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雪ん子

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1部分:第一章


第一章

                    雪ん子
 冬の寒い日。世界は白く染め上げられていた。
 それは学校も同じだった。校舎も校庭も真っ白で見渡す限り白い絨毯で覆われているようであった。
 だがそんな中でも子供達は楽しく遊んでいる。雪の降る中で楽しげに笑いながら雪を投げ合っていたのだった。
「そら、これはどうだ」
「何、それならこっちだって」
 喧嘩みたいな口調だがそれでも楽しんでいるのはわかる。その楽しみの中で遊び朗らかに笑っていたのである。白い世界の中で顔を赤くさせながら。
 そんな子供達の方に歩いて来る子が一人いた。小さな女の子で見れば他の子よりもいささか古い服を着ていた。だがそれが今の白い世界には妙に合っていた。
「ねえ」
「んっ!?」
「誰あんた」
「ここにずっと昔からいるの」
 その女の子はにこりと笑って彼等に告げた。
「ずっと昔からね」
「昔から!?」
「ええ」
 またにこりと笑って述べる。
「だから皆知ってるよ」
 続いてそう述べるのだった。子供達は女の子のそんな言葉を聞いて何か狐につままれたような顔になって首を捻るのだった。もう雪合戦は止めていた。
「皆ね」
「けれどさ」
 子供達のリーダー格である英行が言う。背が高くやんちゃそうな顔の子だ。
「俺達御前のこと知らないぞ」
「なあ」
 皆彼の言葉に頷く。
「はじめて会ったし」
「幼稚園とか学校が違ったのか?」
 そう思った。学校が違えばやはり会うことはない。そうではないかと思ったのだ。
「だったら会わないしさ」
「一緒だよ」
 けれど女の子はまたにこりと笑ってそう言葉を返してきた。
「ずっとこの学校にいるよ」
「嘘だろ?」
「だって俺達本当に御前は」
「何なら証拠言ってみていい?」
 彼等が信じていないと見るとこう言ってきた。皆はその言葉を聞いてまずは顔を見合わせた。
「証拠か」
「じゃあ言ってもらうか」
「ああ」
 皆口々に言い合う。そうして自分達だけが知っている学校の秘密についてのことを言うのだった。
「じゃあ聞くぞ」
「うん」
 女の子はにこりと笑って応える。
「校長先生のな」
「秘密って何だ?」
「鬘よね」
 すぐに答えが返ってきた。
「えっ!?」
「北森先生よね」
 名前まで言ってきた。勿論正解である。
「ずっとこの学校で先生やってて。お家は駅前の喫茶店の」
「あ、ああ」
「そうだ」
 校長先生は鬘なのだ。実は髪の毛は見事になくそれを隠す為に被っているのだ。だがそれを知っているのは偶然校長先生が鬘を外しているのを覗き見してしまった英行達だけなのだ。この女の子はそのことを知っていたのである。
「正解だよ」
「じゃあ本当にあんた」
「だから嘘は言わないから」
 女の子はまたにこりと笑って彼等に言うのだった。
「それでね」
「ああ」
「今度は何だよ」
「私も入れてもらっていいかな」
 そのにこりとした笑みと共にこう言ったのだった。
「えっ、御前も雪合戦するのかよ」
「雪大好きだから」
 それが彼女の言葉だった。何気ない言葉に聞こえる。
「だからね。いいかしら」
「まあ別にな」
「俺達はなあ」
 英行も他の子供達もそれに応える。別に入れても悪くはない。だが何故か心の中で妙なものを感じ続けていたのである。 
 それで英行が尋ねた。彼女に対して。
「なあ」
「今度は何?」
「御前さっき雪が好きだって言ったよな」
「ええ」
 またにこりとした顔で頷いた。
「そうよ。一番好きなのよ」
「何でなんだよ」
 彼はまた問うた。
「雪が好きなんて。そりゃさ、俺達だって好きだよ」
 子供は雪が好きだ。これを使って遊ぶからだ。思えばただそれだけのことできっと彼女もそうなのだろうがどういうわけか引っ掛かるものを感じ続けていたのだ。
 
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