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田園

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4部分:第四章


第四章

「そこを出たんだ」
「兵隊さんはそうなの」
「そうさ。俺の名前はね」
 今度は名乗ってきたのだった。自分の名前を。
「小山田利樹」
「それが兵隊さんの名前?」
「そうさ。少尉でね」
 階級は一応名乗った。ゴーにはわからないと思っていてもだ。
「空を飛んでるんだ?」
「お空を?」
「ああ、飛行機を使ってね」
 それで飛んでいるというのである。
「それで飛んでいるんだ」
「それでか」
「そうさ」
 そうだというのである。
「飛行機っていうのでね」
「たまに上を飛んでいるあの大きな鳥みたいなのかな」
「ああ、それだよ」
 まさにそれだと答える利樹だった。
「それで空を飛んでるんだ」
「凄いね、日本人って」
 ゴーは彼の話を聞いて素直に賞賛の言葉を出した。
「お空を飛べるなんて」
「凄くないさ。誰にだってできるさ」
「誰にだって?」
「そうだよ。誰にもね」
 できるというのである。彼は。
「できるから。坊やにもね」
「僕にもお空が飛べるんだ」
「君達にも誰にもできるんだよ」
 彼はあくまでこう言うのだった。
「誰にでもね」
「できるのかな?お空になんて」
「フランスだって破ることができるんだ」
 そしてこのことを話してきた。
「あの国だってね」
「今はもうフランスはいないんだよね」
「そうさ、いないんだ」
 そのことも言う。しかしだった。
 利樹はさらに言うのだった。ゴーに対して。
「けれどそれを自分の手でできるだけの力を持つこともできるんだよ」
「僕達がフランスを?」
「そうさ、それだけ強くなることもできるんだ」
「嘘だよ」
 ゴーはその言葉を聞いてもとても信じられなかった。彼だけでなく当時のベトナム人達にとってフランスはまさに絶対者であったからである。人は絶対者に逆らうことはできないのだ。
「そんなことできる筈がないよ。僕達がフランスをなんて」
「そう思うからできないんだ」
 しかしであった。利樹の言葉が強いものになってきたのだった。
「諦めるからなんだよ」
「諦めるから?」
「そう、諦めるからなんだ」
 だから駄目だというのである。
「最初から諦めるから駄目なんだよ」
「じゃあ諦めなかったらいいんだ」
「そうなんだ」
 まさにそれだというのである。
「田んぼだって同じじゃないか。途中で諦めたらお米を食べることはできないよね」
「うん」
 そう言われればわかることだった。ゴーにも。
「そういうことだよ。諦めないで頑張るんだ」
「そうして頑張るの」
「そうすればお空だって飛べる。フランスだって完全に追い出せる」
「じゃあ僕達は」
「まずは立ち上がるんだ」
 最初はそれだというのである。
 
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