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武士と騎士

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1部分:第一章


第一章

                       武士と騎士
 第二次世界大戦のビルマ戦線。日本軍のラングーン作戦の無惨な失敗で知られる戦線だがここでは空においても激しい戦いが繰り広げられていた。
「案外っていうかな」
「ああ、そうだな」
「強いな」
「日本軍もな」 
 イギリス空軍の基地においてだ。兵士達がそれぞれ話していた。
「こんなにしぶといなんてな」
「海軍の言ったことは嘘じゃないよな」
「全くな」
 ロイヤルネービーは太平洋戦線がはじまってすぐに太平洋艦隊を失ってしまった。プリンスオブウェールズとレパルスを日本海軍航空隊の攻撃で沈められたのだ。
 空軍の者達はそれを笑っていた。しかしであった。
 その彼等もだ。日本軍の思わぬ強さに驚いていたのだ。彼等は確かに強かった。
「海軍航空隊だけじゃないか」
「陸軍航空隊も強いな」
「ああ、パイロットの腕もいい」
 そのことも話される。
「この戦い、辛いか?」
「そうだな、辛いな」
「ドイツ軍相手と同じ位かもな」
 バトルオブブリテンのことも思い出さずにはいられなかった。あの戦いはまさに彼等にとっては危急存亡の戦いであった。とにかく辛い戦いだったのだ。
「勝てるかな、この戦い」
「どうだろうな。まずいかもな」
「向こうはどんどん攻めてくるしな」
「こんなにしぶといなんてな」
「しぶとくても何でもだ」
 だがここでだ。茶色がかった金髪に同じ色の口髭の男が言ってきた。見れば彼はパイロットの服にその身を包んでいる。
「勝たないといけない」
「あっ、ウエスター大尉」
「来ておられたんですか」
「そうだ、今戻って来た」
 こう兵士達に告げる。
「やっとな」
「どうでした?今度の出撃は」
「何人生き残れました?」
「とりあえず全員帰ってこれた」
 その男クエスターはあまり面白くなさそうな顔で答えた。今彼等は格納庫にいるがそこはうだるような暑さである。ラングーンはとにかく暑かった。
「ただな」
「怪我人ですか」
「多いんですね」
「何人かやられた。被弾した機体が多い」
 彼は今度は苦い顔になっていた。
「修理を頼むな」
「はい、それじゃあすぐに」
「そっちは任せて下さい」
 兵士達はすぐに彼の言葉に応えた。
「大尉のハリケーンもやられたんですか」
「うちの基地のエースも」
「ああ、日本軍は強い」
 彼は自分の口の中に苦いものを感じていた。
「それもかなりな」
「アジアの辺境の国って思ってたんですがね」
「アジア人の国だって」
「正面からぶつかってこの有様だ」
 彼はまた言った。
「それでわかるな」
「そういうことですか」
「奇襲を受けたとかじゃなくて正面から」
「武士だ」
 クエスターは言い切った。
「日本の武士は手強いぞ」
「騎士よりもですか?」
「イギリスの騎士よりも」
「我々は負けてはいない」
 クエスターは負けてはいないとはした。しかしであった。
「だが。勝ってもいない」
「互角ってことですか、つまりは」
「そういうことですか」
「そうだ、互角だ」
 まさにそれだというのだった。
 
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