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老騎兵

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5部分:第五章


第五章

 銃撃を仕掛ける。だがそれは味方も巻き込んでいた。
「構わん!」
「それでもいい!」
「奴等を殺せ!」 
 政治将校達の言葉だ。ソ連軍、ひいては共産主義国家の軍隊にはつきものの存在である。
「戦車を動かせ!」
「砲撃を浴びせろ!」
「し、しかし」
「味方がいます」
「その中でですか」
「そうだ、まずは敵を倒せ」
 政治将校達は平然として躊躇する彼等に対して告げた。
「戦争に犠牲はつきものだ」
「さもなければ我等がだ」
「どうなるかわかっているな」
 あからさまな恫喝の言葉だった。
「シベリアに行きたいのか?」
「それで死にたいのか?」
「どうなのだ?」
「わ、わかりました」
「それなら」
「ここは」
「そうだ、撃て!」
 また叫ぶ政治将校達だった。
「あのフィンランド騎兵の軍を退けろ!」
「一歩も近寄らせるな!」
「いいな!」
 こうしてだった。彼等は味方がいるかどうかも構わずそのうえでだ。反撃を開始した。その中で戦車や装甲車も動いた。
 周りにいる自軍の兵士達を最初に踏み潰した。
「う、うわあ!」
「逃げろ!」
 しかしだ。また政治将校達が叫ぶ。
「逃げるな!」
「逃げると我々が撃つぞ!」
「それでもいいのか!」
 ここでもこんなことが言われる。
「御前等は戦車の楯となれ!」
「スターリン書記長に殉じろ!」
「祖国の為に死ね!」
 こう言われてそこに踏み止まる。それで戦車の楯にさせた。
 それを見てだ。敵軍の中で軍を暴れさせる騎兵隊を率いるスッタが言った。
「酷いものだな」
「全くですね」
「本当に」
 騎兵隊も誰もが呆れた。
「これはまた」
「味方をですか」
「それがソ連なんだろうな」
 スッタも戦いを指揮しながら忌々しげに話す。
「しかしこれはだ」
「ええ、敵は混乱していますね」
「同士討ちみたいになってますし」
「それじゃあ」
「この際だ。敵を徹底的に引っ掻き回す」
 これがスッタの決断だった。
「いいな、それで」
「ええ、了解です」
「それじゃあ」
「全軍このまま攻撃を続けよ」
 指示が出された。
「いいな。わしに続け」
「そしてですね」
「この敵軍の中を」
「暴れ回る」
 まさにそうするというのである。
 そしてだ。自ら実際に突き進みだ。
「わしに続け!」
「はい、行きます!」
「やってやりますよ!」
 騎兵達は彼に続く。そうしてであった。
「兵士達を次々に倒し大砲に近付くとだった。
 至近から火炎瓶を投げてそれで炎上させる。その間に敵の戦車達は。 
 何とか騎兵達を撃とうとする。だが味方を撃つばかりだった。
「くそっ、ちょこまかと」
「動きの速い」
 それでどうしても彼等に当てられなかった。
「このままではな」
「我々がやられるぞ」
「撤退は許さん!」
 またしても政治将校の言葉が飛ぶ。
「戦え!」
「何があってもだ!」
「よし!」
 ここでスッタが戦場の中でまた言った。
 
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