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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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運命の竜巻

 
前書き
急ぎ回 

 
『そうか……そうだったんだ……私は……』

[アリス?]

『あ、ううん、何でもないよ? 気にしないで、お兄ちゃん』

アリスの雰囲気が少し変わっているが、恐らく魂の修復がほぼ済んだ事で記憶などが蘇ってきたのだろう。しかしまだ頭を整理する時間が必要らしく、俺の中に入っていった。
アースラが来てから数日、残っていたジュエルシードの多くは協力する事を選んだ高町なのはによって封印、回収されていた。それとこの前のようなイモータルの襲撃に備えて恭也も彼女と共に現場に来ている。以前恭也を見つけたせいで涙目で帰ってきたフェイトとアルフがそう言っていた。ちなみにその日の夜はおれの布団に二人が潜り込んできている。そこまで怖いか……最早トラウマだな。

「……そろそろ全部集まっても良い頃合いだが……あといくつジュエルシードが残っているんだ?」

「向こうが回収した分を考えると……多分6個だよ」

「全部で21個か。それでその残りの分が全てここにあるのか?」

海を指さして尋ねるとフェイトは頷いた。地上に魔力の気配がないということは、残りは全て海に落ちたと考えるのが妥当。なので海の傍にある舗装された道でそんな話をしていたのだが、流石のおれでも海上だと手を出すのは厳しかった。

「心配しなくても大丈夫だよ、サバタ! あたしとフェイトなら絶対に勝てるって!」

「せやせや、兄ちゃんなんやからフェイトちゃんとアルフさんを信じとかんとな!」

「……心配なのはフェイト達じゃなくておまえだよ、はやて」

「というより、なんで来ちゃったの……?」

なぜかこの場にいるはやてに目線が集中すると、彼女は「皆で見つめられると照れるわぁ~」と身をよじらせていた。偶に突発的な思い付きで行動するはやてだが、今回もそれに近い感じで、ジュエルシードを封印する現場を見たいと珍しくねだってきたのだ。まぁ、一人ハブにされている気がしていたのかもしれないし、こうなるのも仕方がないか。

「ひとまず巻き込まれない程度に離れた位置ではやてと待つ。こちらにもし攻撃が飛んできてもおれが防ぐから、気にせずフェイトとアルフはジュエルシードの封印を最優先で行動しろ」

『了解!!』

「りょ~か~い♪」

意気の良い返事をしておれ達はそれぞれ指定したポイントに移動する。いつものように風景が無味無色になる結界をフェイトが張ると、はやてもこれからが本場の戦いである事を本能で感じ取り緊張した面持ちで見守る。
フェイトが魔力の塊を海面に落としてしばらくした後、最初の一つをきっかけに海中のジュエルシードが次々と連鎖的に発動、巨大な竜巻となって現れた。

「うわっ、ちょっ……!? あんなんホンマに倒せるんか!? ゴォーって竜巻がいっぱいやん!!」

「暴走の度合いが予想を超えている……フェイトの奴、一発で全部集めようとしたな」

「へ? 一発って?」

「当初の予定では数回に分けて回収するつもりだったんだ。万が一にも失敗するわけにはいかないから確実に回収できるよう程々の暴走に留めるはずだった。しかし功を焦ったのか、それとも管理局の介入を恐れたのか、投下する魔力の量を多めにして海中のジュエルシードを一気に集めようとしたのだ」

「それで予定より格段に強い暴走体になっとるわけか……。大丈夫やろか、フェイトちゃん達……」

しばらく黙って見守っていると、やはり二人だけでは厳しかったのかフェイトとアルフが竜巻のあまりの風圧に翻弄されて苦戦していた。速度を優先した代わりに防御が薄いフェイトには一発の直撃が致命傷となるため、息をつく暇もない連続攻撃を身をひねったり魔法でそらしたり、アルフの援護でどうにかギリギリ対処し続けている様子にはやてが焦燥感を抱く。

「なんかもう、めっちゃピンチちゃうのん!?」

「ま、焦らずにもうしばらく見守っておけ。どうせあいつらも来るのだから」

「あいつら?」

予想した通り近くの空で一瞬閃光が走る。そこから白い魔導師こと高町なのはとユーノ・スクライアがフェイト達の所に向かっていくのが見える。それとついでに……、

「おまえも来たのか、恭也」

それと何故か月村姉妹も来ていた。忍はまだわかるが、何もすずかまで来る必要はないはずだと思う……。

「当然だ。ま、俺も敵が海の上だと手が出せないから歯がゆいが」

「いくら戦えようが、あんな風に空を飛べなければどうしようもない。今回は大人しくしておけ」

「あんまり納得はしたくないがな。ところでその子は?」

「あ、私八神はやて言います。サバタ兄ちゃん達の家主やっとります~」

「………!」

「あれ? なんで驚いてるんですか?」

「あ、いや、すまない……。ついこの前あの金髪の魔導師達が俺を見た瞬間、急に泣きそうな顔で逃げ出した事があってな……今回もそうなるかもしれないと頭の何処かで思っていたから……」

「ナマハゲ扱いやん! どんだけ怖がられることしたんや!?」

「自分が子供に怖がられやすいんじゃないかと思ってネガティブになっていたようだが、あんなプレッシャーを初対面からぶつけられれば怖がるに決まっているだろう」

「面目ない……なのはと同い年の子にまで殺気をぶつけるなんて、まだまだ未熟な証拠だ」

「そこで剣を置く選択肢が無い辺り、生粋のバトルジャンキーなんやな。なんか会ってまだほんの少しやけどこの人の性格わかってきたわ~」

はやてが和やかな雰囲気を漂わせながら何気に見抜いている。彼女の観察眼が鋭い事は既に把握しているからともかく、それよりも月村すずかが何か話しかけたそうな顔をしている事に気付いたおれは手招きで彼女を呼ぶ。

「あの……?」

「悩みや疑問があるならさっさと言った方が良い、それが自分にとって大事な内容ならな。時間は少しならある……話してみろ」

「……はい。では……サバタさんは私たちをどう思っていますか?」

「近所の子供」

「た、確かに一言でまとめればそうですけど……そうじゃなくてですね?」

「―――吸血鬼の事か?」

「ッ……はい。もう契約が済んだのにまた蒸し返すようですみませんが、サバタさんは私たち夜の一族をどう見ているんですか?」

こちらを見つめるすずかの目は不安に揺らいでいるように見える。彼女達の境遇は世紀末世界の魔女とほぼ同じだから、恐らく“ひまわり”やカーミラと同じような思いを抱いている可能性がある。……彼女の心の歪み、少し見ておくか。
一度おさらいするが、月村家こと夜の一族は人間の血液を摂取する代わりに高い知能や人間以上の高い身体能力に長い寿命、そして魔眼のような異能を持っている。一見すればバケモノと揶揄されてもおかしくない存在ではあるが、イモータルと違い吸血した対象がアンデッド化するような事は無い。そしておれだから何とか気づくぐらい薄い闇の気配から、彼女達は月光仔に近い存在なんじゃないかとも推測した事がある……実際はどうか知らんが、わざわざ調べる気は無い。故に今、おれが彼女達夜の一族をどう見ているかと答えるならば……、

「イモータルと違い倒す価値の無い吸血鬼で、そちらの都合上同盟を結びはしたが、はっきり言って大して興味が無い存在だ」

「きょ、興味が無い、ですか……。今まで夜の一族の事を知ってしまった人は根掘り葉掘り聞こうとするのに、そんな風に言われたのは初めてです。でも吸血鬼の事を憎く思ったりは……」

「……まさかと思うが、クイーンの事を気にしているのか? おれを元々の家族から引き離した吸血鬼の事を憎んでいるんじゃないかと、おまえはそう思っているのか?」

「ええ。……覚えていますか? 初めてサバタさんと会ったあの日、アリサちゃんと誘拐された私は彼女を巻き込んでしまった責任と共に、家族ともう会えないかもしれない苦しみを強く感じました。私がそう思ったように、誰だって家族と引き離されるのは辛いです。でもサバタさんはヴァンパイアによって引き離された。だったら人生を歪めた吸血鬼の事を憎んでてもおかしくない、そう思いました……」

「そうか……だがその考えは杞憂だ。おれはもう、あの偽りの母を憎んではいない。そして彼女が成り果てたヴァンパイア……吸血鬼そのものに恨みや憎しみは無い」

クイーン……ヘルは母マーニの姉で同じ血を継ぐ月光仔だった。しかし彼女には月下美人に至る慈愛の心を持ち合わせていなかった。月の血が持つ二面性、狂気が強く表れてしまった事で自分には無い力を持つマーニに彼女は嫉妬の心を抱いていたのだろう。それなのにマーニは人としての幸せを求めて親父の所へ行った。
自分が手に入れられないものを何もかも手にしたマーニ。対してヘルは彼女に対するコンプレックスもあって、母に対抗しようと暗黒の力に傾倒していった事で益々狂気が表面化していた。そう考えると偽りの母である彼女もまた、運命に翻弄されて闇の犠牲者となったのだと見れる。
もちろん、イストラカンの戦いで世界中に吸血変異を引き起こそうとした事は到底許される事では無い。しかし……彼女も狂気に飲まれるまでの経緯があったのだから、一概に否定するだけでは何も見えなくなる。考える事を止めれば、それは人としての尊厳を否定する事になるのだから。

「端的に言えば俺は正体が吸血鬼だろうがどうでもいい。ただ……彼女を、そして俺自身をも狂気へと走らせた銀河意思ダーク、そしてその意思に従う闇の一族イモータル。ヤツらの思い通りにさせるつもりは無い。ただそれだけだ……」

「…………サバタさん、あなたは……」

「フッ……それにクイーンの下に居なければアイツと出会えなかったかもしれないからな。何も悪い事ばかりだったわけではない」

「アイツ? アイツってもしかしてこの前言ってた……」

すずかが何か思い当たる仕草を見せるが、必要以上にカーミラの事を話すつもりは無かった。のうのうと生きている俺なんかが彼女の想いをこれ以上穢してはならない。もし誰かが彼女の魂と通じるような事があれば話すが、そうならない限りこれからこの世界の未来を生み出していく少女達に、わざわざ人の業の象徴とも言える悲劇を教えなくとも良いだろう。まだ純粋な彼女たちの心に陰りを植え付けるつもりは毛頭ないのだから。

「それに、だ。本当のバケモノというのはおまえ達が想像できる程では到底及ばない脅威を誇る。特殊な血筋の家で生を受けた以上おまえが気にするのも仕方ないかもしれないが、ヒトより多少優れている程度の存在がバケモノなわけがあるまい?」

「あ……!」

「……話は終わりだな。それに、あれもそろそろ閉幕か」

そう、こんな話をしていた一方で、魔導師達の海上の戦いは終局に差し掛かっていた。執務官が加わった事で役割にバランスができ、ユーノと執務官がバインドで足止めし、アルフが防御を担当。その連携で稼いだ時間を使ってフェイトとなのはが同時に巨大な砲撃を放ち、直撃させた竜巻のジュエルシードを6つ全て封印してみせていた。

「お? 終わったみたいやな。あ~凄かった! 一瞬やられちゃうんやないかと思ってハラハラしたわ~!」

「案外図太い性格なんだな、その子は」

「複雑な事情持ちのおれ達を匿っている時点でそれは重々わかっているだろう」

「あれ、なんか私けなされとる?」

「そんなわけないだろう。褒め言葉だ、はやて」

「図太いって褒め言葉なんかなぁ……?」

腑に落ちない気持ちで疑問を膨らますはやて。それはそれとして海上ではなのはが何かをフェイトに伝えている様子だったが、ふとおれは上空から電気が走るような殺気に近い気配を感じた。一方でなのはの相手よりも先にジュエルシードを回収しようとして、執務官に阻まれているフェイト。次の瞬間、上空から降り注いできた紫色に発光する雷を全員が認識する。落下位置は、ジュエルシードと……ッ!

「フェイト! 避けろ!!」

「え……―――ッ!?」

意識よりも先に身体が動き彼女に呼びかけるも、反応が間に合わなかったフェイトはもう一つ降り注いできた紫の落雷の直撃を受けて撃墜されてしまう。ショックで意識を失い海に落ちる所だったフェイトは何とかアルフによって着水する前に救出されたが、今の落雷のダメージは楽観視できるものではない。

「な、しまった!? 今ので残りのジュエルシードも奪われた!」

執務官があらかじめ確保していた3つを引いた残り3つ、それとバルディッシュに保管していたもの全ても転送されてしまったようだ。となると21個の内15個のジュエルシードが落雷を放った魔導師……プレシアに渡った事になる。

邪魔をするな、と釘を刺しておいたのにな。やれやれ、向こうから先に違えるとは余程切羽詰まっているのか……?






フェイトを迅速に治療するため、緊急時という事で俺達はアースラに転送された。状況が状況なので執務官や艦長、オペレーター以外の他の局員もフェイトとアルフを確保しようとはしなかった。というよりそんな事をしている場合でも無いのかもしれない。なにせアースラにも先程の雷―――Sランク越えの次元跳躍攻撃魔法が直撃した事でほとんどの計器が故障している。が、その代わりあの攻撃の魔力をたどってプレシアのいる時の庭園の位置座標の探知に成功したため、制圧のために武装隊が突入していっている。修理を行っている者もいるのでアースラ内に局員の姿はあまり無い。

「う……おにぃ……ちゃん……」

「気が付いたか、フェイト。ここは管理局の戦艦アースラの医務室だ。あの時落雷のダメージを受けたおまえを治療するために連れてきた」

「管理局……そっか。私、捕まっちゃったんだ……」

そういって目元に手を置くフェイトはあまり悲観した様子では無さそうだった。アルフもいるとはいえ基本的に単独犯である以上、いずれこうなると頭の中で予測していたのかもしれない。
ちなみにはやてとアルフ、すずか達は別室にいるなのは達と一緒にいる。はやては管理局や魔法に対しての知識が中途半端である事から事情説明を受けており、アルフは彼女の護衛……ではなく、はやてに励まされながらフェイトの代わりに事情聴取を受けに行っただけだ。なにせ何も出来ず目の前でフェイトが落とされてしまい、後悔の念を抱いたのと同時にプレシアに対する怒りと不満が爆発した事で時の庭園の地形や設備、ついでにずっと我慢していた鬱憤などをリンディ達にぶちまけている。

「ねぇお兄ちゃん……なんで母さんは、私に振り向いてくれないのかな……? ずっと……ずっと母さんのために頑張ってきたのに、母さんは笑ってくれない、褒めてくれない、見てくれない……。やっぱり……管理局に捕まっちゃうような私じゃダメなんだよね……」

「………」

「今頃はもう、私は地球を守るヒーローなんかじゃなくて実は犯罪者だって知ったから、はやてもきっと私に幻滅しちゃってる。そうなったらあの家も追い出されるから、私に居場所は無くなる……。いや、そもそも捕まってるんだからこれから牢屋の中かな」

「………」

「お兄ちゃん、ごめんなさい……! 私のせいで……私のせいで、あの家の雰囲気を壊しちゃった……! もう……皆で過ごしたあったかい生活は、二度と出来なくなってしまった……! 私が全部を狂わせたんだ……!」

自虐が止まらないフェイトは、段々嗚咽を漏らして泣き始めた。後悔が抑えられないまま、彼女は自責の念に押し潰されかけていた。……サン・ミゲルの戦いで無力感を抱いていたザジを彷彿とさせるが、励ますのは元々あまり得意ではないのだがな。

「……後悔なら後にしろ。母親のために頑張ってきた? はやてが幻滅した? 居場所がなくなる? 皆で二度と過ごせない? 笑わせるな!!」

「ッ!?」

「ジュエルシードの封印、それが出来たおまえがいなければこの街や地球の被害は尋常ではないものになっていた。責任放棄した挙句遅刻した管理局には最早言わずもがな、もう一人の魔導師、高町なのはも地上全てをカバー出来ていた訳では無い。これほど被害を抑えられたのは他でもない、おまえの力があったからだ! 大魔導師プレシア・テスタロッサの娘であるおまえの力が!!」

「私の……力?」

「そうだ、おまえのおかげで救われた者が地球には確かにいる。それから目を背けて勝手に一人で悲観しているんじゃない!」

「私の……おかげ? 私が……救った? …………そっか。私、何の役にも立てなかった訳じゃないんだ……。私の力でも為し遂げられた事はあったんだ。うん、そうだ……もう何もかも終わった気になってたけど、まだ何も終わっていなかった。私は、誰からも答えを聞いていない」

「その通りだ。前にも似たような事があったが、勝手に悪い方向に考え込むのはおまえの悪い癖だぞ、フェイト。“ひまわり”の受け売りだが、たとえ雨が降っても、ひまわりはうつむかない。花でもしっかり自分の力で上を向き続けるのだから、おまえもいつまでも下を向いてばかりいる場合か?」

「うん……! うん……! ありがとう、私、まだ頑張れそうだよ。大丈夫……私は、これからも私のせいいっぱいをやればいいんだ……!」

精神的に立ち直ったフェイトは眼に力が戻りつつあり、完全に折れなかった事を褒める意味で彼女の頭を優しめに撫でる。すると彼女は目を細めて気持ち良さそうにされるがままになっていた。フェイトは母の愛を求めてこれまで頑張り続けてきた、そしてこれからも……。その努力を誰でもいいから少しは報いてやらないと、彼女の心にある太陽が再び昇ることが無くなりかねない。俺なんかで補填できるとは思っていないが、一時的な代わりになることはできる。

「あら、もしかしてお邪魔だったかしら?」

入口から現れたリンディの声が不意に聞こえた事で、特に動じる事もなくおれはフェイトの頭から手を放し、彼女と向かい合う。

「あぁ…………」

フェイトが物足りなさそうな声を出して頭に手を当てたが、そんな子犬みたいな寂しそうな眼をしても今はやらないぞ。そういうのは状況が片付いてからだ。

「こっちの話は既に済んだから問題ない。それよりどういう要件で来たんだ?」

「そうつんけんしないでほしいわ。ま、二人とも私が言わなくてもわかっていると思うけど……フェイトさん」

「はい……何でしょうか?」

「管理局はロストロギア所持、および管理局への攻撃の容疑であなたの母親のプレシア・テスタロッサの逮捕のために時の庭園へ武装隊を派遣しました。恐らく彼女の逮捕は時間の問題でしょうけど、念のため私たちはブリッジのモニターで確認します。彼女の娘であるあなたにお聞きしますが、その光景を見ておきますか? それともここで大人しく待ちますか?」

「…………行きます。私が招いた結果を、ちゃんと見ておかなくちゃいけませんから」

「そうか。だがフェイト、おまえの体のダメージはまだ残っている。行くなら連れていくが、無理はするな」

「うん、気を付けるよ」

「わかったわ。ではこちらへ」

フェイトが自力で歩こうとするのを隣で支えながら、リンディの案内でブリッジに行く。俺達に気付いたアルフは心配そうにフェイトの側に寄り、なのは達は何処となく不安そうな目で彼女を見つめる。痛めつけられたとはいえ実の母親が逮捕される光景だ、あまり気分の良い物ではない。

映像は武装局員が時の庭園の深部、玉座の間にたどり着いた場面で、彼らは更に奥へと進んで行った。そしてそこにあったものは、この場にいる全員が目を疑うものだった。

「え……!?」

映し出されたのは液体の詰まったポッドに入った幼いフェイト……否、むしろ俺に憑りつかせているアリスの姿そのものだった。

『あれは……私の本体だよ』

[なんだと?]

『私のアリシアに触らないで!!』

迂闊に近づいた武装局員が紫の雷で全員吹き飛ばされる。リンディ達が急ぎ彼らを強制転移で回収した後、今の雷を放ったプレシアが愛おしそうにゆっくりとポッドの少女……アリシアに近づく。

「艦長、彼女……プレシア・テスタロッサから音声通信の要請が届いています」

「繋いでちょうだい」

『初めまして、管理局の紳士淑女の皆さん、そして……そこにいるのでしょう? 暗黒少年サバタ』

「ほう、俺を名指しか?」

『ええ。管理局にここの位置は話さない、という約束を守ってくれただけでなく、多くのジュエルシードの回収に尽力してくれた事には感謝しておくわ。おかげで計画も早められて修正も最小限で済んだもの』

「別におまえのために集めたわけでもないのだがな……」

『結果的にそうなったのだから良いでしょう? 機会があればお礼でもしてあげたいぐらいだわ』

「そうか」

ただ、プレシアのお礼の内容に全く想像がつかない。というより別に欲しくもない。

「プレシア・テスタロッサさん、あなたの目的は一体何なんですか? ロストロギア、ジュエルシードを使って何をしようと言うのです?」

リンディが管理局の艦長という立場もあって尋ねると、プレシアは眉を顰めて語り始める。

『そこからでも見えているでしょう。このポッドの中身が』

映像はまたポッドを映し出すが一度見たのだから俺はポッドの中身は置いておき、俺はさっきから暗い表情をしているアリスに語りかける。

[アリス……おまえの正体は]

『もうここまで来れば誰でもわかるよね。……そうだよ、私の名はアリシア・テスタロッサ。何十年か前に新型魔導炉ヒュードラの事故で命を落とした、プレシア・テスタロッサの娘……』

『この子はアリシア、私のただ一人の娘よ。かつての過ちで失ってしまった、私の最愛の娘!』

「ただ一人? ではフェイトさんは?」

『フェイトが娘? 笑わせないで、この際だから教えてあげる。いい? フェイト、おまえはアリシアの偽物、私がアリシアを蘇らせるまでのただの慰み物、クローンなのよ!!』

『フェイトは私の大事な妹だよ。それはママが言った通りクローンだと思い出した今でも変わらない』

「わ、私が……クローン……!?」

衝撃の真実に全員の表情が硬くなる。そして自分の生まれにフェイトの目は動揺の色に染まり、自らの手を震えながら見つめる。

『ママ……昔は優しかったのに、どうしてこうなっちゃったんだろう……。やっぱり私のせい……なのかな』

妙な責任を感じているアリスだが、今はそっとしておくべきだろう。変に声をかけると逆に精神を追い込みかねない。少し冷静になるまで待とう。
しかし……これでプレシアのフェイトに対する冷遇の真実がわかった。そして愛情が注がれていない理由も。フェイトがクローンという事実には俺も驚いたが、正直世紀末世界の人類の絶対数が少ない事も考えれば俺はクローン技術にあまり忌避感が無い。むしろかの世界の人類を救う技術になるのではないかとも思った。ま、ここからあの世界に行けない以上どうにもならんが。

『いや、そもそもクローンと表す事すら嫌になるくらいよ。おまえはアリシアの遺伝子を持ちながら容姿以外全てが違った。出来損ないの人形のくせに生意気にも私を母と呼んだ。何度その面の皮を剥ごうと思った事か。無駄に魔法の才能があるから仕事を与えてみれば、そこのイレギュラーの手伝いが無ければまともにこなせない。けど、おまえにイラつかされるのもこれでお終い。ジュエルシードの数は完全ではないけど、アルハザードに行くのには十分よ。そしてそこでアリシアを生き返らせるわ。さようなら、人形。周りの迷惑にならない内にさっさと死んで』

「もうやめてよ!!」

「もうやめんか!!」

なのはとはやての叫びが轟く。そして母の思い出や愛情を全てを否定されたフェイトは心神喪失したかのように身体から力が抜け、俺に寄りかかっていないと立っていられない状態となってしまった。
やれやれ、これは彼女達が激するのも納得だ。それに娘のクローンが娘ではない? なるほど……子供一人分の愛しかおまえは持ち合わせていないのだな。

「プレシア、さっきの礼とやらを今払ってもらう。おまえが捨てると言うならフェイトは俺がもらう。フェイトの魔法はイモータルに通じるから、奴らとの戦いでも十分戦力になる。それに……今更4人が揃っていない八神家は違和感がある」

『ふん! 勝手にするといいわ、サバタ。その人形と共にどこへなりとも行きなさい』

「フッ……その言葉よく覚えておくのだな。今更返せと言われても返さんぞ」

「さ、サバタ兄ちゃん……」

「お、にい、ちゃん……わた、しは……」

「あたしとしてはむしろこれで良いんじゃないかな。あんなクソババアより愛情を注いでくれる兄貴の方がよっぽどマシだよ」

はやては何処か困惑気な顔を、フェイトは微弱な反応を、アルフは称賛と同意の声を俺に向ける。……少々大胆な言葉だったかもしれないが、なに、やる事は普段と何ら変わりない。
こちらはこちらで話が付くとリンディが会話の流れを継いでプレシアに尋ねた。

「ところでアルハザードに行くなどとあなたは仰いましたが、それはおとぎ話のはずでしょう? そんな所が実在すると本気で思っているのですか?」

『アルハザードは実在する。それにもし無かったとしても、それに準じた場所は少なからず存在する。そしてそこでアリシアを生き返らせてみせる!』

「そうですか……家族を失って辛い気持ちはわかりますが、しかしそれで何をしても良いという訳にはいきません。あなたが行おうとしている事は次元世界に大きな被害を招きます。よって、あなたを逮捕します!」

リンディがそう宣言し、プレシアからの通信が切れた事で管理局は時の庭園攻略メンバーを編制し始める。娘を利用するだけ利用して捨てたプレシアを許せない、などという声から、なのは、ユーノ、クロノ、アルフが突入メンバーに名乗りを上げる。魔法無しで魔導師並みに戦える恭也はなのはに着いていくようだが、はやてや月村家は魔導師相手だと戦力にならないので、当然アースラに残る事になった。そして俺とフェイトはというと、居残り組と共にアースラの個室を借りてしばらく時間をもらっていた。なにぶん色々とすっ飛ばして事実を告げられたのだから、精神的に立ち直る時間が必要なのだよ、フェイトとアリスには。

「それにしてもさっき立ち直らせたばかりなのに、また落ち込む羽目になるとは……」

「……ごめん、なさい……」

『ごめんね……フェイト……』

……さっきから霊体だがアリシアもここにいるという事実を知ったら、フェイトやプレシアはどんな気持ちになるのだろうな。

「それにしてもほんとサバタ兄ちゃんって、偶にすっごく大胆な事するんやなぁ。しばらく一緒に住んで慣れとったはずの私も流石に驚いたで」

「うん……さっきの発言は私もびっくりしたよ。『フェイトをもらう』、その言葉単体だけで聞いたらまるで、お嫁さんをもらう風にも聞こえるから」

はやてとすずかが何の気なしに指摘した言葉、それを理解してしまったフェイトは落ち込んでいた様子から途端に取り乱し始め、まるで林檎のように顔が赤くなった。

「お、おおおお、お嫁さん!? あわわわわ……!」

『なんか一発で立ち直っちゃったよ!? けど満更でもなさそうだね、フェイト』

「はぁ……フェイト?」

「お、お兄ちゃん……! ふ、ふつつかものですがよろしくお願いします!!?」

「…………」

フェイトにデコピン一発。アースラ艦内に威勢の良い音が響く。

「はぅっ!?」

『うわぁ、なんか凄く響いたけど今の音って額から鳴っても大丈夫なのかなぁ……』

「とにかく落ち着け。はやてと月村すずかも話を茶化すな」

「はい、わかりました。ってかサバタ兄ちゃんのデコピン洒落にならんくらい痛いもん、もう喰らいとうないわ。……さてと、リンディさんから事情はそれなりに聞かせてもらったで、フェイトちゃん」

「うん……はやて、黙っててごめん……」

「そやな、家主の私に黙ってたってのはやっぱり悪い事や。せやから…………今度私の言う事何でも聞いてもらうで!」

「だよね。追い出されるのは覚悟して……え?」

「いやぁ~フェイトちゃん、素材は良いから一度好きなだけ着飾ってみたかったんや~♪ シンプルなカジュアルなのから清楚系に攻めのセクシーな奴、少し視点を変えてのボーイッシュなのも結構似合うやろうけど、変化球のネコミミ付着ぐるみパジャマも捨てがたい……!」

「ね、ネコミミ付着ぐるみパジャマ、だと……! はやてちゃん、君は天才か……!」

「この趣向が理解できるとはすずかちゃん、君もワルよの~」

「いやいや、はやてちゃん程じゃありませんよ~」

「そんで猫の手も付けたパジャマを着た寝ぼけ眼のフェイトちゃんがごしごしと目をこすって、こっちをじっと上目づかいで見て、『おはよぉ~』って伸びた声で言う光景を想像してみい? 癒し効果抜群で見た瞬間身悶えする事間違いなしや!」

「おぉ……なんか想像しただけでも破壊力凄いよ……!」

妙な結束が生まれたはやてとすずかはガッチリ固い握手をする。そんな二人の様子に予想が外れたフェイトはおずおずと尋ねる。

「あ、あの……はやて? すずか? 二人とも……私を追い出したり、嫌ったりしないの?」

「追い出す? 何を馬鹿な事言うとるんやフェイトちゃんは。私がそんな薄情者だとでも思ったんか? ……クローンやからって関係あらへん。一緒に住んどったんやから、私らはもう家族同然やろ」

「普通と違うという点は私も一緒だからね、フェイトちゃんを嫌ったりしないよ。それに契約したんだから、どちらにせよ今更無関係ではいられないからね?」

母親からの“答え”はともかく、彼女達の“答え”はプラスに働いてくれた。自分の存在価値に疑心暗鬼を抱いていたフェイトは、このある意味荒療治とも言える二人の対応に少なからず救われたようだ。

「さて……フェイト、おまえは今どうしたい?」

「え?」

「おまえは……たった一回の拒絶で諦めるのか? 計画の結果がどうなろうとプレシアは近い内に会えない場所へ行ってしまう。母親に自分の想いを一切伝えないまま別れて……いや、彼女にこのまま暗黒の道へ行かせて、おまえはそれでいいのか?」

今のフェイトなら自分の心に従って行動できる。だがその選択肢を選ぶにはあと一歩のきっかけが必要で、俺に出来るのはその背中を軽く押す程度だ。

「ひまわりはうつむかない……。うん……私、まだ諦めない……諦めたくない!」

「……行くのか?」

「うん。もう一度……母さんに会いに行く! そして計画を止めて見せる。このままお別れは嫌だから!」

「そうか、なら急ぐぞ」

『お兄ちゃんもフェイトも行くんだね。私も早く決断しないといけないかな……』

「……という訳だ、はやて、行ってくる」

「私を受け入れてくれてありがとう。だから……行ってきます、はやて!」

「サバタ兄ちゃん、フェイトちゃん……いってらっしゃい、気を付けてな!」

「必ず帰って来てね、フェイトちゃん、サバタさん……!」

 
 

 
後書き
最終決戦が早くなった理由は、サバタがフェイトに協力したことよって、ジュエルシードの数が原作以上に手に入ったからです。よってなのはとフェイトの二人の勝負はまだ行われておりません。 
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