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少年は旅行をするようです

作者:Hate・R
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少年は剣の世界で城を上るようです 第八層


Side 愁磨

パーティ翌日、ぶっ倒れていた連中はそれぞれギルメン同士で固まり、49層へ

向かった。俺達も家に泊まったネージュたん以外の女性陣とキリトとで朝食を取り、

早速最前線に転移した・・・のだが、そこで見慣れない・・・いや、こんな前線で

見るとは思わなかった5人と顔を合わせた。


「あら、サチと愉快なお仲間さん。こんな前線で会うなんて珍しいわね?」

「お姉様!こんな所でお会いするなんて……!」

「ええこれはもう運命よね。どう?私と二人で秘密のとっ「百合キャンセーール!」
パカ--ン!
「いったぁい!何するのよシュウー!」


かつて一悶着あったギルド"月夜の黒猫団"の団員の一人、黒髪美少女のサチを見るや

否や百合の花を背景に咲き誇らせ、暗がりに連れて行こうとしたノワールの頭を

ド突いて止める。非難がましい目を向けながら渋々俺の後ろに下がるのを見届け、

再度前を見る。そこには当然、顔を真っ赤にしたケイタが何故か(と言うべきか)

キリトを睨んでいた。あーあー、めんどくせぇ。


「それで、あなた達何してるのよ?まさかとは思うけれど。」

「ああ、そのまさかだが何か文句があるのか?」

「ちょ、おいケイタ。いくらなんでも、その口の聞き方は無いんじゃないか?」

「……フン。」


ケイタが俺らを嫌っているのは・・・まぁ置いておいて、聞き捨てならない事を

言いやがった。―――"中堅層の小ギルドが最前線攻略に出る"

聞くプレイヤーが聞けば、ラフコフ異常に狂っていると思われても仕方ない発言だ。

イレギュラーありのデスゲームでどんなモンスター、どんな罠があるか分からない

ダンジョンに、バランスの悪いパーティで挑むなど、狂っている意外に他無い。


「と言う訳で……ノワール、サチちゃんよろしく。」

「あらそう?それじゃ、そっちも頑張ってね。」
ピロン♪

提案とほぼ同時、ノワールは俺達のパーティを抜け、黒猫団に・・・と言うか

サチにパーティ入りの申請を出した。当然、すぐさまokボタンは押された。

向こうのパーティの一番下には、ノワールのHPバーが表示されているだろう。


「許可です!大賛成です!さぁ行きましょうお姉様!」

「え、や、ちょっと待てサチ!誰も良いとは「断る理由無いよね?ね?」

そ、そそそそそそうだな、うん。強い人いれば安心だしな!」

「だよねっ。えへへ~。」

「……やるわね、サチ。」


一瞬拒否しようとしたケイタだったが、ノワールさえちょっと引く黒笑みに

ガクガクと頷くしかなかった。慣れてる俺でも、ちょっと引いた。

それで片が付いたのか、腕を組んだ槍使い二人を先頭に歩いていった。

・・・まぁ、これであいつらが死ぬ事は無いだろう。何かあっても同じ

ダンジョンだしノワールが持ちこたえている間に駆けつけられるはずだ。


「どうしたシュウマ、難しい顔して?まさか緊張してんのか?」

「ばーか、ンな訳ないだろ。ならどっちが経験値多く集められるか勝負するか?」

「・・・のぞむ、ところ。」

「まさかアリアちゃんも乗った!?な、なら私も行こうかな……?」

「「アスナも乗った!?」」


・・・久々に本気で深刻な思考をしてたら、キリトが肩に腕を置いて顔を近づけて

来てふざけた事を言いやがった。

今の俺でさえ他の奴が創った世界の"修正力"を完全に変えるまで到らない。

だからこうして、明らかに死亡イベントと思しき事に態々ノワールを着かせている。

既に千人が死んでいる世界で何を言っているんだという感じだが、俺に確実に

出来るのは、知っている登場人物の命を救うくらいだ。

その為に、俺がここで出来る事は。


「よっし!じゃあ男チームと女チームで対決な!」

「望むところよ!制限時間は?」

「・・・2時間。長いと、ダレる。」

「仕方ないなぁ、全く……。行くぞキリト!商品は相手チームの一人を一日好きに

出来る権利だ!それじゃあレディーーーー!!」

「「え、ちょ!?」」

「・・・ごー!」


・・・こうして、レベル上げながら傍にいるくらいだ。

余談だが、その後の勝負。獲物を我先にと切り倒した俺とキリト。

"剣舞"とスイッチと同時攻撃を駆使し、確実に倒していったアリアとアスナ。

結果は1.5倍もの差をつけて女チームが勝った。

男を好きに弄べる券を手に入れたが、二人は顔を見合わせて笑った。

何歳だろうが、何歳になろうが、女は分からないとキリトと困り合ったのだった。

Side out


Side キリト

「諸君。まずは君達の苦労を労う事としよう。あの48層ボスから僅か十日、ここ

49層のマップの8割をマッピングし、ボス間を発見するに到った。」


アリアちゃん達との勝負ので若干傷ついた男のプライドが治る間も無く、ボス討伐

パーティ結成会議が開かれた。

次層はついに50層。つまりこのゲームの折り返し地点に当たる事から、誰の目からも

今まで以上の敵になる事は明らかだった。そこで、今回は上限一杯の48人を集める

事になったのだが―――


「おいおい、前回のは仕方ねぇとしても今回だけは反対させてもらうぜ。

幾らなんでも危険すぎんだろ。」

「せやけど足らんモンはしゃぁないやろが。危険なんは皆一緒や。盾持ちなんやから

ビビらんで亀んなれば大丈夫や。」

「……それが中堅層が、いきなりボス相手にやれたら苦労はしないんだがね。」


25層で"軍"がほぼ壊滅してから――させてから、の方が正しいが――出張って来な

かった副リーダーのキバオウが、いらん気合を入れて会議に参加して来たのだ。

で、前から盾持ちが少し心許無かったのを混ぜっ返して、ヒースクリフと

エリゴールが反対しているにも関わらず、中堅層の盾持ちを参加させようと

している訳だ。


「ふむ、ちょいいいか?」

「おー?どうしたシュウマ。」

「すごーく初歩的な質問で悪いんだが……。」


完全に会議が停滞した所で、大テーブルから離れて壁に凭れていたシュウマが

手を上げて、『ばかなの?しぬの?』と言った感じの目でキバオウを見ながら、

終止符を打った。


「その決定って今しなくてよくない?偵察終えてから欲しいなら集めりゃいいし、

こないだみたいなボスならいらないって話だろ。視察部隊見繕うって話を

何時まで長引かせるんだ、テメェは。」

「せ、せやけどこの後も絶対欲しくなるやろが!そんなら今の内に集めといた方が

ええに決まっとるやろ!」

「ならまず"軍"の中から見繕ってから案出して欲しいもんだ。出せるならだけど。」

「お、おどれ死神ぃ……!」


へっ、と馬鹿にされて顔を真っ赤にするキバオウ。しかし続く言葉が見つからず、

苛立たしく足を組んで『まぁええわ』と言った所で話はひとまず終わった。

その後先遣隊の編成は僅か十分足らずで終わり、解散となった。

・・・何故かシュウマ達が選ばれ、全員から『倒すなよ!』と念を押されてた。

そして――――

………
……


「はぁぁぁぁあ~~………もう飽きた。ヒースクリフ。盾が足りなきゃ俺らが

入る。アリアのバフがありゃそこらのタンク並みに耐えられるし。」

「ふむ、助かる。ではそのように。」

「「「へ?」」」


三日後。ボスの偵察を終え、ついに討伐部隊が編成された。

・・・結果的には対策を立てられたのだが、攻撃重視のボスだった事もあり、

またしても盾持ちが足りるだの足りないだのと会議が紛糾してしまい、ダレにダレて

三時間。通常30分もあれば終わるモノだったせいで、DDAと軍とで一触即発に

なりかけた会議は、最強二人の会話一発で終わった。


「ま、お前ら三人の防御スキルありゃ十分だな。任せるわ。」

「チッ。そんなら最初っから言やよかったやろが。」

「切り刻むぞモヤットボール。馬鹿の雑魚の尻拭いしてやったんだから感謝しろ。

じゃ、また明日。」

「なっ、だっ、誰がモヤット――って待たんかいコラァ!!」


我慢し切れなくなったんだろうシュウマはキバオウの静止に一切止まらず、

会議室から出て行った。それで空気が弛緩し、次の瞬間、我先にと部屋を出て行く

全プレイヤーの頂点達。ゲームが始まって一年を過ぎようと、所詮はネトゲーマー。

長時間の拘束など最も嫌う連中なのだ。まぁ、俺もその例に漏れず。


「(はぁぁぁ~~~・・・疲れた。まず、明日の為にポーション類買い漁るか。

結晶使えないしなぁ。)」


陰鬱な気分もやる事を決めてしまえば不思議と吹き飛び、俺は露店街へと

繰り出した。ここ49層"ミュージェン"は楽しげな音楽が溢れる街だが、路地裏は

全層一と言える程のカオスだ。露店もあるにはあるのだが、最前線の金を持った

プレイヤー狙いなのか、妙に強化値の高い装備が置いてあったり、逆に基本的な

ポーションは異常に安く異常な数置いてあったり。

それを探すのも楽しいのだが・・・目の前に揺れる真っ白な髪を見るに、迷う

必要は今日はなさそうだ。


「シュウマ。お前もポーション買いか?」

「んぁあ~?あぁ、なんだキリトか……。」

「なんだとはご挨拶だな。そんなに飽きたのか?」

「ん~~……ちょっとなぁ。」


声をかけても、アリアちゃんばりの半目でぼへーっと答えるばかりのシュウマ。

疲れたとか嫌そうって言うよりは・・・変な勘だが。


「……なんか、心配事か?」

「あー……まぁそんなとこ。正直"軍"が何やらかすか分からんから、どーした

もんかなぁってな。アレ相手にしつつフォローなんて出来ないんだよ。」


ぐぬぬー!と頭を振り回しながら悩む姿を、俺は・・・意外だと思ってしまった。

傍目から見て仲が良いとはとても言えない軍連中(と言うかキバオウ)の心配を

態々するような奴ではないと思っていた。実際そうだった。

人助けなど、余程暇で見合う報酬を貰うか、可愛い女の子相手でなければしないを

モットーにし、実際にその通り行動しているような奴等が、だ。


「……お前、やっぱ優しいんだな。」


小声でと言ったつもりだったのだが、どうやら聞こえてしまった様で、ヘビメタか

歌舞伎のように振り回してた頭がピタリと止まった。そして――


「あ?」(グリンッ!

「っひょぉ!?」


シャフ度より更に鋭角に(寧ろ縦に180度)倒れ、上下逆さになったシュウマに

睨まれた。怖い怖い怖い!顔が整ってるから余計に怖い!

しかし直ぐに通常状態になって、痛くなったのか首を擦りながらこっちを怪訝そうに

睨んでくる。・・・な、なんか俺変な事言ったか?


「なに、お前。ひょっとして俺の事落とそうとしてるの?

いやぁ確かに見てる方は楽しいだろうが俺はちょっと……そっちのケはないんで。」

「ちっげーよバカ!何言ってんだ!……いや、そうじゃなくてだなぁ。

なんっつーか、うん。良い奴だよな、意外と。」

「意外ととはしっけーな。こんなカワイコちゃん捕まえて。」


自分でカワイコちゃん言うなよ・・・と思ったが、素直に笑ったらしい笑顔が、

いつもの不敵で強靭さを感じさせない・・・・その、見惚れるくらい、儚くて、

可愛かったから、立ち止まってしまった。


「(俺が考えるよりも・・・いや、もしかしたら、誰よりも弱いのに無理して――)」

「なーにしてんだ?ポーションお前も欲しいんだろ。全部買っちゃうぞ。」

「ちょ!買う買う!残してくれ!」


・・・多分気のせいだな。こいつは間違いなく強かで最強な奴だ。

でもムチャなのも確かだし、そうだな。あいつが全員を守るって言うなら・・・

ノワールさんとアリアちゃんと一緒に、あいつを守ってやるか。

Side out


Side 愁磨

翌日。49層ダンジョンの前に総勢48名が集まった。

今までのボスと違うと知っている為空気は重いが、俺達にそんな事は関係なく。

ヒースクリフにボス間までの殲滅を言い遣ったので周りに気兼ねなく突っ走る。


「オラオラオラオラーーーー!!」
ズザドザブバズバブッシャァーー!
「あーっはっはっはっはっは!!」
ドスドスドスドスドスドスドス!!
「ふーん、ふーん・・・。」
ひらりひらりひらひらりん

「うわぁ……相変わらずですねあの人達。」

「ここの敵は金属・鉱物系だから斬・貫系武器だと苦戦するのが普通なのだが。

まぁ、彼等を普通と言うのは色々と物議を醸すだろうね。気にしない事だ。」


好きに突破して良いと言ったくせにこの失礼さである。

と言うかいつも失礼な事をアスナに吹き込みやがって、後で何かしら何かしてやる。

・・・何してもするっと躱されるイメージしかないんだよな。

などと考えつつ狩っていたら、20分もしない内に着いてしまった。


「さーっすが、つか早過ぎだろ。普通に歩いたのと大差ないぞ。」

「はー、はー……が、頑張った!」

「「ボス前に疲れてどーすんだよ馬鹿!」」


キリトとエリゴールに突っ込まれ、深呼吸。いかん、テンション上がりすぎた。

三日もお預けされてた相手の首を漸く刈れると思ったらつい。

さて似たような状態だったノワールはどうしたかn―――


「ネージュたんネージュたんハァハァ……。」

「あぅあぅあぅ……の、ノワール様……!?」


うん何も見なかったメイド服のネージュたんなんて見なかった。

・・・さて、今回最後参加した2小隊・計10名。レイドパーティの最後方。

黒猫団ともう一つ上級ギルドが新たに参加した訳だが・・・一様に緊張している。

一人だけはネージュたん睨んでるけど。ゴッツイ睨んでるけど。


「(今回は余程の事が無い限り出ない作戦だが・・・一応、だ。)」


昨日頼んだ件をネージュたんに改めて確認すべく、ノワールをひっぱたいてから

話を付けた。そこまでして、漸くヒースクリフ率いる血盟騎士団と、DDA本隊が

合流した。さぁ・・・行くか。


「盾部隊、死神一家。最前列へ。行くぞ……!突撃!!」
ゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

俺・ノワール・ヒースクリフを中心にした盾部隊が先陣を切って突撃。

ボス間に入った瞬間、まるで向こうも痺れを切らしているかのように一瞬で

ポリゴンが巨大な塊を形成、そこに六本のくの字の棒が生え、弾ける。


『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「出地震来るぞ!ジャンプ後ワンパン忘れるなよお前ら!」

「勿論!」「あいよ!」「無論だ。」
ズドォォン!!

ポリゴンが六本腕の仏像の姿になると同時、一番上の腕を組み地面に振り下ろす。

広いボス間を全て飲み込む地震攻撃。最初来た時は俺達が意外全員食らって偵察も

出来たものではなかった。ボスの名前も見る暇も無かったしな・・・と改めて確認。

【the Diva Various】、金属鎧のおっかない顔をした仏様と言ったモンスター。

顔三つに腕六本なので正に阿修羅だ。


「"閻魔座興"!」
ザザザンッ!
「いきなり行くわよぉー!"天鎚"!!」
ズドォン!!
「"サンドライト・マーガット"!!」
ザザザザンザザザドンッ!
「ぬぅん!!」
ドズンッ!
『ゴゴォッ!?』


最初の一合。逆三角斬とジャンプした状態からの縦一文字と盾の横一文字。

阿修羅像は残りの四本の腕を使い防御しようとしたが、更に8撃が加わる。

隙を縫い6撃が全てクリーンヒットし、ボスのHPバー一本目を半分持って行った。

技後硬直が解けると同時、ノワールは下がり代わりに盾持ちが前に出る。


「任せるわ~。」

「ハッ、お任せを!!ぬぅん!」
ゴガァン!
「親衛隊有能すぎるだろ……。」

「我等だけでボスを攻略すべく集まったので、どんな状況にも対応可能な

編成となっております。全てはお姉様の御身をご守護する為!」

「愛が深いなぁ……っと。」
ドドォン!!

前線、全員が盾でガッチリ受け止める中、俺だけが"流転"で受け流す為後ろに誰も

いない。ちょっと寂しい。

しかしこいつは面倒だ。幾ら攻撃を受け流しても体制を崩さないせいで、攻撃役の

連中がイライラし始める。・・・いくら作戦を立てようとも焦れるのは仕方ないが、

こいつに安全に攻撃出来るのは、大振りが来た時だけなのだ。


「仕方ない、仕掛けるか。アリアー!"嵐舞"に変更!」

「ん、了解。」


優雅に舞っていたまま、更に加速する。段々と踊りは苛烈になり、魅せる舞は

技名通り嵐となる。同時、俺とノワールとアリアを風の様なエフェクトが包む。

速度上昇バフを受けた俺は次の攻撃を受け流し、その反動で加速。"疾走"と

"曲芸"の混合派生パッシヴ、滑空ならぬ"滑地"で一気に距離を詰める。

それを見たボスが他に回していた腕を二本こちらに向け、その巨大な戦槌が如き

拳を同時に振り下ろして来る。


「ビンゴ…!"泰山府君"!!」
ドドドッ!!
『ゴゥア……ッ!?』

「続いて"鎧舞"!」

「りょー、かい。」


普通ならば大盾でも防げないそれを、下段からの打ち上げ三連撃で容易く弾く。

至近距離まで近づかれた時の対応AIを調査で知っていたからこそ出来た対応だが、

ここからが問題。幾ら速度が上がっていてもこちらの武器は大きく弾かれ、

ほぼ真後ろまで引かれている。対したボスの拳は、既に一つが振り下ろされる直前。

普通なら食らうしかないが、生憎、今の俺は普通じゃない。


『ガァァッ!!』
ゴッ!
「シュウマ!!」


焦った叫びを上げるキリトにひらひら手を振り、そのまま左手を無造作に挙げる。

同時に防御上昇バフの"鎧舞"が発動。緑色の光が俺達を包み込み、更に左手が

オーロラのような黄色と薄紫の光を放つ。そして―――!!

ド ン ッ ! !
「"観世音――」

『ギッ「"菩薩"!!!」
ザンッ!!
『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


左手でボスの拳を受け止め(・・・・)、空いた胴体にクリティカルの斬撃。

怯んでいる間に下がると、俺のHPバーが一瞬で最大値の8割削られる。

更にバーの下に剣に×マークが付いたアイコンが表示され、ボスのHPが、

みみみっ
「……ふぁ?」

「っちょ、え!?」


3割、回復する(・・・・)。つまり今まで減らした分のダメージが全快した。

殆どのプレイヤーが固まる中、俺とスイッチしたノワールの4連撃がヒットし、

微妙にHPが削られる。それを機に全員が再起動し、重い金属音が断続的に響く。

それを確認し、買って来た一等のポーションのがぶ飲みを開始する。

一本目を飲み終わった所でキリトが吹っ飛ばされて隣に着地する。


「チッ…ボスがあんな能力持ってるとはな。どうする?」

「安心しろ、ありゃ俺のソードスキルの効果だ。」

「はぁ!?クリダメ食らって敵のHP回復させるって、何の為に?」


ポーションをポイポイ投げながら、その疑問に答える。

さっきの"観世音菩薩"は攻撃を受け止める所から始まる。一撃を入れると

自分のHPを最大値の8割消費、敵のHPを3割回復させる。

その上150秒間一切のソードスキルが使用不能になるが―――


「回復後5秒以内に同じ箇所に攻撃で9割ダメージ………。ピーキーにも程が

あるだろ。ボスにも有効ってのが救い、ってか最大のウリか。」

「ま、今回みたいなおっそいの相手限定だがな、っとーよっし全快!」

「全快は良いけど、どうしようもないだろ。後ろで黙ってな!」

「そりゃそうだ、任せた。」


嘆息するとキリトは飛び出し、また最前線に戻る。

手持ち無沙汰になったので後ろを盗み見る。前列にはトップ組の長物持ち。

そして後列に速度特化(シーフ)と中堅プレイヤー達。つまり黒猫団がいる。

しかし、今の所心配はない。どう見ても全員ボスにビビッている。


「(しかし嫌な予感がする・・・どう考えてもこの間の女王様の方がめんどいし

強い。調査も五割前までしか見なかったし、その先か。)ノワール!あと80秒ー!」

「了解ー!」


スイッチまでの秒数を伝えると、ノワールは盾持ちを後ろに下がらせ、

自分で攻める。それに合わせたのかキリト・ヒースクリフ・アスナと数名が

それぞれ三方向から剣戟を浴びせる。四方向からの攻撃の嵐に、HPバーの減りが

早まり、残り45秒となった所で半分を割った。瞬間。


『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
ヅッズゥゥン!!
「な、にっ……!?」

「おわぁぁああああ!?」


鈍重さなど感じさせない、いや、ソードスキルを超える速度を持って全拳が

振り下ろされ、ボス間全てに地響きが奔る。

トップ勢の十人程は一撃目を躱したが、僅かな間を空けて奔った二・三撃目に

足を掬われ、立っていたのはそれをもガードしたヒースクリフと、二段ジャンプで

滞空時間を稼げた俺だけ。


「シュウマ君!!」

「マジかよ……高くつくぞ!」

「幾らでも付けたまえ!!」

「いぃよっしゃぁ!!」


言質を取った所で飛び出す。今まさにアスナとKoBに振り下ろされようとした

左三本を円に切り裂く"輪廻転生"を真似た一撃を空中で繰り出し、弾く。

押し出されたその反動で5mほど間を空け、続いて繰り出される拳をソードスキルに

分類されない"武器防御"で後ろの数人を守る。

20合程で漸くスタンが解け、バラバラと後退して行くと同じくしてノワールが

参戦、アリアのバフも掛かる。しかし先程より攻撃が激化し、攻めあぐねてしまう。


「「あと10秒!!」」

「さっきから何の事だよ!」

「良いから合わせろ、正面開けさせろ!!」

「無茶を言う。私が合わせるからキリト君も合わせたまえ。」

「更に難易度上がったぞ!?」


と、文句を言いながらもヒースクリフの後ろに付き、正面に突撃を仕掛ける。

5、二本をヒースクリフが弾く。そこに更に拳が二つ振り下ろされる。


「キリト君アスナ君!!」

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
ギィン!
「はぁぁあああああああああああ!!」
ガギン!

3、それをキリトとアスナがソードスキルで相殺させる。

2、それを横からの平手が挟み込みに来る。


「"海祓"!!」
ドゴォォン!!
「"マレフィス・アサルト"・・・!」
ギンギンッ!ドンッ!!
『グ―――――』


1、ノワールの薙ぎ払いとアリアの投擲+ドロップキックで最後の双腕が弾かれる。

0。全ての腕が弾かれた数瞬の隙。僅かな呻き声を上げたボスの前に立つ。

右手には黒い闇が宿り、左に持った大鎌は紫に輝く。


「"傲典"!」
ズドンッ!
『グゥォァァ「"蓮杖"!!」ォォオアアアアアアアアアアアアアアア!!』
ゴガァン!!
「"魔斬"――」
ザザザザザザザザン!!

右の正拳・石突による刺突が鳩尾に刺さり、そこに蓮の花が咲く。

続き腕と足にそれぞれ一撃ずつが刻まれる。残り1割。


『オォオオオオオオオオオオオオオオァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
バリバリバリバリ―――――――!!

そこまで来て、阿修羅像は自分の腕を四本捥ぎ取った。

まさかそれを攻撃に使うのかと思いきや。


『あぐっ!がっ!オググググムグガガム!』

『『『くったっぁああああああ!?』』』


自分の腕を食うと、みみみみみみっ!と凄まじい速度でその多大なHPが回復。

一瞬で半分まで戻るのと同時。


「"戒尊"!!!」
ザ ン ッ ! !
『ルルルォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
ズラァァァァ―――

首を刈る一撃――つまり"観世音菩薩"で斬った同じ場所に斜めの斬撃が寸分違わず

吸い込まれる。回復した緑が黄色になり、一瞬で青がかった緑に全快し、

"観世音菩薩"の効果で赤く染まる。残り、一割。モーションが変わる。

口の中から三鈷杵の様な、片側から10本の爪が生えた武器が抜かれる。


「い・く・わ・よぉぉーーー!!"地呑"!!」
バガァァン!
『ォオオオオオ!?』
バゴォン!

しかし動くより早く、ノワールが地割れを引き起こしボスをその間に沈め、

動きを止める。そこへ、全員がソードスキルを一気に叩き込む!


「"サンドライト・マーガット"!"ホリゾンタル・スクエア"!!」
「"アズール・アサイン"!!」
「"クロノス・レノ・ディザイアー"!!」
「"リノン・マリノス"・・・!!」
ズドガゴガゴドガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
『ギィッィィィィィィィィィ――――――』


キリトの計12連撃・アスナの6連撃・ヒースクリフの4連撃・アリアの14連撃を

三鈷杵を掲げ防御するも、その殆どが顔面にヒット。

雑巾を引き千切るような声をあげ、ピタリと動きを止める。


『ァア――――――!!』
パキャァァァァァァァァァァーーーーーフュン!


見た目に似合わないか細い声を最後に、大量の青いポリゴンとなって、砕け散った。

ピロンッと軽い音と共に、ボス討伐による入手アイテムが羅列されたウインドウが

表示された。


「あ゛ー!疲れたーー!」

「だらしないわねぇ、これぐらいで。まだ分配が残ってるわよ?」

「だってn―――!?」


バターン!と倒れ込んだキリトが軽口を叩いた瞬間。

上を凝視し、今までに無い焦りを見せる。何が・・・と仰ぎ見ると、僅かに煌く金。

その形は、間違いなくボスの持っていた―――!!


「シュウマ!!」

「分かってる!ノワール!撃ち出せ!!」

「くっ……!」
グォンッ!

今、落ち始めている三鈷杵を発見するとほぼ同時にノワールの槍が振りかぶられ、

俺とキリトがなんとかそれに乗り、上空へ飛び出す。

その背には、いつの間に装備し直したのか、二本の剣。

そしてそれが見えているかのように、パクンと真ん中から割れ、十指がこちらを向き

雷撃のような速度で撃ちだされた。



「跡形も無く消えろ……!"天上天下"!!」
ヒュヒュザザザン!
「"エル・サウザンドライム"!!」
ドドドドドドドドドド!

俺とキリトの二字斬で4本を、その後の計11撃で空間を埋め尽くし全てを撃ち落した。

ただし、切れたのは指だけ。


「本体が……!!」

「くそ…ッ!!」


その焦りに呼応し、金の本体が羽音のような不快な高音を立て赤く染まって行く。

どう足掻いてもそれは、爆破の予兆だ。

――駄目だ。硬直が解けても、この距離で壊せば間違いなく即死だろう。

俺は構わないが、キリトは・・・!!


「くっ!」
ガバッ!
「シュ…何を!?」

「ノワーーール!!」
――ブンッ!!

キリトを抱え、背に鎌と爆弾を背負う。叫んだと同時、投擲された槍が頬を掠めた。

そして、軽い金属音と―――


ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「がっ……!?」


予想以上の爆発。爆風で押され、地上に叩き落される。

薄く目を開け、HPを見ると7割近くが一瞬で消し飛び、熱風で急速に減少する。

このまま叩き付けられてもHPは残らない・・・と目を向けた着地点に居たのは

・・・・盾を構えたヒースクリフ。


「……ッ!」


その意図に気付き、貫手を腰溜めに構える。交差する刹那、俺の手が黄色に、

盾が白に輝く。そして、同時に、しかし軌道を僅かに逸らし、ぶつかる。

ギャリギャリギャリギャリ!
「ぐぅうううううううう!あぁあ!ぼっ!?」
ギャリッ!
「うがっ!」

「全員防御ーーーー!!!」


勢いを殺し、なんとかノーダメージで着地した所で、口にポーションを突っ込まれ、

十字盾の下に隠される。"武器防御"なのか、以前盾が白く輝いている。

その間も上から爆破が降り、ポーションを飲んでるのにジリジリと減って行く。

1秒、2秒・・・・・そして、静寂。


「おわっ、た……のか?」

「の、ようだね………。ふぅ……。」


俺達を守ったヒースクリフは溜息をつき、ゆっくりと腰を下ろした。

脳内でのみ感謝しつつ、周りを見回す。

ボス間の中心に居るのは俺達だけで、他は皆端に退避し盾の後ろに隠れている。

人数は―――48人。全員生きている。


「たっすかったぁぁぁぁぁ………。」

「あーちょーびびったぁー………。マジびびったわ……。」


と、そこで今度こそ『こんぐらっちゅれいしょーん!』と出て、

アイテムが再度表示された。ふざけるな。マジ焦ったわ。

少々イラつきつつスクロールして行き・・・ビシリと動きが止まる。横のキリトも。

そして顔を見合わせ、頷く。


「ノワール、アリアー。かえろー。」

「はいはい、賛成よ。」

「・・・おなじく。」

「じゃ、お先に失礼しますよ、っと……。」


まだぶっ倒れている面々を置き、一目散に俺達は家に帰る。

余計な事を詮索されるのも嫌だったし、それに。


「さて、ここに取り出したるは"剣儀の書"。説明はズバリ、"阿修羅の剣を習得"とある。

キリトは?」

「武器っぽいな。カテゴリ"十鈷杵"、名前は"四門地獄"って、事は。」

「………また余計なものを。明らかにシュウの拾ったスキル用武器じゃない。」

「ですよねー。それじゃ!」

「行くぞ!」


男の戦いに邪魔はいらない。

バンッ!と飛び上がり、空中でポージング。互いに拳を握り――振りかぶる!


「「ジャン!ケンッ!ポォォン!あいこでしょぉ!あいこでしょぉお!!」」

「毎回毎回良くやるわねぇ。」

「・・・元気、すぎ。」


ボス戦と同じくらい白熱したジャンケンが始まる。

職業(?)上、ラストアタック・ボーナスを取り易い俺とキリトは、何度か限定装備と

強化に有用なアイテムが分かれてドロップする事があった。

そこで決まったのがこの勝負。両方が欲しかったら勝負し、勝った方が貰う。

とは言えタダで貰う訳でもないので、そこは一応、納得の取引だ。


「「ぽぉぉん!!」」

「いぃいいいよっしゃぁああああああああ!!」

「ぬぁああああああああああああああああ!!」


十回以上の死等の末、俺の鉄拳(グー)がキリトの双剣(チョキ)を打ち破った。

ブーブー文句を言うのを無視し、トレード画面を出す。

協議の結果、25万コルと武器を交換し、OK。そして早速使うと。

テンテンテロレロテンテンテン♪
「うーん、懐かしい音だ。」

「そう?この間私のも聞いたじゃない。」

「それはそうなんだけどなー、っと。"正法念処経"………?」


スキル欄に、新たに"正法念処経"なる謎のスキルが追加された。

試してみようとキリトにデュエルを送ろうとした所で、狙ったようにヒースクリフ

から祝勝会のお誘いが来た。・・・傍にいるであろう団員の顔を思い浮かべ、

仕方なく四人連れ立って50層に向かったのだった。

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