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老いても永遠に

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4部分:第四章


第四章

「玉音放送だったな」
「陛下の御声ははじめて聞いたな」
「あの様な御声だったのか」
 陛下のその御声についても話し合う。だがその御声についても今一つ実感が湧かないのだった。敗戦したと聞いて呆然としたままだった。
「なあ」
「何だ?」
「どうした?」
 津田の言葉に他の三人が顔を向けた。
「これからどうする?」
「これから?」
「どうするかか」
「そうだ。俺はとりあえず軍に残る」
 彼等はまだ海軍が解体されるということを知らなかった。それが連合国により為されることも。敗戦したばかりでそうなるとわかっている者も殆どいなかった。
「軍にな」
「俺もだ」
「俺もそうする」
 彼等の考えはもう決まっていたのだった。
「敗れても次がある」
「次こそは連合国に勝つ」 
 この言葉は本気だった。彼等は敗れたとはいえまだ戦う心を持っていた。こうした心を持っているのは彼等だけではなかったのも現実である。
「必ずな」
「では靖国に行くのはその時だな」
「そうだな。その時だな」
「それじゃあな」
 ここで安永が動いた。そのうえで出してきたものは。
「これに名前を書くか」
「国旗か」
「そうだ、これにだ」
 安永が出してきたのは日章旗だった。特攻隊の者達が最後の出撃の前に旗に己の名前を連ねて書いていることを彼等も知っていて。それで出してきたのである。
「これに名前を書くか」
「今か」
「そうだ、今だ」
 安永は赤西の言葉にも答えた。
「今書く。どうだ」
「そうだな。書こう」
 彼の言葉に最初に頷いたのは浜北だった。
「俺達の名前を書こう」
「俺達は靖国で会える」
 また言う安永だった。
「だから今こうしてな。旗に名前を書いておこう」
「そうだな。じゃあ俺も」
「俺もだ」
 津田も頷き先程問うた赤西もそれに続いた。
「旗に名前を書くぞ」
「俺の名前をな」
「いいか」
 浜北は取り出したペンを握ったところで他の三人に対して告げるのだった。
「俺達は最後は靖国で一緒になる」
「ああ」
「その通りだ」
「だがな。その時までも一緒だ」
 こう仲間達に告げるのだった。
「ずっとな。一緒だぞ」
「そうだな。旗に俺達の心が宿るんだ」
「日本の旗にな」
 彼等は今その日章旗を見ていた。この旗こそ彼等が最も愛するものだった。彼等が愛する祖国そのものだった。国旗は国家なのだ。
「じゃあ書くか」
「そしてな」
「会おう」
 それまでの空虚なものは消えていた。確かな顔で見合っていた。
「靖国でな」
「そしてそれまでも」
「ずっと一緒だ」
「俺達は離れることはない」
 四人それぞれの言葉だった。
 
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