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小さな英雄

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3部分:第三章


第三章

「やっぱり坊主みたいな人が一番頼りになるな」
「僕みたいなですか?」
「ああ、進んで探してくれて教えてくれる」 
 ヘンリーのその行動に対しての言葉である。
「それが一番有り難いな」
「そうなんですか」
「有り難いよ。おかげでまた空がやり易い」
 そうした市民達の協力があってなのだった。今イギリスが戦えるのは。最早軍だけで戦える状況でも時代でもなくなっていたのである。
 これは昔ながらの騎士道を重んじるイギリス軍にとっては喜ばしいことではなかった。しかしであった。そうしたことを言っていられる状況でもなかったのである。
 だからこそヘンリーが今ここにいるのだ。そういうことであった。
「戦えるんだ」
「じゃあ僕はまた」
「ああ。また見たら教えてくれ」
 こう彼に告げるのだった。
「またな」
「わかりました」
 曹長の言葉に頷いてから自分のテントに戻る彼だった。戦いはその日だけではなかった。次の日もまた次の日も来た。まさに終わる暇がなかった。
 戦いは続きイギリス軍にとって辛い状況が続いた。だがそれはドイツ軍も同じだった。やがて彼等にも疲れの色が見えてきたのである。
「今日は二百です」
「二百か」
「ハインケルですよね」
 また曹長の連絡所に来て伝えるがこの頃にはもう機種も覚えてきている彼だった。
「あのでかい爆撃機は」
「そうだよ。それでハインケルは」
「百二十です」
「そして後の八十は」
「メッサーシュミットの単発です」
 それだというのである。単発のメッサーシュミットは一〇九であり双発は一一〇である。同じメッサーシュミットでも種類が違うのである。
「それが来てます」
「わかった。それにしても」
「少なくなってきてますよね」
「向こうも随分と落とされてるからな」
 何といってもイギリスの空での戦いだ。まず地の利があった。それにドイツ軍の航空機は航続距離が短くドーバーからイギリスに来ても満足に戦えなかったのだ。そうしたことが重なりドイツ軍の損害は増えていたのである。
「もうな」
「だからですか?」
「そう思うがな」
 曹長は軍人として述べた。
「流石にな」
「じゃあドイツの奴等はもうすぐ」
「だといいがな」
 今は確信できなかった。相手も必死だからだ。こちらも必死ならばだ。
「それじゃあ報告しておくからな」
「御願いします」
 こうしてまた報告をした。それが終わってからだった。曹長はヘンリーに対して尋ねたのである。そのがっしりとした樫の木の椅子に座りながら。
 連絡所に詰めているのは彼だけである。その人が一人住めるようにしてある簡易な連絡所にいるのだ。雨や寒さを凌げる様に非常にしっかりとした造りになっている木造の建物だ。その中で自分の前に立っているヘンリーに対して尋ねたのである。その尋ねたことは。
「前に言ったよな」
「前に?」
「ほら、坊主のお父さんが負傷したってことだよ」 
 このことを彼に尋ねたのである。
「前に言ってただろ。覚えてるか?」
「はい」
 曹長のこの問いに素直に頷く。忘れている筈のないことだった。
「あのことですか」
「そのことさ。それでお父さんはな」
 さらに尋ねていく。
「どういった人なんだい?」
「空軍のパイロットです」
 それだというのである。
「けれど撃墜されて。それで足を怪我したんです」
「そうか、パイロットだったのか」
「お父さんは今は戦えないから」
 ヘンリーの言葉は続く。
 
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