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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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衝突

 
前書き
少々忙しい回 

 
アリスに憑りつかれて数日経ち、彼女もこの家の奇妙な家族関係の生活に馴染んできていた。なお、あの爆散したお守りの影響なのか、幽霊なのに一時的に感覚があるだの、料理の味が伝わってくるだの、大騒ぎしていたが今では元通りになった。しかしアリスが来てから八神家でラップ音やポルターガイストが時折発生しており、それに怯えたはやてやフェイト、アルフが時々俺の寝室に逃げ込んでくる。元凶(アリス)も同じ部屋にいるのにな……。
一方でジュエルシードの回収だが、フェイト達は成果があまり無いのに対し、おれは連日で3つ(しかも封印済み)も発見していた。八神家の近くになぜかまとめて置かれていたため、これまでのと合わせて計9つ、こちら側の手に入ったわけだ。しかし……あの露骨な置き方はまるで何者かにおれが出歩かないように、わざと仕向けられたような……考えすぎか?

まあとにかく、ジュエルシードが多く手に入ったのだがフェイトはあまり休まず、他のジュエルシードを探しに出かけている。一つでも暴走するとこの星が滅ぶ危険があると考えれば、多く見つかったからと言って捜索の手を緩めない姿勢は確かに合理的かもしれない。しかし旅行から帰ってきて以来、フェイトは何かに急かされているように街中を飛び回っている。何か大事な期限でも迫っているのだろうか?

『女の子のアノ日じゃない?』

[そんなことおれに訊くな! 大体アレはフェイトの年齢では起きないだろうが!]

『だよね~♪ っと、冗談は置いといて、遠くの方から大きな魔力を感じるよ。 多分発動したジュエルシード』

[そうか、なら念のためおれも向かうとしよう]

霊体とはいえ一度取り込まれていたアリスはジュエルシードの波動を感じ取れるようになっていた。そのおかげでリンカーコアを持たない俺でも彼女の協力でジュエルシードの探知が可能になった。アリスと同化した事で起きたメリットであるから、少しだけ彼女に感謝している。

「はやて、例の反応が感知されたから出かけてくる」

「気を付けてな~」

おそらくフェイトとアルフが先行して対処しているはずだが、万が一ということもあり得る。ダークマターを使えば一時的に暴走を抑える事が出来るのはアリスの件で証明されているため、いわば最終的なストッパーとして待機しておくのだ。
結界に差し当たると普通に移動するだけでは入れないので暗黒転移で中に侵入する。中は暴走体を封印し終えたらしいフェイトと高町なのはが空中で戦闘を行っている光景が見えた。彼女達が互いに放ち、回避して外れた魔力弾などが建物に当たって炸裂している光景は、ここが結界の中でなければ大惨事になっていただろうと思わせるものだった。

『お兄ちゃんはアレ止めないの?』

[譲れない気持ちと意地の張り合いに、第三者が首を突っ込むのは碌なことにならん。出来るのはせいぜいあいつらの尻拭い程度だ]

『でもさぁ、もし取り返しのつかない事態が起きたりしたら……』

[そのためにいるのだろう? 案ずるな、もしもの時は出る]

『出来ればお兄ちゃんにもあんまり無茶してほしくないんだよね……。私も憑依させてもらってるわけだし』

[フッ、ある意味一蓮托生だな]

『いちれんたくしょー? 国語習ってないからわかんない……って、あれ!』

意味を訊こうとしたアリスが驚愕の面持ちで指をさす。封印されていたジュエルシードが二人の魔法戦闘の余波を受け、再び暴走してしまったのだ。その勢いは凄まじく、再度封印を試みたフェイトと高町なのはのデバイスが弾かれ、あまりの威力に砕けてしまう程だった。しかも衝撃が加わった事でジュエルシードの暴走が更に激しさを増してしまった。

『マズッ! あれ次元震が起きちゃってるよ!!』

[おまえの知識曰く、空間に作用する地震みたいなものか。確かその威力は星も崩壊させる程らしいな。やれやれ、後始末役も大変だ]

『え~っと、お兄ちゃんや。もしかしてあの時と同じことをまたしようと思っていませぬか?』

[似たようなものだ。悪いが付き合ってもらうぞ、アリス!]

『にゃ~!? やっぱりぃ~!!』

わめくアリスを無視し、暗黒転移でおれは暴走しているジュエルシードの正面に降り立つ。ジュエルシードの近くではデバイスを解除して素手で挑もうとしているフェイトをアルフが止め、高町なのはとユーノは呆然と無力感の面持ちで見上げていた。そこにいきなり転移してきたおれの姿を見たフェイトとアルフは失敗がバレた時のように気まずそうな表情を浮かべ、高町なのはとユーノは驚いてすぐに「何をするつもりなの!?」と言いたげな目を向ける。
それら諸々を無視して、おれは弾き飛ばされそうな程の突風が吹き荒れるジュエルシードに駆け寄り、暗黒銃から暗黒スプレッドを放つ。銃から放たれた闇が光の奔流を飲み込もうとせめぎ合う。

おれに出来る手段では魔力を消失させる暗黒物質を操るこの銃でしか、この緊急事態に対処できる方法はない。先にバッテリー・カオスの残量が尽きるか、ジュエルシードの暴走が止まるかの駆け引き。もし先にバッテリーが尽きたら暗黒チャージを使うしかないが、はっきり言ってあれは反動が激しい。右腕の火傷がここに来て痛み始めるが、それは耐えればいい。この場は暗黒銃で暴走を抑えられるのが最も望ましい結果なのだから。

「唸れっ!! ガン・デル・ヘルッ!! ヒトを滅ぼす闇の力よっ!! あんこぉぉぉく!!」

暗黒スプレッドに加えて体内のダークマターをも利用して作った極小規模だが空間に穴を開けるブラックホール、次元世界を揺るがすエネルギーの源泉。ベクトルが似ているようで違う力の衝突は、周囲に高圧スパークを走らせ、その余波が身体の表面を傷つけていく。この激突の結末がどうなったかと言うと、時間をかけてジュエルシードの暴走が治まっていく状況が答えを示していた。そして並行していくようにカオスのエネルギーがゼロになり、暴走の気配が消え去ったジュエルシードがその場に残り、地面に転がり落ちる。

「……ケハッ……ハァ……ハァ……何とか止まったか……!」

『もうあまりにきわどい勝負だったよね……正直私も消滅するかもしれないと覚悟したもん』

ぐったりした様子でアリスが辟易とボヤくが、そう言われることもしょうがないので黙って聞いておく。とりあえず再度封印をかけてもらうべく、フェイトの所へ歩み寄りジュエルシードを渡す。

「ほら、また暴走されでもしたら事だ」

「うん、ありがとう。その……暴走させちゃってごめんなさい」

「互いに戦う理由がある以上止めはしないが、せめてもう少し注意してもらいたいものだ」

「わかった、気を付けるよ。―――お兄ちゃん」

『お兄ちゃんっ!!?』

「外野うるさいよ!」

高町なのはとユーノが驚きで声を上げたのをアルフが口を出す。ま、向こうが驚くのも仕方ないかもしれないが、知られたからと言って別に困ることでもない。

「……さぁ帰るぞフェイト、アルフ」

『は~い!』

「あ、待って欲しいの! サバタさん、あなたはどうしてここに?」

高町なのはがどうしても知りたいと言いたげな様子で問いかけてくる。無視して変に固執されても困るため、渋々答える事にした。

「あんな星が壊れそうな暴走を、みすみす放置できるか。それに……一応家族だからな、こいつらは。放っておくと心配だし、兄のおれが力を貸さないでどうする?」

「家族……兄……」

「高町なのは、逆におまえはどうだ? ユーノが協力者ということは家族ではないと見れるが、それならばおまえの家族はこの事を知っているのか?」

「う! そ、それは………」

『私の家族は生きてたらきっと、お兄ちゃんの中に私の魂が存在しているなんて欠片も想像していないだろうね』

自虐的なことを呟いたアリスだが、彼女の家族はそもそも幽霊が本当にいるとすら思っていないのでは? 次元世界では技術が発達した反動でそういった霊的存在は認められていないらしいからな。

「なのはの家族には伝えていません。ジュエルシードの事は僕の責任なので、それに……魔法の事を管理外世界に漏えいするのは管理局法で違法でもありますし」

高町なのはに問うたはずの質問は、口ごもった彼女の代わりにユーノが答えたのだが、その内容におれは思わず噴き出した。

「違法、だと? クッ……フッハッハッハッハッ! “獣”、違法とは随分保身に走った回答をするのだな! はっきり言って幻滅したぞ!」

「え、どうしてですか!?」

「わからないなら自分で考えろ、“獣”。次に会うまでに答えがわかれば、ちゃんと名前で呼んでやろう。要するに宿題だ」

「本当ですか!?」

「ああ。もっとも、理解したらそれどころではなくなるかもしれんが」

動物の姿をしているせいでユーノの年代がわからないが、声の質から恐らく高町なのはとほぼ同年代だと推測できる。そんな彼が事の次第を把握したとき、果たして冷静でいられるのやら。そもそも答えにたどり着けるのかどうか、お手並み拝見と行こうか。

「お~い! お兄ちゃん、帰るよ!」

「わかってる。……ヒントは既に十分与えた、あとは自力でたどり着け。じゃあな」

「…………」

そう言い残し、おれは暗黒転移で、フェイト達は転移魔法でこの場から去った。そうそう、帰路についている途中にこれを言っておく。

「次元震の件ははやてにありのまま伝えるぞ? あの規模だと現実世界にも影響があった可能性がある」

「げっ!? 勘弁しておくれよサバタぁ~!!」

「今度はどれだけ説教されるんだろう………怖いなぁ……」

以前神社でされたはやての説教が身に染みたのか、二人は涙目で顔を青ざめていた。結論から言うと、おれが報告してから3時間、八神家では目を光らせる狸のオーラが立ち上るのだった。ちなみにその傍らでおれは日曜大工をしていた。……意外か? 必要に駆られたのだから仕方がないだろう。

それにしても……以前アルフから聞いた時空管理局だが、流石に今回の次元震は感知したに違いない。もしここに来る途中なら、恐らく到着するなり現地の人間にすぐ接触を図って来るだろう。そうなったら少し動きづらくなるが……なに、気にする事は無い。








「ねぇお兄ちゃん、今日はちょっと付き合ってほしい所があるんだけど……」

翌日の朝食後、フェイトが何やら話を切り出してきた。

「……どこへ?」

「私の母さんの住んでいる所。名前は時の庭園」

「なんだ、そういうことか。これまで疑問に思っていたのだが、ジュエルシードを必要としているのは実はおまえの母で、今日報告に行くから同行して欲しい訳か」

「うん。そうなるんだけど……ダメ、かなぁ?」

アルフが隣で渋面を浮かべる中、フェイトの頼みを聞いてサバタは考えた。ジュエルシードをフェイトに集めさせている彼女の母親には訊きたい事がある。娘に危ない橋を渡らせてまで集める理由や、フェイトが愛に飢えている理由など。それを知るまたとない良い機会と判断した。

「いいだろう」

「ありがとう。それじゃあ今回は私の転移魔法に入ってくれる? 暗黒転移じゃ多分座標がわからないと思うから」

「そうだな。次元空間座標の感覚はわからないから、利用させてもらおう」

一瞬はやても連れて行くべきか考えたが、時の庭園という場所がどんな所かわからない以上、もしもの事態になった時に彼女がいると咄嗟に対処出来ないとアリスの件で重々身に染みたため、少し心苦しいが家に残していく事に決めた。

「それで母さんへのお土産なんだけど、この店のケーキが良いかなぁと思ったんだ」

“美味しい洋菓子”という特集のあるページを開いて、フェイトは分かりやすいよう指を指して見せてきた。喫茶【翠屋】か……この前の期間限定プリンと違う店だが、位置もそれなりに近く、特集に載る程味も良いのなら確かにお土産には妥当である。

「それを今見せるという事は、まだ買ってないのか?」

「うん、当日中に買った方が良いかなぁって思って」

「ならさっさと行くぞ。こういう雑誌に載るという事は、売れ行きも相当なものになっている可能性が高い」

「あ、売り切れるかもしれないもんね。じゃ、行こっ!」

「いやいや流石にこんな早く売り切れたりはしないはずだよ。ま……あの女が大人しく食べるとは思えないけどねぇ(ボソッ)」

……? アルフ、おまえはフェイトの母親の事を嫌っているのか? まさかと思うが……フェイトに対してネグレクトなのか? ……益々会う必要が出て来たな。

そんなわけで一人マイペース、一人意気揚々、一人渋面のまま翠屋に到着すると……。

「いらっしゃいませぇ……(ゴゴゴゴ……)!!!」

『…………』

なぜか殺気を放ってくる店員がいた。今にも斬りかかってきそうな殺気にフェイトとアルフが涙目で怯えておれの後ろに隠れる。それによって益々この店員の視線がおれに集まる。そう、その店員こそ初日に色々あって今日まで何となく放置していた剣士、恭也であった。彼の睨みがとにかく針の筵の如く刺さりまくっているが、その全てを無視する事に決めた。

「きょ、恭ちゃん……」

まぁ、この店の眼鏡をかけた女性店員や周りのテーブル席の客が相当青い顔をしているが気にしない。名札の【高町】という姓に凄まじいまでの既視感を感じるが、とにかく気にしない。気にしないったら気にしない。
いや……彼が怒るのも何となく理由に想像はついている。あれからずっとこの世界の夜の一族関連の話を有耶無耶なままにしているからな。だがまぁ、流石にこんな開店した途端に客にやらかす程、冷静さを失っている訳ではあるまい。つまりここでのベターな対応は……。

「ケーキ、お持ち帰りで」

客としての線引きを最後まで守ればいい。店員が客に攻撃を仕掛けるような事をすれば店に悪影響が及ぶ事ぐらい誰でも理解している。店の評判は一度下がると中々上げるのは難しいらしいしな。ならばその領域さえ侵さなければ、こちらの安全は保障されている。

大地の巫女(リタ)? アレはジャンゴのみ例外だ。

「かしこまりました……どちらになさいますか……(ゴゴゴゴ……)!!!」

「あわわわわ!? え、え、え、ええっと、こここ、このショートケーキを、ささささ三人前と、も、モンブランを三人前で、お、お願いします!!」

「ありがとうございました。梱包まで少々お待ちください……(ゴゴゴゴ……)!!!」

プレッシャーに圧迫される中、フェイトがオドオドと怯えながら注文をする。そんなフェイトを涙目でアルフが抱きしめているが、フェイトも同じように彼女を抱き返していた。
会計を別の店員と済ませ、ケーキの箱を受け取ったフェイトはそそくさとおれの影に隠れるように近寄ってきた。まるで初めておつかいをした子供みたいだな。

「またお越しくださいませ……(ゴゴゴゴ……)!!!」

それは客としてなのか、それとも別件でなのか、判断に困る。まぁ恐らく両方の意味が込められているのだろうが、彼の内心では後者の方が強調されているな。ま、必要以上に関わるつもりがないおれにはどうでもいいが。


準備も出来たため人目の着かない場所で、おれ達はフェイトの転移魔法で“時の庭園”と呼ばれる彼女達の育った住居に飛んだ。転移した先はそれなりにまともな場所だと思っていたのだが予想と異なり、暗黒城に匹敵するぐらい禍々しい風貌を放っていたが、同時に滅びた太陽都市にも雰囲気は似ている気がした。どちらにせよ、人が住む場所とはどうも言い難いのだが。

『あれ……何でだろう……? ここにいると胸の奥が痛いよ……』

フェイトに案内されている最中、ふよふよと傍で浮いているアリスが時の庭園の様子を見渡して渋面を作って困惑していた。もしやここは幽霊が存在するには厳しい環境なのか? それともアリスだけ特別な何かが作用しているのか?

『ごめんお兄ちゃん、ちょっと避難させて』

辛そうに胸を押さえながらアリスは一旦おれの中に戻って行った。彼女の魂が異常に刺激を強く受け、疲弊しているのがわかる。念のため魂が落ち着くまで大人しくするよう釘を刺す。

「二人はちょっとここで待ってて」

他より大きく意匠が凝らされた扉の前でそう言ったフェイトだが、彼女はまるで背伸びして何かに耐えるような表情をしていた。拒否する理由も思い浮かばないため、とりあえずアルフ共々従い、フェイトは扉の中に入った。しかし……、

「アルフ。おれも普通の家族関係に詳しい訳では無いが、実の母に会いに行くというのは、あのような顔をするものなのか?」

「………………」

いつも活発的で元気なはずのアルフは言葉を返さずに座り込むと、何かから逃避するように膝を抱えて額を押し付ける。訝しく思ったおれは、扉の向こうの様子を耳をそばだてて伺った。

「―――たっ―――10個―――――わね」

「―――なさい―――母さ―――」

「…………?」

扉が分厚いせいか、あまり中の様子が伝わってこない。僅かに漏れてくる声も何を言っているのか解読できない。心臓の鼓動などの雑音を無視し、精神を集中、瞼の裏に薄らと扉の先の空間を投影する。

―――――バシッ!!

空気がしなる音の直後に響いた打撃音。この音を出す物と言えば……鞭?
待て、何故親子の会話に鞭が出て来る? 眉を顰めて更に注意深く聞くと、鞭で叩く音と同時に、聞き覚えのある声が苦痛を訴える声も存在していた。

「……サバタも聞こえたよね? フェイトの母親は、こういう女なんだよ……!」

「そうか……」

「いつも……いつも、あの女はフェイトにこんな事をする。でも……あたしじゃフェイトを助けられない。だから……だからお願いだサバタ! あたしの主人を……フェイトを助けて!! 一生のお願いだから、頼むよ……!!」

「…………」

言葉の代わりにおれは無言のまま重厚な扉を静かに開ける。中では幾度もぶたれておびただしい傷を負ったフェイトになおも鞭を振るう紫色の長髪をした妙齢の女性がいた。激した訳では無いが、おれはそのフェイトを攻撃し続けている女性の手元を、未来予測も含めた狙いを定めて暗黒ショットを撃つ。

「ッ!!?」

迫る暗黒の弾丸に気付いた女性が鞭を持つ手を反射的に防御に動かした事でまんまと射線に入り、ショットが鞭だけに直撃して粉砕させた。

「フェイト!!」

アルフが急いで倒れているフェイトに駆け寄る。フェイトの事は後は彼女が何とかしてくれると判断し、おれはこちらを睨み付けてくる女性と目を合わせる。

「あなたからは妙な力を感じる……一体何者?」

「……暗黒少年サバタ」

「暗黒少年……? 随分変わった力を使うようだけど、それよりしつけの最中に横入りしないでもらいたいわね」

「フッ、鞭で叩く事がしつけか? あまりに品の無い教育だな」

「何ですって? もう一度言ってみなさい」

「いいだろう、野蛮なだけで礼儀も一切無い教育だと言ったんだ。そんな自身の衝動を抑える事にしか役立たない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)教育法なぞ、するだけ無駄なのだよ」

「何も知らないくせに、言わせておけば……!」

「そちらも知らないだろう? おれの育った暗黒の世界、本当の暗黒を」

互いに微動だにしないにらみ合いが続く。目線で火花が散る様な眼力の衝突は、くぐもった声をフェイトが上げた事でそれる。

「うぅ……お、お兄ちゃん、ダメ……プレシア母さんをこれ以上、困らせないで……」

「何言ってるんだよフェイト! サバタは助けに来てくれたんだよ!」

「でもアルフ……ジュエルシードをちゃんと全部集められなかったのは、私のせいだから……悪いのは私だから……」

懇願するようにフェイトは言うが、おれには誰が悪いとか根本的にどうでもよかった。目線をアルフに向けると、彼女は一瞬驚いた眼をしてすぐに頷き、部屋の外にボロボロになっても母を擁護しようとするフェイトを運んでくれた。その途中、せっかく買ってきたケーキ箱が潰れているのが視界に入り、虚しさを込めてため息をつく。

とにかく幸か不幸か、これで気がかりは無くなった。後は……、

「さて、プレシアと言ったか。偶然と成り行きでフェイトと関わる事になったおれだが、あいつとはそれなりに上手くやれていてな。この世界の数少ない理解者を傷つけるなら、例え相手があいつの母親でも関係ない、止めさせてもらうぞ」

「あら、あなたに出来るとでも? 大魔導師と呼ばれたこの私、プレシア・テスタロッサを倒す事が?」

「自分の力に絶対の自信があるようだが、それが自惚れとなって致命的な隙を作る。かつてのおれのようにな」

「? 何を言っているのかしら?」

「わからないなら見せてやろう、これが闇の力だ! あんこぉぉぉく!!!」

「ッ!!?」

魔力と違う力、ダークマターが目に見えてサバタの手に集まって来る光景に、プレシアは自分の目を疑った。更に暗黒チャージで力を増幅させたサバタの目の深淵から、自らに匹敵する程の狂気が潜んでいる事を本能が察知し、一歩後ずさる。

「(ッ! この私が気圧された!? そんな馬鹿な……条件付きとはいえSSランクの実力を持つ、この私が一瞬でもこんな少年に!?)」

「来たっ! 来た来た来た来た来たぁー!! 行くぞっ! 行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞぉ、プレシア!!」

「(でも彼がどんな力を扱おうが、私は倒れる訳にはいかない! 目的を果たし、あの子をもう一度抱くその時まで!! 絶対にッ!!!)」

「魔導と暗黒、雌雄を決す!! 魔導よ、恐怖しろ!!」

サバタからブラックサンが放たれ、部屋の中が暗闇に閉ざされる。そのまま光の当たらない空間で、暗黒少年と大魔導師が自らの持てる力を衝突させた……。
 
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