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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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車椅子の少女

 
前書き
タイトルは基本適当です。 

 
「はい、できあがり」

おれの左肩に包帯を巻き終えた車イスの少女はニッコリ笑って胸を張る。少々深い傷だったが治療の甲斐もあって動きに支障は出なくなった。

「……感謝する」

「こ~んな美少女に治してもらっといてそれだけかいな。せめてもうちょい素直に言ってもええんちゃうか?」

「……人付き合いは得意じゃないんだ」

「なんや兄ちゃん、実はシャイなんか? ……まあ思春期やし、私はそういうのも理解がある方やから気にせんといてぇな」

何か変な誤解が生まれているような気がする。とはいえ、おれも特に重要視していないが。

「しっかしあんた、妹守って怪我するなんてありがちな展開やけど、良い兄ちゃんやないか。私、気に入ったわぁ~」

……は? 妹?

「待て、おれは……」

「ええってええって、私も何があったのか深くは訊かんって。とにかく今はあの子に治った姿見せて安心させてあげるんや。さっきからあの子ずっと居間でおろおろしてて全然落ち着いとらんのよ」

それはいきなり知らない家に連れ込まれて、単に困惑しているだけではないのか?

人の話を聞かずに場を進められたが、リビングでそわそわしながら待っていた金髪の少女がおれの姿を見ると少し安心したような顔をした事から、あながち車イスの少女の考えも外れていた訳ではないらしい。

「えっと……その……あ、ありがとう……助けてくれて」

ちょこんと座りながら頬を赤く染めてふるふるした表情で見上げてくる少女に、左手で軽く頭をポンポンと叩く。

「さっきも言ったが勝手にやっただけだ。おまえは気にしなくてもいい」

「…………うん」

「お~微笑ましい光景やなぁ。それに免じて夜中に人の家の前でドタバタしていた件については許したるわ」

「(ヤツの危険性を考えると伝えておくべきかもしれんが、いきなり教えた所で信じてもらえるとは限らん。今後の事も考えると今は黙っておくのが吉か)」

「(私も魔法やジュエルシードの事はできるだけ隠しておくべきだから……追求しないでいてくれるのはありがたいかな)」

考えている内容は異なるが、話したくないという意思は同じな二人だった。

「さてと、とりあえず自己紹介しとこか。私は八神はやて、ここで一人暮らししとる健気な薄幸美少女や」

「サバタだ……」

「……フェイト・テスタロッサ」

「な~んもツッコまんのな。それよりサバタさんにフェイトちゃんね。二人とも名前からして外国の方なんかいな?」

「そっちの見方だとそういう事になるな」

「うん、そうなるね」

「なるほど。それで引っ越しでこっちに来た時にいきなり事件に巻き込まれて……大変やったんやなぁ」

『…………』

何かが間違っているが根本的な所では間違ってもいないし、直すとなると自分たちの都合なども伝える必要が出てくるため、あえて黙る事にした二人だった。

ピンポ~ン♪

「ん? こんな時間に誰やろ?」

「あ、きっと私だと思う。さっき(念話で)私の家族を呼んだから……」

「……そうなんか」

フェイトの家族がインターホンが鳴らした、という事で彼女は玄関に行った。扉を開けると橙色の髪の女性が玄関に暗い表情で立ち尽くしていた。

「フェイトぉ~…………」

「ど、どうしたのアルフ? なんか暗いよ……?」

「……ゴメン、フェイト。あたし……とんでもないミスしちゃったよ……」

「それを言ったら私も今日ジュエルシードを回収できなかったんだからお相子だよ。それよりどうしたの?」

「……借りれなかった」

「へ?」

「あたし達が住むマンションの部屋を借りれなかった」

「…………えぇええええ~~~っ!?」

素っ頓狂な声が居間にまで響いてきた。興味をそそられたのか、はやては二人の会話を詳しく聞き取ろうと忍び寄って行った。

「なんかね、賃貸契約には印鑑ってのが必要だったり、未成年が住むのに保護者が同伴していないとか色々難しい事言われたのもあって、見事に追い返されちゃったんだよ」

「そ、そんな……!? 契約書はちゃんと書いたし偽装用に魔法も使ってたはずだよね!?」

「いやそれが……ぶったまげた事にこの国の人は魔法を使った書類の偽装を見抜いてきたんだ。なんか詐欺対策とかが完璧なまでに充実してて生半可な方法じゃあいつらの目をだませなかったんだよ……! どどどどどうしようフェイト!? このままじゃ捜索の間ずっと野宿だよ!?」

「だ、大丈夫だよ! 何か他に良い方法があるはずだよ! えと……ええっと!?」

「話は聞かせてもらったぁー!!」

「は、はやて!?」

「誰だいこいつは?」

「お姉さん、お初にお目にかかります。私、八神はやて言います。それはそうとフェイトちゃん共々困った事態になっとるようですねぇ?」

「……ああ、そうだよ。だから今必死に考えてるんだよ」

「それでですがこの家は私の両親から受け継いだものなんですけど、やっぱり一人で住むにはちょっと広すぎるんですよ~。それに部屋もいくつか余ってますし~」

「……何が言いたいんだい?」

「まぁたまた~もうわかってるんでしょう? なのに答えを私に言わせるんですか?」

「……はやて、もしかして私たちをここに住まわせてくれるの?」

「That’s right! いや~私も同年代の子と友達になりたいと思っとったし、困ってる人を見過ごしたくないし、力になれるならちょうどええかな~って。………それに一人はもう寂し過ぎるもん………」

最後の方だけボソッと呟いたはやてだったが、フェイトとアルフにとっては渡りに船とも言える話で、はやてに聞こえないように念話で相談していたため、その言葉は聞こえていなかった。後ろにいた暗黒少年を除いて。

「……じゃ、じゃあ……お願いしてもいいかな?」

「あたしは部屋を借りれなかった責任もあるし……フェイトがそう言うんなら何も言わないよ」

「よっしゃあ! サバタ兄ちゃん共々歓迎するで!!」

「え……サバタって?」

アルフが聞き慣れない名前に首をかしげるが、フェイトはもういいや、と正すのをあきらめていた。それにはやてだけでなくフェイトも、何だかんだで『兄』という存在に憧れを持っていた。はやても本来勘が鋭い方であるが、今なら多少強引に話を進めれば家族ができて孤独で無くなると言う子供の必死さが思考を支配しているので、フェイト達の指摘をあえて聞かないようにしていた。その結果、サバタも状況に流されるまま、成り行きでここに住む事になっていた。

拠点が無い以上、両者にとっても好都合ではあるのだが……。

「(サバタ兄ちゃんの怪我は明らかに刃物じゃなくて、何かに噛まれたようなものやった。フェイトちゃん達も電話とかを使ったような形跡は見せへんかったし、なんか私の知らん力での連絡手段があるんやろうな。特殊な事情持ち二組……いや、原因不明の病で足が動かへん私も入れて三組が一つ屋根の下で一緒に暮らす、か。どこかの侵略者が一斉に集まった六畳間じゃあらへんけど、皆いれば楽しくなりそうやし、何が起きても何とかなる気がしてきたで)」

足を動かせない生活をしていた事で人から奇異の目を向けられる事が多かったはやては、人の性格を見る観察眼をその年代の子供にしては大人顔負けのレベルにまで昇華していた。そして家の中に入れる前にその目で観察しておいたサバタとフェイトを、悪意より善意を慮るはやてが信頼できる良い人だと判断した結果、こうして押せ押せ交渉術を使う事にしたのだ。

「じゃあこれからよろしくな、フェイトちゃん!」

「うん、よろしく、はやて」

「(想定外の事態だったけど、結果的に良い方向に働いたのかな? フェイトの嬉しそうな顔を久しぶりに見れたよ。でもさぁ……サバタって誰なんだい……?)」

「そもそもおまえ達はいつまで玄関で話しているつもりだ……? 風が入るだろう」





はやてが「友情を深めるには裸の付き合いやー!!」という事で半ば強引に連れて行った(連れて行ってもらった?)フェイトと風呂に入っている間、おれはフェイトの連れのアルフと色々話していた。内容はフェイトが使っていた【魔法】の事と、ヴァンパイアについての事が中心だったが、フェイトをかばって左肩を怪我したと知ってから最初は警戒していた彼女も緊張を解いてくれた。フェイトのデバイスという魔法発動媒体である【バルディッシュ】とも挨拶は交わしたが、それきり黙ったままだった。

「ほんと、フェイトを助けてくれて、どうもありがとね」

「それについてはもういいのだが、いつの間にやらおれがフェイトの兄という事になっていてな……」

「別にいいじゃないか。そっちもあたしらと似た事情なんだろ? 一緒に暮らしたり兄と呼ばれるぐらい構わないじゃん」

「おまえはいいのか? これから住む家に見ず知らずの男がいるのだぞ?」

「ん~確かにそうだけど、フェイトを助けてくれたあんたの事を敵だと思えないし、フェイトも初対面のはずのあんたを意外に結構信用しているからねぇ。それに見ず知らずという意味でははやても同じだし、一人くらい増えた所で気にやしないよ。ま、どうせいざとなったらあたしがフェイトを守ればいいだけだしね!」

「そうか……頼もしいな」

「おうともさ!」

それから現状について様々な事を話してみると、アルフはなかなか接しやすい人柄だった。どちらも保護者思考ゆえ波長が合っているのかもしれない。しかし話は変わるが、はやてのあの特徴的な口調を聞くたびに“ひまわり”を思い出す。あいつ……今どうしているのだろうな。

「……ところでアルフ。ずっと気になっていたのだが……」

「ああ、あたしの耳かい? うっかり隠し忘れてたけど、あたしは狼の使い魔だからね、これは自前のものなんだよ」

「狼の使い魔……か」

「あれ? あんまり驚かないんだね?」

「狼なら昔、仲間だったものでな。今はもういないが……」

命凍らせる姿無き銀狼、スノー・ウルフ、ガルム。
イストラカンで氷のエネルギーを集めるためにクイーンが用意した古の精霊。ダークマターにより闇のガーディアンとなった奴もまた、闇の犠牲者……。

「そ、そうだったのかい……すまないね」

「謝る事は無い。それよりおれが訊きたかったのはその事じゃない。この家に入った時から感じていた奇妙な力の流れ、おまえならわかるんじゃないかと思ったんだ」

「力の流れ? …………あ、ホントだ。なんか変な魔力の流れがあるね。ちょっとたどってみよっか」

最初はフェイトに頼むつもりだったが、アルフも同じ力……魔力というものを持っているので彼女に頼んでみた。アルフに任せた結果、たどり着いたのははやての部屋だと思われる場所だった。

「アルフ……居候の分際で勝手に家主の部屋に入るのは、いくら何でもマズいと思わないか?」

「奇遇だね、あたしもそう思ってた所なんだ」

何かがあるのは間違いないだろうが、中を調べるにははやての許可が必要だろう。少なくとも源流がここにあるとわかっただけで良しとしよう。

リビングに戻ってしばらく待ち、二人が風呂から出てきた。だが、はやてから借りた寝間着に身を包んだフェイトはなぜか自分の胸を押さえて赤らんだ顔ではやてを睨み、はやては俗に言う賢者モードの雰囲気をホクホク顔で漂わせていた。

「……あえて何も訊かない事にするぞ」

「……………ありがとう」

「フェイトちゃんの胸は期待いっぱい、夢いっぱいやったなぁ~♪」

はやての台詞が答えをそのまま示しているのだが、おれとアルフは聞かなかった事にし、フェイトもまた被害(セクハラ)を喰らいたくない以上わざわざ蒸し返そうとはしなかった。

「これから一緒に住むんやから皆はもう家族やね! サバタ兄ちゃん、アルフさん、フェイトちゃん!」

「…………フッ」

「家族かぁ……まあ良いんじゃない?」

「……うん。(でも……ジュエルシードを全部集めて母さんを昔のような優しい母さんに戻したら、私とアルフはこの家から出なきゃいけない。出来ればここは壊したくないのに……どうしよう……)」

「…………」

一瞬、何らかの事情によって沈痛な表情で俯いたフェイトの様子に、少し気が吸い寄せられた。人の家庭にそこまで深入りするつもりは無いが、深刻そうなら力を貸す事もやぶさかではない。彼女の事情に関して今は静かに経過を把握するのに専念しよう。

その後、おれは1階の空き部屋、フェイトとアルフは2階の部屋を貸してもらい、夜を明かした。倉庫街で目覚めてから半日もしていないが、思い返せば激動の時間だった。だが何より俺がこうして今、人間として生きていることに複雑な思いを抱いている。
俺と分離したヴァナルガンドが世界に影響を与えていないか、ジャンゴやサン・ミゲルの連中がどうしてるか、そしてカーミラがどうなっているかが常に頭の中に置かれている。いつか世紀末世界に帰る必要があるかもしれんし、その方法も探しておくべきだろう。
しかし今はヴァンパイアの件を優先しよう。本当なら俺の柄ではないが、かと言って無視するのも虫の居所が悪い。もしこの世界に吸血変異が起こされるような事があれば、フェイトやはやてが無事でいられる保証もない。未来がある彼女達を守れるなら、俺一人の命ぐらい安いものだ。

っと、そういえばこの世界でも暗黒カードは使えるのだろうか? 借りる必要はないが、利用できるかどうかだけ確かめておこう。
暗黒カードに搭載されているスイッチを押すと、空中に液晶画面が投影される。いつもならここに受付嬢が現れて金利の話ができるようになる。さて……どうなる?

『いらっしゃいませ! 出張版太陽バンクをご利用頂き、誠にありがとうございま~す!』

おかしい……なぜ陽子が出て来る? 本来なら暗黒ローンに繋がるはずだが、どうして太陽バンクの受付嬢が? またジャンゴが借金し過ぎておしおきを嫌がった暗黒ローンの受付嬢が拗ねたのか? どちらにせよ繋がった事自体驚きでもあるがな。

『古参の方なら困惑するでしょうから、リニューアルされて便利になった太陽バンクのシステムを今一度ご説明させて頂きま~す!』

それからある程度詳しい説明がされた。それらを箇条書きでまとめると……、

・太陽バンクに暗黒ローンの機能が結合し、ここからエナジーを借りられる。
・暗黒ローンは最近諸事情で経営が危ういため、このような措置をとる事になった。
・世紀末世界のソルはこの世界の日本円、その他数多くの通貨に両替できる。
・バンクの現在のサバタの残金は832109ソル。
・現在は1ソル=95.8円。即ち日本円でサバタは大体8000万円程の資産を持っている。
・相場は株式市場のように変動する。時に1ソルが80円や120円になったりする。
・バンクの最高残高は999999ソル。以前より100倍まで上限が増えた。
・利息や金利はその日の日照時間によって決まる。平均だと利息は8%、金利は500%
・太陽スタンドが存在しないため、太陽の光を浴びると代わりに直接バンクのソルを増やす事ができる。
・相応の金額を払えば特別なサポートを受け取る事ができる。内容は使えるようになった時に説明。
・世紀末世界の人間との通信は不可。ここは通話の中継地点ではない。
・借りる時に双方の合意があれば返済を別の者に委託できる。複数可。
・このカードを使えるのはマスター登録を済ました持ち主のみ。
・返済の際に金額が足りなければ、問答無用で“新”おしおき部屋に転送。猶予で一日待つのは無し。
・ご利用は計画的に。

大体こんな所だ。ずいぶん細かい取り決めが行われているが、その分かなり使いやすくなっている。ただ、途中にあった“特別なサポート”は内容に見当がつかない。

『それでは説明も終えたのでお仕事に戻らせて頂きます。では改めて、いらっしゃいませ! 本日はどのような要件ですか?』

「……とりあえず1000ソル分、日本円で引き落としてくれ」

『引き落としですね、かしこまりました!』

カードから光が発せられた次の瞬間、ドサッと音を立てて金の入った袋が現れる。まさかこんなダイレクトに出すとは……。

『ありがとうございました! またのご利用をお待ちしておりま~す! …………お元気そうで何よりでした、サバタ様』

「?」

映像が消える際に陽子が何か言った気がするが、声が小さすぎたのと映像を切る音と重なってよく聞こえなかった。
まあこれで当面のお金の問題は解決した。気がかりも一応済ませたし、もう寝よう。
 
 

 
後書き
おしおき部屋:アンデッドだろうと貸した金は返してもらうための強制労働場。ルームランナーとも言える。それにしてもいつも隣で走っているグールは一体何をやらかしたのでしょうか? 
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