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元虐められっ子の学園生活

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険悪な2日間

『あきらめないこと。どんな事態に直面してもあきらめないこと。 結局、私のしたことは、それだけのことだったのかもしれない』とある登山家の名言である。
登山にかけた思いを人生と掛け合わせた言葉は、知る人ぞ知る応援歌となっているだろう。
また、『山とは金では絶対に買うことのできない偉大な体験と、一人の筋金入りの素晴らしい人間を作るところだ。 未知なる山との厳しい試練の積み重ねの中で、人間は勇気、忍耐、不屈の精神力、強靭な肉体を鍛え上げていくのである。登山とは、 ただこれだけで僕には十分である』と唱えた人物もいる。
これは当時20代の登山家が言った名言であるが、文章を読むにつれやはり諦めないことが思想となっているだろう。
故に人生とは諦めないことであり、諦めることは即ち死を意味するのだろう。
「諦める」といえば、自分の願いごとが叶わずそれへの思いを断ちきる、という意味で使われるのが一般である。
しかし、「諦観(たいかん)」、「諦聴(たいちょう)」といった熟語の「つまびらかにみる、聞く」にみられるように、「つまびらかにする」「明らかにする」が、本来の意味であることはご存じだろうか?
これらは仏教用語として用いられるが、漢語の「諦」は梵語のsatya(サトヤ)への訳語であって、真理、道理を意味するものとされているのだ。
これらの事から諦めはそのまま思想を断ち切るものではなく、真理や道理を追い求める物であるのが真実なのだ。
ならば一般的に使われている「諦め」はどうなるのか?
答えるのならばそんなものは存在しない。それらの全ては『妥協』でしかないのだ。
例を挙げた登山家に習い、私も名言を立ち上げよう。
『真の諦めは道理として心に持つべきである』












「お兄さま!今日は連れていってほしい場所があるのです!」

開口一番に我が義妹である陽菜が言ってきた。
つい先日から学生の長期休暇である夏休みに入り、バイトの稼ぎ時期間でもある。
そんな多忙な俺に、陽菜は元気良くそれでいて期待と高ぶる衝動に駆られるように詰め寄ってくるのだ。

「兄は今これから先のシフトを考えなくてはいけない。
よって今時分陽菜の要望に答えることは出来ないのだ」

「私はお兄さまとの思い出が欲しいのです。
先程、学校の宿題も全て終らせ、洗濯物やその他雑用事項も済ませました。
だからこそお兄さまからご褒美と称した贈り物として付き合っていただきたいのです」

おい待て。自由研究とか読書感想文があっただろうが。
お前絶対嘘書いただろ。

「しかしだな。この稼ぎ時はこの夏休み期間でしか出来ない貴重な収入なんだ。
確かに生活には然程困ってはいない。寧ろ余裕過ぎると言っても過言ではない。
しかし、仕事人間と成り立ってしまった俺の身が、ここで放棄することを抑制しているのだ」

「お兄さま……ダメ…ですか?」

「何処へ行くんだ?」

「っ!はい!動きやすい服装に着替えてくださいね!
私も準備して参りますわ!」

そう言って陽菜は自室へ走っていってしまった。

しまった!まさかあのような儚げな眼と態度を見せられて揺らいでしまうとは!
いままでそんなことはしたことがなかったあの陽菜が…一体何があったんだ?

「お待たせしましたお兄さま!さぁ!参りましょう!」

戻ってきた陽菜はボストンバッグに麦わら帽子。
白色のワンピースと言った、まぁ所謂旅行にでも行くような格好をしていた。

「そもそも何処へ行くんだ?」

俺はある程度片付いたシフト表をテーブルに置いて立ち上がる。
陽菜は元気良くこう答えた。

「千葉ですわ!」











「待っていたぞ鳴滝(みちづれ)

陽菜に連れられて来たのは千葉駅の前。
そして出会ったのは比企谷八幡。
疲れたような顔で陰湿な笑みを浮かべ、俺に対してそう言った。

「おい、今俺の名前に何を込めた?」

「気のせいだろう。さぁ、車に乗ろうじゃないか」

そう言って指を指したのは赤色のワゴン車。
車内からは奉仕部メンバーに小町ちゃん、戸塚、平塚先生が乗っていた。

「唐突すぎて理解に困る。俺はこれから陽菜と千葉へ向かうことになっているんだ」

「ああ。俺達全員でな…」

「早く乗りたまえ。時間は有限なのだよ」

平塚先生が車から降りてこちらへと歩いてきた。
そして先生の目を見て全てを理解したのだ。
――――俺は嵌められたのだと。










千葉村。
ここは小、中学生が野外研修と言う名目で使用される学習場所である。
自然が豊かで山道も確りと手入れされており、オリエンテーリング等も行える正に学校行事に適した場所だと言えるだろう。

そんな所へ来てしまった俺は、車内で比企谷に事の顛末を聞いたのだった。
どうやら比企谷も俺と同じ無いようで千葉駅の前に誘き出されて強制参加を余儀なくされたらしい。
そして一人は嫌だと言うことで俺を道連れにすべく、小町ちゃんから陽菜へと連絡がいき、今に至ると言うわけである。

「俺、山アレルギーなんで帰っていいですか?」

「どんなアレルギーなのかしら…」

「もっと楽しもうよ!ほら、空気も美味しいしさ!」

「それ以上に美味しい予定をぶち壊されたんだが」

由比ヶ浜と雪ノ下は俺の両隣にたってそう言う。
俺としてはバイトの期間が減ったことに落ち込むことを押さえられない気分でいた。

そこへ、もう一台の車が俺達の前に停まり、中から数人の男女が下車してきた。
と言うか憎き葉山とそのグループだった。

「……先生、俺は帰ります」

「待ちたまえ。これには君達へと課題も兼ねているんだ」

「課題?俺にとっては嫌がらせにしか感じられませんね。
俺とあれの険悪状況は既にご存じの筈ですが。まさか矯正しろとか抜かすんじゃないですよね?」

「落ち着け鳴滝。
私が出すこの課題は彼らと仲良くなる事ではない。
彼らと過ごす2日間を上手くやれと言うものだ」

「片方に嫌悪の感情があるのなら、それは不可能であると定義します。
そもそも、俺には例えそれが強制であっても反抗に戦力を尽くす所存です」

葉山と上手く?何を戯れ言を…。

「無理に関われとは言わない。
どうせなら比企谷達のサポートに回るだけで良い。直接話すこともないし、嫌悪することも無いだろう」

「……………………わかりました」

「助かる」

それっきり会話は無かった。
今回の活動内容は小学生達の行うオリエンテーリングのサポートとして、
お助けお兄さんの様な役を取り持つこと。
俺は小学生達への挨拶が終わるまで、ひたすらに怖い顔になっていた。
その為か、小学生達が怯えていたように見えたのは間違いではない。

「鳴滝君。もう少し落ち着きなさい。
貴方の今の顔が凶器と間違えられてもしょうがない状態になっているわよ」

雪ノ下は俺にそう言うが、誰が顔面凶器だ。
これも全てお膳立てしやがった平塚先生が悪い。

「これから2日間が憂鬱でしょうがない。
それどころか今にも怒りで発狂しそうだ」

「我慢してちょうだい」

俺は終始顰めっ面で開会式を通すのだった。


 
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