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義勇兵

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10部分:第十章


第十章

「それでは今は」
「今は、ですか」
「食べましょう」
 政治から話を微妙に変えた。
「その四川料理を」
「はい、それでは」
 そんな話をしながら店に向かう二人だった。そしてだ。
 河原崎もいた。彼は今は通訳と一緒だ。そのうえで街を歩いている。
「ここははじめてですね」
「一応は」
 少なくとも中に入ったのははじめてなのでこう通訳に答えていた。
「そうです」
「左様ですか。それでなのですが」
「はい、それで」
「これからのことですが」
 こう通訳に言うのである。
「何処に行くのでしょうか」
「はい、食事も終わりましたし」
 通訳はガイドも兼ねているようだ。すぐにこう返してきたのだった。
「それではですね」
「はい、それでは」
「重慶の街並みを見に行きますか?」
 こう言ってきたのだった。
「今から」
「そうですか。重慶の」
「行かれたことはありませんよね」
 通訳は今度はこう話すのだった。
「それではと思いまして」
「そうですか。それではこれから」
「はい、これからですね」
「行きましょう」
 二人はそのまま二人で向かう。そうしてであった。
 そこにスコットと劉が前から来た。そのまま。
 彼等は擦れ違った。それだけだった。
 だがその時にはスコットと劉は思わず振り向いてしまった。
「?」
「あれは」
 そしてだった。河原崎もだ。振り向いてしまった。
「どうされました?」
「いや、少し」
 振り向いた河原崎は通訳に対して応える。振り向いたままでだ。
「あの二人は」
「あの人は劉さんですね」
 通訳はまずは二人のうちのアジア系の者を見て話す。
「そしてもう一人の白人は」
「御存知ですか?」
「誰かわかりませんがアメリカ人みたいですね」
 そうではというのだった。
「話している言葉を聞いていますと」
「アメリカ人ですか」
「はい、中国語に英語の訛りがあります」
 それでわかるというのだ。通訳ならではの言葉だった。
「ですからあれは」
「左様ですか、それでなのですか」
「その様です。しかし」
「しかし?」
「変われば変わるものですね」 
 通訳はこう話すのだった。河原崎に対してだ。
「これまでここに日本人やアメリカ人が来ることはなかったのに。こうしてですから」
「時代は変われば変わりますからね」
「はい、戦争もあって対立もあって」
「今はこうですからね」
「本当にわからないものです」
 通訳は微笑んで話す。
「全く以て」
「そうですね。しかしあの二人は」
 河原崎はまだ振り向いた姿勢のままだ。そのうえでの言葉だった。
「何か以前に縁があったような」
「縁がですか」
「会った筈がないというのに」
 その自覚はあった。しかしであった。
「それでもそう感じるとは。不思議なものですね」
「そうですね。縁があるとすれば」
「不思議です」
 河原崎は首を元に戻した。そのうえで通訳とまた話すのだった。
 そしてスコットと劉もだ。振り向いたままの姿勢で話していた。
「あの日本人、ですね」
「そうですね。あれは日本語ですね」
 河原崎が話しているその言葉から察したのだった。
「日本とも国交を樹立されたのですね」
「はい、そうです」
「しかし不思議ですね」
「貴方もそう思われるのですね」
「はい」
 スコットはこう劉に話す。
「その通りです」
「会った筈がないというのに」
 二人はいぶかしむ顔で話す。
「それがどうして」
「何処かで会った様に思えるのでしょう」
「不思議ですね」
「全くです」
 二人はこう話すのだった。
「こんなこともあるのですか」
「おかしなことです」
 そうしてであった。二人でいぶかしむのであった。
 二人にもわからなかった。しかしだ。
 ここでだ。劉が言ってきた。
「さて、それで」
「はい、食べにですね」
「行きましょう。あの日本人のことはとりあえず置いておいて」
「そうですね。ただ」
「そうですね」
 劉はスコットのその言葉に頷いた。
「また何処かで会うかも知れませんね」
「そうですね、何処かで」
 二人はこう話すのだった。そしてだ。
 二人は食事に向かった。河原崎は通訳と共に街を観に向かった。もう戦いはなく三人は会ったことがない。しかし何故か互いに縁を感じていたのだった。それがどうしてかは三人にはわからないことだった。過去のことにも気付かないまま。


義勇兵   完


               2010・6・10
 
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