るはずはない。屋敷から飛び出した亮は、木の奥から何かが自分たちを見ていることに気づく。

「サイバー・ドラゴン! エヴォリューション・バースト!」

 迷わず召喚された亮のエースモンスターの攻撃に、木から隠れ家の屋敷を監視していた《ダークファミリア》が消滅する。《ダークファミリア》は覇王軍の幹部たちが持つ使い魔であり、もうすぐそこまで覇王軍の手が迫っていることを示していた。

「……尾行されていたようだな」

 伝令へと急いだ《戦士ラーズ》だったが、その背中を使い魔が観察していることは気づいていなかった。しかして彼を糾弾している暇はなく、陽動と奇襲を担当する亮たちはすぐさま行動する。エドたちが逃げ切るまで耐えるか、エドたちを追う戦力がなくなるまで叩きのめすか、そのどちらかだ。

 亮が選択するのは、もちろん叩きのめす方である。もちろん、追ってくる覇王軍の全てを殲滅しようとしては、戦力の関係上命がいくつあっても足りないので、トップのみを狙うという戦術をとった。部隊のトップである覇王軍の幹部を倒せれば、その部隊の戦力は瓦解し覇王軍自体の戦力も大きく削ることが出来る。

 そうと決めれば話は早い。亮たちは慎重に森を進み、覇王軍たちの前線基地を探していく。多かれ少なかれ、一部隊を動かすのならば必ずしも前線基地というものは必要であり、そこを潰すことが出来れば部隊を潰すことと同義だ。司令官である幹部もいるのならば、どちらも倒せれば一石二鳥というべきか。

 そして自分たちの力を誇示したい覇王軍の軍勢の関係上、その前線基地は必然的に巨大なものになる。そうとなれば見つけることは簡単であり、あまり手間はかけずに亮たちは前線基地の居所を発見する。先の使い魔《ダークファミリア》のように、慎重に前線基地の中を調査しようとしたが――どこか様子がおかしい。

「騒がしいな……」

 巡回している覇王軍の兵士程度はいると考えたが、森の中で兵士は誰一人として見当たらなかった。そして目の前の前線基地からは、何か争うような物音が断続的に響いていた。

「仲間が戦っているんでしょうか?」

「いや……とにかく、突入するぞ」

 自分たち以外に、覇王軍と戦う反乱軍の仕業ではないか――その戦士ラーズの推測に対し、亮は肯定も否定もせずに突入を決める。前線基地の中に入っても人の気配はなく――いや、人の気配は一ヶ所に集中している、とでも言うべきか。亮が広場のようになっている場所を窺うと、大量の兵士たちが円を描くように固まっていた。

 その中心には、覇王軍の幹部の一人である《カオス・ソーサラー》と、もう一人。人間のデュエリストが向かい合っていた。その青い制服はオベリスク・ブルーの証――

「遊矢!? ……いや……?」

 黒崎遊矢。行方不明になっていた親友の姿に、亮は違和感を感じたものの彼の元へ駆け寄ろうとする。しかし、その前に戦士ラーズに止められて未遂となり、彼からの警告が響く。

「死ぬ気ですか……!」

 亮たちの目の前には覇王軍の兵士たちが円形に並んでおり、その数は計り知れないほどであり、無策で突っ込めばラーズの言う通りただ死ぬだけであろう。言われずとも、亮もそれは分かっており、広場を見渡せる位置に待機する。

 もちろん、無策で突っ込めば死あるのみ、というのもあったが……第一に亮が待機したのは、遊矢のような青年の様子がおかしかったからだった。最後に亮が遊矢と会った時は、ジェネックス大会の時だったが、その時とはまるで纏う雰囲気が違う。

 ……どうやら、デュエルが開始されるようだ。

『デュエル!』

遊矢(?)LP4000
カオス・ソーサラーLP4000

 見回りの兵士がいなかったのは、このデュエルを観客として眺めるためだったようで、同時に遊矢が逃げられないようにするためだった。たった1人で攻めてきたこの人間に敬意を表し、せいぜい酒の肴にでもなればいい――カオス・ソーサラーはそう考えていた。

「私の先攻。まずは《手札断殺》を発動!」

 デュエルの初手はカオス・ソーサラーから。まずはお互いの手札を交換するカードで状況を整えると、いい手札になったと笑みを浮かべる。

「私は魔法カード《魔獣の懐柔》を発動! デッキから獣族モンスターである、《封印獣イヌン》と《モジャ》、《封印獣ヌヌラオ》を特殊召喚する!」

 自分のフィールドにモンスターがいない時、効果が無効にされエンドフェイズで破壊される、そのターンの獣族モンスター以外の特殊召喚の制限――など、無視できないデメリットはあるものの、それらがあろうと強力な魔法カード《魔獣の懐柔》。デッキからレベル2以下の獣族モンスターを三体特殊召喚する、という効果であり、カオス・ソーサラーのフィールドに三体の獣が並ぶ。

 さらに《魔獣の懐柔》のデメリットは、専用のデッキならばほぼ無視できる範囲内である。

「さらに手札のこのカードは、フィールドの《モジャ》をリリースすることで特殊召喚出来る! 現れろ《キング・オブ・ビースト》!」

 《モジャ》の効果が無効になっていようとも、手札のカード効果は無効になってはいない。愛くるしい姿だった《モジャ》は急成長していくと、獣たちの王――その名に相応しい雄々しい姿、《キング・オブ・ビースト》へと進化する。

「さらに《封印獣ヌヌラオ》をリリースすることで、《百獣王ベヒーモス》をアドバンス召喚!」

 さらに二体目の最上級モンスターとして、紫色に変色した岩のような皮膚にたてがみをたなびかせ、獰猛な牙を持った悪魔のような獣がアドバンス召喚される。《百獣王ベヒーモス》は最上級モンスターであるものの、その攻撃力を2000に減じることで、リリースに必要なモンスターを一体にすることが可能な効果を持つ。

「さらに《百獣王ベヒーモス》のアドバンス召喚に成功した時、リリースに使ったモンスターの数だけ、墓地の獣族を手札に加えることが出来る。私は墓地の《封印獣ワツム》を手札に加え、カードを一枚伏せてエンドフェイズに移行する」

 《百獣王ベヒーモス》のアドバンス召喚時の効果を使い、初手の《手札断殺》によって捨てた《封印獣ワツム》を手札にサルベージする。さらにリバースカードを一枚伏せ、エンドフェイズには《魔獣の懐柔》の効果により、特殊召喚された《封印獣イヌン》は破壊される。

「フフフフ……エンドフェイズになれば安心したかもしれないが、まだまだ私のターンは終わっていない! 破壊された《封印獣イヌン》は、破壊された時《封印の真言》を手札に加えることが出来る。さらに……もう一枚」

 カオス・ソーサラーは、彼のデッキにとってキーカードとも言える永続魔法《封印の真言》を手札に加えることに成功するとともに、もったいぶりながら手札のモンスターを表にする。そのカードはモンスターカード――《森の番人グリーン・バブーン》。

「このカードは獣族モンスターが効果で破壊された時、1000ポイントのライフを払うことで特殊召喚出来る! 現れろ《森の番人グリーン・バブーン》!」

カオス・ソーサラーLP4000→3000

 最後に《魔獣の懐柔》のデメリット効果を逆手に取った、ハンマーを持った巨大なヒヒの特殊召喚。これでカオス・ソーサラーのフィールドには、三体の最上級獣族モンスターが並び立ち、その布陣には亮も、流石は覇王軍の幹部だと感心する。しかし、それよりも重要なのは、その対戦相手である遊矢らしき人物。

「フフハハハ、さあ貴様のターンだ足掻いてみせろ!」

「俺のターン、ドロー」

 ご満悦に高笑いをするカオス・ソーサラーのような相手に、一見ただの低ステータスのモンスターである機械戦士たちで逆襲する――それが黒崎遊矢のデュエルだった。アカデミアで亮が見てきた親友のデュエルは、唯一無二の彼だけのデュエルだった。デュエルを見ればそれが黒崎遊矢であるかどうか、どんな格好をしていようが亮には分かる。

 ――しかし、亮の期待とは裏腹に、遊矢らしき人物の取った行動は予想だにしていなかった。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

「儀式魔法……? いや、【機械戦士】じゃないだと……?」

 遊矢らしき人物が発動したのは儀式魔法《高等儀式術》。手札の儀式モンスターのレベル分、デッキから通常モンスターを墓地に送ることで、儀式召喚を執り行うことが可能となる汎用儀式魔法。デッキから二枚の通常モンスターを触媒に、フィールドへ儀式モンスターが降臨する。

「降臨せよ、《終焉の王デミス》!」

 フィールドに現れていた時空の穴から、二体銀色のバトルアックスを持ち、漆黒の鎧を着込んだ悪魔が立ち上がる。そのまま肩をバトルアックスで叩きながら、カオス・ソーサラーの前にいる三体の獣を睥睨すると、その斧を大きく振り上げる。

「《終焉の王デミス》の効果発動。ライフを2000ポイント払うことで、このカード以外のフィールド上のモンスターを、全て破壊する!」

「なにぃ!?」

遊矢LP4000→2000


 《終焉の王デミス》がバトルアックスを地面に叩きつけると、世界を揺るがすほどの衝撃波が発声していき、我が物顔でフィールドを制圧していた獣たちは全て破壊される。伏せてあった一枚のリバースカードは、獣族モンスターの攻撃力を半分、他の獣族モンスターに分け与える罠カード《バーサーキング》。恐らく、妥協召喚して打点の下がった《百獣王ベヒーモス》を相手に攻撃させ、この永続罠で迎撃する腹積もりだったのだろうが……もはや意味はない。

「私の獣族が……全滅……!」

「バトル。《終焉の王デミス》でダイレクトアタック!」

 展開しきった三体の最上級獣族モンスターが全て破壊され、驚愕するカオス・ソーサラーに《終焉の王デミス》のバトルアックスが叩き込まれた。カオス・ソーサラーにその一撃を防ぐことは出来ず、あっさりと受けてライフを危険域まで減じさせる。

カオス・ソーサラーLP3000→600

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「くっ……貴様! 何故モンスターの通常召喚をしない! 通常召喚で追撃すれば勝っていたはずだ!」

 《終焉の王デミス》の攻撃の痛みに眉をしかめながらも、カオス・ソーサラーは遊矢に向けてそう叫ぶ。確かにこのターン、遊矢はモンスターの通常召喚はしておらず、攻撃力600以上のモンスターを通常召喚すれば勝てていた。

「…………」

「ぐ……私のターン! ドロー!」

 しかし、遊矢はその問いに答えることはなく、沈黙を貫いた。そんな様子にカオス・ソーサラーは苛立ちを隠すことはなく、舌打ち混じりにカードをドローする。彼は遊矢の手札に通常召喚したモンスターがいなかった、という訳ではなく、通常召喚出来るモンスターがいたのに召喚しなかった――つまり、お前などいつでも殺せるのだ、と舐められたと考えていた。

「私は永続魔法《封印の真言》を発動!」

 先のターンに《封印獣イヌン》の効果でデッキからサーチされていた、彼のデッキのキーカード《封印の真言》が発動される。しかし単体では特に効果はなく、その真価はフィールドに封印獣が表れてからだ。

「さらに通常魔法《屍の中の真言》を発動! 《封印の真言》がフィールドにある時、墓地の封印獣の数だけカードをドローする。よって私は三枚のカードをドロー!」

 ……いや、封印獣がフィールドにおらずとも活用する手段はあったか。初手の手札交換などで墓地に送られたカードも含み、墓地にいる三枚の封印獣の数だけカードをドローする。

「モンスターを裏守備表示でセットし、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー」

 しかして三枚のドローを活かすことは出来ず、カオス・ソーサラーはモンスターを裏守備表示にしたのみでターンを終了する。

「バトル。《終焉の王デミス》で裏守備モンスターに攻撃!」

 ライフポイントの関係上、もう《終焉の王デミス》の効果を発動出来ない遊矢も、特に動くこともなくデミスに攻撃を命じる。……やはり、モンスターの通常召喚はしないまま。

「破壊されたモンスターは《封印獣ワツム》! 《封印の真言》がフィールドにある時、このカードが破壊された場合、墓地の封印獣を二枚手札に加える!」

 永続魔法《封印の真言》の効果はこのように、フィールドの封印獣の効果を解放すること。《封印の真言》がなくては封印獣は効果を解放出来ないが、《封印の真言》だけではただの永続魔法。扱いが難しい分、解放された封印獣は無敵の力を得るのだという。

「私は《封印獣ヌヌラオ》を二枚手札に加え、手札の《森の狩人イエロー・バブーン》の効果を発動! 獣族モンスターが戦闘によって破壊された時、墓地の獣族モンスターを二枚除外することで、このカードを手札から特殊召喚する!」

 効果破壊により特殊召喚される《森の番人グリーン・バブーン》の亜種である、戦闘破壊によって特殊召喚される上級獣族モンスター、《森の狩人イエロー・バブーン》。その巨大な石弓をまるで木製のごとく軽く扱い、《封印獣ワツム》の代わりとして特殊召喚された。

「追撃の下級モンスターを召喚しなかったのは、不幸中の幸いといったところか?」

「メイン2。《高等儀式術》を発動!」

 《森の狩人イエロー・バブーン》の登場により、追撃をあっさりと止めてメイン2に移ると、再び発動される《高等儀式術》。この時点で亮は、遊矢のデッキが根本から機械戦士ではない、ということを確信する。だがそれ故に、彼が遊矢だということが確信出来ないでいた。

「降臨せよ、《デーモンズ・マタドール》!」

 やはり通常モンスター二体を触媒に、降臨するのは悪魔の闘牛士《デーモンズ・マタドール》。攻撃表示で儀式召喚されたものの、その攻撃力は僅かどころか0でしかない。

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 そこで遊矢はターンを終了し、フィールドは攻撃力2400の《終焉の王デミス》、攻撃力0の《デーモンズ・マタドール》に伏せカードが一枚となった。もはやコストの関係上効果は使えず、攻撃力も《森の狩人イエロー・バブーン》に劣る《終焉の王デミス》はともかく。カオス・ソーサラーにとって考えさせられるのは、攻撃力0にもかかわらず攻撃表示の《デーモンズ・マタドール》に、最初のターンから伏せられたままの伏せカード。

 しかし、その2つともを彼は対策できていた。

「まずは手札の《封印獣ヌヌラオ》の効果。このカードは《封印の真言》がある時、特殊召喚効果が解放される!」

 《封印獣ワツム》によって手札に加えられた、《封印獣ヌヌラオ》の効果はノーコストでの特殊召喚。永続魔法《封印の真言》によりその効果が解放され、二体の《封印獣ヌヌラオ》がフィールドに特殊召喚された。

「そして《封印獣ヌヌラオ》を二体リリースすることで、《封印獣ブロン》をアドバンス召喚する!」

 またもや現れるのは最上級獣族モンスター。その中でも封印獣で最強を誇るモンスターであり、攻撃力0の儀式モンスター《デーモンズ・マタドール》と、謎の伏せカードの双方への対策カードだった。

「《封印の真言》により《封印獣ブロン》の効果が解放される。バトルだ、《森の狩人イエロー・バブーン》で、《終焉の王デミス》に攻撃!」

「…………」

遊矢LP2000→1800

 《森の狩人イエロー・バブーン》の巨大な石弓から放たれた矢が、《終焉の王デミス》の身中を捉え見事に破壊に成功する。しかし、遊矢ももう《終焉の王デミス》の仕事は終わったと考えていたのか、特に動揺する素振りも見せずにライフが削られる。

「続いて、《封印獣ブロン》で《デーモンズ・マタドール》に攻撃!」

 さらに攻撃力0の儀式モンスター《デーモンズ・マタドール》へと、カオス・ソーサラーは恐れずに攻撃を命じた。どのような効果であろうとも、《封印の真言》によって効果が解放された自身のエースならば、突破出来ると確信しての攻撃だった。

「《封印獣ブロン》は《封印の真言》がある時、カード効果の対象にならない効果を解放する! どんな罠かは知らないが、これで終わりだ!」

 《封印の真言》によって解放されるモンスター効果は、《封印獣ブロン》の場合は対象を取るカード効果への完全耐性。攻撃力2700を誇る最強の封印獣の牙が、相手モンスターを誘う悪魔の闘牛士に向かい――

「なっ……!」

 ――自滅していた。

「《デーモンズ・マタドール》は戦闘ダメージが発生せず、バトルした相手モンスターを破壊する」

 いくら対象を取るカードだろうと破壊耐性があるわけではなく、対象を取らないカードに対しての耐性はない。封印獣は獣らしく闘牛士に言いように操られ、いつしか勝手に自滅していった。

「ぐぅ……カードを二枚伏せてターン終了!」

「俺のターン、ドロー」

 《封印獣ブロン》という切り札をあっさりと処理され、伏せカードを二枚伏せて守りを固めながらも、カオス・ソーサラーは悔しさから遊矢を睨みつける。しかし遊矢の方も《デーモンズ・マタドール》のみでは、カオス・ソーサラーへ攻め込むことは出来なかった。闘牛士は闘牛士らしく待つしか出来ず、《デーモンズ・マタドール》は攻撃宣言が出来ない、というデメリットがついているからだ。

 そのデメリット効果がなかろうと、結局は攻撃力0な訳だが。ならばもちろん、新たなモンスターを呼び出すのみ。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

「またそのカードか……!」

 発動される三枚目の《高等儀式術》。またもや通常モンスターを触媒に使いながら、手札の儀式モンスターがフィールドに降臨する。カオス・ソーサラーはその儀式魔法を憎々しげに睨みながら、頭の中ではほくそ笑んでいた。何故なら、この《高等儀式術》は三枚目――つまり、この忌々しい儀式召喚はこれで打ち止めということなのだから。

「降臨せよ、《救世の美神ノースウェムコ》!」

 《終焉の王デミス》に《デーモンズ・マタドール》に続き、儀式召喚によって降臨したのは神々しい女神。暗い森や敵である獣たちをも光で照らしだし、全て平等に――破壊する。

「《救世の美神ノースウェムコ》が儀式召喚に成功した時、素材にしようとしたモンスターの数だけ、フィールドのカードを選択する。俺は伏せカードと《デーモンズ・マタドール》を選択し、バトル」

 《救世の美神ノースウェムコ》の儀式召喚に使用したのは、デッキから通常モンスターが二枚。よって二枚のカードを指定することになり、遊矢のフィールドにある二枚のカード――《デーモンズ・マタドール》と伏せカードが選択される。その選択が何を意味するのかは、カオス・ソーサラーにはまだ分からない。

「《救世の美神ノースウェムコ》で、《森の狩人イエロー・バブーン》に攻撃!」

 先のターンに《デーモンズ・マタドール》を攻撃しなかった為、生き長らえた《森の狩人イエロー・バブーン》に、今度こそ後光とともに《救世の美神ノースウェムコ》が天罰を下しに接近する。その攻撃力は2700と、ほんの僅かではあるが《森の狩人イエロー・バブーン》より上であった。

「リバースカード、オープン! 《苦痛のマントラ》!」

 カオス・ソーサラーが発動したリバースカードから、ビッシリと呪詛が満遍なく書かれた巻物が現れ、《救世の美神ノースウェムコ》へと巻き付いていく。呪われた巻物が装備されたノースウェムコは、苦しみに顔を歪めて《森の狩人イエロー・バブーン》への攻撃を中断してしまう。

「《苦痛のマントラ》は攻撃してきた相手モンスターを破壊し、その後デッキから《封印の真言》を手札に加える!」

 カオス・ソーサラーは満足げにそう述べた後、デッキから2枚目の《封印の真言》を手札に加え――ようとするものの、いつまで待とうとデュエルディスクから《封印の真言》が排出されることはない。何故なら《苦痛のマントラ》の効果は、相手モンスターを破壊した後に《封印の真言》を手札に加える効果であり。

 ……相手モンスターを破壊できなくては、《封印の真言》を手札に加えることは出来ない。

「な、何故ノースウェムコが生きて……ぐあっ!」

カオス・ソーサラーLP600→500

 一時は《苦痛のマントラ》によって苦しめられていたものの、《救世の美神ノースウェムコ》はあっさりとそれをはねのけた後、油断していた《森の狩人イエロー・バブーン》を破壊した。その攻撃力の差分から導きだされるダメージは、僅か100ダメージだったものの、カオス・ソーサラーのライフは刻一刻と0へと近づいてきていた。

「《救世の美神ノースウェムコ》は、儀式召喚時に選択したカードがある限り、効果では破壊されない」

 儀式召喚時に選択したカードの使い道がこの効果だ。儀式召喚の素材と同じ数の選択したカード――この場合は《デーモンズ・マタドール》と伏せカードがあれば、《救世の美神ノースウェムコ》は効果では破壊されず、《苦痛のマントラ》には攻撃を無効にする効果はないため、そのまま攻撃は続行された。さらに相手モンスターを破壊できなかったため、《封印の真言》は手札へサーチすることは出来ない。

「カードを一枚伏せターンエンド」

「ぬぅ……私のターン、ドロー!」

 先のターンは踏んだり蹴ったりの結果に終わり、フィールドも永続魔法《封印の真言》と伏せカードが一枚のみ。相手のフィールドには《救世の美神ノースウェムコ》に、《デーモンズ・マタドール》と伏せカードが二枚存在する。決意してカードをドローすると、カオス・ソーサラーはドローしたカードにニヤリと笑った。

「まず私は《封印獣ヂャムジュル》を召喚!」

 召喚されたのは下級封印獣だったが、このモンスターに劣勢を覆すほどの力はない。本命はあくまでも今ドローしたカードのほうであり、切り札の登場に相応しく、もったいぶりながらデュエルディスクにセットした。

「私は魔法カード《エアーズロック・サンライズ》を発動!」

 ――その魔法カードを発動した瞬間、まるで感情を表に出さなかった遊矢の目が見開いたことを、亮は見逃さなかった。あの魔法カードは亮もよく知っている――自分がアカデミアを卒業する直前に、同じくアカデミアを卒業した翔たちの友人が作った、遊矢にとっても思い出深い魔法カードだ。

「エアーズロック・サンライズ、か……」

「ハハ、知っているなら話は早い。《エアーズロック・サンライズ》の効果により、私は墓地から《封印獣ブロン》を特殊召喚!」

 《救世の美神ノースウェムコ》が照らす光とは別に、カオス・ソーサラーの背後から日の出の光が眩く。その光から《封印獣ブロン》が蘇ると、さらに《救世の美神ノースウェムコ》の照らす光が弱まっていく。

「このカードは墓地の獣族モンスターを特殊召喚し、さらに墓地にいる獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ポイント、相手モンスターの攻撃力をダウンする!」

 元々の攻撃力が0の《デーモンズ・マタドール》はともかく、カオス・ソーサラーの墓地には破壊された獣たちが今も蠢いており、獣たちの力を得た光が《救世の美神ノースウェムコ》を弱体化させていく。墓地に眠る獣族モンスターは六体と、その攻撃力を1200ポイント減じさせる。

「バトル! 《封印獣ブロン》で《救世の美神ノースウェムコ》に攻撃!」

 《エアーズロック・サンライズ》の支援を受けた《封印獣ブロン》が、その研ぎ澄まされた牙をもって《救世の美神ノースウェムコ》を食いちぎる。そのままノースウェムコは抵抗むなしく咀嚼されていき、口から発射した衝撃波が遊矢を襲う。

遊矢LP1800→600

 《救世の美神ノースウェムコ》の破壊耐性は、効果破壊に対する耐性のみ。あっけなく《封印獣ブロン》に食い殺されると、遊矢のライフポイントもカオス・ソーサラーと同等まで落ち込んでしまう。

「さらに《封印獣ヂャムジュル》で《デーモンズ・マタドール》に攻撃!」

「《デーモンズ・マタドール》は戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを発生させない」

 通常召喚した下級封印獣こと、《封印獣ヂャムジュル》が《デーモンズ・マタドール》に攻撃するものの、先のターンのようにその攻撃は避けられてしまう。闘牛士のように《封印獣ヂャムジュル》を誘導し、自滅を誘っていくものの、カオス・ソーサラーも無策に同じことを繰り返すほど愚かではない。

「《封印獣ヂャムジュル》は《封印の真言》により、戦闘した相手モンスターを破壊する効果が解放される!」

 《封印獣ヂャムジュル》の解放される効果は、奇しくも《デーモンズ・マタドール》と同じ、戦闘した相手モンスターを破壊するという効果。その効果は同時に発生し、両者ともに破壊されることとなる。

「速攻魔法《サイクロン》! 《封印の真言》を破壊する!」

 しかし封印獣たちの弱点は、その効果を《封印の真言》なくしては発動出来ないということに他ならない。先のターンに伏せたばかりのカードが暴かれると、遊矢のカードから《封印の真言》を破壊せんと旋風が巻き起こる。《封印の真言》を破壊された《封印獣ヂャムジュル》の効果は無効となり、ただ《デーモンズ・マタドール》の効果の前に破壊される。

 ――という、分かりやすすぎる弱点を対策する筈もなく。

「ふん、私は伏せてあった《古文書の結界》を発動! このカードがある限り、フィールドの《封印の真言》は破壊されない!」

 カオス・ソーサラーも伏せた二枚のリバースカードの残り一枚、《古文書の結界》を発動すると結界が《サイクロン》を防ぎきる。《封印の真言》をサポートするカードとして、そのカード自体をサーチする《苦痛のマントラ》とともに、《封印の真言》を破壊されないためのカードが《古文書の結界》だった。

 遊矢の速攻魔法《サイクロン》は不発に終わり、《古文書の結界》に守られた《封印の真言》は正常に効果を発動し、フィールドの封印獣たちの効果は引き続き解放される。同じ効果を持った《デーモンズ・マタドール》と《封印獣ヂャムジュル》は、戦闘を介して同時に効果を発動すると、お互いの効果によって同時討ちを果たす。

「フッ……形勢逆転だな。ターンを終了する」

 結果として、フィールドに残ったモンスターは《封印獣ブロン》のみ。さらにカオス・ソーサラーのフィールドには、封印獣の効果を解放する《封印の真言》と、それに破壊耐性を付与する《古文書の結界》が控えていた。

「エアーズロック・サンライズ……懐かしいカードだな……」

 対する遊矢のフィールドには、最初のターンから伏せられたままのリバースカードが一枚のみ。頼りの《高等儀式術》も、もう上限である三枚を使い切ったと、カオス・ソーサラーは儀式モンスターの降臨の可能性を除外する。

「あの頃に戻るために、俺は……俺のターン、ドロー!」

 ――遊矢が初めて声を荒げてカードをドローした瞬間、周りの森が何もしていないにもかかわらず、燃え上がっていく。

「な、なんだ……!?」

「俺はフィールド魔法《神縛りの塚》を発動!」

 突如として発生した炎にカオス・ソーサラーだったが、遊矢はまるで気にせずにデュエルを進行する。フィールド魔法《神縛りの塚》を発動すると、遊矢の背後には鎖が巻きついた巨大な杭が三本、そびえ立っていた。

「このフィールドでないと、このモンスターは使えない……」

 そう言いながら遊矢は、今引いたカードを意味ありげにカオス・ソーサラーへと向ける。さらに木々を焼く業火は強くなっており、森が焼き尽くされるまでそう遠くはない。

 その影響はもちろん、そのデュエルを見ていた亮たちにも及んでいた。

「カイザー亮、今のうちに撤退しなくては!」

「くっ……分かった」

 猛威を振るい続ける業火の中の戦士ラーズの進言に、亮は苦々しげな表情をしながらも頷いた。ようやく見つけた親友を前に、このままただ見逃すほど亮は薄情ではないが、このままでは業火の巻き添えをくらうことも確かだった。自分単独だったならば迷わず残ったが、今の亮は戦士ラーズたちを指揮する立場であり、エドもオブライエンと合流して待機している。

 今の自分の立場として、燃え盛る森の中を脱出する決断をした亮は、最後にもう一度遊矢の方を見て――といっても炎で何も見えなかったが――その森から脱出を果たし、オブライエンがいる反乱軍の城へと向かっていった。

「うわぁぁぁぁぁあ゛ぁあ゛あ!」

 ――最後に聞いたのはカオス・ソーサラーの断末魔であり、最後に見たのは何もかも消え去った深い森だった。……いや、木どころか草すらもなくなった場所を、もはや森と言っていいものか。


カオス・ソーサラーLP600→0



「そうか……十代以外の者たちは……」

「ああ。覇王軍に捕らわれて消滅した」

 そして先んじてオブライエンに合流したエドは、他の仲間たちの居所と顛末を聞いていた。オブライエンから帰ってきた言葉は、とても信じられない言葉であったが。万丈目準、ティラノ剣山、早乙女レイ、天上院吹雪は覇王軍に捕らわれて消滅し、ジムは覇王とデュエルして敗北した。そして覇王の正体も十代であることが確定している、と。

 例外として、丸藤翔のみはどこかで生き延びてはいるが、反乱軍に協力する気はない、ということらしい。

「……十代を止めなくてはな」

 話し合った結果、やはり今やるべきことは、覇王となった十代を止めること。まずそうしなくては、消滅した仲間たちのことや、ヨハンに遊矢や明日香のことは考えられない。ジムから十代を救うことを託されたオブライエンは、もちろんその意見に反論はない。

「すまない。遅くなった」

 そうこうしているうちに陽動を引き受けていたカイザー亮も、オブライエンの仲間である《海神の巫女》に誘導され、反乱軍の城へと合流を果たす。道中で《海神の巫女》に話を聞いていたのか、その表情は暗い。

「事情は聞いた。その上で大事な話がある」

 ――遊矢らしき人物を見た、と。

 
 

 
後書き
真シエンお帰りなさいぃぃぃぃ! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧