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英雄伝説~西風の絶剣~

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第2話 初めての『友達』

 
前書き
  

 
side:リィン


「うんしょ、うんしょ」
「大丈夫、リィン?」
「うん、大丈夫だよ」


 僕は大きな荷物を倉庫に運んでいる、それを見ていた西風の旅団の団員であるミラさんが心配そうに声をかけてきた、でも僕は大丈夫だよ。


「よいしょっと、これで終わりだよね?」
「ええ、必要な物資は運び終わったわ。手伝ってくれてありがとう、リィン」


 僕の名前はリィンって言います、ルトガーお父さんの息子で西風の旅団の雑用係をさせてもらっています。


「いつも手伝ってくれてありがとう、本当にリィンって本当に働き者ね。でも貴方はまだ子供なんだからもっと遊んでいてもいいのよ?」
「ううん、お父さんや皆が頑張ってるのに僕だけ遊んでいられないよ、もっと皆の力になりたいから」
「リィン……」


 僕は西風の旅団が大好きだもん。お父さんやマリアナ姉さん、ゼノやレオ、それに西風の旅団の皆……自分を拾い育ててくれた大切な家族のために何かしたいから僕は全然へっちゃらだよ。


「本当にありがとう、リィン」
「えへへ」


 ミラさんが頭を優しく撫でてくれる、優しい手つきがとても気持ちいいなぁ…


「お~いリィン、団長達が帰ってきたぞ!」
「本当に!?」


 見張りをしていた団員の言葉を聴いて僕は目を輝かせ一目散に外に出た。


「お父さん、お帰りなさい!!」
「お、出迎えありがとうな、リィン」


 僕は勢いよくお父さんに飛びついた、お父さんは笑いながら僕の頭を撫でてくれる。


「よ~ボン。ええ子にしとったか?」
「あ、ゼノ!レオ!お帰りなさい!」
「ただいまリィン」


 次にゼノとレオにお帰りの挨拶をする、ゼノが僕を抱き上げて頬ずりしてくる、きゃはは、くすぐったいよ~。


「ふふっ、ただいまリィン」
「あ、マリアナ姉さん!!」


 ゼノに下ろしてもらい僕はマリアナ姉さんに抱き着く、マリアナ姉さんは僕にとってお母さんみたいな存在でもあるんだ、だからこうやってギュっとするととても安心する。


「あらあら、リィンは甘えん坊さんね」
「えへへ~」


 僕は他の団員の皆にもお帰りなさいと出迎えていく、「ただいまリィン」「いい子にしていたか?」こうやって声をかけてくれるのが嬉しいんだ。
 大好きな家族が無事に帰ってきてくれるように僕は全員を出迎える。


 おかえりなさい!!




ーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー




 僕達はアジトの広いスペースで依頼達成の祝勝会を開いています。皆は戦争などの大きな依頼を終えると大体宴会をするんだ、家族全員が生きて帰ってこれたことを祝うためなんだって。
 団員達はそれぞれ話したりお酒を飲んだりと自由に過ごしていた、僕はお酒やおつまみを運んでてんややんわしています。


「お~いボン、すまんけど追加の酒持ってきてくれへんか~」
「はーい!」
「おい、それくらい自分で取りにいけ…」


 既に顔が赤いゼノが僕に酒の追加を頼んできた、僕は直にゼノに追加のお酒を渡す、それにしてもレオもけっこう飲んでいるがゼノほどは酔っていないようだ。


「いや~それにしてもホンマにボンは働き者やな~若いのに関心やで~」
「僕も皆の役に立ちたいんだ、どうかな、役立ってる?」
「当たり前やで!ボンは居てくれるだけで俺を癒してくれるで~」
「ゼノ~苦しいよ~」


 かなり酔っているゼノはぎゅっ~と僕を抱きしめる、ちょっとお酒臭い…


「だが無理はするなよ、お前はまだ子供だ、甘えることだって大事だ」
「ありがとうレオ、でも僕は大丈夫だよ。レオたちがこうやってお仕事を頑張ってくれるから僕も生活できるんだよ。だからこれくらい平気だよ!」
「……そうか」


 レオは微笑みながら僕を撫でてくれる、レオの手はとっても大きくてゴツゴツしてるけどレオの優しい気持ちが伝わってくるから大好きな手なんだ。


「リィン、こっちにいらっしゃい」
「あ、マリアナ姉さん!今行くよ!じゃあね、ゼノ、レオ」


 遠くでルトガーと話していたマリアナ姉さんに呼ばれて僕はそちらに向かった。


「ホンマボンはええ子やな、ボンが来てくれたから団は変わったわ」
「そうだな…あの子のために頑張ろうと思えるからな」




ーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー



「お父さん、マリアナ姉さん、来たよ!」
「いらっしゃいリィン」
「おお、来たかリィン、ほら、こっち来い。」


 お父さんはトコトコと向かってきた僕を抱き上げて自分の膝に座らせた。


「いつも一人にしてすまないな、リィン」
「ううん、気にしてないよ。僕は皆がいてくれるだけで幸せだから」
「……そうか、それを聞いて安心したよ」


 お父さんたちは一流の猟兵らしいから依頼もかなり来るみたい、そのせいで中々僕に構えないことがお父さんにとって悩みの種になってるみたい。
 でも僕は寂しくないよ、皆僕の為に働いてくれてるし、こうやってたまに頭を撫でてくれるだけで幸せだもん。


「よーし、今日は沢山遊んでやるからな!」
「ホントに!?ヤッタ――――ッ!!」
「あらあら、うふふ」


 久々にお父さんとマリアナ姉さんとの時間をいっぱい過ごした。家族って本当にあったかいね。




side:リィン


「う~ん、困ったなぁ……」
「どうしたの、何かあったの?」


 あれから数日が過ぎた頃、西風の旅団の機材や武器のメンテナンスをしている技師のサーニャさんが何やら困ったような顔をしていたので僕は声をかけてみた。


「あ、リィン。実は頼まれていた整備用の部品を発注ミスで入手できなかったの。武器の整備は猟兵の基本だから早めに用意するよう言われてたんだけど……」
「それは大変だね、何とか手に入らないの?」
「う~ん、そうね……部品は戦術オーブメントなどに使われている物だから工房に行けばあるかもしれないけど、今手が離せないのよね」
「あ、じゃあ僕が貰ってくるよ!」
「え!?」


 皆が忙しいなら僕が行けばいいよね、町まで一人で行った事はないけど魔獣と遭遇した時の為に護身術を習ってるからきっと大丈夫、大丈夫♪


「気持ちはありがたいんだけど~……(正直リィンを危険な外に一人で行かせるのは…過保護な方達が黙ってないだろうし)」
「僕じゃ駄目?」
「うっ……(まあリィンももう5歳だし大丈夫かしら…万が一団長達にバレたらマリアナ姐さんに助けを求めよう)え、えっとじゃあお願いしちゃおうかな」
「ホント!?えへへ、僕頑張るね!」
(可愛い)


 何か重大な決断をするみたいな表情で僕にお願いしてくれたサーニャさん、一体どうしたんだろうと思ったけど皆の為にも頑張ろう!


「所で何を貰ってくればいいの?」
「必要な物はこのメモに書いたから工房の人に見せればいいわ、これはお金よ」


 僕はサーニャさんに必要な物が書かれたメモと5000ミラを渡した。


「お金はそれで足りるはずよ、それじゃお願いね」
「うん、行って来ます!」


 僕はカバンにメモとミラをいれて森を抜けた先にある町に向かった。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー





ーーー 街道 ---


「ふんふ~ん♪」


 僕は鼻歌を歌いながら町に向かっていた、そもそも西風の隠れ家の外に一人で出たことが無かったから偶然とはいえ外に出る機会が出来て嬉しいな♪
 

 暫く街道を歩いていくと森の出口が見えてきた、森を抜ければ町がある、僕は急ぎ足で向かった。


「うわ~…」


 生まれて初めての光景に僕は目を輝かせていた。普段はアジトを転々と渡り歩いているが一人で町にいったことはない、大抵は西風の誰かが一緒にいる、でも改めて一人で街に来るとまた違う景色に見えるなぁ。


「工房はどこかな?」


 僕はキョロキョロと辺りを見回して歩く、しばらくすると『フォース工房 こちら→』と書かれた看板を見つけた。


「あ、ここかな、すみません~」
「お、これは小さなお客さんだ、何か用かな?」
「実は~…」

 僕は事情を話しメモを工房の人に見せた。


「ああ、この部品か。ちょっと待ってな。」


 工房の人は奥に行きガサゴソと部品を探す。


「あったあった、コレだな。代金は4800ミラだ」
「はい、5000ミラです」


 僕は貰った5000ミラを手渡した。


「ツリで200ミラだな、ありがとうよ」
「ありがとう、おじさん!」


 買い物を終えた僕は街道を歩きアジトに戻ろうとしていた。


「えへへ、ちゃんとお買い物も出来たし急いで帰らないと」


 その時だった。


「キャアアアアアッ!」
「!?」


 突然悲鳴が森に響いた。僕は森の奥を見る、悲鳴はそちらから聞こえた。


「ど、どうしよう……」


 悲鳴があったということは何か危険な状態になっているかもしれない、一旦アジトまで助けを呼ぼうと考えたがここからアジトまでは結構距離がある。もしかしたら間に合わないかも…僕はそう考えた。


「……よし、僕が行こう!」


 僕は懐からナイフを取り出した、このゼムリア大陸には人間を襲う『魔獣』と呼ばれる生物が存在する。魔獣は人間を見れば襲ってくるため戦えなければ非常に危ない。
 

 僕も猟兵団の一員、大陸中を渡り歩く為魔獣とも遭遇しやすい、普段はお父さん達に守ってもらっているが、万が一の時に対処できるように西風の皆に必要最低限は戦えるように鍛えてもらっている。僕は覚悟を決めて森の奥に向かった。


「確かこの辺から聞こえたような……」


 森の奥に進んでいき悲鳴の主を探す、すると……


「いやっ、来ないで!」


 見つけた!お花畑の真ん中に一人の女の子が狼型の魔獣に襲われようとしていた。僕は女の子と魔獣の間に入り込んだ。


「あ、貴方は……?」
「話は後、下がっていて!」


 魔獣は突然現れた僕に一瞬警戒したが直に先頭体勢に入る、どうやら脅威ではなく餌が増えたというように捉えたようだ。


(魔獣と戦うなんて初めてだ。正直怖い……)


 お父さんが言っていたが訓練と実戦は違う、実戦は負ければ死ぬ、ましては相手は魔獣だ、そこに情けなどない、殺るか殺られるか…僕は生まれて初めての『実践』に恐怖していた。


 魔獣が牙を光らせて飛び掛ってくる、僕はとっさに右に転がってそれをかわした。


(あ、危なかった、とっさに体が反応したからかわせたけど…お父さんに習ったことが役立ったよ)


 お父さんは僕にもし戦うことになったら勝つことよりも生き残ることを考えろ、と教えられた。そのために回避やそれに必要な反射神経などを徹底的に鍛えてもらった。
 それで魔獣の攻撃に頭より先に体が反応してかわせたんだ、僕は頭の中でお父さんに感謝しながら魔獣の攻撃をかわし続けた。


(よし、この調子で何とか突破口を掴めれば……)


 すると突然魔獣は僕を飛び越して女の子に襲い掛かった、このままでは拉致があかないと思ったのか先に仕留めやすいほうから狙いを変えたのか!?



「しまった!」


 僕は女の子を守るために魔獣の前に立ちふさがるが、魔獣は僕を押し倒しマウントを取り噛み付こうと大口を開けた。


「危ない!」
「!ッ、やああ!」


 僕は咄嗟に魔獣の口の中にナイフを突き刺した、まさかこんな反撃を喰らうとは思わなかったのか魔獣は逃げ出した。


「はぁ、はぁ……怖かったよ」
「あ、あの大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫だよ。君のほうこそ怪我していない?」
「私は大丈夫です。危ない所を助けて頂きありがとうございました」


 女の子はニコッと笑い僕にお礼を言う。あれ、なんで恥ずかしいって思うんだろう?


「どうかしましたか?」
「あ、ううん、何でもないよ」
「ふふっ、可笑しな人」


 僕は何故かオドオドしながらもドキドキしていた、この女の子の笑顔を見てると胸が痛くなってくる。


「そうだわ、何かお礼がしたいから家に来てくださらない?」
「え、そんな悪いよ」
「そんなことはありません、貴方は命の恩人なのだから、ねっ」
「…それならお言葉に甘えようかな…」
「うふふっ、そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたわね、私はエレナ、貴方は?」
「リィンだよ」
「素敵な名前ね、それじゃあいきましょう、リィン」


 僕はエレナと一緒にエレナの家に向かった。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



ーーー エレナ家 ---


「あら、エレナお帰り」
「ただいま姉さん、今日はお友達を連れてきたの」
「は、始めまして、リィンといいます」


 こうやって見知らぬ人の家に招待されたことが無いからどうすればいいか分かんないや。


「あらリィンったら緊張しているの?」
「こんな風に誰かの家に来たことがないからちょっとね」
「あらあら、随分と可愛らしいお友達ね。私はエレナの姉のサクラよ、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」


 自己紹介を終えた僕はエレナに連れられて家の中を案内された、どうやら二人暮らしをしているようで家具なども二人分しかなかった。親はいないのか?と少し気になったけど出会ったばかりのエレナにそんなことを聞くのは良くないと思い頭の中に留めた。


「でもリィンってこの辺じゃ見かけない顔ね、もしかして引っ越してきたの?」
「えっと家族で旅をしてるんだ、それでこの町によったんだよ」
「そうだったの、じゃあ色んな場所に行ったりしているの?」
「そうだよ」


 エレナと話しているとサクラさんが甘い匂いをした見慣れない食べ物を持ってきた。


「二人とも、アップルパイを持ってきたわよ」
「本当に!私姉さんのアップルパイだーい好き!リィンも食べてみて、姉さんのアップルパイは最高なんだから!」
「アップルパイ?」


 僕は今までレーションばかり食べてきたのでアップルパイという食べ物の甘い匂いは初めてだ、でもこの甘い匂いは確かに食欲をそそられる。
 僕は切り分けられたアップルパイを一口食べてみる……!?ッふわぁ、甘酸っぱいリンゴの酸味が口いっぱいに広がっていく。こんな美味しい物今まで食べたことがないよ!


「お、美味しい!」
「美味しいでしょう?私の大好物なの」
「ふふっ、まだ沢山あるからどんどん食べてね」


 それからも僕はエレナと遊んだり話したりと楽しい時間を過ごした、するとあっという間に辺りは暗くなっていた。


「あ、もうこんな時間だ、そろそろ帰らないといけないな」
「そうね、楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうわね。ねえリィン、まだこの辺にいるの?」
「う~ん、当分はここを動かない予定らしいからまだいると思うよ」
「じゃあまた遊びにきてよ」
「え、いいの?」
「勿論よ、私とリィンは大事な友達じゃない」
「うん!また遊びにくるね」
「約束ね」


 そして僕は帰路に付いた、帰りの道中僕はエレナのことばかり考えていた。


「友達か、えへへ♪」


 西風の旅団という『家族』とはまた違う幸せを胸に秘めて僕は幸せを感じながらアジトに向かった。
 …余談だけど全く帰ってこない僕を心配して捜索隊(主にお父さんやゼノ)が出ようとしたようなので次からはなるべく早く帰ろうと僕は思いました。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー





side:ルトガー


「ここ最近リィンの様子がおかしい気がする」
「いきなり何言うとんねん」


 ある日の昼ごろ、俺はマリアナ、ゼノ、レオといった部隊長を集め第一声を言った、それを聞いたゼノはすかさず俺にツッコんだ。


「だってよ、ここ最近リィンは出かけてばかりじゃないか」


 ここ数日リィンはお手伝いを終えるとよく出かけている。いままでそんなことが無かったから俺は心配だ。


「確かに最近リィンは良く出かけるわね、でもあの子だって遊びたい年頃なんだしむしろお手伝いばかりしてるよりはいいと思うんだけど」
「俺もそう思う、あの子はもう少し素直になるべきだ。ああやって外に遊びにいく、それが本来の子どもらしさじゃないか?」


 マリアナはリィンが普段我侭も言わずに我慢ばかりしているんじゃないかと思った事があるらしい、それなら今みたいに自分のしたい事をしてほしいと思っていたから今の状態はいいんじゃないかと思っているみたいでレオも同じ意見のようだ。


「それは俺も同感だ、だが問題はどこに行ってるのかを俺にすら教えないんだぞ!」


 俺は前にリィンに毎回何処に行ってるのかを聞いたがリィンは「えへへ、なーいしょ♪」と言って詳しく教えてくれなかった。こ、こんなことは今までなかったんだぞ!


「もしかしたら悪い奴とつるんでるんじゃないか心配でな……」
「考えすぎよ、あの子はしっかりした子なんだからそんな奴らとつるんだりしないわ」


 マリアナはそういうが俺は納得できない。


「ならボンがなにしとるんか調べてみんか?」
「調べる?リィンの後をつけるということか?あまり気は進まないな……」


 ゼノの提案にレオは怪訝そうな表情を浮かべた。レオはリィンを信じているためリィンを疑うようなことはしたくないようだ。


「俺かて気はのらんわ。せやけどこのままじゃ団長納得せいへんやろ?なら実際にボンが何しとるんか見てみればええっちゅうことや」
「ゼノはそう言ってるけど……どうするのルトガー?」


 ゼノの提案にマリアナはどうするのか俺に聞いてきた。


「一回だけ尾行しよう。それで問題なければ良し、問題があったら注意しよう」
「は~結局こうなるのね……」


 こうしてリィン尾行作戦は開始された。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー






ーーー 翌日 ---


「いってきまーす!」


 リィンは何時も通りに出かけていく、俺達はバレないように後を付けていく。


「よし、作戦開始だ」
「なんかワクワクしてきたわ」
「やはり気が進まん……」
「無駄よレオ。はあ、後でリィンに謝らないと……」


 色んな思想を持ちながら俺達はリィンの後をつける、え、リィンにバレないかって?甘く見られたもんだな、仮にも一流の猟兵で通ってるんだ、気配を消すなんてお茶の子さいさいだ。


「ふんふ~ん♪」
「何か楽しそうだな」
「そうね、あんな笑顔は初めて見たかもしれないわね」


 リィンは明らかに楽しそうにしているのを見ながら俺達は後を付けていく、暫く歩いていくとリィンは町外れにある民家に向かっていたことを知った。


「あれは民家か?」
「そうみたいね」


 俺達はじっとリィンの様子を見ていた。


「エレナ~、遊びに来たよ!」
「あら、リィン、いらっしゃい。遊びに来てくれたのね」
「うん、今日は何をして遊ぼうか」


 あれは民間人か?


「なるほどなぁ~。そういうことやったんか、ボンもやるやないかい」
「友達が出来ていたのか。リィンにも友達が……」
「ふふっ、リィンも年頃というわけね、良かったじゃないルトガー、仲の良さそうな友達が出来て……」
「………」
「ルトガー?」
「ん、ああ、そうだな…安心したよ。さてこれ以上は野暮だな、帰るぞ」
「ええ……(どうしたのかしら、ルトガー、何か考えこんでいたみたいだったようだけど)」


 そういって俺達は帰路についた、しっかしどうしたもんか。




side:リィン 



「……ってことがあったの」
「あはは、そうなんだ」
「あら、どうかしたの?」
「ううん、何でもないよ」


 僕はエレナと楽しく談笑していた。アジトを出てから何だか変な気配がしたけど気のせいだったみたい。


「ふふっ、でも貴方と知り合ってから毎日が楽しいわ」
「そうなんだ、僕もエレナと友達になって楽しいよ」
「ありがとう。こんなに楽しいにはお父さん達が生きていた時以来だわ」
「えっ……」


 僕はエレナの発言を聞いて、言葉に失ってしまった。


「私と姉さんは元々違う町に住んでいたの。でも戦争に巻き込まれてお父さんとお母さんは…」
「エレナ……」
「私、貴方が羨ましい、家族と旅が出来るなんてきっと楽しいわよね」


 エレナが悲しさを隠すように微笑んだ、それを見た僕は何故か自分の事を話し始めた。


「……僕は捨て子なんだ」
「……リィン?」
「僕は昔森に捨てられていた時にお父さんに拾われたんだ、だから本当のお父さんやお母さんを知らないんだ」


 僕は3歳位の時にお父さんに拾われたらしい、でもそれ以前に記憶は持っておらず自分の本当の両親の事は全く覚えていなかった。


「ごめんなさい、何も知らないのに貴方のことを知ったように言って……」
「ううん、気にしないでよ。確かに血は繋がってないかもしれないけど、西風の皆は僕の家族だから」
「リィン……」


 最初は戸惑った、でも西風の皆はとても優しくて直に打ち解けることが出来た。今では本当の家族としか思えないくらいに。


「それにエレナだって旅が出来るよ、そうだ!いつか僕がエレナを色んな国に連れて行ってあげるよ」
「本当に!嬉しいわ、じゃあ約束ね」
「うん、約束だよ」


 僕はエレナは微笑みながら小さな約束を交わした。胸の中のドキドキがどんどん大きくなっていく、もしかして僕はエレナの事が……






side:ルトガー



「ただいまー♪」
「ああ、お帰りリィン」


 アジトに帰ってきたリィンを俺は出迎える。


「あ、お父さん。どうしたの?何だか悩んでるみたいだけど……」
「リィン、お前最近よく町の子といるな?」
「あ、えっと、それは……」


 リィンは誤魔化そうとするが、俺は鋭い視線でリィンを見る。するとリィンは黙ってしまった。


「お前が何をしようとお前の自由だ、だが一般人に深く関わるのは見逃せない」
「……」         
「いいかリィン、俺達は『猟兵』だ。俺達は常に争いを運んでいる死神だ、一般人からすれば厄介者でしかない」


 ゼムリア大陸において猟兵は猟兵を知る一般市民からすれば恐怖でしかない、ミラさえあれば誘拐や虐殺さえ行うのが猟兵。なので猟兵と知られれば冷ややかな目で見られたり恐れられるのは当然のことだ、俺が率いる西風の旅団は弱者の虐殺などといった非人道的な依頼は決して受けないが赤の他人からしたら猟兵など皆同じだろう。


「それに俺達は唯の猟兵団じゃない、『西風の旅団』だ。一般人と仲良くしているのが他の猟兵にバレてみろ、そいつは格好の得物だ」


 これがまだ一般の猟兵団なら多少は問題ないだろう。だが俺達はゼムリア大陸最強クラスの猟兵団だ。当然恨みも相当買っている、もし俺達に恨みを持つ者が西風と仲のいい一般人を知ったら見逃さないだろう。


「どのみちもうすぐこの辺の仕事も終わるんだ、そうなったらその子と別れることになるんだ。だったら早いうちに別れを言っておけ」
「……酷いよ」
「うん?」
「酷いよお父さん!エレナは僕にとって初めての友達なんだ!要はそのエレナと友達をやめろってこと?そんなのいやだよ!」
「リィン分かってくれ、俺達は……」
「そんな事いうお父さんなんて大嫌いだよ!!バカ!!!」
「リィン!」


 リィンは涙を流しながら自分の部屋に戻っていった。ちッ、やっぱりこうなっちまったか…


「……」
「もう少し言い方があったんじゃないの?」
「マリアナか……」


 物陰からマリアナが現れた、どうやら今の一部始終を見ていたようだ。


「リィンはまだ子どもよ、あんな言い方をしたら泣いて当然よ」
「今回ばかりはそうも言ってられねえよ」
「ルトガー、貴方どうしたの。何だか様子が変よ?……もしかして私と出会う前の過去に何かあったの?」
「……くだらない話さ」


 俺は自身の過去をマリアナに話し出した。俺が西風の旅団を結成する前のことだ、まだ団も作っていない新米だった時、大きな怪我をして死の淵を彷徨っていた事があった。その時俺を助けてくれたのは一般人の青年だった。俺は彼に感謝し次第につるむようになっていつしかかけがえのない親友になっていた。
 だが当時俺に恨みを持っていた猟兵が親友を人質にしようと襲撃したんだ、俺はその猟兵を撃退するが親友は争いにまきこまれてそして死んでしまった。
 俺はその時実感した、猟兵は争いしか生まないと……


「貴方にそんなことがあったなんて……」
「お前と会う前の話だからな、そんなことがあったから俺は一般人と関わるのを止めた。カタギの人間は俺達みたいな汚れた奴なんて知らないでいるべきと思ったからな。酷い父親だと思われてもいい、俺はリィンに同じことをさせたくねえ」


 だが俺は自分の考えをリィンに押し付けちまった。てめえの失敗をいつまでも引きずってそれを息子に押し付けるなんざ親失格だな。


「俺がリィンを拾ったりしなければ、あいつを泣かせたりしなかったのかな」
「ルトガー……」


 結局その日リィンは部屋から出てこなかった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー






side:??


「目的の町が見えてきました」
「そうか、あれが例の町か」


 誰もが寝静まった夜に武装した集団が集まっていた。彼らは『破滅の刃』、猟兵団の中でもかなり過激な考えを持つ集団で任務達成のためなら無関係な一般人も皆殺しにする猟兵団だ。
 今回彼らは西風の旅団が雇われた組織と敵対する組織に雇われているので西風の旅団と戦っていたがかなり劣勢のようだ。


「あの町は西風の旅団の物資を補充している重要な場所だ、そこを叩けば西風とて堪らないだろう。それにもう一つ重要なことがある」
「それは一体?」
「お前は西風の旅団団長ルトガー・クラウゼルがガキを拾ったという情報は知っているな?」
「ええ、確かそんな情報がありました」
「そのガキがあの町のガキとよく行動していることが分かった」
「……なるほど、人質ですか」
「そうだ、明日囮の部隊を西風の本隊にぶつけその隙にガキを捕らえ奴らを壊滅させる、クラウゼルは随分とそのガキを大事にしてるそうだからな」


 男は笑みを浮かべた。


「覚悟しろ、西風の旅団……」


 
 
 

 
後書き
 


ーーー オリキャラ紹介 ---


『ミラ』


 長髪の赤髪が特徴の女性。主に西風の旅団の物資の調達などを担当している。
 元々はある商人の娘だったが父親が悪人に騙されて全財産を奪われ家族も自殺してしまい絶望のまま死のうとしている時にルトガーに出会い助けてもらった。
 それ以来団長であるルトガーに好意を持っている。


 キャラのイメージはハイスクールD×Dのリアス。


『サーニャ』


 銀髪の女性で、武器のメンテナンスや機材の修理をする技師。腕はいいがそれを嫉妬した職場の上司に難癖付けられて職場を追われた、そして訳アリの所をルトガーに拾われてその上司の悪事をバラしてもらった。
 助けてもらった事で彼に好意を持っている。


 キャラのイメージは艦隊これくしょんの鹿島。 
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